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第68話『花畑で彼女を想う。』
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夕立駅までは電車で3時間ほどの行程となる。
しかし、バイトを無事に終わらせることが安心感なのか。それとも、池津で楽しい思い出を作ることができたからなのか。疲れはあるものの、行くときとは違って、電車の中ではとてもリラックスとした時間を過ごすことができた。
途中、東京駅に向かう快速電車に乗り換えをして、行くときと同じようにボックス席に座ることができた。だいたい1時間半くらい乗る予定なので、3人は30分ずつ俺の隣の席に座ることに決めた。
じゃんけんの結果、紗衣、麗奈先輩、咲夜の順番で俺の隣の席に座った。行くときには既に紗衣と麗奈先輩の気持ちは知っていたけれど、一昨日の夜の咲夜の告白に、ミスコンで3人から改めて告白された。そのこともあって、彼女達の抱く俺への好意の強さと深さを知った4日間になったなと思う。
「そろそろ夕立駅に到着するね」
「そうだね、紗衣ちゃん」
午後4時半。
池津家を出発してからおよそ3時間。遅延や運転見合わせもなく、気付けば、もうすぐ夕立駅に到着しようとしていた。
旅先から離れてゆく寂しさはあっても、地元に戻ってくると安心感を覚える。それもまた旅をしてきた醍醐味なのだろう。
『まもなく、夕立。夕立。お出口は左側です』
自宅の最寄り駅に到着するアナウンスが聞こえ、程なくして夕立駅に到着した。
「それじゃ、またね。紗衣ちゃん」
「またな、紗衣」
「またね、紗衣ちゃん。夏休みはまだあるから、また遊ぼうね!」
「ええ、また遊びましょう。楽しい4日間でした。3人とも気を付けて帰ってください」
紗衣に手を振りながら、俺と咲夜、麗奈先輩は電車から降りる。その際、紗衣からキスをされた。
そして、電車は清田の方に向かって発車した。その電車が見えなくなるまで俺達は手を振り続けた。
3人となった俺達は改札へと向かう。3日と半日ぶりなのに、随分と長い間遠いところへ行っていた気持ちになるな。とても懐かしく思える。
「じゃあ、あたしはここでお別れですね。楽しい4日間でした。颯人君に告白することもできたし」
「ミスコンでの告白も素敵だったよ。私も改めて告白できて良かったな」
「会長さんも素敵でしたよ。夏休みもまだ1ヶ月ありますし、また4人での時間を過ごしたいですね」
そう言うと、咲夜は楽しげな笑みを浮かべながら俺にキスをしてきた。池津に行く前と後で一番印象が変わったのは咲夜かもしれないな。
「じゃあ、またです!」
咲夜は麗奈先輩と俺に手を振り、ゆっくりと南口の方に向かって歩いていった。
咲夜の姿が見えなくなったところで、俺は麗奈先輩と一緒に北口の方に向かって歩き出す。その際、麗奈先輩は俺の手をしっかりと握る。
「家が近いと、こういうときにいいよね。2人よりも長くはやちゃんと一緒にいることができるから」
「そうですね。行くときも、俺の家の近くで待ち合わせして夕立駅に行きましたもんね」
「うん!」
麗奈先輩は嬉しそうな笑みを浮かべると、俺の手を握り直す。
「……この4日間は夢のような時間だったな」
「夢のよう……ですか?」
「うん。はやちゃんとお話しできるだけじゃなくて、一緒に遠いところまで行って、一緒にバイトをして、ミスコンで告白して。そんな中、何度もキスをして。バイト中に痴漢に遭ったけれど、はやちゃんが助けてくれた。それらのことは3年前、はやちゃんにフラれたり、放火事件のことを知ったりしたときには想像できなかったことだから。本当に幸せな時間を過ごすことができたって思ってるよ。ありがとう」
嬉しい気持ちが膨らんだのか、麗奈先輩は俺の手を離して腕を絡ませてくる。夕方でも、夕立市は池津市と比べて蒸し暑い。それでも、彼女の温もりは全く嫌なものではなかった。
3年前には想像できなかった幸せな時間か。それなら、
「俺にとっても夢のような時間でした。紗衣とは小さい頃から一緒に過ごすことが多かったですけど、高校で出会った咲夜や3年前のことがあって疎遠になっていた麗奈先輩と、夕立から遠く離れた場所で過ごしたんですから。バイトも海で遊んだことも楽しかったです。ミスコンでみんながまた告白してくれて……幸せに思います」
「……はやちゃんがそう言ってくれて良かった」
麗奈先輩は彼女らしい優しくて温かい笑みを見せてくれる。その笑顔を見ていると安らぎ、愛おしさが生まれる。ただ、それは咲夜や紗衣の笑顔を見たときも同じだ。
その後、麗奈先輩と俺の家の方向が別れる場所に着くまで、何も言葉を交わさなかった。
「はやちゃん、ここでお別れだね」
「そうですね。夏休みはまだ1ヶ月ありますし、また会いましょう」
「うん! じゃあ、またね」
麗奈先輩は少し長めのキスをして、俺の元から立ち去っていった。
何だか、ひさしぶりに1人になった気がするな。池津にいる間も宿の4号室にいるときを中心に1人の時間はあったけれど、すぐ近くに3人がいて、会おうと思えばいつでも会うことができたから。
「……寂しいな」
そんな気持ちを素直に抱くことができるなんて。それだけ、3人の存在が俺の中でとても大きくなっているのだろう。そんなことを考えながら自宅に向かって歩いた。
「ただいま」
自宅の玄関を開けて少し大きめの声で言った。池津での時間も楽しかったけれど、家に帰るととても安心する。
「おかえり、颯人」
リビングから母さんが姿を現す。俺と目が合うと母さんはにっこりと笑う。そして2階からは小雪が降りてきて、
「おかえり! お兄ちゃん!」
俺のことをぎゅっと抱きしめて出迎えてくれた。夏休み中だから、今の時間にはもう部活から帰ってきているんだな。
それにしても、俺が帰ってきたことをこんなにも嬉しそうにしてくれるとは。俺の妹は本当に可愛いな。兄としてとても幸せだ。
「母さん、小雪、ただいま。無事にバイトしてきたぞ。結構バイト代も出たから、お菓子をたくさん買ってきたからな」
「やったー!」
「ありがとう、颯人。お父さんもきっと喜ぶと思うわ」
「父さんも甘いもの好きだからな」
その後、小雪にお土産の入った紙袋を渡し、俺は夕食までの間に、荷物の整理や洗濯物を洗ったりする。その間に父さんが帰ってきて、俺がバイト代でお土産を買ってきたことを話すと、父さんは号泣していた。
夕食は家族4人で食べ、そのときはもちろん池津での話が話題となった。お昼頃にお土産話を楽しみにしているとメッセージを送っただけあってか、小雪は楽しそうに話を聞いてくれていた。
夕食を食べた後は部屋で少し休み、花畑の様子を見に行くことにした。
「うん、大丈夫そうだな」
夕食のとき、母さんや小雪からちゃんと水をあげていたとは聞いていたけれど、しっかりと育っているみたいだな。
夜だからか、ひまわりの花は東の方を向きしおれた様子になっている。明日になればまた元気に咲くだろう。あじさいも開花時期が過ぎたからか、もう咲いている花はない。そして、月下美人は……今日は咲かなそうだ。
「……あれから1ヶ月半か」
咲夜と話したあの日は今日とは違って満月で、月下美人の花が綺麗に咲いていた。一昨日の夜、咲夜と一緒に散歩しているときにも思ったけれど、あの日に咲夜に話しかけられたことがきっかけで今があるんじゃないかって思っている。
「色んなことがあったな」
この1ヶ月半、咲夜、紗衣、麗奈先輩のおかげで楽しいことが多かったけれど、咲夜と喧嘩したり、叶との再会があったりと辛くなってしまったこともあった。目を瞑ると、それらのことを含めて鮮明に思い出す。
咲夜、紗衣、麗奈先輩の笑顔もたくさん思い浮かぶ。彼女達は多くの笑顔を俺に向けてくれた。思い出すだけでも気持ちが温かくなる。きっと、彼女達のことが好きなんだろう。
しかし、様々なことを思い出す中、やがてたった1人のことばかり考えるようになった。それが分かった瞬間、俺は彼女のことが一番に好きなのだと自覚した。その瞬間、全身が熱くなっていき、心臓の鼓動が激しくなっていく。
「……今すぐに伝えたい」
彼女は俺に好きだと告白してくれて、俺からの返事を今も待っているのだから。
俺はスマートフォンを手にとって、彼女に電話をかけるのであった。
しかし、バイトを無事に終わらせることが安心感なのか。それとも、池津で楽しい思い出を作ることができたからなのか。疲れはあるものの、行くときとは違って、電車の中ではとてもリラックスとした時間を過ごすことができた。
途中、東京駅に向かう快速電車に乗り換えをして、行くときと同じようにボックス席に座ることができた。だいたい1時間半くらい乗る予定なので、3人は30分ずつ俺の隣の席に座ることに決めた。
じゃんけんの結果、紗衣、麗奈先輩、咲夜の順番で俺の隣の席に座った。行くときには既に紗衣と麗奈先輩の気持ちは知っていたけれど、一昨日の夜の咲夜の告白に、ミスコンで3人から改めて告白された。そのこともあって、彼女達の抱く俺への好意の強さと深さを知った4日間になったなと思う。
「そろそろ夕立駅に到着するね」
「そうだね、紗衣ちゃん」
午後4時半。
池津家を出発してからおよそ3時間。遅延や運転見合わせもなく、気付けば、もうすぐ夕立駅に到着しようとしていた。
旅先から離れてゆく寂しさはあっても、地元に戻ってくると安心感を覚える。それもまた旅をしてきた醍醐味なのだろう。
『まもなく、夕立。夕立。お出口は左側です』
自宅の最寄り駅に到着するアナウンスが聞こえ、程なくして夕立駅に到着した。
「それじゃ、またね。紗衣ちゃん」
「またな、紗衣」
「またね、紗衣ちゃん。夏休みはまだあるから、また遊ぼうね!」
「ええ、また遊びましょう。楽しい4日間でした。3人とも気を付けて帰ってください」
紗衣に手を振りながら、俺と咲夜、麗奈先輩は電車から降りる。その際、紗衣からキスをされた。
そして、電車は清田の方に向かって発車した。その電車が見えなくなるまで俺達は手を振り続けた。
3人となった俺達は改札へと向かう。3日と半日ぶりなのに、随分と長い間遠いところへ行っていた気持ちになるな。とても懐かしく思える。
「じゃあ、あたしはここでお別れですね。楽しい4日間でした。颯人君に告白することもできたし」
「ミスコンでの告白も素敵だったよ。私も改めて告白できて良かったな」
「会長さんも素敵でしたよ。夏休みもまだ1ヶ月ありますし、また4人での時間を過ごしたいですね」
そう言うと、咲夜は楽しげな笑みを浮かべながら俺にキスをしてきた。池津に行く前と後で一番印象が変わったのは咲夜かもしれないな。
「じゃあ、またです!」
咲夜は麗奈先輩と俺に手を振り、ゆっくりと南口の方に向かって歩いていった。
咲夜の姿が見えなくなったところで、俺は麗奈先輩と一緒に北口の方に向かって歩き出す。その際、麗奈先輩は俺の手をしっかりと握る。
「家が近いと、こういうときにいいよね。2人よりも長くはやちゃんと一緒にいることができるから」
「そうですね。行くときも、俺の家の近くで待ち合わせして夕立駅に行きましたもんね」
「うん!」
麗奈先輩は嬉しそうな笑みを浮かべると、俺の手を握り直す。
「……この4日間は夢のような時間だったな」
「夢のよう……ですか?」
「うん。はやちゃんとお話しできるだけじゃなくて、一緒に遠いところまで行って、一緒にバイトをして、ミスコンで告白して。そんな中、何度もキスをして。バイト中に痴漢に遭ったけれど、はやちゃんが助けてくれた。それらのことは3年前、はやちゃんにフラれたり、放火事件のことを知ったりしたときには想像できなかったことだから。本当に幸せな時間を過ごすことができたって思ってるよ。ありがとう」
嬉しい気持ちが膨らんだのか、麗奈先輩は俺の手を離して腕を絡ませてくる。夕方でも、夕立市は池津市と比べて蒸し暑い。それでも、彼女の温もりは全く嫌なものではなかった。
3年前には想像できなかった幸せな時間か。それなら、
「俺にとっても夢のような時間でした。紗衣とは小さい頃から一緒に過ごすことが多かったですけど、高校で出会った咲夜や3年前のことがあって疎遠になっていた麗奈先輩と、夕立から遠く離れた場所で過ごしたんですから。バイトも海で遊んだことも楽しかったです。ミスコンでみんながまた告白してくれて……幸せに思います」
「……はやちゃんがそう言ってくれて良かった」
麗奈先輩は彼女らしい優しくて温かい笑みを見せてくれる。その笑顔を見ていると安らぎ、愛おしさが生まれる。ただ、それは咲夜や紗衣の笑顔を見たときも同じだ。
その後、麗奈先輩と俺の家の方向が別れる場所に着くまで、何も言葉を交わさなかった。
「はやちゃん、ここでお別れだね」
「そうですね。夏休みはまだ1ヶ月ありますし、また会いましょう」
「うん! じゃあ、またね」
麗奈先輩は少し長めのキスをして、俺の元から立ち去っていった。
何だか、ひさしぶりに1人になった気がするな。池津にいる間も宿の4号室にいるときを中心に1人の時間はあったけれど、すぐ近くに3人がいて、会おうと思えばいつでも会うことができたから。
「……寂しいな」
そんな気持ちを素直に抱くことができるなんて。それだけ、3人の存在が俺の中でとても大きくなっているのだろう。そんなことを考えながら自宅に向かって歩いた。
「ただいま」
自宅の玄関を開けて少し大きめの声で言った。池津での時間も楽しかったけれど、家に帰るととても安心する。
「おかえり、颯人」
リビングから母さんが姿を現す。俺と目が合うと母さんはにっこりと笑う。そして2階からは小雪が降りてきて、
「おかえり! お兄ちゃん!」
俺のことをぎゅっと抱きしめて出迎えてくれた。夏休み中だから、今の時間にはもう部活から帰ってきているんだな。
それにしても、俺が帰ってきたことをこんなにも嬉しそうにしてくれるとは。俺の妹は本当に可愛いな。兄としてとても幸せだ。
「母さん、小雪、ただいま。無事にバイトしてきたぞ。結構バイト代も出たから、お菓子をたくさん買ってきたからな」
「やったー!」
「ありがとう、颯人。お父さんもきっと喜ぶと思うわ」
「父さんも甘いもの好きだからな」
その後、小雪にお土産の入った紙袋を渡し、俺は夕食までの間に、荷物の整理や洗濯物を洗ったりする。その間に父さんが帰ってきて、俺がバイト代でお土産を買ってきたことを話すと、父さんは号泣していた。
夕食は家族4人で食べ、そのときはもちろん池津での話が話題となった。お昼頃にお土産話を楽しみにしているとメッセージを送っただけあってか、小雪は楽しそうに話を聞いてくれていた。
夕食を食べた後は部屋で少し休み、花畑の様子を見に行くことにした。
「うん、大丈夫そうだな」
夕食のとき、母さんや小雪からちゃんと水をあげていたとは聞いていたけれど、しっかりと育っているみたいだな。
夜だからか、ひまわりの花は東の方を向きしおれた様子になっている。明日になればまた元気に咲くだろう。あじさいも開花時期が過ぎたからか、もう咲いている花はない。そして、月下美人は……今日は咲かなそうだ。
「……あれから1ヶ月半か」
咲夜と話したあの日は今日とは違って満月で、月下美人の花が綺麗に咲いていた。一昨日の夜、咲夜と一緒に散歩しているときにも思ったけれど、あの日に咲夜に話しかけられたことがきっかけで今があるんじゃないかって思っている。
「色んなことがあったな」
この1ヶ月半、咲夜、紗衣、麗奈先輩のおかげで楽しいことが多かったけれど、咲夜と喧嘩したり、叶との再会があったりと辛くなってしまったこともあった。目を瞑ると、それらのことを含めて鮮明に思い出す。
咲夜、紗衣、麗奈先輩の笑顔もたくさん思い浮かぶ。彼女達は多くの笑顔を俺に向けてくれた。思い出すだけでも気持ちが温かくなる。きっと、彼女達のことが好きなんだろう。
しかし、様々なことを思い出す中、やがてたった1人のことばかり考えるようになった。それが分かった瞬間、俺は彼女のことが一番に好きなのだと自覚した。その瞬間、全身が熱くなっていき、心臓の鼓動が激しくなっていく。
「……今すぐに伝えたい」
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