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続々編-蒼き薔薇と不協和音-
第5話『さらば、従妹よ。』
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9月25日、日曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、そこには肌色の世界が広がっていた。だからなのか、これが夢なのか現実なのか全く分からない。ただ、どちらにせよ、美来の甘い匂いと温もりがはっきりと感じることができるのでいいか。
「智也さん、起きましたか?」
「……うん」
見上げてみると、美来が優しい笑みを浮かべて僕のことを見ていた。その姿があまりにも美しかったので、やっぱりこれは夢なんじゃないかと思ったほど。
「おはようございます、智也さん」
「おはよう、美来」
「今日は智也さんよりも早く起きて、智也さんの可愛らしい寝顔を見ることができました。キュンとなって、ドキドキして思わず抱きしめちゃいました」
「そうだったんだ。ただ、目を覚ましたときに美来の匂いや温もりをはっきりと感じることができていい気分だよ。いい休日になりそうだ」
「私もです」
すると、美来の方からキスしてきた。裸のままでキスすると、昨日の夜のことを思い出すな。2日連続だったけど、凄く気持ち良かった。
「こうしていると、昨日の熱い夜を思い出します」
「……そうだね。美来がいつもみたいに元気になって良かったよ」
「はい。一番の元気の源は智也さんであると改めて実感しました。体で智也さんを感じると幸せな気持ちになりますね。一昨日や昨日以上に元気になっている気がします」
「さすがは美来だね」
「ふふっ。智也さんはどうですか? 昨日もなかなかに激しかったですし、腰がやられちゃいましたか?」
「ちょっと腰が痛いけど、それ以外は大丈夫だよ」
元々、運動をそこまでする方じゃないしなぁ。美来と同い年だったらこういうことにはならなかったのかなと思う。そんなことを考えてしまうなんて、24歳はややおじさんかもしれないな。来年の誕生日を迎えたら四捨五入して30歳だし。
体力や筋肉を付けるためにも、少しずつでも運動していった方がいいかな。それを美来に言ったら夜に一緒に運動すればいいですよ、とか言って興奮しそうだけど。
「では、今日もゆっくりと過ごしましょう。朝食を食べ終わったらマッサージをしますね。腰や肩をとろけさせちゃいます」
「ありがとう、美来」
美来のマッサージは本当に気持ちいいからなぁ。マッサージをしてもらって、今日はゆっくりと過ごそうかな。
今日も美来の作ってくれた朝食を食べて、後片付けは僕がやることに。休日の朝はこれが普通になりそうな気がする。
後片付けをした後、僕は寝室で美来にマッサージをしてもらうことに。
「あぁ、気持ちいい……」
「智也さん、また肩が凝っていますね。仕事の休憩中に体を伸ばした方がいいですよ」
「うん、そうしていくよ」
「では、智也さん。今度は腰のマッサージをするので、ベッドの上でうつ伏せになってください」
「うん」
僕は美来の言う通り、ベッドの上でうつ伏せの状態になる。腰のマッサージは初めてしてもらうので何だか緊張するな。
「智也さんの腰は綺麗ですね。じゃあ、始めますね」
「お願いします。……おっ!」
「い、痛かったですか?」
「多少の痛みはあるけれど、それよりも気持ち良さが勝ってね」
「ふふっ、そうですか。では、この調子でやってきますね」
「うん。……あっ」
初めてとは思えないくらいに美来のマッサージが絶妙で、何度も声を上げてしまう。美来と2人きりで良かった。
「はあっ、はあっ……」
そんな美来の声が聞こえたので振り返ってみると、美来は顔を赤くしながらニヤニヤして、息を荒くしていた。
「どうして、美来はそんなに興奮しているのかな」
「智也さんの漏らす声が可愛らしくて。智也さんに跨いで腰のマッサージをするというプレイ……ハマってしまいそうです」
「そうかい」
プレイって言われると途端に厭らしく聞こえるな。
――プルルッ。
スマートフォンが鳴っている。僕のも美来のも、彼女の勉強机に置いてあって、バイブ音にしてあるから、どっちのスマートフォンが鳴っているのかは分からない。
美来はベッドから降りてスマートフォンを確認すると、
「智也さんの方ですね。どうぞ」
「ありがとう」
美来からスマートフォンを受け取って、画面を見ると、従妹の恩田桃花ちゃんから電話がかかってきていた。
「桃花ちゃんから電話だ。……もしもし、桃花ちゃん」
『もしもし、お兄ちゃん』
「……何だか元気がなさそうだけど、どうかしたの?」
『明日から大学の後期が始まるから、今日実家に帰るの』
「そっか……」
大学1年生の桃花ちゃんはおよそ1ヶ月前、同級生の幼なじみである結城仁実ちゃんに告白するために僕らの家にやってきたのだ。仁実ちゃんがこの家から徒歩20分ほどのところにあるアパートに住んでいるので、桃花ちゃんは美来と一緒に何度か会って、告白した。その結果、大成功。
仁実ちゃんと恋人同士になってから、大学の夏休みが終わるまでの間、仁実ちゃんの家に住むことになったのだ。その間に何度か桃花ちゃんや仁実ちゃんと会ったけど、2人とも幸せそうだったな。
「今日で夏休みが終わるんだね」
『うん。1ヶ月近く一緒に住んでいたからか、ひとみんと離れるのが凄く寂しい。あと、帰る前にお兄ちゃんや美来ちゃんに会いたいなって』
「もちろんいいよ。桃花ちゃんや仁実ちゃんが家に来る? それとも、僕らの方が行く?」
『実家まで時間かかるし、もう帰ろうと思うから、すぐに桜花駅の前で会いたいな』
「分かった。じゃあ、今から美来と一緒に桜花駅に行くよ」
『うん! ひとみんと一緒に待ってるね』
すると、桃花ちゃんの方から通話を切った。
「桃花さんがご実家に帰られるのですか。さっそく桜花駅に行きましょう」
気付けば、僕のすぐ近くに美来の顔があった。桃花ちゃんとの電話の内容が気になっていたのかな。
「そうだね。ただ、外でメイド服姿はさすがにまずいから、私服に着替えようか」
「そうですね」
すると、美来はメイド服姿からロングスカートとパーカーというラフな姿に。これはこれで結構いいな。プライベートな感じがして。
僕は美来と一緒に家を出発し、桜花駅へと向かう。9月も残り1週間を切るだけあってか、晴れている日中も爽やかだ。あと、美来がマッサージしてくれたおかげで、さっきよりも体がかなり軽くなった。
駅に到着すると、改札口の近くに長袖のワンピース姿の桃花ちゃんと、パンツルックの仁実ちゃんが。
「桃花ちゃん、仁実ちゃん」
「桃花さん、仁実さん!」
「あっ、お兄ちゃん! 美来ちゃんも!」
「2人が来てくれて良かったね、モモちゃん」
「うん!」
すると、桃花ちゃんは嬉しそうな様子で美来と抱きしめ合う。2人とも私服姿だからか、美来の方がお姉さんっぽく見えるな。
「本当は家に帰ったら、お兄ちゃんと美来ちゃんに連絡しようと思ったんだけれど、2人にはお世話になったし、帰る前に一度会いたくて。だから、こうして2人と会うことができて嬉しいよ」
「私も嬉しいです。明日から大学を頑張ってくださいね」
「うん! 美来ちゃんも勉強とか文化祭とか声楽のコンクール頑張ってね」
「ありがとうございます」
「特に文化祭の方は写真とか送ってくれると嬉しいな。女子校の文化祭ってどんな感じなのか気になるし。もちろん、うちの大学の文化祭も写真に撮って送るから。11月のはじめくらいだけど」
「分かりました!」
「僕も文化祭に行くつもりだから、写真とか動画を撮影して桃花ちゃんに送るよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
元々、文化祭の様子を写真や動画で収めるつもりだったから。
離れていても連絡先を交換しているので、いつでも話すことはできるけれど、こうして実際に会って話すと一番元気がもらえるよな。
「桃花ちゃん、これからもいつでも遊びに来ていいからね。もちろん仁実ちゃんもね」
「智也さんの言うとおりですね」
「ありがとう、お兄ちゃん、美来ちゃん」
「あたしは徒歩で行ける距離だから、ちょくちょく行くかも。モモちゃんとの生活に慣れたところだったから、1人になると寂しいし」
「ひとみん、かわいい……」
「か、可愛いとか言わないでよ。トモ君や美来ちゃんもいるんだし。恥ずかしい……」
今の桃花ちゃんと仁実ちゃんを見ていると、いかにも恋人同士のやり取りって感じがして心が温まる。もしかして、美来と僕も周りからはこういう風に見えているのかな。
「モ、モモちゃん! 実家に帰っても体調には気を付けなさいよ!」
「ありがとう。ひとみんこそ体調を崩さないように気を付けてね。ひとみんは一人暮らしなんだし」
「分かってる。ただ、近くには友達もいるし、トモ君や美来ちゃんもいるし……モモちゃんが離れても大丈夫そうだよ」
そうは言いながらも、仁実ちゃんは目に涙を浮かべて桃花ちゃんのことを抱きしめる。好きな人と離れるのは辛いよな。1ヶ月間、一緒に暮らしていたならなおさら。
そんなことを考えていると、仁実ちゃんは桃花ちゃんにキスしている。さっきは僕らのいる前で可愛いと言われただけで恥ずかしいと言っていたのに。彼女の中で恥ずかしさよりも、寂しさや愛おしさの方が勝ったのだろう。
「ドキドキしちゃいますね、智也さん」
「そうだね」
「……私達もしたくなっちゃいますね」
「……家に帰ったらたっぷりしようか」
美来はできるかもしれないけど、僕は2人の前でキスする勇気はない。2人以外にも多くの人が行き交いするところだし。
「ひとみんとキスしたら、帰りたくない気持ちがもっと強くなったけど、明日からまた頑張れる気がしてきたよ」
「うん。あたしもあたしなりに頑張るよ。あと、家に帰ったら連絡してね。あと、明日からもちょくちょくと」
「もちろんだよ。じゃあ、もうすぐ来る快速電車に乗ろうかな。ひとみん、お兄ちゃん、美来ちゃん、またね」
「またね、モモちゃん」
「また会おうね、桃花ちゃん」
「いつでも遊びに来てくださいね、桃花さん」
「うん!」
桃花ちゃんは荷物を持って一人で改札口を通っていった。彼女の姿が見えなくなるまで、僕らはずっと手を振り続けた。
「行ってしまいましたね、桃花さん」
「そうだね。大学生になって初めての夏休みだったけど、モモちゃんのおかげで凄く楽しくて、あっという間に過ぎていったよ。あたしはあと1週間あるんだけどね」
「大学によって休みの期間って違うよね」
「うん。……桃花も送ってほしいって言っていたし、あたしも来週末の天羽女子の文化祭に行ってみようかな。バイトは……日曜日だけ入っているから、土曜日は行ける」
「是非、遊びに来てください! 私のいる1年2組はメイド喫茶やっていますので!」
「美来ちゃんのメイド姿可愛いもんね。女子校だし、可愛い子たくさんいるんだろうなぁ」
「じゃあ、土曜日は僕と一緒に天羽女子へ行こうか」
「うん!」
メイド喫茶が楽しみなのか、仁実ちゃんはさっそく元気になっている。これで少しは桃花ちゃんが帰ったことの寂しさがなくなればいいな。
「あたし、これからバイトがあるから。またね」
「うん、頑張ってね」
「頑張ってください!」
「ありがとう」
仁実ちゃんは爽やかな笑みを浮かべて、彼女の家がある方の出口へと歩いていった。きっと、仁実ちゃんならまた一人暮らしをやっていくことができるだろう。
「帰りましょうか、智也さん」
「そうだね。せっかく外に出て、お金も持っているし途中で何かスイーツでも買っていこうか」
「そうですね!」
その後、僕と美来は途中のコンビニでスイーツを買って、自宅に帰った。そのお菓子を食べながら録画したアニメを観たりして、ゆっくりとした休日を過ごすのであった。
ゆっくりと目を覚ますと、そこには肌色の世界が広がっていた。だからなのか、これが夢なのか現実なのか全く分からない。ただ、どちらにせよ、美来の甘い匂いと温もりがはっきりと感じることができるのでいいか。
「智也さん、起きましたか?」
「……うん」
見上げてみると、美来が優しい笑みを浮かべて僕のことを見ていた。その姿があまりにも美しかったので、やっぱりこれは夢なんじゃないかと思ったほど。
「おはようございます、智也さん」
「おはよう、美来」
「今日は智也さんよりも早く起きて、智也さんの可愛らしい寝顔を見ることができました。キュンとなって、ドキドキして思わず抱きしめちゃいました」
「そうだったんだ。ただ、目を覚ましたときに美来の匂いや温もりをはっきりと感じることができていい気分だよ。いい休日になりそうだ」
「私もです」
すると、美来の方からキスしてきた。裸のままでキスすると、昨日の夜のことを思い出すな。2日連続だったけど、凄く気持ち良かった。
「こうしていると、昨日の熱い夜を思い出します」
「……そうだね。美来がいつもみたいに元気になって良かったよ」
「はい。一番の元気の源は智也さんであると改めて実感しました。体で智也さんを感じると幸せな気持ちになりますね。一昨日や昨日以上に元気になっている気がします」
「さすがは美来だね」
「ふふっ。智也さんはどうですか? 昨日もなかなかに激しかったですし、腰がやられちゃいましたか?」
「ちょっと腰が痛いけど、それ以外は大丈夫だよ」
元々、運動をそこまでする方じゃないしなぁ。美来と同い年だったらこういうことにはならなかったのかなと思う。そんなことを考えてしまうなんて、24歳はややおじさんかもしれないな。来年の誕生日を迎えたら四捨五入して30歳だし。
体力や筋肉を付けるためにも、少しずつでも運動していった方がいいかな。それを美来に言ったら夜に一緒に運動すればいいですよ、とか言って興奮しそうだけど。
「では、今日もゆっくりと過ごしましょう。朝食を食べ終わったらマッサージをしますね。腰や肩をとろけさせちゃいます」
「ありがとう、美来」
美来のマッサージは本当に気持ちいいからなぁ。マッサージをしてもらって、今日はゆっくりと過ごそうかな。
今日も美来の作ってくれた朝食を食べて、後片付けは僕がやることに。休日の朝はこれが普通になりそうな気がする。
後片付けをした後、僕は寝室で美来にマッサージをしてもらうことに。
「あぁ、気持ちいい……」
「智也さん、また肩が凝っていますね。仕事の休憩中に体を伸ばした方がいいですよ」
「うん、そうしていくよ」
「では、智也さん。今度は腰のマッサージをするので、ベッドの上でうつ伏せになってください」
「うん」
僕は美来の言う通り、ベッドの上でうつ伏せの状態になる。腰のマッサージは初めてしてもらうので何だか緊張するな。
「智也さんの腰は綺麗ですね。じゃあ、始めますね」
「お願いします。……おっ!」
「い、痛かったですか?」
「多少の痛みはあるけれど、それよりも気持ち良さが勝ってね」
「ふふっ、そうですか。では、この調子でやってきますね」
「うん。……あっ」
初めてとは思えないくらいに美来のマッサージが絶妙で、何度も声を上げてしまう。美来と2人きりで良かった。
「はあっ、はあっ……」
そんな美来の声が聞こえたので振り返ってみると、美来は顔を赤くしながらニヤニヤして、息を荒くしていた。
「どうして、美来はそんなに興奮しているのかな」
「智也さんの漏らす声が可愛らしくて。智也さんに跨いで腰のマッサージをするというプレイ……ハマってしまいそうです」
「そうかい」
プレイって言われると途端に厭らしく聞こえるな。
――プルルッ。
スマートフォンが鳴っている。僕のも美来のも、彼女の勉強机に置いてあって、バイブ音にしてあるから、どっちのスマートフォンが鳴っているのかは分からない。
美来はベッドから降りてスマートフォンを確認すると、
「智也さんの方ですね。どうぞ」
「ありがとう」
美来からスマートフォンを受け取って、画面を見ると、従妹の恩田桃花ちゃんから電話がかかってきていた。
「桃花ちゃんから電話だ。……もしもし、桃花ちゃん」
『もしもし、お兄ちゃん』
「……何だか元気がなさそうだけど、どうかしたの?」
『明日から大学の後期が始まるから、今日実家に帰るの』
「そっか……」
大学1年生の桃花ちゃんはおよそ1ヶ月前、同級生の幼なじみである結城仁実ちゃんに告白するために僕らの家にやってきたのだ。仁実ちゃんがこの家から徒歩20分ほどのところにあるアパートに住んでいるので、桃花ちゃんは美来と一緒に何度か会って、告白した。その結果、大成功。
仁実ちゃんと恋人同士になってから、大学の夏休みが終わるまでの間、仁実ちゃんの家に住むことになったのだ。その間に何度か桃花ちゃんや仁実ちゃんと会ったけど、2人とも幸せそうだったな。
「今日で夏休みが終わるんだね」
『うん。1ヶ月近く一緒に住んでいたからか、ひとみんと離れるのが凄く寂しい。あと、帰る前にお兄ちゃんや美来ちゃんに会いたいなって』
「もちろんいいよ。桃花ちゃんや仁実ちゃんが家に来る? それとも、僕らの方が行く?」
『実家まで時間かかるし、もう帰ろうと思うから、すぐに桜花駅の前で会いたいな』
「分かった。じゃあ、今から美来と一緒に桜花駅に行くよ」
『うん! ひとみんと一緒に待ってるね』
すると、桃花ちゃんの方から通話を切った。
「桃花さんがご実家に帰られるのですか。さっそく桜花駅に行きましょう」
気付けば、僕のすぐ近くに美来の顔があった。桃花ちゃんとの電話の内容が気になっていたのかな。
「そうだね。ただ、外でメイド服姿はさすがにまずいから、私服に着替えようか」
「そうですね」
すると、美来はメイド服姿からロングスカートとパーカーというラフな姿に。これはこれで結構いいな。プライベートな感じがして。
僕は美来と一緒に家を出発し、桜花駅へと向かう。9月も残り1週間を切るだけあってか、晴れている日中も爽やかだ。あと、美来がマッサージしてくれたおかげで、さっきよりも体がかなり軽くなった。
駅に到着すると、改札口の近くに長袖のワンピース姿の桃花ちゃんと、パンツルックの仁実ちゃんが。
「桃花ちゃん、仁実ちゃん」
「桃花さん、仁実さん!」
「あっ、お兄ちゃん! 美来ちゃんも!」
「2人が来てくれて良かったね、モモちゃん」
「うん!」
すると、桃花ちゃんは嬉しそうな様子で美来と抱きしめ合う。2人とも私服姿だからか、美来の方がお姉さんっぽく見えるな。
「本当は家に帰ったら、お兄ちゃんと美来ちゃんに連絡しようと思ったんだけれど、2人にはお世話になったし、帰る前に一度会いたくて。だから、こうして2人と会うことができて嬉しいよ」
「私も嬉しいです。明日から大学を頑張ってくださいね」
「うん! 美来ちゃんも勉強とか文化祭とか声楽のコンクール頑張ってね」
「ありがとうございます」
「特に文化祭の方は写真とか送ってくれると嬉しいな。女子校の文化祭ってどんな感じなのか気になるし。もちろん、うちの大学の文化祭も写真に撮って送るから。11月のはじめくらいだけど」
「分かりました!」
「僕も文化祭に行くつもりだから、写真とか動画を撮影して桃花ちゃんに送るよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
元々、文化祭の様子を写真や動画で収めるつもりだったから。
離れていても連絡先を交換しているので、いつでも話すことはできるけれど、こうして実際に会って話すと一番元気がもらえるよな。
「桃花ちゃん、これからもいつでも遊びに来ていいからね。もちろん仁実ちゃんもね」
「智也さんの言うとおりですね」
「ありがとう、お兄ちゃん、美来ちゃん」
「あたしは徒歩で行ける距離だから、ちょくちょく行くかも。モモちゃんとの生活に慣れたところだったから、1人になると寂しいし」
「ひとみん、かわいい……」
「か、可愛いとか言わないでよ。トモ君や美来ちゃんもいるんだし。恥ずかしい……」
今の桃花ちゃんと仁実ちゃんを見ていると、いかにも恋人同士のやり取りって感じがして心が温まる。もしかして、美来と僕も周りからはこういう風に見えているのかな。
「モ、モモちゃん! 実家に帰っても体調には気を付けなさいよ!」
「ありがとう。ひとみんこそ体調を崩さないように気を付けてね。ひとみんは一人暮らしなんだし」
「分かってる。ただ、近くには友達もいるし、トモ君や美来ちゃんもいるし……モモちゃんが離れても大丈夫そうだよ」
そうは言いながらも、仁実ちゃんは目に涙を浮かべて桃花ちゃんのことを抱きしめる。好きな人と離れるのは辛いよな。1ヶ月間、一緒に暮らしていたならなおさら。
そんなことを考えていると、仁実ちゃんは桃花ちゃんにキスしている。さっきは僕らのいる前で可愛いと言われただけで恥ずかしいと言っていたのに。彼女の中で恥ずかしさよりも、寂しさや愛おしさの方が勝ったのだろう。
「ドキドキしちゃいますね、智也さん」
「そうだね」
「……私達もしたくなっちゃいますね」
「……家に帰ったらたっぷりしようか」
美来はできるかもしれないけど、僕は2人の前でキスする勇気はない。2人以外にも多くの人が行き交いするところだし。
「ひとみんとキスしたら、帰りたくない気持ちがもっと強くなったけど、明日からまた頑張れる気がしてきたよ」
「うん。あたしもあたしなりに頑張るよ。あと、家に帰ったら連絡してね。あと、明日からもちょくちょくと」
「もちろんだよ。じゃあ、もうすぐ来る快速電車に乗ろうかな。ひとみん、お兄ちゃん、美来ちゃん、またね」
「またね、モモちゃん」
「また会おうね、桃花ちゃん」
「いつでも遊びに来てくださいね、桃花さん」
「うん!」
桃花ちゃんは荷物を持って一人で改札口を通っていった。彼女の姿が見えなくなるまで、僕らはずっと手を振り続けた。
「行ってしまいましたね、桃花さん」
「そうだね。大学生になって初めての夏休みだったけど、モモちゃんのおかげで凄く楽しくて、あっという間に過ぎていったよ。あたしはあと1週間あるんだけどね」
「大学によって休みの期間って違うよね」
「うん。……桃花も送ってほしいって言っていたし、あたしも来週末の天羽女子の文化祭に行ってみようかな。バイトは……日曜日だけ入っているから、土曜日は行ける」
「是非、遊びに来てください! 私のいる1年2組はメイド喫茶やっていますので!」
「美来ちゃんのメイド姿可愛いもんね。女子校だし、可愛い子たくさんいるんだろうなぁ」
「じゃあ、土曜日は僕と一緒に天羽女子へ行こうか」
「うん!」
メイド喫茶が楽しみなのか、仁実ちゃんはさっそく元気になっている。これで少しは桃花ちゃんが帰ったことの寂しさがなくなればいいな。
「あたし、これからバイトがあるから。またね」
「うん、頑張ってね」
「頑張ってください!」
「ありがとう」
仁実ちゃんは爽やかな笑みを浮かべて、彼女の家がある方の出口へと歩いていった。きっと、仁実ちゃんならまた一人暮らしをやっていくことができるだろう。
「帰りましょうか、智也さん」
「そうだね。せっかく外に出て、お金も持っているし途中で何かスイーツでも買っていこうか」
「そうですね!」
その後、僕と美来は途中のコンビニでスイーツを買って、自宅に帰った。そのお菓子を食べながら録画したアニメを観たりして、ゆっくりとした休日を過ごすのであった。
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