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本編

第21話『思い出-高嶺さん編-』

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 昨日、俺の写っている写真をたくさん見せてもらったという理由で、今日は高嶺さんのアルバムを見ることに。
 きっと、高嶺さんは小さい頃から可愛いのだろう。あと、柚月ちゃんの写っている写真はあるのかな。そんな予想とほんの少しの期待を抱きながらアルバムを開いた。

「概ね時系列で貼ってあるよ。最初は……赤ちゃんの頃の写真だね」
「……赤ちゃんの頃の高嶺さん、可愛いな」

 無垢な感じがして。現在も、見た目はとても清楚な雰囲気だけど、中身については厭らしい一面もあるからなぁ。

「あと、御両親は高嶺さんが産まれた頃からあまり変わらないな。もちろんいい意味で」
「特にお母さんは若々しいって言われるね」

 赤ちゃんの頃の高嶺さんを抱いている裕子さん……とても綺麗で優しそうだ。高嶺さんも大人になって、もし母親になったらこんな感じになるのかな。

「この写真を見ると、悠真君と私の間に産まれる子どもが女の子だったら、こんな感じなのかなって思うよ」

 高嶺さんは頬を赤くし、俺をチラチラと見ながらそう言う。
 同じ写真を見ていても注目したり、考えたりすることって違うんだな。自分の子どもではなく、俺との間に産まれる子どもと言うところが高嶺さんらしい。

「もし、私達の間に子どもが産まれたら、どんな顔になるんだろう?」
「さあ、どんな感じだろうな。どっちかに似るかもしれないし、半分半分かもしれないし」
「色々な可能性がありそうだね。じゃあ、実際にどうなるか確かめるためにも、さっそくベッドの中で子どもを作ろうか。今ならできそうな気がするの」
「いやいや、作らないって」

 ブラウスのボタンを外そうとする高嶺さんの手を掴んだ。自分の部屋で俺と2人きりだからか、いつも以上に欲が強い気が。不可抗力とはいえ、さっき押し倒したのも影響していそう。
 高嶺さんはブラウスから手を離す。俺の方を向くと「ふふっ」と笑った。

「そうするところが悠真君らしいね。今日は止めておくよ。ただ、悠真君のことがますます好きになったし、恋人やお嫁さんになりたくなったよ」
「ついにお嫁さんと言うまでになったか」
「そんな未来を思い描くほどに悠真君が好きだからね」

 俺への感情が強くなりすぎて、いつか無理矢理にでも既成事実を作ってきそうな気がする。
 時系列で貼られているため、ページをめくっていく度に写真に写っている高嶺さんがどんどん成長していく。
 やがて、3歳年下の妹の柚月ちゃんが登場。それを機に、高嶺さんの姿や表情にお姉さんらしさが滲み出てきた気がする。

「柚月ちゃんと一緒に写っている写真も結構あるな。お昼ご飯のときの様子を見ても、柚月ちゃんとは仲がいいんだなって思うよ」
「仲いいよ。私が小学生くらいまでの間は喧嘩もそれなりにしたけどね。たまにだけど、今でも一緒にお風呂に入ったり、ベッドで寝たりすることもあるし」
「そうなんだ。姉妹だと今でもそういうことをするか」
「悠真君とお姉様とのお風呂やベッド事情はどうなの? お姉様は悠真君のことが大好きだし」

 何を想像しているのか、高嶺さんはニヤニヤしながらそう訊いてくる。

「芹花姉さんが小学生の間は結構あったな。もちろん、今はそんなことはしないけど」

 たまに、姉さんが寝る前にぎゅっと抱きしめられることはあるけど。
 もし、俺が女の子だったら、高嶺姉妹のように今でも入浴したり、一緒に寝たりすることがあったのだろうか。あの芹花姉さんのことだから、絶対に誘うだろうな。

「へえ、そうなんだ。何だか意外。昨日、お姉様は悠真君のことが大好きだって言っていたし、今でもお風呂に入ったり、一緒に寝ていたりしているのかと」
「最後に風呂に入ったのは、中学に入った直後だったかな。一緒に寝たのは今年に入ってからもあった。お互いの受験の日の前日に。自分の受験前は元気がほしいっていう理由で、俺の受験前は元気をあげるからって」
「ふふっ、お姉様らしい。受験の時期は寒いし、一緒に寝ると温かそうでいいなぁ」

 高嶺さんの言う通り、冬だったこともあり、芹花姉さんと一緒に寝て暑苦しくはなかった。受験前の緊張もあったから、姉さんのおかげでぐっすりと寝ることができた。俺が大学を受験するときも姉さんが「元気をあげる!」と寝てきそうだ。
 再びアルバムのページをめくっていく。中学校の入学式の写真が出てきたので、いよいよ中学時代に突入か。

「中学生になると、今の高嶺さんに通ずる雰囲気になるな。あと、伊集院さんも写っている写真も出てきた」
「姫奈ちゃんは中学に入学したときに出会ったからね。今まで会った子の中で一番の親友だよ。だから、金井高校に一緒に合格して、同じクラスになれたことが凄く嬉しいの」

 そう話す高嶺さんの声はとても元気そうだった。今の言葉が本当である証拠だな。
 環境が変わっても、親友が側にいるのはとても大きいと思う。
 きっと、伊集院さんも高嶺さんと同じ高校に進学し、同じクラスであることに嬉しく思っているんじゃないだろうか。普段の2人を見たり、伊集院さんと話したりしてそう思う。

「そういえば、中学生の頃から高嶺の花って呼ばれていたって中野先輩が言っていたな」
「高嶺っていう苗字だからね。それに、中学生のときも、性別も学年も問わずにたくさん告白されていたし」
「そうだったのか。まあ、写真に写る高嶺さんを見ればそれも納得だな」

 ただ、ここまで変態な内面があると見抜いていた人はいたのかな。せいぜい、伊集院さんくらいじゃないだろうか。
 しかし、高嶺さんは中学時代の自分の写真を見て、はあっ……とため息をつく。

「本当に色々な人に告白された。その度に、『高嶺の花』って私に注目する人が増えていって。姫奈ちゃんや友達のおかげで、告白を振っても変わりない生活が続いた。でも、中学2年の秋にあった体育祭の後、人気のある男子の先輩から告白されたんだ。もちろん、その告白も断った。告白した先輩は納得してくれたんだけど、ファンの女子生徒達から嫌なことを言われたり、体を叩かれたりしたの」
「そんなことがあったのか」

 きっと、自分の好きな生徒に告白されたことの嫉妬と、男子生徒を振ったことが許せなかったのだろう。だからといって、それが暴言や暴力を肯定する理由にはならない。
 そういえば、高校でも、高嶺さんが俺に振られた話が広まったとき、「ざまあみろ」とか「いい気味だ」とか言う生徒がいたな。

「それをきっかけに体調を崩して、学校に行けない時期があった。きっと、それまでの疲れが溜まっていたからだと思う」

 人気があるからこその苦労なんだろうな。金井高校でも、高嶺さんに視線を向ける人は多い。好意的なものが多くても、常日頃から注目が集まるのは、精神的に疲れが溜まってしまうものなのだろう。
 俺も低変人としてかなり注目されており、作品を公開するときはどんな反響になるか緊張する。ただ、俺が低変人なのはネット上だけなので、学校で低変人の作品についての話を小耳に挟んでも、プレッシャーはあまり感じずにいられる。
 まあ、俺も学校で注目されるけど、高嶺さんとは違って悪い意味だからなぁ。それは小学生の頃から続いているし、もう慣れてしまった。

「体調も治りかけたとき、学校に行くのが億劫になって。姫奈ちゃん達がいても、また同じような目に遭うんじゃないかと怖くて。ただ、そんな中で低変人さんの曲に救われたの」
「えっ……」
「悠真君も聴いたことがあるかな。当時の最新曲の『道』っていう曲なんだけど」
「……あ、ああ。聴いたことあるよ」

 作者だし。ただ、俺にとっても『道』は特に思い入れのある楽曲だ。
 『道』は最も再生回数が多く、一番と言っていいほどの人気がある。福王寺先生も特に好きな楽曲の一つだと言ってくれたっけ。
 高嶺さんは穏やかな笑みを浮かべて、

「そっか。せっかくだし、一緒に聴こう」

 そう言うと、テーブルの上にあった自分のスマートフォンを手に取った。それから程なくして『道』のメロディーが流れ始める。

「低変人さんの曲で一番長いんだけど、壮大なスケールで力強くて。実は低変人さんってこの曲をアップするまで、3ヶ月くらい活動休止をしていて。当時から低変人さんは知っていたし曲を聴いていたから、活動を再開したのがとても嬉しかった。曲はもちろんだけど、動画の説明欄に書かれていた低変人さんのコメントにも救われたの」

 高嶺さんは画面をスライドして、動画の説明欄を見せてくれる。そこには、

『お久しぶりです。低変人です。
 前作から3ヶ月以上が経ちました。この曲の公開をもって、活動を再開します。
 活動休止時にTubutterで呟いた通り、色々なことがありました。メロディーも浮かばずにスランプになった時期もありました。
 ただ、休む中で少しずつメロディーが浮かぶようになりました。
 また自分なりに生きてみよう。頑張ってみよう。そんな決意を胸に『道』という曲を作りました。
 これからまたよろしくお願いします。』

 という動画の説明が書かれていた。曲は定期的に聴いているけれど、コメントを見るのは久しぶりだから懐かしい。

「特に『また自分なりに生きてみよう。頑張ってみよう』っていう言葉に励まされて。背中を押してくれた気がしたの。それから、『道』を何度も聴いて、学校に行けるようになったんだ。姫奈ちゃんとか友達とか色々な人達のおかげで、平和に学校生活を送ることができてるよ」
「……そうか」

 低変人として活動を始めてからの3年間で、一度だけ活動休止をした。『道』は3ヶ月に及ぶ活動休止にピリオドを打つために作った曲だ。
 当時、俺にとってとても辛いことがあり、活動休止を発表した際は心身共に音楽を作れる状況ではなかった。メロディーも浮かばず、スランプにもなった。
 ゆっくりと休養している中、少しずつメロディーが浮かぶようになり、活動再開を考え始めたときにこの『道』という曲を作ったのだ。
 自分なりに生きてみよう。頑張ってみようという気持ちは今も変わっていない。それもあってか、活動を再開してから現在まで、コンスタントに作品を発表できている。
 自分にとっても思い入れ深い曲が、まさか高嶺さんの背中を押していたとは。本人の口から言われたから、とても嬉しいな。ネットで受ける称賛も嬉しいけど、こうして面と向かって言われるとグッとくる。

「この『道』っていう曲をきっかけに、低変人さんの大ファンになったんだ」
「……そうだったんだな」
「どうしたの? しみじみしちゃって」
「……今の高嶺さんのエピソードを聞いたから、今までよりもこの曲が心に響いているんだ」
「ふふっ、そっか」

 今、ここで俺が低変人だと明かそうかと頭によぎったけど、止めておこう。喜ばれたら今以上に照れくさくなるだろうから。
 それからは低変人の曲を流しながらアルバムを最後まで見た。高嶺さんは小さい頃から可愛かったのだと分かり、アルバムを見て良かったと思った。
 アルバムを見た後は、高嶺さんの解説やオススメのポイントを聞きながら、高嶺さんの大好きなアニメ『鬼刈剣』を観るのであった。
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