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第58話『かんぱい。』
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健太と一緒に海の家に戻ると、新しいTシャツに着替えた璃子が海の家に戻ってきていた。食器をキッチンに戻した璃子は俺達のことを見ると、ツンとした様子で空いたテーブルに行き、ふきんを使って綺麗にしている。またお手伝いができるくらいに元気になったことが分かって一安心。
俺達の近くにいた麗奈先輩は、安堵の笑みを浮かべながら俺達のことを見る。
「はやちゃんに健太君、おかえり」
「おっ、神楽君に健太君、戻ってきたんだね。今、璃子が食器を持ってきたから、健太君は食器を洗ってくれるかな」
「わ、分かりました! あと、麗奈お姉さん、オレのせいで迷惑をかけてすみません」
「ううん、気にしないで。ただ、さっきみたいなことにならないように気を付けよう。また一緒に海の家のお仕事を頑張ろうね」
「はい!」
元気よく返事をする健太に、麗奈先輩は朗らかな笑みを浮かべている。もしかしたら、生徒会でも、メンバーが何かミスをしたらこういう風に接しているのだろうか。
俺はキッチンに戻り、夏実さんの横で再び料理やスイーツ作りを始めた。
それからも、俺達はそれぞれが担当する海の家の仕事を行なっていく。
璃子と健太の様子を定期的に確認するようにしているが、冷やし中華事件もあってか、璃子は健太と意図的に距離を取っているように見えた。その証拠に、咲夜や紗衣、麗奈先輩、夏実さん、俺には笑顔で話しかけることはあったけど、健太にだけは話しかけなかった。だからか、咲夜や紗衣、麗奈先輩、夏実さんも何かを講じることはなかった。
健太も最初こそは璃子の近くに行っていたが、諦めたのか、途中からはお手伝いをこなすことに集中しているように見えた。それもあってか、営業が終了するまで冷やし中華事件のようなトラブルや、喧嘩をすることは一切なかった。
「お手伝い中は無理でした……」
営業が終わって、後片付けに入った直後、健太は俺のところにやってきてそう呟いた。朝からお手伝いをしたからか、結構疲れている様子だ。
「まあ、お店にはお客さんもいたし、璃子と休憩時間がズレていたもんな」
「ええ。璃子が休憩に入ったとき、オレも休憩して謝ろうかと考えたんですけど、なかなか勇気が出なくて」
「そうだったのか」
お手伝い中、璃子は健太のことを避けている様子だった。だから、健太は璃子が休憩しているときに謝ろうと考えたのだろう。休憩はお店の外ですることになっているし。
ちなみに、璃子は今、咲夜と楽しくしゃべりながら、テーブルの拭き掃除をしている。そんな璃子のことを健太はほんのりと顔を赤らめながら見ていた。しかし、
「……何こっちを見ているの? 健太君。颯人さんも」
俺達が見ていることに気付いたからか、璃子は不機嫌そうな様子でそう言ってくる。2人が会話をするのは、冷やし中華事件以降では初めてだ。
「えっと、その……」
健太は困惑した様子でチラッと俺のことを見てくる。楽しい誕生日会を過ごすのであれば、時間的にもこれがラストチャンスだと考えるべきだろう。
「健太。今はここに俺達しかいない。みんな見守っているから」
健太の肩をそっと掴むと、勇気が出たのか健太は真剣な表情になって、ゆっくりと首肯した。俺もそれに答えるように頷く。
いってこい、と俺が健太の背中を軽く押すと、健太は璃子の目の前までゆっくりと歩く。璃子はそんな彼から逃げようとはしなかった。
「璃子。その……ごめん。今日、冷やし中華をぶちまけたこともそうだし、先週、オレの友達と一緒に歩いているところを見つけたときに、バカとか色々言っちまって。本当に……ごめんなさい」
健太はそんな謝罪の言葉を言うと、璃子に向かって深く頭を下げた。だからか、さすがに璃子も真剣な様子で健太のことを見ている。
「……顔を上げてよ、健太君」
小さな声で健太にそう言う。
璃子の言うように、健太はゆっくりと顔を上げると、色々な想いを抱いているのか、複雑そうな表情をして視線をちらつかせる。
「あたしも、その……冷やし中華をぶちまけられたとき、思わず大嫌いだって言っちゃってごめん。喧嘩していて、健太君のことを見ていたらイライラもして。だから、颯人さん達やお客さんの前でキツく言っちゃった。健太君に凄く恥をかかせちゃったと思う。あたしの方こそごめんなさい」
「……い、いいんだよ! あれはオレがもっと周りを見ていれば良かったんだし。璃子と喧嘩中だから、いつも以上にお手伝いを頑張らないといけねえなって張り切りすぎたんだし……」
「……ふふっ」
璃子はようやく健太の前で楽しげな笑みを見せる。そんな彼女がとても可愛いと思ったのだろう。健太の顔がかなり赤くなっている。
「もう気付いているかもしれないけれど、健太君とスーパーの前で会ったあの日、健太君への誕生日プレゼントを買っていたんだよ。ただ、健太君も12歳だし、男の子らしいものがいいかなって思って。それで、彼に今日渡すプレゼント選びに協力してもらったんだよ」
「……そうだったのかよ! 全然気付かなかったぜ!」
健太、凄く嬉しそうだな。
なるほど、健太のプレゼント選びのためにクラスメイトの男子と一緒にいたのか。運悪くそれが長く続く喧嘩の種になってしまったってことか。
「えっ、健太君、今日が誕生日だったの!?」
「私、全然知らなかったよ!」
咲夜と麗奈先輩はとても驚いている。そんな2人のことを見て健太と璃子は笑う。
「そうっす。オレ、今日が12歳の誕生日なんです」
「てっきり、3人は璃子から聞いていると思いましたよ。昨日、一緒に温泉に入っているときとかに」
「健太君の話は3人にしましたよ。ただ、あのときは喧嘩中でしたからね。颯人さんへのこともありましたし」
「怒っていたからか、誕生日のたの字も出なかったね」
紗衣はそう言うと苦笑い。昨日の夜は相当怒った様子で健太君のことについて話していたんだろうな。
「健太君がお誕生日なら、あたし達からも何かプレゼントをあげないと! でも、全然思いつかないや」
「気持ちだけで十分っすよ! 兄貴は今朝、スポーツドリンクを買ってくれましたけど」
「じゃあ、あたし達も飲み物にしようか」
「あざっす!」
「良かったね、健太君。先週、あたしが買ったプレゼントは誕生日会で渡すから楽しみにしていてね」
「おう!」
健太、すっかりと元気になったな。璃子も健太と仲直りすることができたからか、可愛らしい笑みを浮かべている。こういう顔を見ていたら、健太が好きになるのも納得できるかな。
「みんなバイトやお手伝いを頑張ってくれたし、今日は健太君の誕生日だから、まだ残っているジュースを飲んで乾杯しようか」
夏実さんの提案により、俺達は冷蔵庫の中に残っているジュースをコップに並々と注いでいく。ちなみに俺はサイダーで、本日が誕生日の健太はオレンジジュースだ。
「みんな、好きな飲み物をコップに注いだね。じゃあ、今日もお仕事お疲れ様でした! そして、健太君12歳の誕生日おめでとう! かんぱーい!」
『かんぱーい!』
健太達とグラスを軽く当てて、俺はサイダーをゴクゴクと飲んでいく。料理やスイーツ作りをたくさんして疲れたし、今日も暑かったからか凄く美味しいな。
「兄貴! オレンジジュース、今までの中で一番美味いっす!」
「そうか、良かったな。改めて、12歳の誕生日おめでとう、健太」
「ありがとうございます! 兄貴!」
健太は満面の笑みを浮かべる。璃子と仲直りができて、俺達と一緒に乾杯し、祝福の言葉をもらって。そして、これから家で誕生日会が開かれ、璃子からプレゼントをもらう予定だからとても嬉しいのだろう。きっと、12歳の誕生日も良かったと思うことができるだろう。
その後、旅館の従業員の休憩室で夕食を食べているときに、健太からメッセージと写真を受け取った。
健太は璃子から誕生日プレゼントとして、青いスポーツタオルをもらったとのこと。朝と晩、健太はランニングすることが日課になっていて、まだまだ暑い日が続くからタオルなんていいんじゃないかと、例の一緒に買い物に付き合ってもらった友達にアドバイスされたとのこと。
誕生日おめでとう、健太。あと、今は璃子と幼なじみだけど、いつかは恋人として付き合うことができるといいな。
俺達の近くにいた麗奈先輩は、安堵の笑みを浮かべながら俺達のことを見る。
「はやちゃんに健太君、おかえり」
「おっ、神楽君に健太君、戻ってきたんだね。今、璃子が食器を持ってきたから、健太君は食器を洗ってくれるかな」
「わ、分かりました! あと、麗奈お姉さん、オレのせいで迷惑をかけてすみません」
「ううん、気にしないで。ただ、さっきみたいなことにならないように気を付けよう。また一緒に海の家のお仕事を頑張ろうね」
「はい!」
元気よく返事をする健太に、麗奈先輩は朗らかな笑みを浮かべている。もしかしたら、生徒会でも、メンバーが何かミスをしたらこういう風に接しているのだろうか。
俺はキッチンに戻り、夏実さんの横で再び料理やスイーツ作りを始めた。
それからも、俺達はそれぞれが担当する海の家の仕事を行なっていく。
璃子と健太の様子を定期的に確認するようにしているが、冷やし中華事件もあってか、璃子は健太と意図的に距離を取っているように見えた。その証拠に、咲夜や紗衣、麗奈先輩、夏実さん、俺には笑顔で話しかけることはあったけど、健太にだけは話しかけなかった。だからか、咲夜や紗衣、麗奈先輩、夏実さんも何かを講じることはなかった。
健太も最初こそは璃子の近くに行っていたが、諦めたのか、途中からはお手伝いをこなすことに集中しているように見えた。それもあってか、営業が終了するまで冷やし中華事件のようなトラブルや、喧嘩をすることは一切なかった。
「お手伝い中は無理でした……」
営業が終わって、後片付けに入った直後、健太は俺のところにやってきてそう呟いた。朝からお手伝いをしたからか、結構疲れている様子だ。
「まあ、お店にはお客さんもいたし、璃子と休憩時間がズレていたもんな」
「ええ。璃子が休憩に入ったとき、オレも休憩して謝ろうかと考えたんですけど、なかなか勇気が出なくて」
「そうだったのか」
お手伝い中、璃子は健太のことを避けている様子だった。だから、健太は璃子が休憩しているときに謝ろうと考えたのだろう。休憩はお店の外ですることになっているし。
ちなみに、璃子は今、咲夜と楽しくしゃべりながら、テーブルの拭き掃除をしている。そんな璃子のことを健太はほんのりと顔を赤らめながら見ていた。しかし、
「……何こっちを見ているの? 健太君。颯人さんも」
俺達が見ていることに気付いたからか、璃子は不機嫌そうな様子でそう言ってくる。2人が会話をするのは、冷やし中華事件以降では初めてだ。
「えっと、その……」
健太は困惑した様子でチラッと俺のことを見てくる。楽しい誕生日会を過ごすのであれば、時間的にもこれがラストチャンスだと考えるべきだろう。
「健太。今はここに俺達しかいない。みんな見守っているから」
健太の肩をそっと掴むと、勇気が出たのか健太は真剣な表情になって、ゆっくりと首肯した。俺もそれに答えるように頷く。
いってこい、と俺が健太の背中を軽く押すと、健太は璃子の目の前までゆっくりと歩く。璃子はそんな彼から逃げようとはしなかった。
「璃子。その……ごめん。今日、冷やし中華をぶちまけたこともそうだし、先週、オレの友達と一緒に歩いているところを見つけたときに、バカとか色々言っちまって。本当に……ごめんなさい」
健太はそんな謝罪の言葉を言うと、璃子に向かって深く頭を下げた。だからか、さすがに璃子も真剣な様子で健太のことを見ている。
「……顔を上げてよ、健太君」
小さな声で健太にそう言う。
璃子の言うように、健太はゆっくりと顔を上げると、色々な想いを抱いているのか、複雑そうな表情をして視線をちらつかせる。
「あたしも、その……冷やし中華をぶちまけられたとき、思わず大嫌いだって言っちゃってごめん。喧嘩していて、健太君のことを見ていたらイライラもして。だから、颯人さん達やお客さんの前でキツく言っちゃった。健太君に凄く恥をかかせちゃったと思う。あたしの方こそごめんなさい」
「……い、いいんだよ! あれはオレがもっと周りを見ていれば良かったんだし。璃子と喧嘩中だから、いつも以上にお手伝いを頑張らないといけねえなって張り切りすぎたんだし……」
「……ふふっ」
璃子はようやく健太の前で楽しげな笑みを見せる。そんな彼女がとても可愛いと思ったのだろう。健太の顔がかなり赤くなっている。
「もう気付いているかもしれないけれど、健太君とスーパーの前で会ったあの日、健太君への誕生日プレゼントを買っていたんだよ。ただ、健太君も12歳だし、男の子らしいものがいいかなって思って。それで、彼に今日渡すプレゼント選びに協力してもらったんだよ」
「……そうだったのかよ! 全然気付かなかったぜ!」
健太、凄く嬉しそうだな。
なるほど、健太のプレゼント選びのためにクラスメイトの男子と一緒にいたのか。運悪くそれが長く続く喧嘩の種になってしまったってことか。
「えっ、健太君、今日が誕生日だったの!?」
「私、全然知らなかったよ!」
咲夜と麗奈先輩はとても驚いている。そんな2人のことを見て健太と璃子は笑う。
「そうっす。オレ、今日が12歳の誕生日なんです」
「てっきり、3人は璃子から聞いていると思いましたよ。昨日、一緒に温泉に入っているときとかに」
「健太君の話は3人にしましたよ。ただ、あのときは喧嘩中でしたからね。颯人さんへのこともありましたし」
「怒っていたからか、誕生日のたの字も出なかったね」
紗衣はそう言うと苦笑い。昨日の夜は相当怒った様子で健太君のことについて話していたんだろうな。
「健太君がお誕生日なら、あたし達からも何かプレゼントをあげないと! でも、全然思いつかないや」
「気持ちだけで十分っすよ! 兄貴は今朝、スポーツドリンクを買ってくれましたけど」
「じゃあ、あたし達も飲み物にしようか」
「あざっす!」
「良かったね、健太君。先週、あたしが買ったプレゼントは誕生日会で渡すから楽しみにしていてね」
「おう!」
健太、すっかりと元気になったな。璃子も健太と仲直りすることができたからか、可愛らしい笑みを浮かべている。こういう顔を見ていたら、健太が好きになるのも納得できるかな。
「みんなバイトやお手伝いを頑張ってくれたし、今日は健太君の誕生日だから、まだ残っているジュースを飲んで乾杯しようか」
夏実さんの提案により、俺達は冷蔵庫の中に残っているジュースをコップに並々と注いでいく。ちなみに俺はサイダーで、本日が誕生日の健太はオレンジジュースだ。
「みんな、好きな飲み物をコップに注いだね。じゃあ、今日もお仕事お疲れ様でした! そして、健太君12歳の誕生日おめでとう! かんぱーい!」
『かんぱーい!』
健太達とグラスを軽く当てて、俺はサイダーをゴクゴクと飲んでいく。料理やスイーツ作りをたくさんして疲れたし、今日も暑かったからか凄く美味しいな。
「兄貴! オレンジジュース、今までの中で一番美味いっす!」
「そうか、良かったな。改めて、12歳の誕生日おめでとう、健太」
「ありがとうございます! 兄貴!」
健太は満面の笑みを浮かべる。璃子と仲直りができて、俺達と一緒に乾杯し、祝福の言葉をもらって。そして、これから家で誕生日会が開かれ、璃子からプレゼントをもらう予定だからとても嬉しいのだろう。きっと、12歳の誕生日も良かったと思うことができるだろう。
その後、旅館の従業員の休憩室で夕食を食べているときに、健太からメッセージと写真を受け取った。
健太は璃子から誕生日プレゼントとして、青いスポーツタオルをもらったとのこと。朝と晩、健太はランニングすることが日課になっていて、まだまだ暑い日が続くからタオルなんていいんじゃないかと、例の一緒に買い物に付き合ってもらった友達にアドバイスされたとのこと。
誕生日おめでとう、健太。あと、今は璃子と幼なじみだけど、いつかは恋人として付き合うことができるといいな。
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