151 / 292
特別編-ラブラブ!サンシャイン!!-
第1話『旅券配達人』
しおりを挟む
午後7時半。
事前に言われていたとおり、羽賀が僕と美来の家にやってきた。8月という一番暑い時期でも、羽賀はベストを着ているんだな。しかも、ワイシャツは半袖ではなく、長袖を肘まで捲っているし。ただ、それがスタイリッシュで似合っているのは事実だ。
「いらっしゃい、羽賀」
「羽賀さん、お仕事お疲れ様です!」
「ありがとう。お邪魔します」
そういえば、男性のお客さんは羽賀が初めてかな。女性はもちろん有紗さんで、一昨日、引越しの手伝いをしてくれた。
「ほぉ、綺麗でいい部屋ではないか」
「美来と2人で住むからね。前の家の倍以上はあるんじゃないかな」
「そうか。2人だとこのくらいの広さがいいのかもしれないな。私はゆったりしている方が好きなので気にしていないが、こうして2人の家に来てみると、私の家は広すぎるのかもしれない」
さりげなく自分の家は広いと言ってくるけど、羽賀の言い方がいいのか不思議と嫌味は感じない。実際、彼の家に何度か行ったことはあるけど、ここよりも広いんじゃないかと思う。さすがはキャリア警察官。
「そういえば、リビングに入ってから食欲をそそる匂いがしてくるが」
「はい! 今日の夕飯はハヤシライスなんです。羽賀さんも是非、食べていってください」
「では、そのご厚意に甘えさせていただこう」
たくさん作りやすいということで、美来はハヤシライスを作ることを決めたそうだ。そういえば、美来の作ったハヤシライスを食べるのは初めてかな。
「そうだ、氷室。さっそく、例のものを渡すことにしよう」
そう言って、羽賀は仕事鞄の中から白い封筒を取り出し、僕に渡してきた。
封筒の中身を見てみると、『アクアサンシャインリゾートホテル』と書かれ、ホテルの写真が印刷されているチケットが2枚。それと、予約の明細書類……元々予約している佐藤さん夫婦の名前が記載されている。あと、アクアサンシャインリゾートホテルの小さなパンフレットも封入されていた。
そういえば、アクアサンシャインリゾートホテルって何年か前に話題になったような。僕や羽賀が大学生くらいのときに。
「とても立派そうなホテルですね」
「そうだね」
「……新婚旅行にはいいですね」
「僕達、まだ結婚していないよ」
婚約指輪を渡したからなのか、美来にとっては僕と結婚したと同然なのかも。もちろん、そう思ってくれることはとても嬉しい。
「では、婚前旅行・パートⅡということで」
「パ、パートⅡか」
6月に雅治さんがプレゼントしてくれた温泉旅行に行ったからな。婚前旅行はシリーズ化しそうな気がする。パートいくつまでになるのか。
「……なるほど。2人の右手の薬指に指輪がはめられている。つまり、それは……婚約指輪といったところか」
「さすがは羽賀さん。よく気付きましたね」
「これまではなかったからすぐに気付いた。ただ、2人からして、左手の薬指に指輪をはめているところを見られる日はそんなに遠くなさそうだな」
「ふふっ」
美来、ニヤニヤしちゃって。
ストレートに言わず、それでも何を言っているのか分かりそうな言葉選びをするのも羽賀らしいというか。
「羽賀さん、本当にありがとうございます! ハヤシライス多めによそいますね!」
「礼を言われるほどではない。私は2人の顔を思い浮かべたので、佐藤さんに話してみただけだ。ただ、今はお腹が空いているので……ハヤシライスを多めによそっていただけると有り難い」
「分かりました! では、夕飯の用意をしますね!」
美来はキッチンへと向かう。
羽賀ってたくさん食べるイメージはないし、高校生までは普通の量しか食べなかったけれど、警察官になって変わったのかな。
「羽賀には、この……アクアサンシャインリゾートホテルか。このホテルがある地域の日本酒をお土産で買ってくるよ。チケットを斡旋してくれたお礼も込めてさ」
「それは嬉しいな。楽しみにしておこう。日本各地に、美味しい地酒はたくさんあるからな。以前、氷室が土産でくれた地酒も美味しくいただいたし」
「そうか。ほら、そっちの椅子に座ってくれ」
「分かった。仕事鞄はソファーに置いておいていいだろうか」
「うん」
羽賀は仕事鞄をソファーの側に置くと、テーブルを挟んで僕と向かい合うようにして座った。
「お待たせしました、ハヤシライスです」
そう言うと、美来は僕と羽賀のところにハヤシライスを置く。うん、とても美味しそうだ。
「ありがとう、美来」
「どうも」
美来の分のハヤシライスと、3人分の野菜スープがテーブルの上に置かれる。配膳を終えた美来は僕の隣にある椅子に座った。
「それでは、いただきましょう」
「いただきます」
「美味しそうだ。いただきます」
僕はさっそくハヤシライスを一口食べる。
「美味しいよ、美来」
「ふふっ、ありがとうございます」
そういえば、カレーライスは定期的に食べるけれど、ハヤシライスを食べたのは本当に久しぶりだな。懐かしさもあるけど、このハヤシライスが今まで食べた中で一番美味しいかも。
「……実に美味しい」
「ありがとうございます、羽賀さん」
「そういえば、カレーは食べるが、ハヤシライスは歳を重ねるにつれて食べなくなったな。中学生くらいまでは、たまに母親が作っていたが。高校や大学の食堂にもカレーはあったがハヤシライスはなかった」
歳を重ねるにつれてって、僕達まだ20代半ばじゃないか……とツッコミを入れようとしたけど、僕もハヤシライスの味が懐かしいと思ってしまったので言えなかった。
「僕の通っている大学にもハヤシライスは……期間限定であったかな。でも、レギュラーメニューにはなかったかな」
「私の通っている高校にもありませんね。カレーライスはありますけど。月が丘にもありませんでした」
カレーライスはあるけど、ハヤシライスはないっていう学校が多いのかな。
高校や大学って言葉を口にしたけど……学生のときは今頃、夏休みだったんだよな。高校のときはあと半月で終わるのかと嫌な気分になり始め、大学のときは期末試験が終わって夏休みが始まったばかりだから、今の時期が一番いいって思っていたなぁ。
「そういえば、智也さんは夏休みを取っていますが、羽賀さんも夏休みを取る予定ですか? それとも、もう休まれたのですか?」
「今週の水曜日から5日間、夏休みを取る予定になっている」
なるほど。だから、佐藤さんは羽賀に旅行の話をしたのか。旅行は水曜日から2泊3日の予定だから。
「最近も色々と事件に関わっていたから、夏休みはゆっくり羽を伸ばそうと思っている。あとは、私の好きな特撮シリーズの新作が久々に公開されたので、それを観に行くつもりだ」
「……そういえば、お前って意外と特撮とか戦隊ものが好きだったよな」
「ああ。幼い頃の私は戦隊ものを見て、警察官になろうと思ったのだよ」
「……それは初耳だな」
それで実際に警察官になっているんだから立派なもんだ。しかも、キャリア組。
「智也さんの幼い頃の夢は何だったんですか? 今のようなIT関連の職業ですか?」
「僕は……」
そういえば、こういう職業になりたいっていう夢は全然抱かなかったなぁ。
「昔はゲームが好きだったから、何かしらの形でゲーム作りに携わりたいって思っていたかな」
「なるほどです」
大学の友人の中で何人かはゲーム会社に就職したっけ。ただ、忙しくて残業が凄いって言っていたけれど。
「……美来さんにも訊いてあげるといい、氷室」
「そうだね」
美来の方を見てみると、訊いてほしいと言わんばかりの表情をしているし。
「美来の小さい頃の夢って何なの?」
「智也さんのお嫁さんです! それは今まで一度も変わっていません!」
「……ですよねぇ」
そうじゃなかったら、むしろ何があったのかって訊きたくなるくらいだ。
羽賀は美来の答えが予想通りだったのか、右手で口を押さえながら笑っている。
「ちなみに、僕のお嫁さん以外では?」
「……ケーキ屋さんでしょうか」
「可愛い夢だね」
「智也さん、よくコンビニでスイーツを買っていたじゃないですか。それも、ロールケーキが一番多くて。いつかは自分で作りたいと思ったんです」
「……理由が特殊だね」
僕絡みの理由でケーキ屋さんになりたいと思うのは美来らしいか。
考えてみると、高校生くらいのときからコンビニでスイーツはよく買っていて、何を買うかに迷ったらロールケーキを買っていたことも事実。
まさか、ここまで美来が僕のことを知っていたとは。僕が忘れていることも美来はたくさん知っていそうだ。
「相変わらず、美来さんは氷室のことをよく調べているのだな。大丈夫だとは思うが、深い好意が故に見守りたい気持ちは分かる。しかし、そういったことは氷室以外にしない方がいいだろう」
「分かっています。智也さん以外にはしませんから」
「……しかし、8年近くも氷室に気付かれないとは。氷室が鈍感なのか、美来さんのステルス性が高いのか。もし、後者が大きな理由であれば警察としても、色々と考えなければならないな。最近、ストーカー被害が多くなっているのだ。中には凶悪化して、殺人に陥ってしまうケースもある」
「そうなのか」
というか、遠回しに美来のやっていることがストーカーだと言っているな。
「美来の件については、僕が鈍感なのが大きいと思うよ。女の子の視線を感じたことなんて全然なかったし。むしろ、8年もの間、僕に気付かれることなく遠くから見続けることができたことに感心したくらいだよ」
もちろん、恐いって思ったのも事実だけれどさ。それよりも10年前のことをよく覚えている、一途で可愛い女の子だなって思ったんだ。
ただ、僕のことを見ていた人が美来だったから不問にしたけど、世間的に言えば美来のやっていることはストーカーと変わりない。今はとりあえず、僕以外の人にはしないという美来の言葉を信じることにしよう。
「なるほど。何だか、氷室と美来さんがお似合いなのが分かる気がする。すまないな、警察官という職業もあってか、こういうことにはうるさくなってしまって。旅行中は気を付けて、そして楽しんできてほしい」
「分かっているよ。ありがとう、羽賀」
「智也さんと一緒に楽しんできますね!」
アクアサンシャインリゾートホテル。チケットに印刷されていたホテルの写真には海も写っていた。つまり、ホテルの近くにはビーチがあり、ホテルにもきっとプールなどの遊泳施設があるはず。そういう場所では何が起こるか分からないから、気を付けておかないと。
ということは、美来の水着姿を見ることができるかもしれないのか。美来の水着姿って見たことがなかったなぁ。どうやら、色々と楽しみがある旅行になりそうだ。
事前に言われていたとおり、羽賀が僕と美来の家にやってきた。8月という一番暑い時期でも、羽賀はベストを着ているんだな。しかも、ワイシャツは半袖ではなく、長袖を肘まで捲っているし。ただ、それがスタイリッシュで似合っているのは事実だ。
「いらっしゃい、羽賀」
「羽賀さん、お仕事お疲れ様です!」
「ありがとう。お邪魔します」
そういえば、男性のお客さんは羽賀が初めてかな。女性はもちろん有紗さんで、一昨日、引越しの手伝いをしてくれた。
「ほぉ、綺麗でいい部屋ではないか」
「美来と2人で住むからね。前の家の倍以上はあるんじゃないかな」
「そうか。2人だとこのくらいの広さがいいのかもしれないな。私はゆったりしている方が好きなので気にしていないが、こうして2人の家に来てみると、私の家は広すぎるのかもしれない」
さりげなく自分の家は広いと言ってくるけど、羽賀の言い方がいいのか不思議と嫌味は感じない。実際、彼の家に何度か行ったことはあるけど、ここよりも広いんじゃないかと思う。さすがはキャリア警察官。
「そういえば、リビングに入ってから食欲をそそる匂いがしてくるが」
「はい! 今日の夕飯はハヤシライスなんです。羽賀さんも是非、食べていってください」
「では、そのご厚意に甘えさせていただこう」
たくさん作りやすいということで、美来はハヤシライスを作ることを決めたそうだ。そういえば、美来の作ったハヤシライスを食べるのは初めてかな。
「そうだ、氷室。さっそく、例のものを渡すことにしよう」
そう言って、羽賀は仕事鞄の中から白い封筒を取り出し、僕に渡してきた。
封筒の中身を見てみると、『アクアサンシャインリゾートホテル』と書かれ、ホテルの写真が印刷されているチケットが2枚。それと、予約の明細書類……元々予約している佐藤さん夫婦の名前が記載されている。あと、アクアサンシャインリゾートホテルの小さなパンフレットも封入されていた。
そういえば、アクアサンシャインリゾートホテルって何年か前に話題になったような。僕や羽賀が大学生くらいのときに。
「とても立派そうなホテルですね」
「そうだね」
「……新婚旅行にはいいですね」
「僕達、まだ結婚していないよ」
婚約指輪を渡したからなのか、美来にとっては僕と結婚したと同然なのかも。もちろん、そう思ってくれることはとても嬉しい。
「では、婚前旅行・パートⅡということで」
「パ、パートⅡか」
6月に雅治さんがプレゼントしてくれた温泉旅行に行ったからな。婚前旅行はシリーズ化しそうな気がする。パートいくつまでになるのか。
「……なるほど。2人の右手の薬指に指輪がはめられている。つまり、それは……婚約指輪といったところか」
「さすがは羽賀さん。よく気付きましたね」
「これまではなかったからすぐに気付いた。ただ、2人からして、左手の薬指に指輪をはめているところを見られる日はそんなに遠くなさそうだな」
「ふふっ」
美来、ニヤニヤしちゃって。
ストレートに言わず、それでも何を言っているのか分かりそうな言葉選びをするのも羽賀らしいというか。
「羽賀さん、本当にありがとうございます! ハヤシライス多めによそいますね!」
「礼を言われるほどではない。私は2人の顔を思い浮かべたので、佐藤さんに話してみただけだ。ただ、今はお腹が空いているので……ハヤシライスを多めによそっていただけると有り難い」
「分かりました! では、夕飯の用意をしますね!」
美来はキッチンへと向かう。
羽賀ってたくさん食べるイメージはないし、高校生までは普通の量しか食べなかったけれど、警察官になって変わったのかな。
「羽賀には、この……アクアサンシャインリゾートホテルか。このホテルがある地域の日本酒をお土産で買ってくるよ。チケットを斡旋してくれたお礼も込めてさ」
「それは嬉しいな。楽しみにしておこう。日本各地に、美味しい地酒はたくさんあるからな。以前、氷室が土産でくれた地酒も美味しくいただいたし」
「そうか。ほら、そっちの椅子に座ってくれ」
「分かった。仕事鞄はソファーに置いておいていいだろうか」
「うん」
羽賀は仕事鞄をソファーの側に置くと、テーブルを挟んで僕と向かい合うようにして座った。
「お待たせしました、ハヤシライスです」
そう言うと、美来は僕と羽賀のところにハヤシライスを置く。うん、とても美味しそうだ。
「ありがとう、美来」
「どうも」
美来の分のハヤシライスと、3人分の野菜スープがテーブルの上に置かれる。配膳を終えた美来は僕の隣にある椅子に座った。
「それでは、いただきましょう」
「いただきます」
「美味しそうだ。いただきます」
僕はさっそくハヤシライスを一口食べる。
「美味しいよ、美来」
「ふふっ、ありがとうございます」
そういえば、カレーライスは定期的に食べるけれど、ハヤシライスを食べたのは本当に久しぶりだな。懐かしさもあるけど、このハヤシライスが今まで食べた中で一番美味しいかも。
「……実に美味しい」
「ありがとうございます、羽賀さん」
「そういえば、カレーは食べるが、ハヤシライスは歳を重ねるにつれて食べなくなったな。中学生くらいまでは、たまに母親が作っていたが。高校や大学の食堂にもカレーはあったがハヤシライスはなかった」
歳を重ねるにつれてって、僕達まだ20代半ばじゃないか……とツッコミを入れようとしたけど、僕もハヤシライスの味が懐かしいと思ってしまったので言えなかった。
「僕の通っている大学にもハヤシライスは……期間限定であったかな。でも、レギュラーメニューにはなかったかな」
「私の通っている高校にもありませんね。カレーライスはありますけど。月が丘にもありませんでした」
カレーライスはあるけど、ハヤシライスはないっていう学校が多いのかな。
高校や大学って言葉を口にしたけど……学生のときは今頃、夏休みだったんだよな。高校のときはあと半月で終わるのかと嫌な気分になり始め、大学のときは期末試験が終わって夏休みが始まったばかりだから、今の時期が一番いいって思っていたなぁ。
「そういえば、智也さんは夏休みを取っていますが、羽賀さんも夏休みを取る予定ですか? それとも、もう休まれたのですか?」
「今週の水曜日から5日間、夏休みを取る予定になっている」
なるほど。だから、佐藤さんは羽賀に旅行の話をしたのか。旅行は水曜日から2泊3日の予定だから。
「最近も色々と事件に関わっていたから、夏休みはゆっくり羽を伸ばそうと思っている。あとは、私の好きな特撮シリーズの新作が久々に公開されたので、それを観に行くつもりだ」
「……そういえば、お前って意外と特撮とか戦隊ものが好きだったよな」
「ああ。幼い頃の私は戦隊ものを見て、警察官になろうと思ったのだよ」
「……それは初耳だな」
それで実際に警察官になっているんだから立派なもんだ。しかも、キャリア組。
「智也さんの幼い頃の夢は何だったんですか? 今のようなIT関連の職業ですか?」
「僕は……」
そういえば、こういう職業になりたいっていう夢は全然抱かなかったなぁ。
「昔はゲームが好きだったから、何かしらの形でゲーム作りに携わりたいって思っていたかな」
「なるほどです」
大学の友人の中で何人かはゲーム会社に就職したっけ。ただ、忙しくて残業が凄いって言っていたけれど。
「……美来さんにも訊いてあげるといい、氷室」
「そうだね」
美来の方を見てみると、訊いてほしいと言わんばかりの表情をしているし。
「美来の小さい頃の夢って何なの?」
「智也さんのお嫁さんです! それは今まで一度も変わっていません!」
「……ですよねぇ」
そうじゃなかったら、むしろ何があったのかって訊きたくなるくらいだ。
羽賀は美来の答えが予想通りだったのか、右手で口を押さえながら笑っている。
「ちなみに、僕のお嫁さん以外では?」
「……ケーキ屋さんでしょうか」
「可愛い夢だね」
「智也さん、よくコンビニでスイーツを買っていたじゃないですか。それも、ロールケーキが一番多くて。いつかは自分で作りたいと思ったんです」
「……理由が特殊だね」
僕絡みの理由でケーキ屋さんになりたいと思うのは美来らしいか。
考えてみると、高校生くらいのときからコンビニでスイーツはよく買っていて、何を買うかに迷ったらロールケーキを買っていたことも事実。
まさか、ここまで美来が僕のことを知っていたとは。僕が忘れていることも美来はたくさん知っていそうだ。
「相変わらず、美来さんは氷室のことをよく調べているのだな。大丈夫だとは思うが、深い好意が故に見守りたい気持ちは分かる。しかし、そういったことは氷室以外にしない方がいいだろう」
「分かっています。智也さん以外にはしませんから」
「……しかし、8年近くも氷室に気付かれないとは。氷室が鈍感なのか、美来さんのステルス性が高いのか。もし、後者が大きな理由であれば警察としても、色々と考えなければならないな。最近、ストーカー被害が多くなっているのだ。中には凶悪化して、殺人に陥ってしまうケースもある」
「そうなのか」
というか、遠回しに美来のやっていることがストーカーだと言っているな。
「美来の件については、僕が鈍感なのが大きいと思うよ。女の子の視線を感じたことなんて全然なかったし。むしろ、8年もの間、僕に気付かれることなく遠くから見続けることができたことに感心したくらいだよ」
もちろん、恐いって思ったのも事実だけれどさ。それよりも10年前のことをよく覚えている、一途で可愛い女の子だなって思ったんだ。
ただ、僕のことを見ていた人が美来だったから不問にしたけど、世間的に言えば美来のやっていることはストーカーと変わりない。今はとりあえず、僕以外の人にはしないという美来の言葉を信じることにしよう。
「なるほど。何だか、氷室と美来さんがお似合いなのが分かる気がする。すまないな、警察官という職業もあってか、こういうことにはうるさくなってしまって。旅行中は気を付けて、そして楽しんできてほしい」
「分かっているよ。ありがとう、羽賀」
「智也さんと一緒に楽しんできますね!」
アクアサンシャインリゾートホテル。チケットに印刷されていたホテルの写真には海も写っていた。つまり、ホテルの近くにはビーチがあり、ホテルにもきっとプールなどの遊泳施設があるはず。そういう場所では何が起こるか分からないから、気を付けておかないと。
ということは、美来の水着姿を見ることができるかもしれないのか。美来の水着姿って見たことがなかったなぁ。どうやら、色々と楽しみがある旅行になりそうだ。
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる