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特別編-ホームでシック2-
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特別編-ホームでシック2-
9月21日、水曜日。
9月も下旬に差し掛かり、日中でも涼しいと思える日が出始めてきた。暑さも寒さも彼岸までということわざもあるくらいだし、これからの時期は涼しい日がメインとなっていくのだろう。
明日は秋分の日でお休みということもあって、普段よりも職場の雰囲気が明るく感じられた。たまに、用があって有紗さんや秋山さんのいるところに行くけれど、2人ともいつもよりテンションが高かった。
「明日はお休みか……」
文化祭が近いけれど、美来は部活動もないそうだし、彼女と家でゆっくり過ごすか。外にいても過ごしやすい気候になってきたので、どこかに出かけるのもいいかもしれない。家に帰ったら美来に話してみるか。
うちの会社では毎週水曜日は、一応『ノー残業デー』と掲げられており、残業をしないよう心がけましょうという日になっている。SKTTに転職してからは運良く多少の残業で済んでいるけれど、前の会社にいた頃はSKTTの仕事をしているにも関わらず、ノー残業デーなんてお構いなしに夜遅くまで業務を行なったこともあった。名ばかりという名の事実を突きつけられたなと感じた。
翌日が休みだと、多く残業する羽目になるんじゃないかと不安になったけれど、今日はそういうことはなく、定時の6時で退社することができた。
――プルルッ。
会社を出てすぐに電話がかかってきた。確認してみると発信者が『朝比奈美来』となっていた。普段はメッセージでやり取りすることが多いので、電話だと何かあったのかと心配になるな。
「もしもし」
『……智也さん。今、お話ししても大丈夫ですか?』
「うん、大丈夫だよ。仕事が終わって今から帰るところ。……そういえば、朝よりも元気がなさそうな声だけど」
『さすがは智也さんですね。実は今日、学校に着いてから声の調子があまり良くなくて。こまめに水分を取るようにして、部活動に参加したのですが……そうしたら、喉がおかしくなって、体も熱っぽくなってしまったんです』
「そうだったんだね。だから普段とはちょっと違う声なんだね。分かった。じゃあ、美来は家に着いたらゆっくりしてて。僕もこれから真っ直ぐ家に帰って、夕ご飯を作ったりするから」
『……はい。ありがとうございます。ただ、私は今、乃愛ちゃんと一緒に学校の昇降口にいるので、智也さんの方が先に帰るかもしれません』
「分かった。ところで、お腹とかは大丈夫?」
『今のところは大丈夫です』
「分かった。じゃあ、気を付けて帰ってきてね」
『はい。では、またあとで。あと、今日もお仕事お疲れ様でした』
「ありがとう。美来も学校お疲れ様。またあとで」
僕の方から通話を切って、小走りで最寄り駅まで向かう。涼しくなって良かった。とても走りやすい。
駅まで走ったことが功を奏したのか、一番早く桜花駅に行くことのできる快速急行の列車に乗ることができた。これなら、僕の方が先に家に帰ることになるかな。
「美来が風邪引いちゃったか……」
季節の変わり目で、朝晩中心に冷え込むようになってきたからな。それに、文化祭が迫る中で美来はクラスや部活で準備を頑張っているそうだし。
また、声楽部は文化祭当日にコンサートを行なう予定で、コンクール予選が終わってから練習に励んでいるらしいので、練習の疲れがここに来て出てしまったのかもしれない。喉の調子がおかしいとも言っていたから。
ただ、明日が休みで良かった。美来の側にいて看病することができるし。もし体調が良くなっても、明日は家でゆっくりした方が良さそうかな。
――プルルッ。
スマートフォンが鳴ったので確認してみると、有紗さんからメッセージが。
『智也君、まだ会社の近くにいる? 明日休みだし、良かったら智也君の家で一緒に呑まない? もちろん、お酒代はあたしが出すからさ』
美来と同棲していることを考えてか、居酒屋ではなく僕らの家で呑みたいのか。翌日が休みの日はお酒を呑むこともあるけれど、今日は無理だな。
『誘ってもらって申し訳ないですけど、もう電車に乗っているんです。さっき、美来から電話があって、学校で体調を崩してしまったそうで。今夜は美来の看病をします』
有紗さんにそんな返信を送った。これを送れば有紗さんも分かってくれるだろう。
すると、すぐに『既読』のマークが付いて、
『そうなんだね、分かった。じゃあ、また別の日に呑みましょう。あと、美来ちゃんにお大事にって伝えておいて。もちろん、何かあったら遠慮なく言ってきてね』
という返信が届いた。僕が体調を崩したわけじゃないけれど、有紗さんが気に掛けてくれてほっとした気持ちになった。
快速急行に乗っているからか、あっという間に自宅の最寄り駅である桜花駅に到着した。
電車を降りると、反対側の電車も到着したので、天羽女子の制服を着た女の子の姿もちらほらと見える。急いで改札の近くまで行って美来のことを待ってみるけれど、彼女が姿を現すことはなかった。さすがにこの時間には帰ってこないか。
「早く家に帰ろう」
改札を出て自宅に向かって歩き始める。
「そういえば、お腹の調子は悪くないって言っていたな」
それなら、何かコンビニで元気が出そうなものを買おう。昔、僕が風邪を引いたとき、お腹を壊していなければ、親がアイスを食べさせてくれたっけ。
マンションの近くにあるコンビニに寄って、カステラとバニラアイスを買う。美来は甘いものが好きだし、これを食べて少しは元気になるといいな。もしいらないって言われたら、そのときは僕が喜んで食べよう。
自宅に帰ると美来はいなかったので、部屋着に着替えてさっそくお粥を作り始める。卵がたくさんあるし、美来は卵が好きだから、玉子粥にしよう。
「……こんな感じかな」
お粥を作ったのはひさしぶりだけれど、何とかできたな。この前、僕が体調を崩したときに美来が作ってくれたお粥の方が美味しそうだけれど……気にしないでおこう。一口味見をしてみると、
「うん、美味しい」
ご飯が程良く柔らかくていいな。塩味が薄めな気がするけれど、美来は体調を崩しているからこのくらいでいいかもしれない。
まだ美来が帰ってきていないので、浴室の掃除をする。
段々と涼しくなってきたから、ゆっくりと美来と一緒にお風呂に入りたいと思ったけれど今日は無理だな。そんなことを考えながらお風呂のスイッチを入れた。
「た、ただいまです……」
美来の声が聞こえたので玄関に向かうと、そこには顔を赤くした美来が。美来は僕の顔を見るとにっこりと笑みを浮かべた。
「おかえり、美来」
「……ただいま帰りました。帰ってくるのにも体力が要るんですね。ただ、智也さんの顔を見たら、ちょっと元気になりました」
「僕も美来が無事に帰ってきて安心したし、元気をもらったよ。あと、帰っている途中で有紗さんとメッセージのやり取りをして、その中で美来が体調を崩したことを伝えたら、お大事にって」
「そうですか。有紗さんにも心配掛けさせてしまいましたね。元気になったら、有紗さんにお礼を言わないと」
「そうだね。玉子粥を作ったから、美来は寝間着に着替えて。一人でできるかな?」
「はい。それは何とかできます」
「分かった。じゃあ、僕は玉子粥を用意して寝室に持って行くね」
「はい。ありがとうございます」
とりあえず、美来が家に帰ってきて一安心だ。これからは美来が早く体調が良くなるように看病していくことにしよう。
9月21日、水曜日。
9月も下旬に差し掛かり、日中でも涼しいと思える日が出始めてきた。暑さも寒さも彼岸までということわざもあるくらいだし、これからの時期は涼しい日がメインとなっていくのだろう。
明日は秋分の日でお休みということもあって、普段よりも職場の雰囲気が明るく感じられた。たまに、用があって有紗さんや秋山さんのいるところに行くけれど、2人ともいつもよりテンションが高かった。
「明日はお休みか……」
文化祭が近いけれど、美来は部活動もないそうだし、彼女と家でゆっくり過ごすか。外にいても過ごしやすい気候になってきたので、どこかに出かけるのもいいかもしれない。家に帰ったら美来に話してみるか。
うちの会社では毎週水曜日は、一応『ノー残業デー』と掲げられており、残業をしないよう心がけましょうという日になっている。SKTTに転職してからは運良く多少の残業で済んでいるけれど、前の会社にいた頃はSKTTの仕事をしているにも関わらず、ノー残業デーなんてお構いなしに夜遅くまで業務を行なったこともあった。名ばかりという名の事実を突きつけられたなと感じた。
翌日が休みだと、多く残業する羽目になるんじゃないかと不安になったけれど、今日はそういうことはなく、定時の6時で退社することができた。
――プルルッ。
会社を出てすぐに電話がかかってきた。確認してみると発信者が『朝比奈美来』となっていた。普段はメッセージでやり取りすることが多いので、電話だと何かあったのかと心配になるな。
「もしもし」
『……智也さん。今、お話ししても大丈夫ですか?』
「うん、大丈夫だよ。仕事が終わって今から帰るところ。……そういえば、朝よりも元気がなさそうな声だけど」
『さすがは智也さんですね。実は今日、学校に着いてから声の調子があまり良くなくて。こまめに水分を取るようにして、部活動に参加したのですが……そうしたら、喉がおかしくなって、体も熱っぽくなってしまったんです』
「そうだったんだね。だから普段とはちょっと違う声なんだね。分かった。じゃあ、美来は家に着いたらゆっくりしてて。僕もこれから真っ直ぐ家に帰って、夕ご飯を作ったりするから」
『……はい。ありがとうございます。ただ、私は今、乃愛ちゃんと一緒に学校の昇降口にいるので、智也さんの方が先に帰るかもしれません』
「分かった。ところで、お腹とかは大丈夫?」
『今のところは大丈夫です』
「分かった。じゃあ、気を付けて帰ってきてね」
『はい。では、またあとで。あと、今日もお仕事お疲れ様でした』
「ありがとう。美来も学校お疲れ様。またあとで」
僕の方から通話を切って、小走りで最寄り駅まで向かう。涼しくなって良かった。とても走りやすい。
駅まで走ったことが功を奏したのか、一番早く桜花駅に行くことのできる快速急行の列車に乗ることができた。これなら、僕の方が先に家に帰ることになるかな。
「美来が風邪引いちゃったか……」
季節の変わり目で、朝晩中心に冷え込むようになってきたからな。それに、文化祭が迫る中で美来はクラスや部活で準備を頑張っているそうだし。
また、声楽部は文化祭当日にコンサートを行なう予定で、コンクール予選が終わってから練習に励んでいるらしいので、練習の疲れがここに来て出てしまったのかもしれない。喉の調子がおかしいとも言っていたから。
ただ、明日が休みで良かった。美来の側にいて看病することができるし。もし体調が良くなっても、明日は家でゆっくりした方が良さそうかな。
――プルルッ。
スマートフォンが鳴ったので確認してみると、有紗さんからメッセージが。
『智也君、まだ会社の近くにいる? 明日休みだし、良かったら智也君の家で一緒に呑まない? もちろん、お酒代はあたしが出すからさ』
美来と同棲していることを考えてか、居酒屋ではなく僕らの家で呑みたいのか。翌日が休みの日はお酒を呑むこともあるけれど、今日は無理だな。
『誘ってもらって申し訳ないですけど、もう電車に乗っているんです。さっき、美来から電話があって、学校で体調を崩してしまったそうで。今夜は美来の看病をします』
有紗さんにそんな返信を送った。これを送れば有紗さんも分かってくれるだろう。
すると、すぐに『既読』のマークが付いて、
『そうなんだね、分かった。じゃあ、また別の日に呑みましょう。あと、美来ちゃんにお大事にって伝えておいて。もちろん、何かあったら遠慮なく言ってきてね』
という返信が届いた。僕が体調を崩したわけじゃないけれど、有紗さんが気に掛けてくれてほっとした気持ちになった。
快速急行に乗っているからか、あっという間に自宅の最寄り駅である桜花駅に到着した。
電車を降りると、反対側の電車も到着したので、天羽女子の制服を着た女の子の姿もちらほらと見える。急いで改札の近くまで行って美来のことを待ってみるけれど、彼女が姿を現すことはなかった。さすがにこの時間には帰ってこないか。
「早く家に帰ろう」
改札を出て自宅に向かって歩き始める。
「そういえば、お腹の調子は悪くないって言っていたな」
それなら、何かコンビニで元気が出そうなものを買おう。昔、僕が風邪を引いたとき、お腹を壊していなければ、親がアイスを食べさせてくれたっけ。
マンションの近くにあるコンビニに寄って、カステラとバニラアイスを買う。美来は甘いものが好きだし、これを食べて少しは元気になるといいな。もしいらないって言われたら、そのときは僕が喜んで食べよう。
自宅に帰ると美来はいなかったので、部屋着に着替えてさっそくお粥を作り始める。卵がたくさんあるし、美来は卵が好きだから、玉子粥にしよう。
「……こんな感じかな」
お粥を作ったのはひさしぶりだけれど、何とかできたな。この前、僕が体調を崩したときに美来が作ってくれたお粥の方が美味しそうだけれど……気にしないでおこう。一口味見をしてみると、
「うん、美味しい」
ご飯が程良く柔らかくていいな。塩味が薄めな気がするけれど、美来は体調を崩しているからこのくらいでいいかもしれない。
まだ美来が帰ってきていないので、浴室の掃除をする。
段々と涼しくなってきたから、ゆっくりと美来と一緒にお風呂に入りたいと思ったけれど今日は無理だな。そんなことを考えながらお風呂のスイッチを入れた。
「た、ただいまです……」
美来の声が聞こえたので玄関に向かうと、そこには顔を赤くした美来が。美来は僕の顔を見るとにっこりと笑みを浮かべた。
「おかえり、美来」
「……ただいま帰りました。帰ってくるのにも体力が要るんですね。ただ、智也さんの顔を見たら、ちょっと元気になりました」
「僕も美来が無事に帰ってきて安心したし、元気をもらったよ。あと、帰っている途中で有紗さんとメッセージのやり取りをして、その中で美来が体調を崩したことを伝えたら、お大事にって」
「そうですか。有紗さんにも心配掛けさせてしまいましたね。元気になったら、有紗さんにお礼を言わないと」
「そうだね。玉子粥を作ったから、美来は寝間着に着替えて。一人でできるかな?」
「はい。それは何とかできます」
「分かった。じゃあ、僕は玉子粥を用意して寝室に持って行くね」
「はい。ありがとうございます」
とりあえず、美来が家に帰ってきて一安心だ。これからは美来が早く体調が良くなるように看病していくことにしよう。
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