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本編-ARIA-
第3話『三択三様』
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御両親からの許可が出たので、今夜、美来が僕の家に泊まることになった。
「智也さん、今夜はよろしくお願いします」
「……うん、よろしく」
まさか、御両親から許可が出てしまうとは思わなかった。10年前のあの日に結婚を許した母親ならともかく、父親までも許してしまうなんて。迷子になった美来を助けたことが出会いのきっかけだったとはいえ、そこまで僕のことを信用してくれているのか。
「何だか緊張してしまいますね。智也さんとの……初夜」
「初夜って。僕達は結婚してないじゃないか」
と言っても、僕も緊張しているんだけれど。親戚以外の女の子と2人きりで一夜を明かすことは初めてだし、ここはちゃんと23歳の大人としてしっかりとした振る舞いをしないと。そうじゃないと、どうなるか分からないから。
「今日も明日も明後日もよろしくお願いします」
「……今日も、明日も、明後日も?」
「はい。今日と明日泊まって、明後日の夕方くらいまで智也さんと一緒にいるつもりですよ? そのつもりでこの荷物を持ってきたんです」
美来は大きなバッグを指さす。あの中に衣服など必要なものが入っているということか。さっき運んだときは相当重かったけれど。
「つまり、最初からこの週末は一緒に僕と過ごすつもりでここに来たわけだね」
「そうです」
「……用意周到だなぁ」
今日、プロポーズをしようと決めたときに荷物まで準備していたのかもしれない。
最初は戸惑ったけれど、10年ぶりに会えたことは素直に嬉しい。どうせならこの週末、美来と一緒に楽しまないと損だな。
「あの、智也さん」
「何かな?」
「……ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ・た・し?」
そう訊いてくる美来は可愛い。とっても可愛いんだけれど、
「そうだなぁ……」
ご飯の用意は全然できていない。風呂もスイッチを入れてないのですぐに入れる状況ではない。となると、
「美来にするのはまずいからなぁ……」
「えええっ! 一番に私を選んでほしかったのに……」
「ちなみに、美来を選んだら何が出てくるのかな」
「……運が良ければ、10ヶ月後にくらいに私のお腹から、智也さんとの間にできた赤ちゃんが出てくるかと」
「……とんでもないこと言ってくるね」
やっぱりそういうことだったのか。美来は中学生男子のような思想の持ち主なのだろうか? それとも、16歳女子ってこういうことに興味がおありなのだろうか。
「美来。そういったことは段階を踏んでから考えようか。それに、今、僕が美来に……そういうことをしちゃったら、場合によっては僕が逮捕されることになる」
「……そうですね。ごめんなさい。よく考えたら、私、智也さんにとんでもないことを言っていたんですね。うううっ、恥ずかしい……」
「それでいいと思うよ」
むしろそうであってくれ。今みたいに僕を誘惑してくるような言葉を言われると、僕も美来に何かとんでもないことをしてしまいそうだから。
「そういえば、夕食がまだだったんだ。美来はもう食べた?」
「いえ、私もまだ食べていません。お作りしましょうか? いえ、むしろ智也さんのために作らせてください! 私、料理は得意なので!」
「そっか、分かった。冷蔵庫の中に食材が入っているから、好きなだけ使って。一応、野菜炒めにしようとは思っていたんだけれど、美来の作りたい料理を作っていいよ」
「分かりました! ではさっそく!」
すると、美来は制服のブレザーを脱ぎ、持ってきたバッグの中から取り出した赤いエプロンを身につける。まさか、エプロンが入っていたとは。また、料理をするためなのか、後ろ髪をヘアゴムで纏め、髪型がポニーテールへと変わる。
「エプロン姿も似合ってるね」
「ありがとうございます!」
「あと、料理をするときはポニーテールにするんだね。ちょっと印象が変わるね」
「気持ちを切り替えるために、料理をするときはいつも後ろ髪を纏めているんです」
「へえ、そうなんだ」
美来は台所にある冷蔵庫を開けて、食材を確認している。
「智也さんの言うとおり、この食材なら野菜炒めが一番作りやすいですね。ちなみに、智也さんは中華料理ってお好きですか?」
「うん、とても好きだよ」
「分かりました。では、さっと作っちゃいますね」
そう言って、美来は台所で夕食を作り始める。まさか、僕の家の台所で女の子が料理をしてくれる日が来るとはなぁ。しかも、その女の子が美来だなんて。
夕食ができるまでどう過ごそうか。一人暮らしに慣れているとこういうときにどうすればいいのか分からない。
「そうだ、風呂のスイッチを入れておこう」
浴室に行って、お湯張りのスイッチを入れる。これで、夕食を食べ終わったらすぐにお風呂に入ることができるな。
せっかくだから、美来がどんな感じで料理をしているのかを見てみよう。
「きゃっ、智也さん? どうかしましたか?」
「いや、美来がどんな感じで料理をしているのかなって。僕も一人暮らしを始めてから料理が好きになってさ」
「そうなんですね。いずれは智也さんの作ったお料理を食べさせてください」
「うん」
僕はちょっと後ろの方から料理をする美来のことを見守る。
自ら料理が得意と言っていただけあって、かなり手際がいいな。僕なんかよりもよっぽど上手い。お肉や野菜を切るのも慣れた感じ。これは自然とどんな夕食を食べることができるのか期待してしまう。
美来が料理を作り始めてからおよそ15分。
「できました! ホイコーローです!」
食卓には2人分のホイコーローが置かれる。食欲がそそられる美味しそうな匂いが部屋の中に広がっていく。
「ホイコーローは考えなかったなぁ」
「豚肉とキャベツと豆板醤がありましたので。人参やもやしも入れると美味しいんですよ。あと、彩りも考えて」
「なるほどね。ホイコーローを思いついたから、さっき中華料理が好きなのかって訊いたんだね。じゃあ、食べようか」
「はい。いただきます」
「いただきます」
さっそく、美来の作ってくれたホイコーローを一口食べる。
「うん、美味しい!」
冷蔵庫にあるものでここまで美味しいものを作るとは。
「人参ともやしの入ったホイコーローもありだね。参考にしよう」
「良かったです、お口に合って」
ホイコーローというご飯に合うおかずなので、その後も箸は止まらず……すぐに完食してしまった。ここまで美味しいと、美来が作った他の料理も食べたくなるなぁ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
「美味しいご飯を作ってくれてありがとね。そうだ、美来は甘い物は好き?」
「大好きです!」
「じゃあ、夕ご飯を作ってくれたお礼に、帰りに帰ってきたエクレアをあげるよ」
「でも、一つしかないのでは……」
「一つだけだけど、僕はまた買えばいいから」
「それでは、半分にして一緒に食べましょう。それでいいですか?」
「……うん、そうしよう」
半分ずつか。それもいいかもしれない。
僕は冷蔵庫に入れておいたエクレアを持ってきて、半分に分けてみる。
「あっ」
上手く半分に分けることはできたんだけど、その際に中に入っていたカスタードクリームが漏れてきて、僕の指に付いてしまう。
「やっぱりついちゃったか……」
「あっ、クリームが床に落ちちゃう」
そう呟くと、美来はクリームがついてしまった僕の指を舐めてきた。
「美味しいですね。このクリーム」
「そっか。あと……」
「えっ、なんですか? ……あっ」
すると、自分のしたことがようやく分かったみたいで、美来は顔を真っ赤にして、
「ご、ごめんなさい! つい、目の前にクリームがあったもので! 決して智也さんの指を舐めたいと思ったから舐めたわけではなくてですね! あううっ……」
「気にしなくていいよ。おかげで指が綺麗になったから。ありがとう」
果たして、これが今の美来の言葉に対する返答として正しいのかどうか。美来が舐めてくれたおかげで指が綺麗になったのは事実なんだから、それでよしとしよう。
「はい、美来の分」
「ありがとうございます。いただきます……」
半分に分けたエクレアを食べる。定番のスイーツだけあって美味しい。
「……美味しい」
今も恥ずかしいのか、そう呟く美来が可愛く見えるのであった。
「智也さん、今夜はよろしくお願いします」
「……うん、よろしく」
まさか、御両親から許可が出てしまうとは思わなかった。10年前のあの日に結婚を許した母親ならともかく、父親までも許してしまうなんて。迷子になった美来を助けたことが出会いのきっかけだったとはいえ、そこまで僕のことを信用してくれているのか。
「何だか緊張してしまいますね。智也さんとの……初夜」
「初夜って。僕達は結婚してないじゃないか」
と言っても、僕も緊張しているんだけれど。親戚以外の女の子と2人きりで一夜を明かすことは初めてだし、ここはちゃんと23歳の大人としてしっかりとした振る舞いをしないと。そうじゃないと、どうなるか分からないから。
「今日も明日も明後日もよろしくお願いします」
「……今日も、明日も、明後日も?」
「はい。今日と明日泊まって、明後日の夕方くらいまで智也さんと一緒にいるつもりですよ? そのつもりでこの荷物を持ってきたんです」
美来は大きなバッグを指さす。あの中に衣服など必要なものが入っているということか。さっき運んだときは相当重かったけれど。
「つまり、最初からこの週末は一緒に僕と過ごすつもりでここに来たわけだね」
「そうです」
「……用意周到だなぁ」
今日、プロポーズをしようと決めたときに荷物まで準備していたのかもしれない。
最初は戸惑ったけれど、10年ぶりに会えたことは素直に嬉しい。どうせならこの週末、美来と一緒に楽しまないと損だな。
「あの、智也さん」
「何かな?」
「……ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ・た・し?」
そう訊いてくる美来は可愛い。とっても可愛いんだけれど、
「そうだなぁ……」
ご飯の用意は全然できていない。風呂もスイッチを入れてないのですぐに入れる状況ではない。となると、
「美来にするのはまずいからなぁ……」
「えええっ! 一番に私を選んでほしかったのに……」
「ちなみに、美来を選んだら何が出てくるのかな」
「……運が良ければ、10ヶ月後にくらいに私のお腹から、智也さんとの間にできた赤ちゃんが出てくるかと」
「……とんでもないこと言ってくるね」
やっぱりそういうことだったのか。美来は中学生男子のような思想の持ち主なのだろうか? それとも、16歳女子ってこういうことに興味がおありなのだろうか。
「美来。そういったことは段階を踏んでから考えようか。それに、今、僕が美来に……そういうことをしちゃったら、場合によっては僕が逮捕されることになる」
「……そうですね。ごめんなさい。よく考えたら、私、智也さんにとんでもないことを言っていたんですね。うううっ、恥ずかしい……」
「それでいいと思うよ」
むしろそうであってくれ。今みたいに僕を誘惑してくるような言葉を言われると、僕も美来に何かとんでもないことをしてしまいそうだから。
「そういえば、夕食がまだだったんだ。美来はもう食べた?」
「いえ、私もまだ食べていません。お作りしましょうか? いえ、むしろ智也さんのために作らせてください! 私、料理は得意なので!」
「そっか、分かった。冷蔵庫の中に食材が入っているから、好きなだけ使って。一応、野菜炒めにしようとは思っていたんだけれど、美来の作りたい料理を作っていいよ」
「分かりました! ではさっそく!」
すると、美来は制服のブレザーを脱ぎ、持ってきたバッグの中から取り出した赤いエプロンを身につける。まさか、エプロンが入っていたとは。また、料理をするためなのか、後ろ髪をヘアゴムで纏め、髪型がポニーテールへと変わる。
「エプロン姿も似合ってるね」
「ありがとうございます!」
「あと、料理をするときはポニーテールにするんだね。ちょっと印象が変わるね」
「気持ちを切り替えるために、料理をするときはいつも後ろ髪を纏めているんです」
「へえ、そうなんだ」
美来は台所にある冷蔵庫を開けて、食材を確認している。
「智也さんの言うとおり、この食材なら野菜炒めが一番作りやすいですね。ちなみに、智也さんは中華料理ってお好きですか?」
「うん、とても好きだよ」
「分かりました。では、さっと作っちゃいますね」
そう言って、美来は台所で夕食を作り始める。まさか、僕の家の台所で女の子が料理をしてくれる日が来るとはなぁ。しかも、その女の子が美来だなんて。
夕食ができるまでどう過ごそうか。一人暮らしに慣れているとこういうときにどうすればいいのか分からない。
「そうだ、風呂のスイッチを入れておこう」
浴室に行って、お湯張りのスイッチを入れる。これで、夕食を食べ終わったらすぐにお風呂に入ることができるな。
せっかくだから、美来がどんな感じで料理をしているのかを見てみよう。
「きゃっ、智也さん? どうかしましたか?」
「いや、美来がどんな感じで料理をしているのかなって。僕も一人暮らしを始めてから料理が好きになってさ」
「そうなんですね。いずれは智也さんの作ったお料理を食べさせてください」
「うん」
僕はちょっと後ろの方から料理をする美来のことを見守る。
自ら料理が得意と言っていただけあって、かなり手際がいいな。僕なんかよりもよっぽど上手い。お肉や野菜を切るのも慣れた感じ。これは自然とどんな夕食を食べることができるのか期待してしまう。
美来が料理を作り始めてからおよそ15分。
「できました! ホイコーローです!」
食卓には2人分のホイコーローが置かれる。食欲がそそられる美味しそうな匂いが部屋の中に広がっていく。
「ホイコーローは考えなかったなぁ」
「豚肉とキャベツと豆板醤がありましたので。人参やもやしも入れると美味しいんですよ。あと、彩りも考えて」
「なるほどね。ホイコーローを思いついたから、さっき中華料理が好きなのかって訊いたんだね。じゃあ、食べようか」
「はい。いただきます」
「いただきます」
さっそく、美来の作ってくれたホイコーローを一口食べる。
「うん、美味しい!」
冷蔵庫にあるものでここまで美味しいものを作るとは。
「人参ともやしの入ったホイコーローもありだね。参考にしよう」
「良かったです、お口に合って」
ホイコーローというご飯に合うおかずなので、その後も箸は止まらず……すぐに完食してしまった。ここまで美味しいと、美来が作った他の料理も食べたくなるなぁ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
「美味しいご飯を作ってくれてありがとね。そうだ、美来は甘い物は好き?」
「大好きです!」
「じゃあ、夕ご飯を作ってくれたお礼に、帰りに帰ってきたエクレアをあげるよ」
「でも、一つしかないのでは……」
「一つだけだけど、僕はまた買えばいいから」
「それでは、半分にして一緒に食べましょう。それでいいですか?」
「……うん、そうしよう」
半分ずつか。それもいいかもしれない。
僕は冷蔵庫に入れておいたエクレアを持ってきて、半分に分けてみる。
「あっ」
上手く半分に分けることはできたんだけど、その際に中に入っていたカスタードクリームが漏れてきて、僕の指に付いてしまう。
「やっぱりついちゃったか……」
「あっ、クリームが床に落ちちゃう」
そう呟くと、美来はクリームがついてしまった僕の指を舐めてきた。
「美味しいですね。このクリーム」
「そっか。あと……」
「えっ、なんですか? ……あっ」
すると、自分のしたことがようやく分かったみたいで、美来は顔を真っ赤にして、
「ご、ごめんなさい! つい、目の前にクリームがあったもので! 決して智也さんの指を舐めたいと思ったから舐めたわけではなくてですね! あううっ……」
「気にしなくていいよ。おかげで指が綺麗になったから。ありがとう」
果たして、これが今の美来の言葉に対する返答として正しいのかどうか。美来が舐めてくれたおかげで指が綺麗になったのは事実なんだから、それでよしとしよう。
「はい、美来の分」
「ありがとうございます。いただきます……」
半分に分けたエクレアを食べる。定番のスイーツだけあって美味しい。
「……美味しい」
今も恥ずかしいのか、そう呟く美来が可愛く見えるのであった。
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