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続編-螺旋百合-
プロローグ『晩夏の夜』
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続編-螺旋百合-
僕が誤認逮捕された事件が解決した際に、僕は美来からのプロポーズを受け入れた。それからは結婚を前提にして彼女と付き合っている。
8月に入って、美来と一緒に住み始めるために引越しをした。それからは美来と2人で穏やかな生活をすることに。彼女と同棲してから毎日がより楽しい。
ただ、そういった時間は長くは続かないらしい。
引っ越してからおよそ半月後にあった1本の電話がきっかけで、穏やかだった美来との生活が変わり始めることになる。
8月26日、金曜日。
今週は風邪を引いて休んでしまったけれど、無事に快復したので後半になってから仕事に復帰した。
今週の仕事は無事に終わり、今は自宅で美来と一緒にゆっくりとした時間を過ごしている。もちろん、美来はメイド服姿で。
「うん……智也さん……」
ただし、美来はソファーの上で横になり、僕の膝に頭を乗せてぐっすりと眠っている。
その理由はテーブルの上に置かれている洋酒入りのチョコレート。職場の人から旅行のお土産ということでもらってきたのだ。
未成年ということもあってなのか、美来はチョコレート1粒で体がポカポカし始めたそうで、2粒食べると口調がタメ口へと変わった。3粒目は僕とキスしながら食べた。
しかし、それが決定打となってしまったようで、ぐっすりと眠ってしまい今に至る。眠り始めてから15分ほど経つ。
「やれやれ……」
気持ち良く眠っているからまだいいけど、今後、洋酒入りのチョコレートを買ったら、美来がたくさん食べてしまわないように気を付けないと。
ちなみに、僕は少し体が熱いと感じるだけで眠くなったりはしていない。
――プルルッ。
うん? 僕のスマートフォンが鳴っている。
確認してみると、母親から電話がかかってきていた。明日、実家に夏休み中に行った旅行のお土産を渡しに行く予定だけど、何かあったのかな。
「はい、智也だけど」
『智也、風邪はもう全快?』
「うん、治ったよ。……あれ? 体調を崩したことを母さんに言ったっけ?」
『美来ちゃんからよ。火曜日に智也が風邪を引いたけど、薬を飲んだので大丈夫ですよって連絡があったの』
「そうだったんだ」
美来、母さんにそんなことを連絡していたのか。
母さんは美来も一緒にいるし大丈夫だと思って、これまで僕には連絡しなかったと。
そういえば、明日……実家に行くけれど、美来は大丈夫かな。さすがに二日酔いということはないと思いたいけど。適宜、美来に体調は大丈夫かどうか訊くことにしよう。
「んにゃあっ、智也さん……お電話中ですかぁ?」
「うん」
美来、目を覚ましたな。口調が普段通りになっているので、どうやら寝たことである程度醒めたんだな。
「それで、どうかした? 明日、お土産を持って美来と一緒にそっちへ行くつもりだけれど、何か用事でも入ったの?」
『ううん、そうじゃないわ。ただ、さっき……家の方に桃花ちゃんから電話があってね』
「桃花ちゃん……って、ああ、恩田桃花ちゃんのこと?」
『そうよ。昔はよくお盆やお正月になると母さんの田舎に行って、桃花ちゃんともよく遊んだわよね』
「そうだね」
恩田桃花ちゃん。母親の妹の娘……いわゆる、僕の従妹だ。確か、僕より5歳くらい年下のはず。彼女の住まいが母親の実家から歩いて行けるところにあるので、昔は夏休みやお正月に帰省すると桃花ちゃんと遊んだり、彼女の家に泊まったりすることもあった。
ただ、最後に会ったのはもう10年くらい前になる。あのときは小学生だったけど、今はどんな女性になっているのかな。
「それで、桃花ちゃんがどうかしたの? 連絡してきたのって僕が誤認逮捕された件じゃないよね。もう3ヶ月近く前になるし」
僕が逮捕されてしまったとき、親戚中から実家に連絡が殺到したらしい。そのときは両親が対処してくれた。ちなみに、僕が警視庁の前で釈放会見をしたことを機に電話も収まったようだ。
『そのことじゃないわ。実は桃花ちゃん、智也に久しぶりに会いたいみたいで、明日から智也の住んでいる家に泊まりたいって言ってて。でも、智也には美来ちゃんっていう将来の奥さんもいるから、一度、私の方から話をすることになって』
「ああ、そういうことか。美来っていう同棲中の彼女がいる以上、彼女の許可がないとダメだね。ちょっと待ってて、美来に訊いてみるから」
『分かった』
僕は通話を保留の状態にする。良かったよ、美来がさっき目を覚ましてくれて。
「美来」
「はい、何でしょうか?」
おっ、すっかりと普段と変わらない雰囲気に戻っている。少しの間でも寝たから酔いが醒めたのかな。
美来がどういう表情になるか不安だけれど、母さんを待たせている以上、言うのを躊躇っている時間はない。
「実は、僕の従妹の女の子がここに泊まりたいって言っているんだ。僕はかまわないと思っているんだけれど、美来の意見を聞きたいと思って。もちろん、美来の気持ちを尊重するつもりだよ」
「従妹の女の子というのは、旅行のときに話してくれた智也さんとは5歳くらい違う女性のことですよね」
「うん、そうだよ」
「なるほど……」
美来、真剣な表情をして腕を組みながら考え込んでいる。
夏休みの旅行中、美来に桃花ちゃんとの思い出話をした。その中身がお風呂での話しということもあってか、そのときもあまりいい表情はしていなかった。
小さい頃から知っている従妹だとはいえ、今は20歳くらいの女の子。そんな子が家に泊まりに来るのはあまりいい気分にはなれないかな。
「その従妹の方は昔の智也さんを知っているんですよね」
「うん。でも、彼女は覚えているかなぁ。最後に会ったのも確か、10年くらい前にあった親戚の法事だったから。家に遊びに行って泊まったのはそれ以上前だし……」
そういえば、そのときは互いの連絡先は交換していなかったな。桃花ちゃんも小学生で携帯電話を持っていなかったからかな。
「きっと覚えていますよ。だって、智也さんに久しぶりに会いたいと言っているほどです。きっと、その方には智也さんとのいい思い出があるはず。ということは、昔の智也さんについて素敵なお話が聞くことができるかもしれません……!」
美来はワクワクした様子に。
意外にも桃花ちゃんが泊まりに来ることには好意的なようだ。自分の知らない僕のことを知るいい機会だと思っているのかも。
「しかし、ひさしぶりに会いたいということは、智也さんに好意を抱いている可能性も否定できませんね。ううっ、どうしましょう……」
美来自身、10年間ずっと僕に好意を抱き続け、この春に10年ぶりの再会を果たした経験がある。ひさしぶりに僕に会いたい人がいると聞くと、その人も僕に好意を抱いているかもしれないと思うのは仕方ないか。
「僕の母親も美来っていう恋人がいるから、従妹に一度、僕に確認してみるって言ったんだよ。だから、きっと……僕のことを美来から奪うってことはしないと思うよ」
当時の性格が変わっていなければ。
「分かりました。智也さんのことを私が全力でお守りします。ですので、従妹の方をここに泊めましょう!」
美来、すっかりと意気込んでいるな。僕を守るというのが彼女らしいというか。桃花ちゃんのことは信じているけれど、僕も気を付けておかないと。
「分かった。じゃあ、それを母さんに伝えるね」
「お願いします」
母さんとの通話を再開する。
「お待たせ、母さん。美来から家に泊まるのを許可してもらったよ。だから、明日から家に泊まりに来ていいよって桃花ちゃんに言っておいて」
『分かったわ。じゃあ、明日……桃花ちゃんとはこっちで会うことにする?』
「それがいいね。それで、桃花ちゃんと一緒に僕らの家に帰るよ」
それに、桃花ちゃんの連絡先も知らないし。彼女の家の番号も実家に帰らないと分からないから。
『分かったわ。じゃあ、また明日ね』
「うん。また明日」
僕の方から通話を切った。
桃花ちゃんか。最後に会ったのは彼女が小学生のときだったから、僕の覚えている彼女とは全く別人になっているかもしれないな。
どうやら、今年の夏はまだまだ終わらないようだ。
僕が誤認逮捕された事件が解決した際に、僕は美来からのプロポーズを受け入れた。それからは結婚を前提にして彼女と付き合っている。
8月に入って、美来と一緒に住み始めるために引越しをした。それからは美来と2人で穏やかな生活をすることに。彼女と同棲してから毎日がより楽しい。
ただ、そういった時間は長くは続かないらしい。
引っ越してからおよそ半月後にあった1本の電話がきっかけで、穏やかだった美来との生活が変わり始めることになる。
8月26日、金曜日。
今週は風邪を引いて休んでしまったけれど、無事に快復したので後半になってから仕事に復帰した。
今週の仕事は無事に終わり、今は自宅で美来と一緒にゆっくりとした時間を過ごしている。もちろん、美来はメイド服姿で。
「うん……智也さん……」
ただし、美来はソファーの上で横になり、僕の膝に頭を乗せてぐっすりと眠っている。
その理由はテーブルの上に置かれている洋酒入りのチョコレート。職場の人から旅行のお土産ということでもらってきたのだ。
未成年ということもあってなのか、美来はチョコレート1粒で体がポカポカし始めたそうで、2粒食べると口調がタメ口へと変わった。3粒目は僕とキスしながら食べた。
しかし、それが決定打となってしまったようで、ぐっすりと眠ってしまい今に至る。眠り始めてから15分ほど経つ。
「やれやれ……」
気持ち良く眠っているからまだいいけど、今後、洋酒入りのチョコレートを買ったら、美来がたくさん食べてしまわないように気を付けないと。
ちなみに、僕は少し体が熱いと感じるだけで眠くなったりはしていない。
――プルルッ。
うん? 僕のスマートフォンが鳴っている。
確認してみると、母親から電話がかかってきていた。明日、実家に夏休み中に行った旅行のお土産を渡しに行く予定だけど、何かあったのかな。
「はい、智也だけど」
『智也、風邪はもう全快?』
「うん、治ったよ。……あれ? 体調を崩したことを母さんに言ったっけ?」
『美来ちゃんからよ。火曜日に智也が風邪を引いたけど、薬を飲んだので大丈夫ですよって連絡があったの』
「そうだったんだ」
美来、母さんにそんなことを連絡していたのか。
母さんは美来も一緒にいるし大丈夫だと思って、これまで僕には連絡しなかったと。
そういえば、明日……実家に行くけれど、美来は大丈夫かな。さすがに二日酔いということはないと思いたいけど。適宜、美来に体調は大丈夫かどうか訊くことにしよう。
「んにゃあっ、智也さん……お電話中ですかぁ?」
「うん」
美来、目を覚ましたな。口調が普段通りになっているので、どうやら寝たことである程度醒めたんだな。
「それで、どうかした? 明日、お土産を持って美来と一緒にそっちへ行くつもりだけれど、何か用事でも入ったの?」
『ううん、そうじゃないわ。ただ、さっき……家の方に桃花ちゃんから電話があってね』
「桃花ちゃん……って、ああ、恩田桃花ちゃんのこと?」
『そうよ。昔はよくお盆やお正月になると母さんの田舎に行って、桃花ちゃんともよく遊んだわよね』
「そうだね」
恩田桃花ちゃん。母親の妹の娘……いわゆる、僕の従妹だ。確か、僕より5歳くらい年下のはず。彼女の住まいが母親の実家から歩いて行けるところにあるので、昔は夏休みやお正月に帰省すると桃花ちゃんと遊んだり、彼女の家に泊まったりすることもあった。
ただ、最後に会ったのはもう10年くらい前になる。あのときは小学生だったけど、今はどんな女性になっているのかな。
「それで、桃花ちゃんがどうかしたの? 連絡してきたのって僕が誤認逮捕された件じゃないよね。もう3ヶ月近く前になるし」
僕が逮捕されてしまったとき、親戚中から実家に連絡が殺到したらしい。そのときは両親が対処してくれた。ちなみに、僕が警視庁の前で釈放会見をしたことを機に電話も収まったようだ。
『そのことじゃないわ。実は桃花ちゃん、智也に久しぶりに会いたいみたいで、明日から智也の住んでいる家に泊まりたいって言ってて。でも、智也には美来ちゃんっていう将来の奥さんもいるから、一度、私の方から話をすることになって』
「ああ、そういうことか。美来っていう同棲中の彼女がいる以上、彼女の許可がないとダメだね。ちょっと待ってて、美来に訊いてみるから」
『分かった』
僕は通話を保留の状態にする。良かったよ、美来がさっき目を覚ましてくれて。
「美来」
「はい、何でしょうか?」
おっ、すっかりと普段と変わらない雰囲気に戻っている。少しの間でも寝たから酔いが醒めたのかな。
美来がどういう表情になるか不安だけれど、母さんを待たせている以上、言うのを躊躇っている時間はない。
「実は、僕の従妹の女の子がここに泊まりたいって言っているんだ。僕はかまわないと思っているんだけれど、美来の意見を聞きたいと思って。もちろん、美来の気持ちを尊重するつもりだよ」
「従妹の女の子というのは、旅行のときに話してくれた智也さんとは5歳くらい違う女性のことですよね」
「うん、そうだよ」
「なるほど……」
美来、真剣な表情をして腕を組みながら考え込んでいる。
夏休みの旅行中、美来に桃花ちゃんとの思い出話をした。その中身がお風呂での話しということもあってか、そのときもあまりいい表情はしていなかった。
小さい頃から知っている従妹だとはいえ、今は20歳くらいの女の子。そんな子が家に泊まりに来るのはあまりいい気分にはなれないかな。
「その従妹の方は昔の智也さんを知っているんですよね」
「うん。でも、彼女は覚えているかなぁ。最後に会ったのも確か、10年くらい前にあった親戚の法事だったから。家に遊びに行って泊まったのはそれ以上前だし……」
そういえば、そのときは互いの連絡先は交換していなかったな。桃花ちゃんも小学生で携帯電話を持っていなかったからかな。
「きっと覚えていますよ。だって、智也さんに久しぶりに会いたいと言っているほどです。きっと、その方には智也さんとのいい思い出があるはず。ということは、昔の智也さんについて素敵なお話が聞くことができるかもしれません……!」
美来はワクワクした様子に。
意外にも桃花ちゃんが泊まりに来ることには好意的なようだ。自分の知らない僕のことを知るいい機会だと思っているのかも。
「しかし、ひさしぶりに会いたいということは、智也さんに好意を抱いている可能性も否定できませんね。ううっ、どうしましょう……」
美来自身、10年間ずっと僕に好意を抱き続け、この春に10年ぶりの再会を果たした経験がある。ひさしぶりに僕に会いたい人がいると聞くと、その人も僕に好意を抱いているかもしれないと思うのは仕方ないか。
「僕の母親も美来っていう恋人がいるから、従妹に一度、僕に確認してみるって言ったんだよ。だから、きっと……僕のことを美来から奪うってことはしないと思うよ」
当時の性格が変わっていなければ。
「分かりました。智也さんのことを私が全力でお守りします。ですので、従妹の方をここに泊めましょう!」
美来、すっかりと意気込んでいるな。僕を守るというのが彼女らしいというか。桃花ちゃんのことは信じているけれど、僕も気を付けておかないと。
「分かった。じゃあ、それを母さんに伝えるね」
「お願いします」
母さんとの通話を再開する。
「お待たせ、母さん。美来から家に泊まるのを許可してもらったよ。だから、明日から家に泊まりに来ていいよって桃花ちゃんに言っておいて」
『分かったわ。じゃあ、明日……桃花ちゃんとはこっちで会うことにする?』
「それがいいね。それで、桃花ちゃんと一緒に僕らの家に帰るよ」
それに、桃花ちゃんの連絡先も知らないし。彼女の家の番号も実家に帰らないと分からないから。
『分かったわ。じゃあ、また明日ね』
「うん。また明日」
僕の方から通話を切った。
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