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2学期編3
プロローグ『文化祭の出し物』
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2学期編3
9月13日、金曜日。
今週の学校生活も、残るは6時間目のロングホームルームだけになった。
ロングホームルームではクラスで何か決め事をしたり、話し合いをしたりする。定期試験が近い時期だと自習の時間になることもある。また、全学年の全クラスがロングホームルームなので、学校や学年で集会が開かれることもある。授業が実質1時間少ないようなものなので、俺・低田悠真は金曜日が結構好きだ。
そして、今週のロングホームルームに何をするのかというと――。
「じゃあ、これから文化祭での出し物の希望について話し合うぜ」
そう。文化祭でのクラスの出し物について話し合うことになっている。
ここ東京都立金井高等学校では、10月12日と13日に文化祭が実施される予定だ。一年のうちで一番とも言える大きなイベントだ。
また、話し合いの進行役は、先週のロングホームルームで文化祭実行委員に決まった佐藤広紀という男子生徒と、田中沙羅さんという女子生徒の2人が務める。
担任の福王寺杏樹先生は、教室前方の窓側に動かした椅子に座って様子を見守っている。
実行委員の2人曰く、このロングホームルームでクラスの出し物の第1希望から第3希望まで決める。その希望が今日の放課後にある文化祭実行委員会で承認されれば決定とのことだ。なるべく第1希望を通すようにするけど、希望する出し物によっては人気で何クラスも被ってしまうなどの理由で、第1希望にならないこともあるそうだ。
「それじゃ、やりたい出し物がある人は挙手してね」
実行委員の田中さんがそう言うと、何人もの生徒が挙手をして、
「お化け屋敷やりたいぜ! みんなを驚かせたい!」
「スイーツ系の屋台をやってみたいわ! チョコバナナとか!」
と、クラスでの出し物の案が続々と出される。それらの案は佐藤が黒板に書いていく。その中で、
「メイド&執事喫茶をやりたいです!」
俺の前の席に座っている恋人・高嶺結衣がそう提案した。
結衣が提案した直後、男女問わず多くのクラスメイトから『おおっ』と声が上がる。そうなるのは、結衣が『高嶺の花』と称されるほどに人気がある女子生徒だったり、「メイド&執事喫茶」という提案が魅力的だったりするのだろう。
「喫茶店は文化祭の王道だからね。それに、執事服姿の悠真君や、メイド服を着る姫奈ちゃん達を見たいから! 特に悠真君! あと、私、メイド服を着てもいいし」
と、結衣は弾んだ声でメイド&執事喫茶を提案する理由を話した。予定通りに言えたな。今日のロングホームルームで文化祭の出し物について話し合うことが決まっていたため、今日の昼休みにお弁当を食べているとき、結衣がメイド&執事喫茶を提案するつもりで、今と同じ理由を話していた。
あと、結衣の言う通り、喫茶店は文化祭での王道の出し物だ。それまでに出ているお化け屋敷や屋台も。大学1年生の芹花姉さんが去年まで金井高校の在学生だったので、家族と一緒に金井高校の文化祭に行ったことがある。喫茶店も、お化け屋敷も、スイーツ系の屋台もクラスや部活の出し物で盛り上がっていたのを覚えている。
「ふふっ。彼氏の執事服姿を特に見たいなんて。結衣らしいね」
結衣の友達の女子が明るい笑顔でそう言った。そのことで、教室の中が笑いに包まれる。結衣本人も「ふふっ」と笑っている。
「低田君って執事服似合いそう。結衣の彼氏だけど、あたしも興味ある」
「文化祭に行くと喫茶店ってあるよね」
「メイド服って普段はなかなか着ないものだし、そういうものを着た出し物の方が文化祭を楽しめるかも」
「まさか女子の高嶺がメイド喫茶を提案してくれるとは!」
「高嶺や伊集院はもちろん、メイド服が似合いそうな女子がいっぱいいるよな……」
「女子達のメイド服姿を見られるなら、執事服を着ることになってもいい!」
などと、メイド&執事喫茶を肯定する声が続々と上がっていく。こんなに多いと、うちのクラスの出し物の希望はメイド&執事喫茶に決定だろうか。
「みんなに好感触みたいで良かったな、結衣」
俺がそう言うと、結衣は俺の方に振り向き、笑顔で「うんっ!」と頷いた。そのことに結衣の親友の伊集院姫奈さんも嬉しそうにしていた。
その後も候補を出し、10個近く候補が出たところで多数決をとる。
多数決の結果、第1希望は結衣が提案したメイド&執事喫茶、第2希望はチョコバナナの屋台、第3希望はお化け屋敷になった。
「メイド&執事喫茶が第1希望になって良かったな」
俺が小さな声でそう言うと、結衣はこちらに振り返り、嬉しそうな笑顔で「うんっ」と頷く。
「そうだね! 喫茶店になるといいなぁ。あと、スイーツ部の方も希望が通るといいな。今週の活動で話し合いをして、ベビーカステラの屋台が第1希望になったから」
「どっちも第1希望を通ることを願おう」
俺がそう言うと、結衣は再び「うんっ」と頷いた。どうか、うちのクラスもスイーツ部も第1希望が通りますように。スイーツ部は結衣と伊集院さんと俺達の友人で隣のクラスの華頂胡桃が所属し、福王寺先生が顧問を務めているし。
「候補は決まったね。第1希望になるように願っているよ。もし、第1希望が通ったら、先生もメイド服を着ようかな」
福王寺先生は楽しげな笑顔でそう言った。そのことに男子中心に『おおっ』と声を上げて。男女問わず「見たい」との声が。
福王寺先生は美人で可愛らしいし、スタイルも抜群だからメイド服がよく似合いそうだ。俺も見てみたいな。
「杏樹先生のメイド服姿かぁ。見てみたいね!」
明るい笑顔でそう言う結衣。
「結衣もか。見てみたいよな」
俺がそう返事をすると、結衣はニコッと笑いかけてきた。
「屋台になったらエプロン姿になるし、お化け屋敷になったら何かお化けのコスプレをするよ」
依然として楽しそうな様子で福王寺先生はそう言った。もしかしたら、イベントで普段と違う服装になったり、コスプレしたりするのが結構好きなのかもしれない。
文化祭の出し物の候補が決まったり、福王寺先生が出し物に合った服装になる発言をしたりしたのもあり、教室の中はいい雰囲気になっている。
「他に話し合いたいことはある?」
「いいえ。……あと、有志で体育館のステージにパフォーマンスをしたい人がいたら私か佐藤君に言ってね。申込用紙を渡すから。来週の水曜日の午後5時までに、必要事項を記入して生徒会室前にあるボックスに入れてください。オーディションがあって、通過したら文化祭当日にステージに出られます」
と、文化祭実行委員の田中さんが説明した。また、その直後に福王寺先生が俺のことをチラッと見てきた。
文化祭のステージに出るには、オーディションを通過しないといけないのか。申し込む人やグループが多いのだろうか。あとは、多くの人の前でパフォーマンスするから、一定のクオリティでないといけないという考えがあるのかもしれない。
「もし、応募するなら、オーディションに合格できるように先生は応援するからね」
福王寺先生はにこやかにそう言った。また、その直後に先生は俺のことをまたチラッと見てきて。
「クラスの出し物の候補が決まったから、残りの時間は自由時間にします。他のクラスではまだ話し合いをしているかもしれないから、あまりうるさくしないようにね」
『はーい』
自由時間となったので、クラスメイト達は雑談したり、スマホを弄ったり、机に突っ伏して寝たりと思い思いの時間を過ごしているなぁ。そんなことを思いながら教室を眺めていると、伊集院さんが席から立ち上がってこちらにやってくるのが見えた。
「結衣の提案が第1候補になって良かったのです」
「嬉しいよぉ。委員会で通るともっと嬉しいな」
「通ることを願おう」
俺がそう言うと、結衣と伊集院さんは笑顔で頷いた。
「あと、文化祭では悠真君と一緒に廻りたいな。文化祭デートしたい」
「ああ、もちろんだ。当日はデートしような」
「うんっ!」
結衣は嬉しそうな笑顔で返事をしてくれた。デートの約束ができたおかげで、文化祭がより楽しみになった。
「そういえば、悠真君。体育館でのステージに出ることに興味ってある? 去年、姫奈ちゃん達と一緒に文化祭に来て、体育館のステージでバンド演奏を聴いたのを思い出してさ」
「見ましたね。人気バンドのコピーをしていてかっこよかったのです」
「かっこよかったよね」
そのときのことを思い出しているのか、結衣と伊集院さんは楽しげな笑顔になっている。
「ステージか。去年まで芹花姉さんが在学生だったから、俺も文化祭に行って体育館でのステージは何度も見たよ。バンドとか弾き語りとかダンスとか色々あったな。音楽系のパフォーマンスはかっこよかったから、興味は……あるかな」
音楽は好きだし、ギターやキーボードも弾けるし。それに、文化祭なのもあって、ステージに立っていた学生達はみんな楽しそうにしていたから。
「そうなんだね。悠真君の気持ちをもちろん尊重するけど……文化祭のステージで彼氏の悠真君がパフォーマンスしている姿を見てみたい気持ちがあります。悠真君は音楽が好きだし、ギターで弾き語りもできるし……」
結衣はこちらに向いて、俺を見つめながら笑顔でそう言ってくる。頬を中心にほんのりと赤くするところが可愛らしい。
文化祭のステージに立ってほしい……か。
これまで、俺は結衣の前でギターを弾いたり、弾き語りしたり、カラオケで歌ったりした。あとは去年の文化祭のステージで見たパフォーマンスのかっこよさもあって、俺が文化祭のステージに立つ姿を恋人として見てみたいのだろう。
そういえば、さっき……田中さんが文化祭のステージの話をしたり、福王寺先生が応援するよと言ったりしたとき、先生は俺のことをチラッと見ていたな。もしかしたら、結衣と同じ気持ちなのかもしれない。先生は低変人の大ファンだし。
ちなみに、低変人というのは、俺がネット上で音楽活動をするときの名前だ。動画サイトにインストゥルメンタルの曲を公開しており、有り難いことに多くの人に聴かれている。ただし、低変人の正体が俺であることは明かしていない。知っているのは家族や結衣、伊集院さん、福王寺先生などごく一部の人だけだ。
「どうかな、悠真君」
結衣は依然として俺を見つめながら問いかける。
これまでに、結衣の前でギターの弾き語りをしたり、カラオケに行って結衣達の前で歌ったりしたときは、みんな上手だって褒めてくれた。それが嬉しくて。それに、大好きな恋人が文化祭のステージに立ってパフォーマンスする俺の姿を見たいと言っているのだ。結衣の気持ちに……応えたい。
「分かった。ギターの弾き語りで、文化祭のステージ出演に申し込むよ。大好きな結衣にパフォーマンスを見てほしいし」
結衣のことをしっかりと見つめながら、俺は自分の気持ちを伝えた。
「ありがとう、悠真君!」
結衣は感激した様子でそう言い、両手で俺の右手をぎゅっと握りしめてくる。
「良かったのですね! 結衣!」
「うんっ!」
「まあ、オーディションがあるから、まだ決定じゃないけどな。出られるように頑張るよ」
「頑張ってね! 応援してるよ!」
「頑張ってください!」
結衣と伊集院さんはエールを送ってくれる。そのおかげで頑張れそうだ。
俺は席から立ち上がって、文化祭実行委員の佐藤のところに向かう。
「佐藤。文化祭のステージパフォーマンスの申し込みをしたいから、用紙をくれないか? ギターの弾き語りをしたいと思ってて」
「おう。高嶺と伊集院の会話が聞こえてたぜ」
佐藤はクリアファイルから文化祭のステージパフォーマンスの申込用紙を取り出す。
「オーディション頑張れよ、低田」
佐藤から明るい笑顔でステージパフォーマンスの申込用紙を渡してくれた。
用紙を見ると……9月25日の放課後にオーディションがあり、3分から5分ほどのパフォーマンスをしてもらうと書かれている。この長さなら、オーディションでは何か1曲弾き語りをするのがいいかな。
「頑張ってね、低田君!」
「低田、応援してるぜ」
などと、結構な数のクラスメイトからエールを送ってもらえた。そのことに胸が温かくなったし、嬉しい気持ちになる。
「みんなありがとう」
みんなにお礼を言い、自分の席に戻る。その中で、
「低田君。ステージ申し込むんだね。オーディション頑張ってね!」
と、教卓から福王寺先生は嬉しそうな様子で俺に言ってきた。
「ありがとうございます」
福王寺先生にお礼を言うと、先生はニコッと笑った。可愛い担任教師だ。
残りの自由時間で、ステージパフォーマンスの申込用紙に必要事項を記入。放課後になり結衣の掃除当番が終わった後、俺は結衣と一緒に生徒会室の入口前に行き、ボックスに申込用紙を入れた。
夜になり、LIMEのクラスのグループトークに佐藤と田中さんから、今日の放課後に実施された文化祭実行委員会にて第1希望のメイド&執事喫茶に決まったことが伝えられた。このことに結衣はとても喜んでいた。それが嬉しくて。
俺、結衣、胡桃、伊集院さん、2年生で俺にとってはバイトの先輩でもある中野千佳先輩のグループトークに、胡桃がいる1年3組はお化け屋敷、中野先輩がいる2年3組は焼きそばの屋台をやることが決まったとメッセージが。どちらのクラスも文化祭の王道の出し物だ。
また、5人のグループトークに結衣と胡桃と伊集院さんから、スイーツ部の出し物が第1希望のベビーカステラの屋台に無事に決まったとのメッセージも。3人は喜んでおり、そのことにより嬉しくなった。
あと、俺は5人のグループトークにステージでギターの弾き語りをしたいと申し込んだとメッセージを送る。すると、結衣達はみんな、オーディション頑張ってとメッセージをくれた。また、胡桃はパソコンのメッセンジャーで桐花さんとして、
『オーディション頑張ってね! 低変人さん!』
とメッセージをくれて。オーディションを通過したい気持ちが強くなった。
□後書き□
読んでいただきありがとうございます。
約8ヶ月ぶりに2学期編シリーズの新章がスタートしました! 全30話ほどになる予定です。
1日1話ずつ公開していく予定です。よろしくお願いします。
9月13日、金曜日。
今週の学校生活も、残るは6時間目のロングホームルームだけになった。
ロングホームルームではクラスで何か決め事をしたり、話し合いをしたりする。定期試験が近い時期だと自習の時間になることもある。また、全学年の全クラスがロングホームルームなので、学校や学年で集会が開かれることもある。授業が実質1時間少ないようなものなので、俺・低田悠真は金曜日が結構好きだ。
そして、今週のロングホームルームに何をするのかというと――。
「じゃあ、これから文化祭での出し物の希望について話し合うぜ」
そう。文化祭でのクラスの出し物について話し合うことになっている。
ここ東京都立金井高等学校では、10月12日と13日に文化祭が実施される予定だ。一年のうちで一番とも言える大きなイベントだ。
また、話し合いの進行役は、先週のロングホームルームで文化祭実行委員に決まった佐藤広紀という男子生徒と、田中沙羅さんという女子生徒の2人が務める。
担任の福王寺杏樹先生は、教室前方の窓側に動かした椅子に座って様子を見守っている。
実行委員の2人曰く、このロングホームルームでクラスの出し物の第1希望から第3希望まで決める。その希望が今日の放課後にある文化祭実行委員会で承認されれば決定とのことだ。なるべく第1希望を通すようにするけど、希望する出し物によっては人気で何クラスも被ってしまうなどの理由で、第1希望にならないこともあるそうだ。
「それじゃ、やりたい出し物がある人は挙手してね」
実行委員の田中さんがそう言うと、何人もの生徒が挙手をして、
「お化け屋敷やりたいぜ! みんなを驚かせたい!」
「スイーツ系の屋台をやってみたいわ! チョコバナナとか!」
と、クラスでの出し物の案が続々と出される。それらの案は佐藤が黒板に書いていく。その中で、
「メイド&執事喫茶をやりたいです!」
俺の前の席に座っている恋人・高嶺結衣がそう提案した。
結衣が提案した直後、男女問わず多くのクラスメイトから『おおっ』と声が上がる。そうなるのは、結衣が『高嶺の花』と称されるほどに人気がある女子生徒だったり、「メイド&執事喫茶」という提案が魅力的だったりするのだろう。
「喫茶店は文化祭の王道だからね。それに、執事服姿の悠真君や、メイド服を着る姫奈ちゃん達を見たいから! 特に悠真君! あと、私、メイド服を着てもいいし」
と、結衣は弾んだ声でメイド&執事喫茶を提案する理由を話した。予定通りに言えたな。今日のロングホームルームで文化祭の出し物について話し合うことが決まっていたため、今日の昼休みにお弁当を食べているとき、結衣がメイド&執事喫茶を提案するつもりで、今と同じ理由を話していた。
あと、結衣の言う通り、喫茶店は文化祭での王道の出し物だ。それまでに出ているお化け屋敷や屋台も。大学1年生の芹花姉さんが去年まで金井高校の在学生だったので、家族と一緒に金井高校の文化祭に行ったことがある。喫茶店も、お化け屋敷も、スイーツ系の屋台もクラスや部活の出し物で盛り上がっていたのを覚えている。
「ふふっ。彼氏の執事服姿を特に見たいなんて。結衣らしいね」
結衣の友達の女子が明るい笑顔でそう言った。そのことで、教室の中が笑いに包まれる。結衣本人も「ふふっ」と笑っている。
「低田君って執事服似合いそう。結衣の彼氏だけど、あたしも興味ある」
「文化祭に行くと喫茶店ってあるよね」
「メイド服って普段はなかなか着ないものだし、そういうものを着た出し物の方が文化祭を楽しめるかも」
「まさか女子の高嶺がメイド喫茶を提案してくれるとは!」
「高嶺や伊集院はもちろん、メイド服が似合いそうな女子がいっぱいいるよな……」
「女子達のメイド服姿を見られるなら、執事服を着ることになってもいい!」
などと、メイド&執事喫茶を肯定する声が続々と上がっていく。こんなに多いと、うちのクラスの出し物の希望はメイド&執事喫茶に決定だろうか。
「みんなに好感触みたいで良かったな、結衣」
俺がそう言うと、結衣は俺の方に振り向き、笑顔で「うんっ!」と頷いた。そのことに結衣の親友の伊集院姫奈さんも嬉しそうにしていた。
その後も候補を出し、10個近く候補が出たところで多数決をとる。
多数決の結果、第1希望は結衣が提案したメイド&執事喫茶、第2希望はチョコバナナの屋台、第3希望はお化け屋敷になった。
「メイド&執事喫茶が第1希望になって良かったな」
俺が小さな声でそう言うと、結衣はこちらに振り返り、嬉しそうな笑顔で「うんっ」と頷く。
「そうだね! 喫茶店になるといいなぁ。あと、スイーツ部の方も希望が通るといいな。今週の活動で話し合いをして、ベビーカステラの屋台が第1希望になったから」
「どっちも第1希望を通ることを願おう」
俺がそう言うと、結衣は再び「うんっ」と頷いた。どうか、うちのクラスもスイーツ部も第1希望が通りますように。スイーツ部は結衣と伊集院さんと俺達の友人で隣のクラスの華頂胡桃が所属し、福王寺先生が顧問を務めているし。
「候補は決まったね。第1希望になるように願っているよ。もし、第1希望が通ったら、先生もメイド服を着ようかな」
福王寺先生は楽しげな笑顔でそう言った。そのことに男子中心に『おおっ』と声を上げて。男女問わず「見たい」との声が。
福王寺先生は美人で可愛らしいし、スタイルも抜群だからメイド服がよく似合いそうだ。俺も見てみたいな。
「杏樹先生のメイド服姿かぁ。見てみたいね!」
明るい笑顔でそう言う結衣。
「結衣もか。見てみたいよな」
俺がそう返事をすると、結衣はニコッと笑いかけてきた。
「屋台になったらエプロン姿になるし、お化け屋敷になったら何かお化けのコスプレをするよ」
依然として楽しそうな様子で福王寺先生はそう言った。もしかしたら、イベントで普段と違う服装になったり、コスプレしたりするのが結構好きなのかもしれない。
文化祭の出し物の候補が決まったり、福王寺先生が出し物に合った服装になる発言をしたりしたのもあり、教室の中はいい雰囲気になっている。
「他に話し合いたいことはある?」
「いいえ。……あと、有志で体育館のステージにパフォーマンスをしたい人がいたら私か佐藤君に言ってね。申込用紙を渡すから。来週の水曜日の午後5時までに、必要事項を記入して生徒会室前にあるボックスに入れてください。オーディションがあって、通過したら文化祭当日にステージに出られます」
と、文化祭実行委員の田中さんが説明した。また、その直後に福王寺先生が俺のことをチラッと見てきた。
文化祭のステージに出るには、オーディションを通過しないといけないのか。申し込む人やグループが多いのだろうか。あとは、多くの人の前でパフォーマンスするから、一定のクオリティでないといけないという考えがあるのかもしれない。
「もし、応募するなら、オーディションに合格できるように先生は応援するからね」
福王寺先生はにこやかにそう言った。また、その直後に先生は俺のことをまたチラッと見てきて。
「クラスの出し物の候補が決まったから、残りの時間は自由時間にします。他のクラスではまだ話し合いをしているかもしれないから、あまりうるさくしないようにね」
『はーい』
自由時間となったので、クラスメイト達は雑談したり、スマホを弄ったり、机に突っ伏して寝たりと思い思いの時間を過ごしているなぁ。そんなことを思いながら教室を眺めていると、伊集院さんが席から立ち上がってこちらにやってくるのが見えた。
「結衣の提案が第1候補になって良かったのです」
「嬉しいよぉ。委員会で通るともっと嬉しいな」
「通ることを願おう」
俺がそう言うと、結衣と伊集院さんは笑顔で頷いた。
「あと、文化祭では悠真君と一緒に廻りたいな。文化祭デートしたい」
「ああ、もちろんだ。当日はデートしような」
「うんっ!」
結衣は嬉しそうな笑顔で返事をしてくれた。デートの約束ができたおかげで、文化祭がより楽しみになった。
「そういえば、悠真君。体育館でのステージに出ることに興味ってある? 去年、姫奈ちゃん達と一緒に文化祭に来て、体育館のステージでバンド演奏を聴いたのを思い出してさ」
「見ましたね。人気バンドのコピーをしていてかっこよかったのです」
「かっこよかったよね」
そのときのことを思い出しているのか、結衣と伊集院さんは楽しげな笑顔になっている。
「ステージか。去年まで芹花姉さんが在学生だったから、俺も文化祭に行って体育館でのステージは何度も見たよ。バンドとか弾き語りとかダンスとか色々あったな。音楽系のパフォーマンスはかっこよかったから、興味は……あるかな」
音楽は好きだし、ギターやキーボードも弾けるし。それに、文化祭なのもあって、ステージに立っていた学生達はみんな楽しそうにしていたから。
「そうなんだね。悠真君の気持ちをもちろん尊重するけど……文化祭のステージで彼氏の悠真君がパフォーマンスしている姿を見てみたい気持ちがあります。悠真君は音楽が好きだし、ギターで弾き語りもできるし……」
結衣はこちらに向いて、俺を見つめながら笑顔でそう言ってくる。頬を中心にほんのりと赤くするところが可愛らしい。
文化祭のステージに立ってほしい……か。
これまで、俺は結衣の前でギターを弾いたり、弾き語りしたり、カラオケで歌ったりした。あとは去年の文化祭のステージで見たパフォーマンスのかっこよさもあって、俺が文化祭のステージに立つ姿を恋人として見てみたいのだろう。
そういえば、さっき……田中さんが文化祭のステージの話をしたり、福王寺先生が応援するよと言ったりしたとき、先生は俺のことをチラッと見ていたな。もしかしたら、結衣と同じ気持ちなのかもしれない。先生は低変人の大ファンだし。
ちなみに、低変人というのは、俺がネット上で音楽活動をするときの名前だ。動画サイトにインストゥルメンタルの曲を公開しており、有り難いことに多くの人に聴かれている。ただし、低変人の正体が俺であることは明かしていない。知っているのは家族や結衣、伊集院さん、福王寺先生などごく一部の人だけだ。
「どうかな、悠真君」
結衣は依然として俺を見つめながら問いかける。
これまでに、結衣の前でギターの弾き語りをしたり、カラオケに行って結衣達の前で歌ったりしたときは、みんな上手だって褒めてくれた。それが嬉しくて。それに、大好きな恋人が文化祭のステージに立ってパフォーマンスする俺の姿を見たいと言っているのだ。結衣の気持ちに……応えたい。
「分かった。ギターの弾き語りで、文化祭のステージ出演に申し込むよ。大好きな結衣にパフォーマンスを見てほしいし」
結衣のことをしっかりと見つめながら、俺は自分の気持ちを伝えた。
「ありがとう、悠真君!」
結衣は感激した様子でそう言い、両手で俺の右手をぎゅっと握りしめてくる。
「良かったのですね! 結衣!」
「うんっ!」
「まあ、オーディションがあるから、まだ決定じゃないけどな。出られるように頑張るよ」
「頑張ってね! 応援してるよ!」
「頑張ってください!」
結衣と伊集院さんはエールを送ってくれる。そのおかげで頑張れそうだ。
俺は席から立ち上がって、文化祭実行委員の佐藤のところに向かう。
「佐藤。文化祭のステージパフォーマンスの申し込みをしたいから、用紙をくれないか? ギターの弾き語りをしたいと思ってて」
「おう。高嶺と伊集院の会話が聞こえてたぜ」
佐藤はクリアファイルから文化祭のステージパフォーマンスの申込用紙を取り出す。
「オーディション頑張れよ、低田」
佐藤から明るい笑顔でステージパフォーマンスの申込用紙を渡してくれた。
用紙を見ると……9月25日の放課後にオーディションがあり、3分から5分ほどのパフォーマンスをしてもらうと書かれている。この長さなら、オーディションでは何か1曲弾き語りをするのがいいかな。
「頑張ってね、低田君!」
「低田、応援してるぜ」
などと、結構な数のクラスメイトからエールを送ってもらえた。そのことに胸が温かくなったし、嬉しい気持ちになる。
「みんなありがとう」
みんなにお礼を言い、自分の席に戻る。その中で、
「低田君。ステージ申し込むんだね。オーディション頑張ってね!」
と、教卓から福王寺先生は嬉しそうな様子で俺に言ってきた。
「ありがとうございます」
福王寺先生にお礼を言うと、先生はニコッと笑った。可愛い担任教師だ。
残りの自由時間で、ステージパフォーマンスの申込用紙に必要事項を記入。放課後になり結衣の掃除当番が終わった後、俺は結衣と一緒に生徒会室の入口前に行き、ボックスに申込用紙を入れた。
夜になり、LIMEのクラスのグループトークに佐藤と田中さんから、今日の放課後に実施された文化祭実行委員会にて第1希望のメイド&執事喫茶に決まったことが伝えられた。このことに結衣はとても喜んでいた。それが嬉しくて。
俺、結衣、胡桃、伊集院さん、2年生で俺にとってはバイトの先輩でもある中野千佳先輩のグループトークに、胡桃がいる1年3組はお化け屋敷、中野先輩がいる2年3組は焼きそばの屋台をやることが決まったとメッセージが。どちらのクラスも文化祭の王道の出し物だ。
また、5人のグループトークに結衣と胡桃と伊集院さんから、スイーツ部の出し物が第1希望のベビーカステラの屋台に無事に決まったとのメッセージも。3人は喜んでおり、そのことにより嬉しくなった。
あと、俺は5人のグループトークにステージでギターの弾き語りをしたいと申し込んだとメッセージを送る。すると、結衣達はみんな、オーディション頑張ってとメッセージをくれた。また、胡桃はパソコンのメッセンジャーで桐花さんとして、
『オーディション頑張ってね! 低変人さん!』
とメッセージをくれて。オーディションを通過したい気持ちが強くなった。
□後書き□
読んでいただきありがとうございます。
約8ヶ月ぶりに2学期編シリーズの新章がスタートしました! 全30話ほどになる予定です。
1日1話ずつ公開していく予定です。よろしくお願いします。
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3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2024.8.2)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
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