上 下
54 / 267
本編

第53話『日常に帰る』

しおりを挟む
 午後4時過ぎ。
 入店してから60分が経った。なので、俺達はかにゃいを後にして、武蔵金井駅に向かって歩き始める。

「猫可愛かった!」
「そうだね! モフモフできたし、癒やしの時間だったよ。猫ちゃんはもちろんだけど、猫耳カチューシャを付けた結衣ちゃんとゆう君も可愛かったな」
「胡桃ちゃんも可愛かったよ! 悠真君はどうだった?」
「あんなにたくさん猫と戯れられたのは人生初だ。凄くいい時間を過ごさせてもらったよ。2人とも、あの猫カフェに連れて行ってくれてありがとう」

 猫耳カチューシャを付けたのはちょっと恥ずかしかったけど、猫カフェでの時間はとても楽しかった。いつか思い出したとき、笑い合っているだろう。

「ゆう君に喜んでもらえて良かった」
「そうだね。また一緒に猫カフェに来ようね!」
「ああ」

 伊集院さんや中野先輩も猫好きなら、彼女達とも一緒に来てみたいな。2人とも、猫の扱いがとても上手なイメージがある。
 あと、1人で来て、猫との戯れの時間を堪能するのも良さそうだ。いつか、1人猫カフェを体験しよう。
 2人と話していたから、あっという間に武蔵金井駅の南口に到着する。今月になってから、高嶺さんの家やドニーズに行ったので、南口の景色も見慣れてきた。

「2人とは家が反対方向だから、ここでお別れだね」
「そうなるね。結衣ちゃん、今日はとても楽しかったよ。家族以外とこんなに楽しく遊んだ休日は久しぶりだったよ。2人ともありがとう」
「いえいえ。俺も2人のおかげで楽しかった。ありがとう」
「私こそありがとう。これからもたまに、お休みの日にお出かけしようね。あと、放課後にはエオンの中をゆっくり廻りたいな」
「それいいね!」

 そういえば、高嶺さんと華頂さんと3人一緒にエオンの中を廻ったことはないな。きっと、一緒に廻るときにはタピオカドリンクを飲むだろう。もしそうなったら、華頂さんもタピオカチャレンジを一緒にやって……難なく成功しそうだ。

「2人がバイトのない放課後に行こうね。じゃあ、また明日ね!」

 高嶺さんは元気に手を振り、1人で自宅の方に向かって歩き出していった。俺と華頂さんは高嶺さんの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

「じゃあ、俺達も帰るか」

 華頂さんと一緒に歩き出す。
 駅の構内を歩いて、北口に出ると慣れ親しんだ景色が目に入る。高嶺さんや華頂さんと一緒に遊び、花宮まで出かけるといういつにない時間を味わったから、この景色を見ると日常に帰ってきた気がして安心する。もちろん、今日の2人との時間はとても良かった。

「ねえ、ゆう君。結衣ちゃん、また明日って言っていたよね」
「言ってたね。きっと、それぞれのバイト先に来てくれるんじゃないか?」
「ああ、なるほどね!」

 華頂さんはとても納得している様子。
 バイト中に高嶺さんが来店すると、時間の流れを速く感じたり、疲れにくくなったりするので有り難い。少なくとも、何かしらの飲み物を注文してくれるし。とてもいいお客様の1人だ。

「ねえ、ゆう君。今朝待ち合わせをした公園のあたりまででいいから、手を繋がない?」
「……いいよ」

 中野先輩と3人で手を繋いだのを含めて、華頂さんと手を繋ぐのはこれで4度目だけど、まだまだドキドキするな。
 道の端で立ち止まり、俺が右手を差し出すと、華頂さんはただ手を握るのではなく、俺の指と絡ませるような形で繋いできた。いわゆる恋人繋ぎ。これまでとは少し違う感触だったので、華頂さんと手を繋いだ瞬間、体がピクッとなった。

「ご、ごめん! 嫌だったかな?」
「そんなことないさ。ただ、その……こういう手の繋ぎ方は初めてだったからビックリしちゃっただけで」
「そ、そっか! それなら良かった」

 華頂さんは胸を撫で下ろすと、ほんのりと赤くなった顔に優しい笑みを浮かべた。
 華頂さんと一緒にゆっくりと歩き始める。
 恋人繋ぎだからか、今までよりも華頂さんの手から強い温もりを感じるな。それとも、いつにない繋ぎ方をしてドキドキしているからなのか。

「今日は楽しかったね、ゆう君」
「ああ。映画ももちろん楽しかったけど、昼食も、ゲーセンも、猫カフェも。想像以上に楽しいことでいっぱいな一日だった。そのきっかけを作ってくれたのは、映画に行こうって誘った華頂さんだよ。ありがとう」
「いえいえ。……でも、そう言ってくれて嬉しい」

 華頂さんは言葉通りの嬉しそうな笑みを浮かべる。ただ、そんな笑顔の中に照れくささも感じられた。

「ゆう君とこんなにもたくさん遊ぶ休日が来るとは思わなかったな。中学時代はもちろんのこと、高校生になっても美玲ちゃん達と一緒にいたから。中学時代のあたしに今日のことを伝えたら……信じてもらえないかも」
「ははっ。俺も中学生の自分に伝えたら、何を言っているんだって怒られそうだ」

 デタラメ言うなと顔やお腹を殴られる可能性もあるな。

「結衣ちゃんとたくさん遊んだのも今日が初めてだから楽しかったな。『ひまわりと綾瀬さん。』を一緒に楽しめて嬉しかった。思い出深い一日になったよ」
「良かったじゃないか。俺も高嶺さんと放課後デートはしたことがあるけど、一日中遊んだのは今日が初めてだったな」
「結衣ちゃんが告白した後から、週末はバイトや試験勉強でゆう君忙しかったもんね……今日は結衣ちゃんと3人だったけど、姫奈ちゃんや中野先輩とも一緒に遊びたいね」
「そうだな」
「……逆に、あたしと2人きりでどこか遊びに行ったり、ゆっくりと過ごしたりするのもいいかもね」
「……そうかもな」

 それは俗に言うデートなのでは。
 華頂さんとなら、遊園地とかに遊びに行くのはもちろんのこと、お互いに好きな漫画やアニメが多そうだから、どちらかの家や喫茶店でゆっくり語り合うのも楽しそうだ。そんな場面を想像したら結構ドキドキしてきた。恋人繋ぎで手を繋いでいるからか、色々なことを考えてしまう。
 華頂さんの方を向くと、顔を赤くしている華頂さんと目が合う。それが照れくさくて、懐かしい感じもした。

「結衣ちゃん達と一緒にエオンを廻るのと同じように、近いうちに一度……ゆう君と2人きりで過ごす時間を作ろうか。お互いにバイトがあったり、あたしの方は部活があったりして難しいかもしれないけど」
「……ああ、そうだな」

 ただ、高嶺さんがそれを知ったらどう思うか。相手が華頂さんだし、自分もエオンでの放課後デートや、お互いの家で2人きりの時間を過ごしているから、ダメだって言う可能性は低そうだ。……何で、高嶺さんのことをこんなに考えるんだろう。これまでたくさん俺に好きだと言ったからだろうか。それとも、ついさっきまで、一緒に楽しく遊んでいたからだろうか。

「もう、公園だね」

 寂しげな笑顔でそう呟く華頂さん。
 気付けば、今朝、華頂さんと待ち合わせをした公園の前に辿り着いていた。

「あっという間だったな。俺はあの交差点を曲がって家に帰るけど」
「……じゃあ、そこまで一緒に手を繋いでてもいい? そこから方向が違うし」
「分かった」

 といっても、公園の前から交差点までは10秒もかからなかったけど。それでも、華頂さんと手を繋いで、華頂さんの温もりを感じられるのが嬉しかった。華頂さんが少しでも同じ気持ちを抱いてくれていたら嬉しい。

「今日はここでお別れだね、ゆう君」
「ああ。今日は楽しかったよ、ありがとう」
「こちらこそありがとう。ゆう君も明日はバイトがあるから、お互いに頑張ろうね」
「ああ、頑張ろうな。バイトの帰りによつば書店に行くかもしれないけど、とりあえずまた月曜に」
「うんっ! また月曜日にね」

 俺は華頂さんの手を離して、笑顔の華頂さんと手を振り合った。
 1人で行動するのは今日の朝以来だけど、随分と前のことのように感じる。それだけ、高嶺さんと華頂さんと一緒に過ごした時間が充実していたってことかな。

「本当に……楽しかったな」

 休日に友達と一緒に出かけるのは初めてだったけど、とても楽しかった。だからこそ、この一歩一歩が寂しい。きっと、ここまで楽しく過ごせる友人は高嶺さんと華頂さんの他には桐花さんくらいじゃないだろうか。そう思いながら、俺は家に帰るのであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編8が完結しました!(2024.7.19)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編10が完結しました!(2024.6.21)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

アリア

桜庭かなめ
恋愛
 10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。  それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。  様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。  ※完結しました!(2020.9.24)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

処理中です...