58 / 267
本編
第57話『聖地巡礼』
しおりを挟む
着替えが終わったので、お手洗いで用を足すついでに、それまで着ていた下着と寝間着を洗面所へ持っていった。だるさも残っているけど、処方された薬が効いたり、高嶺さんが汗を拭いたりしてくれたから朝に比べて気分はいい。
部屋に戻ると、高嶺さんは上半身をふとんの中に突っ込んでいた。
「何やっているんだ?」
俺がそう問いかけると、高嶺さんは上半身をふとんから出し、俺を見てくる。
「さっき汗を拭いているときに、悠真君の匂いはいいなって改めて思ってね。我慢できなくなってふとんを被ったの。悠真君の匂いに包まれて幸せだよ……」
言葉通りの幸せそうな表情を浮かべる高嶺さん。まったく、高嶺さんらしいな。
ベッドに戻って、胸のあたりまでふとんをかける。さっきまで上半身を突っ込んでいたからか、高嶺さんの甘い残り香が感じられる。何だか落ち着くな。それを言ったら、高嶺さんにどんな反応をされるか分からないので言わないけど。
「そういえば、悠真君。起きてからまだ熱を測っていなかったよね」
「そうだな。……測っておくか」
高嶺さんから渡された体温計で体温を測ることに。その間、高嶺さんは俺の右手をそっと掴み、優しく俺に微笑みかけてくれる。そのことで熱が上がってしまいそうだ。
――ピピッ。
と鳴ったので、体温計を手に取ると、
「38度3分か……」
「まだ高いね。これだと、明日も欠席する可能性が高そうだね」
「そうかもな。ただ、朝は39度4分だったし、だるさの程度も軽くなったから、これでも今朝に比べれば結構マシになったよ」
「それならまだ良かった」
本当は高嶺さんがお見舞いに来てくれたのも、朝よりもマシだと思う理由の一つだけど。それを言ったら、高嶺さんにどんな看病をされてしまうか不安なので心に留めておこう。
「悠真君。私に何かしてほしいことはある? 悠真君のために看病したいな。とりあえず、胸の中で顔をすりすりしてみる? それとも、もみもみしてみる? 悠真君なら……ちゅ、ちゅーちゅーしてもいいよ? 何も出ないけど。気持ちが休まるかもしれない」
「……遠慮しておくよ」
言わなくても、高嶺さんはとんでもない看病を提案してきやがった。まったく。今言ったことをしたら、気持ちが休まるどころか心臓がバクバクして、朝の39度4分を軽く越える勢いで熱が上がると思うぞ。
――ピンポーン。
うん? インターホンが鳴ったな。この時間に鳴るなんて珍しい。
今更だけど、インターホンってそれなりに大きな音が鳴るんだなぁ。中野先輩と高嶺さんが来たときも鳴ったと思うけど、全然気付かなかった。それだけ、ぐっすりと寝ていたってことか。そのときに見ていた夢は凄くヘンテコな内容だったけど。
――コンコン。
「はい。どうぞ」
母さんか? 何か俺宛に届いたのかな。
ゆっくりと扉が開くと、
「こんばんは、低田君。具合はどうかしら」
何と、部屋の中に入ってきたのは福王寺先生だった。先生はクールな様子で俺達に軽く頭を下げると部屋の扉を閉める。バッグをテーブルの近くに置いて、高嶺さんのすぐ隣までやってくる。
「さっき熱を測ったら38度3分でした。ただ、今日行った病院から処方された薬のおかげで、朝に比べたらマシになってきてます」
「そうなのね。少しでも快方に向かっているようで良かったわ。途中のコンビニでプリンを買ってきたんだけど、お腹の方は大丈夫だったかしら?」
「はい。普段よりも食欲がないだけで、お腹を壊しているわけじゃないので」
「良かった。小さい頃、風邪を引いて、お腹は壊していないときは両親がプリンを買ってきてくれたから。冷蔵庫に入れてあるからね。……ちなみに、この部屋には高嶺さんしかいないのね」
福王寺先生は両眼に涙を浮かべて、両手で俺の右手をぎゅっと握り、
「低変人さまぁ!」
教室では出さない甘い声で言った。ここには高嶺さんと俺しかいないから素のモードになったんだな。
「今朝、39度4分の熱が出たから学校を休むって低変人様からメッセージが来たとき、凄く不安になって」
「LIMEで私にたくさんメッセージを送ってきましたよね。新曲の感想だけじゃなくて、悠真君が心配で仕方ないとか」
「気持ちを落ち着かせたかったからね。ごめんなさい、結衣ちゃん」
「いえいえ、気にしないでください」
高嶺さんと福王寺先生は笑い合う。先生が生徒と楽しく笑っている様子を見るのは初めてだな。
「今日は絶対にお見舞いに行こうって決めてたの! 低変人様の様子を見たかったし、新曲『天上人』の感想を直接言いたくて。あと、どんな場所で楽曲を作っているのかも知りたかったから。いわゆる聖地巡礼ね!」
そう言ったときには、福王寺先生はとても興奮した様子になっており、涙はすっかりと引いていた。教師として、体調を崩した生徒を心配してくれているのは伝わってくるけど、聖地巡礼って。低変人の熱狂的なファンだから、その気持ちも分からなくはないけれども。
「受け持っている生徒の悠真君のお見舞いだけなら普通ですけど、低変人さんの聖地巡礼も兼ねていると知ると、途端に職権濫用している印象になりますね」
「今までで一番、教師になって良かったと思ってるよ!」
可愛らしい笑みを浮かべながらそう言う福王寺先生。まったく、この教師は。クールビューティーとか数学姫なんて嘘じゃないかと思ってしまうよ。これには高嶺さんもさすがに苦笑いをするだけで何も言葉を発しなかった。
福王寺先生は勉強机の椅子を、高嶺さんが座っているパソコンチェアのすぐ横まで動かし、ゆっくりと腰を下ろした。
こうして、高嶺さんと福王寺先生が並んで座っている光景はなかなか凄い。それぞれ1人ずつでもオーラがあるのに、2人並ぶと圧巻だ。
福王寺先生は聖地巡礼中だからか、椅子に座りながら俺の部屋の中を見渡している。そんな先生の眼は輝いていて。
「いやぁ、こうして見てみると、とても綺麗な部屋だね、低変人様。本棚の中もしっかりと整頓されているし」
「ありがとうございます」
「私の部屋よりも綺麗だと思う。……あっ、あの黒いケースの中にギターが入っているのかな?」
「はい。そのギターを使って、思いついたメロディーを録音しています。楽曲によっては弾いた音を使っていますね。アコギのみの楽曲以外は、パソコンに入っているDTMソフトを使って制作してます。あとは、今はパソコンデスクに置いてないですけど、MIDIキーボードを使うこともたまに」
「そうなんだ……!」
福王寺先生、凄くテンションが高い。心配そうな表情をされるよりも、元気にしてくれる方が気が楽になるからいいな。
「新曲の『天上人』とっても良かったよ! 明るい雰囲気の曲で好みだよ」
「ありがとうございます。新曲の制作に熱中しすぎたのもあって、体調を崩しちゃいました。こうなったのは、今回が初めてじゃないので気を付けないと」
「そうだね。好きだからこそ集中しちゃうと思うけど、体調を崩すまでやったらダメだよ」
そう言って、ウィンクをしてくる福王寺先生はとても可愛らしい。素のモードでいるときは、今が一番教師らしいかも。
「熱はまだあるけど、こうして話せるくらいには回復して安心したよ」
「私も安心しました。ただ、起きてすぐに『高校生だよね?』って聞かれたときは、熱で頭がやられたのかと思いましたよ」
「朝は39度4分だったもんね。そこまでの高熱、私は経験がないからなぁ」
「……高熱が影響したと思うんですけど、実は……」
俺は今日、さっき見た幼稚園の夢について簡単に説明する。
「あははっ! 私達が幼児化しちゃうなんて。それはなかなか凄い夢だね、悠真君。後で夢に登場した人達に話そっと」
「まさか、低変人様のお見舞いでこんな話を聞けるとは思わなかった。……ふふっ」
2人とも夢に登場したし、特に高嶺さんには引かれるかもしれないと思ったけど、楽しそうに笑ってくれて良かった。
あと、高嶺さんは華頂さん達にも話すつもりなのか。
「それにしても、その夢では低変人様と一緒に幼稚園の先生をしていて、結婚もしているのかぁ。幼稚園の先生になるつもりはないけれど、結婚するっていう部分だけは正夢にしてみる? 早くても高校を卒業したときになるけど」
「ちょっと待ってください。何さらっとプロポーズみたいなこと言っているんですか」
一瞬にして真剣な表情になり、鋭い目つきで福王寺先生を見つめる高嶺さん。そんな高嶺さんとは対照的に、先生は落ち着いた笑みを浮かべて高嶺さんを見ている。
「ふふっ、夢の中で結婚しているのが嬉しくて、つい。でも、ここだけの話……低変人様は今まで告白してきた金井高校の関係者の誰よりも素敵だと思っているよ」
「……そうですか」
「わ、私だって世界で一番、悠真君のことが好きだし、素敵だと思っているからね!」
それは告白されたときから分かっていることだけど、こうして言われるとキュンとくるものがある。もちろん、福王寺先生に素敵だと言われたことにも。
――コンコン。
「はい、どうぞ」
「ユウちゃん、具合はどう?」
扉が開くと、そこには大学から帰ってきた芹花姉さんが。高嶺さん、福王寺先生だけでなく姉さんまでこの場に居合わせるとは。下手すると、俺にとって凄くまずい状況になりそうだ。
芹花姉さんは心配そうな様子だけど、福王寺先生がいるからかすぐに真面目な表情になる。そういえば、姉さんは高校で理系クラスだったから、福王寺先生に3年間数学を教わっていたんだよな。入学した日に福王寺先生が担任だと話したとき、そのことを教えてくれた。
「熱は38度3分あるけど、朝がかなり高かったから、これでもマシな感じがしてる。だるさもあんまりないし」
「そうなんだ。朝より良くなっているなら一安心だよ。あと、結衣ちゃん、杏樹先生、こんばんは。先生はお久しぶりです」
「お邪魔しています、お姉様」
「久しぶりね、芹花ちゃん。大学生活の方はどうかな? 確か、東都科学大学理学部の生命科学科に進学したんだよね」
「はい。講義にもついていけています。大学で友人もできて、漫画系のサークルにも入っているので楽しいです。あと、今も駅前のドニーズでのバイトを続けてます」
「そうなんだ。この春に卒業した子が、楽しい大学生活を送ることができているのを知って嬉しいよ」
「は、はい。どうもです……」
芹花姉さん、素のモードで福王寺先生が話しているからか戸惑っているな。
低変人が俺じゃないかと福王寺先生に言われたとき、家族は俺が低変人として活動しているのを知っていると話したからな。それに加えて、芹花姉さんは卒業したから素のモードで接してもいいと思ったのかも。
「芹花姉さん。実は今が先生の素の姿なんだ。姉さんが高校に通っていたときもクールだったと思うけど、それは教師としてしっかりとするためらしい」
「低変人様の言う通りだよ。でも、このことはご家族と結衣ちゃん以外には言わないでね」
「……分かりました。高校ではとてもクールな雰囲気だったので驚きました。数学の質問をしたときは、優しく教えてくれましたけど。ただ、卒業後でも、先生の可愛い姿を知ることができて嬉しいです。あと、高校時代の数学が大学での勉強に役立っています。先生、ありがとうございます!」
ニッコリとした笑顔で芹花姉さんはお礼を言うと、両手で福王寺先生の右手を掴む。
「いえいえ。芹花ちゃんが当時から頑張って勉強したからだよ。でも、そう言ってくれて嬉しい。こちらこそありがとう」
福王寺先生は優しくて温かい笑顔を芹花姉さんに向ける。姉さんの頭を撫でる姿は恩師らしく思えた。そんな2人を高嶺さんが微笑ましく見ているのが印象的だった。
まさか、自分の部屋でこういう光景を見ることができるとは。今回、風邪を引いて良かったとちょっと思うのであった。
部屋に戻ると、高嶺さんは上半身をふとんの中に突っ込んでいた。
「何やっているんだ?」
俺がそう問いかけると、高嶺さんは上半身をふとんから出し、俺を見てくる。
「さっき汗を拭いているときに、悠真君の匂いはいいなって改めて思ってね。我慢できなくなってふとんを被ったの。悠真君の匂いに包まれて幸せだよ……」
言葉通りの幸せそうな表情を浮かべる高嶺さん。まったく、高嶺さんらしいな。
ベッドに戻って、胸のあたりまでふとんをかける。さっきまで上半身を突っ込んでいたからか、高嶺さんの甘い残り香が感じられる。何だか落ち着くな。それを言ったら、高嶺さんにどんな反応をされるか分からないので言わないけど。
「そういえば、悠真君。起きてからまだ熱を測っていなかったよね」
「そうだな。……測っておくか」
高嶺さんから渡された体温計で体温を測ることに。その間、高嶺さんは俺の右手をそっと掴み、優しく俺に微笑みかけてくれる。そのことで熱が上がってしまいそうだ。
――ピピッ。
と鳴ったので、体温計を手に取ると、
「38度3分か……」
「まだ高いね。これだと、明日も欠席する可能性が高そうだね」
「そうかもな。ただ、朝は39度4分だったし、だるさの程度も軽くなったから、これでも今朝に比べれば結構マシになったよ」
「それならまだ良かった」
本当は高嶺さんがお見舞いに来てくれたのも、朝よりもマシだと思う理由の一つだけど。それを言ったら、高嶺さんにどんな看病をされてしまうか不安なので心に留めておこう。
「悠真君。私に何かしてほしいことはある? 悠真君のために看病したいな。とりあえず、胸の中で顔をすりすりしてみる? それとも、もみもみしてみる? 悠真君なら……ちゅ、ちゅーちゅーしてもいいよ? 何も出ないけど。気持ちが休まるかもしれない」
「……遠慮しておくよ」
言わなくても、高嶺さんはとんでもない看病を提案してきやがった。まったく。今言ったことをしたら、気持ちが休まるどころか心臓がバクバクして、朝の39度4分を軽く越える勢いで熱が上がると思うぞ。
――ピンポーン。
うん? インターホンが鳴ったな。この時間に鳴るなんて珍しい。
今更だけど、インターホンってそれなりに大きな音が鳴るんだなぁ。中野先輩と高嶺さんが来たときも鳴ったと思うけど、全然気付かなかった。それだけ、ぐっすりと寝ていたってことか。そのときに見ていた夢は凄くヘンテコな内容だったけど。
――コンコン。
「はい。どうぞ」
母さんか? 何か俺宛に届いたのかな。
ゆっくりと扉が開くと、
「こんばんは、低田君。具合はどうかしら」
何と、部屋の中に入ってきたのは福王寺先生だった。先生はクールな様子で俺達に軽く頭を下げると部屋の扉を閉める。バッグをテーブルの近くに置いて、高嶺さんのすぐ隣までやってくる。
「さっき熱を測ったら38度3分でした。ただ、今日行った病院から処方された薬のおかげで、朝に比べたらマシになってきてます」
「そうなのね。少しでも快方に向かっているようで良かったわ。途中のコンビニでプリンを買ってきたんだけど、お腹の方は大丈夫だったかしら?」
「はい。普段よりも食欲がないだけで、お腹を壊しているわけじゃないので」
「良かった。小さい頃、風邪を引いて、お腹は壊していないときは両親がプリンを買ってきてくれたから。冷蔵庫に入れてあるからね。……ちなみに、この部屋には高嶺さんしかいないのね」
福王寺先生は両眼に涙を浮かべて、両手で俺の右手をぎゅっと握り、
「低変人さまぁ!」
教室では出さない甘い声で言った。ここには高嶺さんと俺しかいないから素のモードになったんだな。
「今朝、39度4分の熱が出たから学校を休むって低変人様からメッセージが来たとき、凄く不安になって」
「LIMEで私にたくさんメッセージを送ってきましたよね。新曲の感想だけじゃなくて、悠真君が心配で仕方ないとか」
「気持ちを落ち着かせたかったからね。ごめんなさい、結衣ちゃん」
「いえいえ、気にしないでください」
高嶺さんと福王寺先生は笑い合う。先生が生徒と楽しく笑っている様子を見るのは初めてだな。
「今日は絶対にお見舞いに行こうって決めてたの! 低変人様の様子を見たかったし、新曲『天上人』の感想を直接言いたくて。あと、どんな場所で楽曲を作っているのかも知りたかったから。いわゆる聖地巡礼ね!」
そう言ったときには、福王寺先生はとても興奮した様子になっており、涙はすっかりと引いていた。教師として、体調を崩した生徒を心配してくれているのは伝わってくるけど、聖地巡礼って。低変人の熱狂的なファンだから、その気持ちも分からなくはないけれども。
「受け持っている生徒の悠真君のお見舞いだけなら普通ですけど、低変人さんの聖地巡礼も兼ねていると知ると、途端に職権濫用している印象になりますね」
「今までで一番、教師になって良かったと思ってるよ!」
可愛らしい笑みを浮かべながらそう言う福王寺先生。まったく、この教師は。クールビューティーとか数学姫なんて嘘じゃないかと思ってしまうよ。これには高嶺さんもさすがに苦笑いをするだけで何も言葉を発しなかった。
福王寺先生は勉強机の椅子を、高嶺さんが座っているパソコンチェアのすぐ横まで動かし、ゆっくりと腰を下ろした。
こうして、高嶺さんと福王寺先生が並んで座っている光景はなかなか凄い。それぞれ1人ずつでもオーラがあるのに、2人並ぶと圧巻だ。
福王寺先生は聖地巡礼中だからか、椅子に座りながら俺の部屋の中を見渡している。そんな先生の眼は輝いていて。
「いやぁ、こうして見てみると、とても綺麗な部屋だね、低変人様。本棚の中もしっかりと整頓されているし」
「ありがとうございます」
「私の部屋よりも綺麗だと思う。……あっ、あの黒いケースの中にギターが入っているのかな?」
「はい。そのギターを使って、思いついたメロディーを録音しています。楽曲によっては弾いた音を使っていますね。アコギのみの楽曲以外は、パソコンに入っているDTMソフトを使って制作してます。あとは、今はパソコンデスクに置いてないですけど、MIDIキーボードを使うこともたまに」
「そうなんだ……!」
福王寺先生、凄くテンションが高い。心配そうな表情をされるよりも、元気にしてくれる方が気が楽になるからいいな。
「新曲の『天上人』とっても良かったよ! 明るい雰囲気の曲で好みだよ」
「ありがとうございます。新曲の制作に熱中しすぎたのもあって、体調を崩しちゃいました。こうなったのは、今回が初めてじゃないので気を付けないと」
「そうだね。好きだからこそ集中しちゃうと思うけど、体調を崩すまでやったらダメだよ」
そう言って、ウィンクをしてくる福王寺先生はとても可愛らしい。素のモードでいるときは、今が一番教師らしいかも。
「熱はまだあるけど、こうして話せるくらいには回復して安心したよ」
「私も安心しました。ただ、起きてすぐに『高校生だよね?』って聞かれたときは、熱で頭がやられたのかと思いましたよ」
「朝は39度4分だったもんね。そこまでの高熱、私は経験がないからなぁ」
「……高熱が影響したと思うんですけど、実は……」
俺は今日、さっき見た幼稚園の夢について簡単に説明する。
「あははっ! 私達が幼児化しちゃうなんて。それはなかなか凄い夢だね、悠真君。後で夢に登場した人達に話そっと」
「まさか、低変人様のお見舞いでこんな話を聞けるとは思わなかった。……ふふっ」
2人とも夢に登場したし、特に高嶺さんには引かれるかもしれないと思ったけど、楽しそうに笑ってくれて良かった。
あと、高嶺さんは華頂さん達にも話すつもりなのか。
「それにしても、その夢では低変人様と一緒に幼稚園の先生をしていて、結婚もしているのかぁ。幼稚園の先生になるつもりはないけれど、結婚するっていう部分だけは正夢にしてみる? 早くても高校を卒業したときになるけど」
「ちょっと待ってください。何さらっとプロポーズみたいなこと言っているんですか」
一瞬にして真剣な表情になり、鋭い目つきで福王寺先生を見つめる高嶺さん。そんな高嶺さんとは対照的に、先生は落ち着いた笑みを浮かべて高嶺さんを見ている。
「ふふっ、夢の中で結婚しているのが嬉しくて、つい。でも、ここだけの話……低変人様は今まで告白してきた金井高校の関係者の誰よりも素敵だと思っているよ」
「……そうですか」
「わ、私だって世界で一番、悠真君のことが好きだし、素敵だと思っているからね!」
それは告白されたときから分かっていることだけど、こうして言われるとキュンとくるものがある。もちろん、福王寺先生に素敵だと言われたことにも。
――コンコン。
「はい、どうぞ」
「ユウちゃん、具合はどう?」
扉が開くと、そこには大学から帰ってきた芹花姉さんが。高嶺さん、福王寺先生だけでなく姉さんまでこの場に居合わせるとは。下手すると、俺にとって凄くまずい状況になりそうだ。
芹花姉さんは心配そうな様子だけど、福王寺先生がいるからかすぐに真面目な表情になる。そういえば、姉さんは高校で理系クラスだったから、福王寺先生に3年間数学を教わっていたんだよな。入学した日に福王寺先生が担任だと話したとき、そのことを教えてくれた。
「熱は38度3分あるけど、朝がかなり高かったから、これでもマシな感じがしてる。だるさもあんまりないし」
「そうなんだ。朝より良くなっているなら一安心だよ。あと、結衣ちゃん、杏樹先生、こんばんは。先生はお久しぶりです」
「お邪魔しています、お姉様」
「久しぶりね、芹花ちゃん。大学生活の方はどうかな? 確か、東都科学大学理学部の生命科学科に進学したんだよね」
「はい。講義にもついていけています。大学で友人もできて、漫画系のサークルにも入っているので楽しいです。あと、今も駅前のドニーズでのバイトを続けてます」
「そうなんだ。この春に卒業した子が、楽しい大学生活を送ることができているのを知って嬉しいよ」
「は、はい。どうもです……」
芹花姉さん、素のモードで福王寺先生が話しているからか戸惑っているな。
低変人が俺じゃないかと福王寺先生に言われたとき、家族は俺が低変人として活動しているのを知っていると話したからな。それに加えて、芹花姉さんは卒業したから素のモードで接してもいいと思ったのかも。
「芹花姉さん。実は今が先生の素の姿なんだ。姉さんが高校に通っていたときもクールだったと思うけど、それは教師としてしっかりとするためらしい」
「低変人様の言う通りだよ。でも、このことはご家族と結衣ちゃん以外には言わないでね」
「……分かりました。高校ではとてもクールな雰囲気だったので驚きました。数学の質問をしたときは、優しく教えてくれましたけど。ただ、卒業後でも、先生の可愛い姿を知ることができて嬉しいです。あと、高校時代の数学が大学での勉強に役立っています。先生、ありがとうございます!」
ニッコリとした笑顔で芹花姉さんはお礼を言うと、両手で福王寺先生の右手を掴む。
「いえいえ。芹花ちゃんが当時から頑張って勉強したからだよ。でも、そう言ってくれて嬉しい。こちらこそありがとう」
福王寺先生は優しくて温かい笑顔を芹花姉さんに向ける。姉さんの頭を撫でる姿は恩師らしく思えた。そんな2人を高嶺さんが微笑ましく見ているのが印象的だった。
まさか、自分の部屋でこういう光景を見ることができるとは。今回、風邪を引いて良かったとちょっと思うのであった。
0
読んでいただきありがとうございます。お気に入り登録や感想をお待ちしております。
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
『恋人、はじめました。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/812478633
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
『恋人、はじめました。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/812478633
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2024.8.2)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる