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本編-ARIA-
第85話『Share』
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諸澄君との面会が終わった後は、幸いなことに取調べも面会もなかったのでぐっすりと眠ることができた。
「氷室、起きろ」
「……ああ、羽賀か」
寝始めてからどのくらい経ったのか分からないけど、羽賀によって起こされた。それでも、寝る前と比べてだいぶ眠気はなくなっており、体も軽くなっていた。
浅野さんと一緒に美来と詩織ちゃんを連れてきたそうで、面会室に連れて行くために羽賀は僕のいる独房にやってきたそうだ。僕が諸澄君との面会の会話を録音したレコーダーを渡すと、すぐに録音内容を聞くことに。
「……なるほど」
それが、録音した諸澄君との会話を全て聞き終えてから、羽賀が最初に口にした言葉だった。諸澄君が幾度となく僕に尖った発言をしていたんだけど、羽賀は真剣な表情のまま聞いていた。
「この会話を聞く限りでは、諸澄司が真犯人である可能性が一番高いな。自分を捕まえられるかどうかという発言からしても」
「やっぱり羽賀もそう考えるか」
「ああ。ただ、諸澄司は氷室に対して敵意を剥き出しだな」
「それもあってか、面会が終わったときにどっと疲れが襲ってきたよ。昼食が出された直後に面会だったんだけど、終わったときには昼食が片付けられていてお腹ペコペコだ」
「このミントガムで良ければ食べるか? 糖分を少し取るだけでも違うと思う」
「ありがとう。1つもらっていいかな」
僕は羽賀からもらったミントガムを食べる。ほのかな甘みとミントの爽快感がたまらないな。噛む度に眠気が覚めてくる。
「氷室はガムを噛みながら聞いてくれ。簡単にだが、今日の調査結果を伝える。君の家の周りで聞き込み調査をしたら、アパートにスマートフォンを向けた諸澄司を目撃したという証言を、複数人から取ることができた。日時までは特定することはできなかったが」
まあ、羽賀が僕の家に遊びに来た日に、彼がさりげなく諸澄君の写真をスマートフォンで撮ったくらいだ。目撃証言が取ることができて当然だろう。
「その後に、月が丘高校へ捜査しに行ったのだが、真犯人となっている候補5人は学校にいなかった」
「それは美来のお父さんから聞いたよ。諸澄君は自宅謹慎処分になっていて、佐相さんは次のいじめのターゲットになってしまって、それが原因で今週に入ってから学校に来ていないんだよな」
「そうだ」
と言っても、諸澄君は学校側から下された自宅謹慎処分を守らなかったわけだけど。
あと、今、羽賀に話したせいでガムを飲み込んじゃった。まあいいか。これで少しは空腹感が紛れる……のかな。
「諸澄君は今、どうしているんだろう。真っ直ぐ家に帰るんだよって言ったんだけど、ちゃんと帰ったのかな」
「私の部下が今、諸澄司の家で彼に聞き込み捜査をしているところだ」
「そっか、ならいいんだけど」
「君は優しいな。自分を憎む人間のことを考えるとは」
「学校からの命令はちゃんと守ってほしいからね。それを守らないのは、自分の首を絞めていることと一緒だから。守らなければ法的措置も考えているんだろう?」
「反省していないと見なされるからな。ストーカーは歴とした犯罪だ」
僕が帰れと言ったからかどうかは分からないけど、ちゃんと自宅に帰ったんだったら良かったよ。このまま自宅を出なければいいな。
「でも、月が丘高校に真犯人候補が全員いなかったら、重要な情報は手に入らなかったんじゃないか?」
「いや、物凄く重要な情報が手に入った。佐相柚葉という生徒の父親、私の所属している捜査一課の警察官だったのだ。階級は警視だ」
「そうだったのか! じゃあ、僕を逮捕させるようにした真犯人の協力者はその佐相警視の可能性が高そうだ」
まさか、佐相さんの父親が警察官だったとは。でも、これで月が丘高校と警察組織に繋がりがあることが証明されたわけだ。
「私も同じことを考えている。佐相柚葉と佐相警視が親子であることが分かったので、佐相柚葉が真犯人であると考えているのだが、氷室が録音してくれた諸澄司との面会時の会話を聞くと彼が真犯人という可能性も十分にあるな」
警察関係者が協力していることを考えれば、父親がそれなりに位の上である警察官の佐相さんが怪しいだろうな。当然、羽賀もそう考えていたんだと思うけど、諸澄君との面会時の会話を聞かせたことで混乱してしまったかな。
「一度、お互いの考えを整理してみよう。僕はやっぱり、諸澄君との面会しているときの会話からして彼が真犯人だと思っている。写真のことも考えるとね」
「しかし、警察関係者との繋がりを考えれば、父親が警察官である佐相柚葉の可能性も十分に考えられる。美来さんへのいじめの隠蔽も氷室によって阻まれた。もしかしたら、それが原因で自分もいじめられたかもしれない。ただ……」
やっぱり、羽賀の考えもそこで終わらないようで、
「2人とも真犯人である可能性も考えられる」
僕と同じく、諸澄君と佐相さんの両方が真犯人であると考えているのか。
「僕も同じ考えだよ。それに、どちらか1人が真犯人だと現状では説明できないことがある。諸澄君が真犯人の場合、協力した警察関係者は誰なのか。佐相さんが真犯人の場合、証拠として挙がっている2枚の写真はどこから手に入れたのか。アパートの近くで、佐相さんの目撃証言はないんだろう?」
「ああ、そうだ。まさか、氷室とここまで考えが重なっているとは。2人とも真犯人なら写真の件も、協力した警察関係者の件も説明がつく」
「うん。でもそうなると、証拠として挙がっている2枚の写真は、諸澄君から佐相さんに渡されたことになるけれど」
「それを調べるために、今、私の部下が諸澄司の家に行っているのだ」
「なるほどな」
さすがは羽賀。そこまで考えて、諸澄君のことを調べているのか。佐相さんが今週から学校に行っていないということは、学校の外で2人が会っている可能性も考えられるし。
「そういえば、診断書の方は?」
「そのことを言っていなかったな。火曜日の昼前に警察官を名乗る4、 50代の男が事件捜査のためということで診断書を発行してもらったそうだ」
「そうか。その男が誰なのかは分かったのか?」
「病院の入り口や、病院周辺の道路の監視カメラの該当する日時の映像を部下が確認したのだが、帽子やマスクをしていたことで、まだ分かっていない」
「4、50代ってことは、佐相さんの父親の可能性もありそうだな」
「ああ、私もそう考えている」
こうして、羽賀と2人で話していると事件の真相が見えつつあるけど、まだこれといった確証を得られていないところが難点だな。万が一、羽賀や浅野さんが僕の無実を証明するために捜査をしていても調べがつかないように、真犯人とその協力者は動いていたのだろうか。
「警察関係者が関わっていると思われるので、証拠を掴むことは難しいが……事件の真相には少しずつ近づいていると言っていいだろう。あと少しの辛抱だ、氷室」
「ああ。本当にあと少しだといいけど」
「そうだな。美来さん達には氷室と話をしてから面会室に行くと言っていたが、これ以上待たせてはいけないな」
「ああ。僕も早く美来と会いたい」
元気だといいけど、僕が逮捕されてしまったからショックは受けているよな。どんな顔をして待っているか考えると恐い。
独房を出て、羽賀に連れられる形で美来の待っている面会室へと行くのであった。
「氷室、起きろ」
「……ああ、羽賀か」
寝始めてからどのくらい経ったのか分からないけど、羽賀によって起こされた。それでも、寝る前と比べてだいぶ眠気はなくなっており、体も軽くなっていた。
浅野さんと一緒に美来と詩織ちゃんを連れてきたそうで、面会室に連れて行くために羽賀は僕のいる独房にやってきたそうだ。僕が諸澄君との面会の会話を録音したレコーダーを渡すと、すぐに録音内容を聞くことに。
「……なるほど」
それが、録音した諸澄君との会話を全て聞き終えてから、羽賀が最初に口にした言葉だった。諸澄君が幾度となく僕に尖った発言をしていたんだけど、羽賀は真剣な表情のまま聞いていた。
「この会話を聞く限りでは、諸澄司が真犯人である可能性が一番高いな。自分を捕まえられるかどうかという発言からしても」
「やっぱり羽賀もそう考えるか」
「ああ。ただ、諸澄司は氷室に対して敵意を剥き出しだな」
「それもあってか、面会が終わったときにどっと疲れが襲ってきたよ。昼食が出された直後に面会だったんだけど、終わったときには昼食が片付けられていてお腹ペコペコだ」
「このミントガムで良ければ食べるか? 糖分を少し取るだけでも違うと思う」
「ありがとう。1つもらっていいかな」
僕は羽賀からもらったミントガムを食べる。ほのかな甘みとミントの爽快感がたまらないな。噛む度に眠気が覚めてくる。
「氷室はガムを噛みながら聞いてくれ。簡単にだが、今日の調査結果を伝える。君の家の周りで聞き込み調査をしたら、アパートにスマートフォンを向けた諸澄司を目撃したという証言を、複数人から取ることができた。日時までは特定することはできなかったが」
まあ、羽賀が僕の家に遊びに来た日に、彼がさりげなく諸澄君の写真をスマートフォンで撮ったくらいだ。目撃証言が取ることができて当然だろう。
「その後に、月が丘高校へ捜査しに行ったのだが、真犯人となっている候補5人は学校にいなかった」
「それは美来のお父さんから聞いたよ。諸澄君は自宅謹慎処分になっていて、佐相さんは次のいじめのターゲットになってしまって、それが原因で今週に入ってから学校に来ていないんだよな」
「そうだ」
と言っても、諸澄君は学校側から下された自宅謹慎処分を守らなかったわけだけど。
あと、今、羽賀に話したせいでガムを飲み込んじゃった。まあいいか。これで少しは空腹感が紛れる……のかな。
「諸澄君は今、どうしているんだろう。真っ直ぐ家に帰るんだよって言ったんだけど、ちゃんと帰ったのかな」
「私の部下が今、諸澄司の家で彼に聞き込み捜査をしているところだ」
「そっか、ならいいんだけど」
「君は優しいな。自分を憎む人間のことを考えるとは」
「学校からの命令はちゃんと守ってほしいからね。それを守らないのは、自分の首を絞めていることと一緒だから。守らなければ法的措置も考えているんだろう?」
「反省していないと見なされるからな。ストーカーは歴とした犯罪だ」
僕が帰れと言ったからかどうかは分からないけど、ちゃんと自宅に帰ったんだったら良かったよ。このまま自宅を出なければいいな。
「でも、月が丘高校に真犯人候補が全員いなかったら、重要な情報は手に入らなかったんじゃないか?」
「いや、物凄く重要な情報が手に入った。佐相柚葉という生徒の父親、私の所属している捜査一課の警察官だったのだ。階級は警視だ」
「そうだったのか! じゃあ、僕を逮捕させるようにした真犯人の協力者はその佐相警視の可能性が高そうだ」
まさか、佐相さんの父親が警察官だったとは。でも、これで月が丘高校と警察組織に繋がりがあることが証明されたわけだ。
「私も同じことを考えている。佐相柚葉と佐相警視が親子であることが分かったので、佐相柚葉が真犯人であると考えているのだが、氷室が録音してくれた諸澄司との面会時の会話を聞くと彼が真犯人という可能性も十分にあるな」
警察関係者が協力していることを考えれば、父親がそれなりに位の上である警察官の佐相さんが怪しいだろうな。当然、羽賀もそう考えていたんだと思うけど、諸澄君との面会時の会話を聞かせたことで混乱してしまったかな。
「一度、お互いの考えを整理してみよう。僕はやっぱり、諸澄君との面会しているときの会話からして彼が真犯人だと思っている。写真のことも考えるとね」
「しかし、警察関係者との繋がりを考えれば、父親が警察官である佐相柚葉の可能性も十分に考えられる。美来さんへのいじめの隠蔽も氷室によって阻まれた。もしかしたら、それが原因で自分もいじめられたかもしれない。ただ……」
やっぱり、羽賀の考えもそこで終わらないようで、
「2人とも真犯人である可能性も考えられる」
僕と同じく、諸澄君と佐相さんの両方が真犯人であると考えているのか。
「僕も同じ考えだよ。それに、どちらか1人が真犯人だと現状では説明できないことがある。諸澄君が真犯人の場合、協力した警察関係者は誰なのか。佐相さんが真犯人の場合、証拠として挙がっている2枚の写真はどこから手に入れたのか。アパートの近くで、佐相さんの目撃証言はないんだろう?」
「ああ、そうだ。まさか、氷室とここまで考えが重なっているとは。2人とも真犯人なら写真の件も、協力した警察関係者の件も説明がつく」
「うん。でもそうなると、証拠として挙がっている2枚の写真は、諸澄君から佐相さんに渡されたことになるけれど」
「それを調べるために、今、私の部下が諸澄司の家に行っているのだ」
「なるほどな」
さすがは羽賀。そこまで考えて、諸澄君のことを調べているのか。佐相さんが今週から学校に行っていないということは、学校の外で2人が会っている可能性も考えられるし。
「そういえば、診断書の方は?」
「そのことを言っていなかったな。火曜日の昼前に警察官を名乗る4、 50代の男が事件捜査のためということで診断書を発行してもらったそうだ」
「そうか。その男が誰なのかは分かったのか?」
「病院の入り口や、病院周辺の道路の監視カメラの該当する日時の映像を部下が確認したのだが、帽子やマスクをしていたことで、まだ分かっていない」
「4、50代ってことは、佐相さんの父親の可能性もありそうだな」
「ああ、私もそう考えている」
こうして、羽賀と2人で話していると事件の真相が見えつつあるけど、まだこれといった確証を得られていないところが難点だな。万が一、羽賀や浅野さんが僕の無実を証明するために捜査をしていても調べがつかないように、真犯人とその協力者は動いていたのだろうか。
「警察関係者が関わっていると思われるので、証拠を掴むことは難しいが……事件の真相には少しずつ近づいていると言っていいだろう。あと少しの辛抱だ、氷室」
「ああ。本当にあと少しだといいけど」
「そうだな。美来さん達には氷室と話をしてから面会室に行くと言っていたが、これ以上待たせてはいけないな」
「ああ。僕も早く美来と会いたい」
元気だといいけど、僕が逮捕されてしまったからショックは受けているよな。どんな顔をして待っているか考えると恐い。
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