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本編-ARIA-
第109話『華麗なる逆襲-前編-』
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黒幕『TKS』は諸澄司だった。
羽賀の立てた計画はこんなにも上手くいくとは。さすがの諸澄君も僕と羽賀が釈放されて、冷静に考えられなかったわけか。ましてや、僕と美来の仲を引き裂きたいと考える『ARS』が協力してほしいと言えば、彼も動かないわけにはいかない。その予想が見事に当たったということだ。
「俺のことを騙したんですね。まったく、警察もやることが汚いですよ」
諸澄君はそう言うと、意外にも笑みを見せた。
「俺が黒幕『TKS』ですって? そんな証拠がどこにあるんだ!」
「その証拠はこの一連の出来事で手に入れた。諸澄司」
「何だって……」
「これまで『TKS』は誰でも使うことのできるネットカフェのパソコンから、Tubutterを利用していた。だから、『TKS』が誰なのかを特定することができなかった。だからこそ、『TKS』が誰であるか特定する証拠が必要だった」
「まさか、それで……あんな小芝居を?」
「その通りだ。君のスマートフォンで『TKS』のアカウントでTubutterにログインしてもらうために」
そう、解決へと向かう鍵は黒幕『TKS』を特定すること。
これまでは不特定多数の人間が利用できるネットカフェのパソコンからログインしていたので、『TKS』を特定することができなかった。だからこそ、特定の人物が利用する端末から『TKS』としてTubutterにログインしてもらう必要があった。
「そのためには、外に出てもらう必要があった。なので、3人に協力してもらって一芝居打ってもらったのだよ。月村さんは『ARS』としてTubutterで君に接触し、2人には玄関前で口づけしてもらったのだ」
「それにまんまと引っかかってしまったわけですか、俺は」
あははっ、と諸澄君は笑い飛ばした。
「何がおかしいのだろうか」
「自分のことがおかしいと思ったんですよ。こんな陳腐な作戦に引っかかってしまう自分がアホにしか思えなくて」
すると、諸澄君の目つきが急に鋭くなって、
「どれだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんですか。何度も何度も……俺の計画を邪魔して、その果てにはこれだけ多くの人間を使って俺のことを騙しやがって」
ついに、諸澄君の本性が現れたか。僕に対しては、面会のときにかなり現れていたけど、ここまで露骨なのは初めてだ。
「君の方がよっぽど汚いと思うが、諸澄司。自分の手を汚さずに『TKS』として柚葉さんに犯行の指示を出し、彼女の父親である佐相元警視に協力を仰ぐように仕向けた」
「しかし、諸澄君は最大のミスを犯した。僕が逮捕された事件について、羽賀に担当させたことだよ。羽賀なら僕のことを起訴できるように考えたみたいだけど、羽賀のことを馬鹿にするのもいい加減にしてくれないかな。ましてや、僕を逮捕させることで羽賀の心まで傷つけようとするなんてね。それに、羽賀はどんな事実でも見つけようとする警察官だよ」
まったく、人のことを馬鹿にして汚いことをしているのは諸澄君の方だ。本当に腹立たしいよ。
「どちらが汚いかなんてたいしたことじゃない。話を戻しましょうよ。この状況でも俺が『TKS』だって言えるんですかね?」
「どういうことだろうか?」
「俺はたまたまここに立ち寄っただけですよ。それなのに、どうして俺が世間を騒がせている『TKS』だと言われなければいけないんです?」
「証拠はここにあるよ」
月村さんはスマートフォンを取り出し、諸澄司がアパートでキスしている氷室と美来さんを撮影している姿を撮影した写真を表示する。
「ここにはさっき、2人のキスシーンを撮影しようとしているあなたが写っているの。そして、『TKS』としてあたしのアカウントに送られた写真。この2枚から、あなたが『TKS』としてさっき2人の口づけを撮影した証拠だよ」
有紗さんの説明で十分に諸澄君が『TKS』だと言えそうだけど、今の説明に穴があると気付いたのか諸澄君はニヤリとした表情を見せる。
「……その写真、もしかしたら以前に撮影したかもしれませんよ?」
「それはあり得ないな。今、氷室と美来さんがペアルックで着ている服、今日、私が用意したものなのだよ。もちろん、2人が揃ってこの服を着るのは初めてだ。つまり、『TKS』が『ARS』に送った写真を撮影できるのは、さっきのキスの瞬間しかないのだよ」
「くっ……!」
「写真が撮影されたのが今日であることは、詩織さんの持っている新聞紙の日付からも証明できる。例の写真を拡大し、解析すれば新聞紙に書かれた日付が今日であることもはっきりと分かるだろう。この新聞を発行する会社に問い合わせれば、彼女の持つ新聞の内容も今日のものであると確認できるだろう」
そう、羽賀の指示で僕の家に帰ってきたとき、羽賀からペアルックの服を渡された。初めての服を着た姿で撮影されることで、今日も諸澄君が盗撮を行ない、『TKS』として有紗さんが作成したアカウント『ARS』に写真を送ったことを立証するために。
あと、保険ではあるけど、栞ちゃんに今日の朝刊の新聞を開いた状態で、僕らの近くに立ってもらっていた。
「君のスマートフォンを見せてもらおうか。Tubutterに『TKS』としてログインしているだろう? それに、『ARS』に送った写真も保存されているはずだ。その写真には撮影時刻も記録されている。その時刻はついさっきの日付だろう」
「そんなの今ここで俺が壊せば……!」
「あと、他にも証拠はある。もうじき、君のスマートフォンで『TKS』としてTubutterにログインしたことが。ここに到着したことを『ARS』に伝えるメッセージ以降、全てのメッセージと写真について君のスマートフォンを利用して送信されていることも。いつでも、それらの情報を手に入れられるように、私の部下が運営会社の方へ行ってもらっている。……おっと、ちょうどいいタイミングで連絡が来たようだ」
羽賀はスマートフォンを取り出して何やら話している。今言ったことが分かったのだろうか。
「私の部下から連絡があった。『TKS』としてログインしたスマートフォンについて。そのスマートフォンの電話番号も分かったので、今から電話してみることにしよう」
羽賀がスマートフォンを操作した直後、
――プルルッ。
誰かのスマートフォンが鳴る。もちろん、僕のではない。
なかなか鳴り止まないのでみんなの様子を見てみると、それぞれが自分のスマートフォンを確認している。ただし、ある1人を除いて。
「君のスマートフォンが鳴っているようだが? 諸澄司」
羽賀は諸澄君から彼のスマートフォンを取り上げ、画面を確認すると、
「……私の番号が表示されている。やはり、『TKS』としてログインした端末は君のスマートフォンだったわけだ。ああ、私は予め君の番号は知っていたということはない」
羽賀がスマートフォンを返すと、諸澄君は血相を変えてスマートフォンを道路に投げた。その衝撃で呼び出し音が消えた。
「このことで君のスマートフォンが壊れても、鑑識に回せばデータは簡単に取れる。これ以上、抵抗してもムダだと思うが?」
羽賀がそう言うけど、諸澄君はこのまま抵抗せずに自分が『TKS』であると認めてくれるだろうか。
しばらくの間、静寂の時間が流れていき、
「……何を言ってもムダなんだろうなぁ」
力のない諸澄君の声が虚しく響き渡る。
「そうだよ。この俺が『TKS』だ。俺を中心に世界が回るはずなんだよ。なのに、氷室智也、羽賀尊……お前らのせいでそんな俺の計画が狂わされたんだ! 佐相柚葉と佐相繁は使えない親子だった……」
羽賀の計画が上手くいったか。正直、この計画には一か八かという要素もあったけど、諸澄君が『TKS』であると認めた。
「今の言葉、君が『TKS』であると認めると受け取っていいだろうか」
「ああ。どうせ、抵抗したって俺があの親子に犯行を指示したっていう事実を、いずれは警察が証明するんだろ?」
「そのつもりだ」
「……だったら、もういいや。つまんねえ。どうせ負けるんだったら、ここでリタイアするよ。有り難いと思え。俺様が自ら負けんだと認めるんだからさ」
自分が『TKS』であると認めても、諸澄君は相変わらずの上から目線なんだな。おそらく、悔しいという本音を隠すためのせめての強がりなんだろうけど。
動機は……おおよそは分かっているけれど、きちんと訊く必要がありそうだな。何をきっかけに一連の計画を思いつき、黒幕『TKS』を生み出したのかを。
羽賀の立てた計画はこんなにも上手くいくとは。さすがの諸澄君も僕と羽賀が釈放されて、冷静に考えられなかったわけか。ましてや、僕と美来の仲を引き裂きたいと考える『ARS』が協力してほしいと言えば、彼も動かないわけにはいかない。その予想が見事に当たったということだ。
「俺のことを騙したんですね。まったく、警察もやることが汚いですよ」
諸澄君はそう言うと、意外にも笑みを見せた。
「俺が黒幕『TKS』ですって? そんな証拠がどこにあるんだ!」
「その証拠はこの一連の出来事で手に入れた。諸澄司」
「何だって……」
「これまで『TKS』は誰でも使うことのできるネットカフェのパソコンから、Tubutterを利用していた。だから、『TKS』が誰なのかを特定することができなかった。だからこそ、『TKS』が誰であるか特定する証拠が必要だった」
「まさか、それで……あんな小芝居を?」
「その通りだ。君のスマートフォンで『TKS』のアカウントでTubutterにログインしてもらうために」
そう、解決へと向かう鍵は黒幕『TKS』を特定すること。
これまでは不特定多数の人間が利用できるネットカフェのパソコンからログインしていたので、『TKS』を特定することができなかった。だからこそ、特定の人物が利用する端末から『TKS』としてTubutterにログインしてもらう必要があった。
「そのためには、外に出てもらう必要があった。なので、3人に協力してもらって一芝居打ってもらったのだよ。月村さんは『ARS』としてTubutterで君に接触し、2人には玄関前で口づけしてもらったのだ」
「それにまんまと引っかかってしまったわけですか、俺は」
あははっ、と諸澄君は笑い飛ばした。
「何がおかしいのだろうか」
「自分のことがおかしいと思ったんですよ。こんな陳腐な作戦に引っかかってしまう自分がアホにしか思えなくて」
すると、諸澄君の目つきが急に鋭くなって、
「どれだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんですか。何度も何度も……俺の計画を邪魔して、その果てにはこれだけ多くの人間を使って俺のことを騙しやがって」
ついに、諸澄君の本性が現れたか。僕に対しては、面会のときにかなり現れていたけど、ここまで露骨なのは初めてだ。
「君の方がよっぽど汚いと思うが、諸澄司。自分の手を汚さずに『TKS』として柚葉さんに犯行の指示を出し、彼女の父親である佐相元警視に協力を仰ぐように仕向けた」
「しかし、諸澄君は最大のミスを犯した。僕が逮捕された事件について、羽賀に担当させたことだよ。羽賀なら僕のことを起訴できるように考えたみたいだけど、羽賀のことを馬鹿にするのもいい加減にしてくれないかな。ましてや、僕を逮捕させることで羽賀の心まで傷つけようとするなんてね。それに、羽賀はどんな事実でも見つけようとする警察官だよ」
まったく、人のことを馬鹿にして汚いことをしているのは諸澄君の方だ。本当に腹立たしいよ。
「どちらが汚いかなんてたいしたことじゃない。話を戻しましょうよ。この状況でも俺が『TKS』だって言えるんですかね?」
「どういうことだろうか?」
「俺はたまたまここに立ち寄っただけですよ。それなのに、どうして俺が世間を騒がせている『TKS』だと言われなければいけないんです?」
「証拠はここにあるよ」
月村さんはスマートフォンを取り出し、諸澄司がアパートでキスしている氷室と美来さんを撮影している姿を撮影した写真を表示する。
「ここにはさっき、2人のキスシーンを撮影しようとしているあなたが写っているの。そして、『TKS』としてあたしのアカウントに送られた写真。この2枚から、あなたが『TKS』としてさっき2人の口づけを撮影した証拠だよ」
有紗さんの説明で十分に諸澄君が『TKS』だと言えそうだけど、今の説明に穴があると気付いたのか諸澄君はニヤリとした表情を見せる。
「……その写真、もしかしたら以前に撮影したかもしれませんよ?」
「それはあり得ないな。今、氷室と美来さんがペアルックで着ている服、今日、私が用意したものなのだよ。もちろん、2人が揃ってこの服を着るのは初めてだ。つまり、『TKS』が『ARS』に送った写真を撮影できるのは、さっきのキスの瞬間しかないのだよ」
「くっ……!」
「写真が撮影されたのが今日であることは、詩織さんの持っている新聞紙の日付からも証明できる。例の写真を拡大し、解析すれば新聞紙に書かれた日付が今日であることもはっきりと分かるだろう。この新聞を発行する会社に問い合わせれば、彼女の持つ新聞の内容も今日のものであると確認できるだろう」
そう、羽賀の指示で僕の家に帰ってきたとき、羽賀からペアルックの服を渡された。初めての服を着た姿で撮影されることで、今日も諸澄君が盗撮を行ない、『TKS』として有紗さんが作成したアカウント『ARS』に写真を送ったことを立証するために。
あと、保険ではあるけど、栞ちゃんに今日の朝刊の新聞を開いた状態で、僕らの近くに立ってもらっていた。
「君のスマートフォンを見せてもらおうか。Tubutterに『TKS』としてログインしているだろう? それに、『ARS』に送った写真も保存されているはずだ。その写真には撮影時刻も記録されている。その時刻はついさっきの日付だろう」
「そんなの今ここで俺が壊せば……!」
「あと、他にも証拠はある。もうじき、君のスマートフォンで『TKS』としてTubutterにログインしたことが。ここに到着したことを『ARS』に伝えるメッセージ以降、全てのメッセージと写真について君のスマートフォンを利用して送信されていることも。いつでも、それらの情報を手に入れられるように、私の部下が運営会社の方へ行ってもらっている。……おっと、ちょうどいいタイミングで連絡が来たようだ」
羽賀はスマートフォンを取り出して何やら話している。今言ったことが分かったのだろうか。
「私の部下から連絡があった。『TKS』としてログインしたスマートフォンについて。そのスマートフォンの電話番号も分かったので、今から電話してみることにしよう」
羽賀がスマートフォンを操作した直後、
――プルルッ。
誰かのスマートフォンが鳴る。もちろん、僕のではない。
なかなか鳴り止まないのでみんなの様子を見てみると、それぞれが自分のスマートフォンを確認している。ただし、ある1人を除いて。
「君のスマートフォンが鳴っているようだが? 諸澄司」
羽賀は諸澄君から彼のスマートフォンを取り上げ、画面を確認すると、
「……私の番号が表示されている。やはり、『TKS』としてログインした端末は君のスマートフォンだったわけだ。ああ、私は予め君の番号は知っていたということはない」
羽賀がスマートフォンを返すと、諸澄君は血相を変えてスマートフォンを道路に投げた。その衝撃で呼び出し音が消えた。
「このことで君のスマートフォンが壊れても、鑑識に回せばデータは簡単に取れる。これ以上、抵抗してもムダだと思うが?」
羽賀がそう言うけど、諸澄君はこのまま抵抗せずに自分が『TKS』であると認めてくれるだろうか。
しばらくの間、静寂の時間が流れていき、
「……何を言ってもムダなんだろうなぁ」
力のない諸澄君の声が虚しく響き渡る。
「そうだよ。この俺が『TKS』だ。俺を中心に世界が回るはずなんだよ。なのに、氷室智也、羽賀尊……お前らのせいでそんな俺の計画が狂わされたんだ! 佐相柚葉と佐相繁は使えない親子だった……」
羽賀の計画が上手くいったか。正直、この計画には一か八かという要素もあったけど、諸澄君が『TKS』であると認めた。
「今の言葉、君が『TKS』であると認めると受け取っていいだろうか」
「ああ。どうせ、抵抗したって俺があの親子に犯行を指示したっていう事実を、いずれは警察が証明するんだろ?」
「そのつもりだ」
「……だったら、もういいや。つまんねえ。どうせ負けるんだったら、ここでリタイアするよ。有り難いと思え。俺様が自ら負けんだと認めるんだからさ」
自分が『TKS』であると認めても、諸澄君は相変わらずの上から目線なんだな。おそらく、悔しいという本音を隠すためのせめての強がりなんだろうけど。
動機は……おおよそは分かっているけれど、きちんと訊く必要がありそうだな。何をきっかけに一連の計画を思いつき、黒幕『TKS』を生み出したのかを。
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