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本編
第47話『買い出し』
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今週も部活動の見学期間なので、第1教室棟を出るとチラシを配っている生徒がちらほらいる。あけぼの荘での生活にも慣れてきて、先輩方や先生達とも色々とあったから、今もそういう時期であることが不思議に思えてくる。
特別棟に入ると、小さいけど吹奏楽の音色が聞こえる。吹奏楽部に入部したクラスメイトの友達がいるけど、彼曰く、吹奏楽部は土日を含めて毎日練習をしっかりとやるそうで。そういえば、中学時代に吹奏楽部に入っていた友達は練習がかなりキツいと言っていたな。……お疲れ様です。
3階にある家庭科室へ向かうと、そこには大宮先生と汐見部長がいた。
「おっ、美優ちゃんと瑠衣ちゃん。授業お疲れ様。由弦君も来てくれたんだね」
「はい。気になっている部活や同好会はもうないですし、買い出しのお手伝いができればと思いまして」
「なるほどね。歓迎するよ。ありがとう」
汐見部長は持ち前の爽やかな笑みを浮かべる。
「そういえば、大宮先生。明後日の部活で作るものって何ですか?」
「ホットケーキだよ。プレーンのホットケーキはもちろん、ココアや抹茶と色々作るつもり。先週は入部届を書いたり、連絡先を交換したりしたから1年生に言うのを忘れちゃった。ごめんなさい」
「いえいえ。ホットケーキいいですね。俺、好きです。何度も作りました」
実家にいる頃は家族や友達に作ったな。ベーシックなはちみつ&バターだけじゃなくて、ホイップクリームを乗せたりしたこともあったか。あとは、抹茶味のホットケーキも作った。
「ふふっ。明後日も楽しみにしているね。あと……」
すると、大宮先生は俺の目の前まで来る。
「一佳ちゃんの家、良かったよね。土曜日に美優ちゃんや風花ちゃんと一緒に掃除したんだってね」
「……ええ」
そういえば、日曜日に大宮先生が来たと霧嶋先生が言っていたな。今の大宮先生の様子だと、1日で部屋が汚くなってしまったということはなさそうだ。
「どうしたんですか、成実ちゃん。由弦君とコソコソ話をして」
「迷子にならないように気を付けなさいねって言っていたの。桐生君、この春に伯分寺に引っ越してきたばかりだから」
「そうですか。確かに、慣れないところだと迷子になりやすいですよね」
「そうそう。じゃあ、今日は美鈴ちゃん、美優ちゃん、瑠衣ちゃん、桐生君の4人でホットケーキの材料の買い出しに行ってきてください。気を付けて行ってきてね。領収書をもらうことを忘れないようにね」
「はい。じゃあ、3人ともさっそく行こうか」
俺は美優先輩、花柳先輩、汐見部長と一緒に買い出しに行くことに。バッグなどを持たずに、制服姿で学校外を歩くのは不思議な感じがするな。
「美優先輩、これから行くのはショッピングセンターですか?」
「ううん、お花見のお弁当の材料を買うときにも行ったスーパーだよ。あけぼの荘からだと数分くらいだけど、学校からだと7、8分くらいかかるかな」
「そうなんですね」
「大抵はそこに行くよね、美優」
「そうだね、瑠衣ちゃん。食料品の種類は豊富だからね」
あのスーパーは確かに食料品が豊富に揃っている。賞味期限が近いものには赤札がついて安くなっているし。部費にも優しいお店とも言えそうだ。
そんなことを考えていると、汐見部長が俺の手をぎゅっと握ってきた。
「どうしたんですか。俺の手を握って」
「君が迷子にならないようにね。成実ちゃんからも言われたでしょ? 今の話だと、これから行くスーパーは知っているみたいだけど、学校からは初めてだよね」
「そうですね」
「やっぱり。だから、こうして僕が手を繋ぐんだよ。それにしても、君の手は大きくて、温かくていいね。さすがは男の子の手だ。僕の手も大きいから、女の子と手を繋いでも、今みたいに手を包まれている感じになることが全然ないからさ。心地いいね」
汐見部長は頬をほんのりと赤くしながらそう言ってきた。普段は凛としているけれど、可愛い部分もある方だ。
あと、先週の部活も手を握ってきたし、気軽にスキンシップをする癖があるのかな。ただ、興味を持っていると言っているくらいだし、俺だからこうしているのかも。
「美鈴先輩と由弦君が手を繋いでいるのを見ていると、私も手を繋ぎたくなってきたな。瑠衣ちゃん、私達も手を繋ごうよ」
「う、うん!」
美優先輩は花柳先輩と手を繋ぐ。昨日、告白したこともあってか、手を繋いだことで花柳先輩は頬を赤くして嬉しそうな笑顔を浮かべている。今の2人の様子を見て一安心だ。
「由弦君。手を繋ぐだけだと不安だから腕を組んじゃおうか?」
「そ、それはさすがにダメですっ! 美鈴先輩!」
いつになく美優先輩は不機嫌そうな様子に。膨らませた頬が赤くなっている。
「ははっ、冗談だよ。美優ちゃん」
「手を繋いで、そのことが心地いいと言った後だと冗談に聞こえませんよ」
「ふふっ」
怒る美優先輩の横で花柳先輩は楽しそうに笑っている。
美優先輩がダメだと強く言ったおかげか、スーパーに到着するまで汐見部長が腕を組んでくることはなかった。その代わりなのか、手はしっかりと握っていたけれど。
これまでに何度か美優先輩と来たことのあるスーパーだけど、部活の買い出しとして学校から来ているからか、いつもと少し違った雰囲気に思える。
「さてと、今日は4人で来ているし、とりあえず二手に分かれようか。お店だと、フルーツを乗せたり、添えたりすることが多いから、今度の活動でもそういったホットケーキも作りたいと思う。だから、フルーツを選ぶ班と、ホットケーキミックスやココアパウダーとかを選ぶ班で分かれようかと」
「あの、美鈴先輩。あたし、桐生君と一緒にホットケーキミックスとかを探してきますよ。桐生君、それでいいかな」
「いいですよ」
「分かった。じゃあ、瑠衣ちゃんと由弦君はホットケーキミックスやココアや抹茶の粉を探してきて。あとはハチミツとかホットケーキにかけるのに良さそうなものを適当に。美優ちゃんと僕はここで、ホットケーキに良さそうなフルーツを選んでいるから」
「分かりました。桐生君、行こうか」
「はい」
俺は花柳先輩の後についていく。さすがに買い出しで何度も来ているだけあってか、彼女の歩みに迷いはない。
昨日のこともあってか、花柳先輩と2人きりだと緊張するな。
程なくして、お製菓売り場に到着する。お菓子の品揃えが良くて、どれも安いな。前に美優先輩が言っていたとおり、ここでお菓子や飲み物を買ってから帰るのもいいかも。
そんな製菓売り場の端の方にホットケーキミックスがあった。有名メーカーから発売されているもので、実家で作ったときにもお世話になった。
「ありましたね。これ、美味しいですよね」
「……そうね」
「このホットケーキミックスを使えば、美味しいホットケーキをたくさん作ることができそうですね。水曜日がより楽しみになってきました」
「本当に料理作りやスイーツ作りが好きなのね、桐生君は」
花柳先輩は俺のことを見つめながら静かな笑みを浮かべる。そんな彼女と目が合うと、顔も視線も動かすことができなくなった。彼女の方も俺から視線を離そうとはしない。
「……昨日はありがとね」
「へっ?」
予想外の言葉を言われたので、変な声が漏れてしまった。
「……あんな形だったけど、美優に好きだっていう気持ちが伝わって。あなたに言ったとおり、美優のことは女の子としてずっと好きで。恋人になりたい気持ちもあって。だから、いつかは告白しなきゃって思ってた。でも、2人きりの状況で告白してフラれたら、その翌日に手を繋ぐことはおろか、普通に話すこともできていなかったと思うの」
「気まずさとかもありますもんね」
「うん。実は今朝は1人で登校しようか迷っていたんだ。でも、教室に行けば美優と会うんだし、あけぼの荘に行けば桐生君や風花ちゃんもいるから、2人が一緒ならきっと大丈夫だと思ってこれまで通りに迎えに行ったの」
「そうだったんですね」
美優先輩と2人で行くなら気まずいだろうけど、風花と俺がいるから一緒に行ってみようと勇気を持つことができたのか。風花と俺は事情を知っているし。
「ただ、それでも緊張したり、多少の気まずさがあったりしたから、学校に行くときも、教室でも……普段より美優と話す量は少なかったけれどね。それでも、これまでとそんなに変わりなく美優と一緒にいられることが嬉しくて。多分、それは桐生君と一緒に住んでいるからだと思うの。あとは、風花ちゃんや杏とかあけぼの荘のみんなが近くにいて。だから、その……ありがとう」
「……まさか、花柳先輩から、美優先輩と一緒に住んでいることについてお礼を言われるとは思いませんでした」
夢じゃないかと思ってしまうほどだ。あのときは鬱陶しいとか、気に入らないとか、邪魔だとか、消えてとか言われたからな。それまでにも何度もお仕置きされたし。
「あたし自身もそう思うよ。ただ、美優は2年生になってから……あなたと一緒に住み始めてから本当に可愛らしい笑顔を見せるようになって。わがままだけど、そんな美優のことを親友としていつまでも見ていたいの。だから、桐生君……美優のことをお願いね」
「……はい。俺なりに美優先輩と一緒に生活していこうと思います。もちろん、先輩が悲しんだり、苦しんだりしないように気を付けながら」
「……よろしくね」
花柳先輩が右手を差し出してきたので、俺は先輩と握手を交わした。
すると、花柳先輩は強めに俺の手を握ってくる。ちゃんと暮らせよってことかな。美優先輩に嫌なことをしてしまったら、花柳先輩からお仕置きを受けることになっているし。
「さてと、ホットケーキミックスはこれでいいわね。あとはココアと抹茶かしら?」
「ですね。味のバリエーションが増えていいですね。あと、家でホットケーキを作ったときは、はちみつやホイップクリームをかけたりしたんですけど、どうでしょうか? ホイップクリームは生クリームや砂糖があれば作れますよ」
「いいじゃない! 砂糖は家庭科室にもあるから、はちみつと生クリームも買おうか」
「はい」
その後、ココアパウダー、抹茶の粉、はちみつ、生クリームをカゴの中に入れる。
美優先輩と汐見部長のところに戻ると、2人はいいフルーツを見つけられたようで満足そうにしていた。これなら、水曜日は色々なホットケーキを作れそうだ。
花柳先輩と話したことを含めて、いい買い出しになったのであった。
特別棟に入ると、小さいけど吹奏楽の音色が聞こえる。吹奏楽部に入部したクラスメイトの友達がいるけど、彼曰く、吹奏楽部は土日を含めて毎日練習をしっかりとやるそうで。そういえば、中学時代に吹奏楽部に入っていた友達は練習がかなりキツいと言っていたな。……お疲れ様です。
3階にある家庭科室へ向かうと、そこには大宮先生と汐見部長がいた。
「おっ、美優ちゃんと瑠衣ちゃん。授業お疲れ様。由弦君も来てくれたんだね」
「はい。気になっている部活や同好会はもうないですし、買い出しのお手伝いができればと思いまして」
「なるほどね。歓迎するよ。ありがとう」
汐見部長は持ち前の爽やかな笑みを浮かべる。
「そういえば、大宮先生。明後日の部活で作るものって何ですか?」
「ホットケーキだよ。プレーンのホットケーキはもちろん、ココアや抹茶と色々作るつもり。先週は入部届を書いたり、連絡先を交換したりしたから1年生に言うのを忘れちゃった。ごめんなさい」
「いえいえ。ホットケーキいいですね。俺、好きです。何度も作りました」
実家にいる頃は家族や友達に作ったな。ベーシックなはちみつ&バターだけじゃなくて、ホイップクリームを乗せたりしたこともあったか。あとは、抹茶味のホットケーキも作った。
「ふふっ。明後日も楽しみにしているね。あと……」
すると、大宮先生は俺の目の前まで来る。
「一佳ちゃんの家、良かったよね。土曜日に美優ちゃんや風花ちゃんと一緒に掃除したんだってね」
「……ええ」
そういえば、日曜日に大宮先生が来たと霧嶋先生が言っていたな。今の大宮先生の様子だと、1日で部屋が汚くなってしまったということはなさそうだ。
「どうしたんですか、成実ちゃん。由弦君とコソコソ話をして」
「迷子にならないように気を付けなさいねって言っていたの。桐生君、この春に伯分寺に引っ越してきたばかりだから」
「そうですか。確かに、慣れないところだと迷子になりやすいですよね」
「そうそう。じゃあ、今日は美鈴ちゃん、美優ちゃん、瑠衣ちゃん、桐生君の4人でホットケーキの材料の買い出しに行ってきてください。気を付けて行ってきてね。領収書をもらうことを忘れないようにね」
「はい。じゃあ、3人ともさっそく行こうか」
俺は美優先輩、花柳先輩、汐見部長と一緒に買い出しに行くことに。バッグなどを持たずに、制服姿で学校外を歩くのは不思議な感じがするな。
「美優先輩、これから行くのはショッピングセンターですか?」
「ううん、お花見のお弁当の材料を買うときにも行ったスーパーだよ。あけぼの荘からだと数分くらいだけど、学校からだと7、8分くらいかかるかな」
「そうなんですね」
「大抵はそこに行くよね、美優」
「そうだね、瑠衣ちゃん。食料品の種類は豊富だからね」
あのスーパーは確かに食料品が豊富に揃っている。賞味期限が近いものには赤札がついて安くなっているし。部費にも優しいお店とも言えそうだ。
そんなことを考えていると、汐見部長が俺の手をぎゅっと握ってきた。
「どうしたんですか。俺の手を握って」
「君が迷子にならないようにね。成実ちゃんからも言われたでしょ? 今の話だと、これから行くスーパーは知っているみたいだけど、学校からは初めてだよね」
「そうですね」
「やっぱり。だから、こうして僕が手を繋ぐんだよ。それにしても、君の手は大きくて、温かくていいね。さすがは男の子の手だ。僕の手も大きいから、女の子と手を繋いでも、今みたいに手を包まれている感じになることが全然ないからさ。心地いいね」
汐見部長は頬をほんのりと赤くしながらそう言ってきた。普段は凛としているけれど、可愛い部分もある方だ。
あと、先週の部活も手を握ってきたし、気軽にスキンシップをする癖があるのかな。ただ、興味を持っていると言っているくらいだし、俺だからこうしているのかも。
「美鈴先輩と由弦君が手を繋いでいるのを見ていると、私も手を繋ぎたくなってきたな。瑠衣ちゃん、私達も手を繋ごうよ」
「う、うん!」
美優先輩は花柳先輩と手を繋ぐ。昨日、告白したこともあってか、手を繋いだことで花柳先輩は頬を赤くして嬉しそうな笑顔を浮かべている。今の2人の様子を見て一安心だ。
「由弦君。手を繋ぐだけだと不安だから腕を組んじゃおうか?」
「そ、それはさすがにダメですっ! 美鈴先輩!」
いつになく美優先輩は不機嫌そうな様子に。膨らませた頬が赤くなっている。
「ははっ、冗談だよ。美優ちゃん」
「手を繋いで、そのことが心地いいと言った後だと冗談に聞こえませんよ」
「ふふっ」
怒る美優先輩の横で花柳先輩は楽しそうに笑っている。
美優先輩がダメだと強く言ったおかげか、スーパーに到着するまで汐見部長が腕を組んでくることはなかった。その代わりなのか、手はしっかりと握っていたけれど。
これまでに何度か美優先輩と来たことのあるスーパーだけど、部活の買い出しとして学校から来ているからか、いつもと少し違った雰囲気に思える。
「さてと、今日は4人で来ているし、とりあえず二手に分かれようか。お店だと、フルーツを乗せたり、添えたりすることが多いから、今度の活動でもそういったホットケーキも作りたいと思う。だから、フルーツを選ぶ班と、ホットケーキミックスやココアパウダーとかを選ぶ班で分かれようかと」
「あの、美鈴先輩。あたし、桐生君と一緒にホットケーキミックスとかを探してきますよ。桐生君、それでいいかな」
「いいですよ」
「分かった。じゃあ、瑠衣ちゃんと由弦君はホットケーキミックスやココアや抹茶の粉を探してきて。あとはハチミツとかホットケーキにかけるのに良さそうなものを適当に。美優ちゃんと僕はここで、ホットケーキに良さそうなフルーツを選んでいるから」
「分かりました。桐生君、行こうか」
「はい」
俺は花柳先輩の後についていく。さすがに買い出しで何度も来ているだけあってか、彼女の歩みに迷いはない。
昨日のこともあってか、花柳先輩と2人きりだと緊張するな。
程なくして、お製菓売り場に到着する。お菓子の品揃えが良くて、どれも安いな。前に美優先輩が言っていたとおり、ここでお菓子や飲み物を買ってから帰るのもいいかも。
そんな製菓売り場の端の方にホットケーキミックスがあった。有名メーカーから発売されているもので、実家で作ったときにもお世話になった。
「ありましたね。これ、美味しいですよね」
「……そうね」
「このホットケーキミックスを使えば、美味しいホットケーキをたくさん作ることができそうですね。水曜日がより楽しみになってきました」
「本当に料理作りやスイーツ作りが好きなのね、桐生君は」
花柳先輩は俺のことを見つめながら静かな笑みを浮かべる。そんな彼女と目が合うと、顔も視線も動かすことができなくなった。彼女の方も俺から視線を離そうとはしない。
「……昨日はありがとね」
「へっ?」
予想外の言葉を言われたので、変な声が漏れてしまった。
「……あんな形だったけど、美優に好きだっていう気持ちが伝わって。あなたに言ったとおり、美優のことは女の子としてずっと好きで。恋人になりたい気持ちもあって。だから、いつかは告白しなきゃって思ってた。でも、2人きりの状況で告白してフラれたら、その翌日に手を繋ぐことはおろか、普通に話すこともできていなかったと思うの」
「気まずさとかもありますもんね」
「うん。実は今朝は1人で登校しようか迷っていたんだ。でも、教室に行けば美優と会うんだし、あけぼの荘に行けば桐生君や風花ちゃんもいるから、2人が一緒ならきっと大丈夫だと思ってこれまで通りに迎えに行ったの」
「そうだったんですね」
美優先輩と2人で行くなら気まずいだろうけど、風花と俺がいるから一緒に行ってみようと勇気を持つことができたのか。風花と俺は事情を知っているし。
「ただ、それでも緊張したり、多少の気まずさがあったりしたから、学校に行くときも、教室でも……普段より美優と話す量は少なかったけれどね。それでも、これまでとそんなに変わりなく美優と一緒にいられることが嬉しくて。多分、それは桐生君と一緒に住んでいるからだと思うの。あとは、風花ちゃんや杏とかあけぼの荘のみんなが近くにいて。だから、その……ありがとう」
「……まさか、花柳先輩から、美優先輩と一緒に住んでいることについてお礼を言われるとは思いませんでした」
夢じゃないかと思ってしまうほどだ。あのときは鬱陶しいとか、気に入らないとか、邪魔だとか、消えてとか言われたからな。それまでにも何度もお仕置きされたし。
「あたし自身もそう思うよ。ただ、美優は2年生になってから……あなたと一緒に住み始めてから本当に可愛らしい笑顔を見せるようになって。わがままだけど、そんな美優のことを親友としていつまでも見ていたいの。だから、桐生君……美優のことをお願いね」
「……はい。俺なりに美優先輩と一緒に生活していこうと思います。もちろん、先輩が悲しんだり、苦しんだりしないように気を付けながら」
「……よろしくね」
花柳先輩が右手を差し出してきたので、俺は先輩と握手を交わした。
すると、花柳先輩は強めに俺の手を握ってくる。ちゃんと暮らせよってことかな。美優先輩に嫌なことをしてしまったら、花柳先輩からお仕置きを受けることになっているし。
「さてと、ホットケーキミックスはこれでいいわね。あとはココアと抹茶かしら?」
「ですね。味のバリエーションが増えていいですね。あと、家でホットケーキを作ったときは、はちみつやホイップクリームをかけたりしたんですけど、どうでしょうか? ホイップクリームは生クリームや砂糖があれば作れますよ」
「いいじゃない! 砂糖は家庭科室にもあるから、はちみつと生クリームも買おうか」
「はい」
その後、ココアパウダー、抹茶の粉、はちみつ、生クリームをカゴの中に入れる。
美優先輩と汐見部長のところに戻ると、2人はいいフルーツを見つけられたようで満足そうにしていた。これなら、水曜日は色々なホットケーキを作れそうだ。
花柳先輩と話したことを含めて、いい買い出しになったのであった。
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