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第41話『気になっていること』
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喫茶店・いぶにんぐで昼食を食べ終わった俺達は、ショッピングモールの近くにあるカラオケ屋さんへと向かう。そこは咲夜オススメのカラオケ店で、機種によってはマニアックな楽曲まで歌うことができるそうだ。また、とても広い部屋がたくさんあるのだとか。
カラオケ屋さんに到着すると、今日で1学期が終わる高校が多いのか、フロントには夕立高校以外の制服を着た人が結構いる。
4人で初めて来たし、明日から夏休みなのでたっぷりと歌おうという咲夜の提案で、俺達はフリータイムドリンクバー付きのプランを選んだ。フロントに学生が結構いるので空室があるか不安だったけれど、カラオケの機種によっては今すぐに利用できる部屋があるので、俺達はそれを利用することにした。
また、フリータイムは午後8時までなので、さっそく母さんのスマホに8時過ぎになりそうだとメッセージを送っておいた。
ドリンクバー用のグラスを持って、俺達は今日利用する部屋へと向かう。
「あたし達が歌う部屋はここですね」
そう言って、咲夜はゆっくりと扉を開ける。
4人で利用するには十分すぎるほどの広さの部屋だな。正面にはモニターがあり、今は何も操作していないからか、女性アイドルグループの新曲のミュージックビデオが映されている。
マイクや曲入力用の機械の置いてあるテーブルを挟む形で、両側の壁に長めのソファーがある。とりあえずは喫茶店のときと同じように、咲夜と紗衣、麗奈先輩と俺で座ることにした。
「結構広い部屋だね、咲夜ちゃん」
「そうですね。小学校の高学年くらいから友達とカラオケに行くようになったんですけど、部屋が広くて、ドリンクの種類も多いので絶対にここに来ていました」
「そうなんだ」
「うちの地元の清田にもカラオケボックスはあるけれど、こんなに広い部屋に入ったことはないな。そういえば、颯人と一緒にカラオケに来るのってひさしぶりだよね」
「そうだな。中学以降は行ってないと思うから、少なくとも3年は経ってるな」
「そうだよね。ただ、最後に行ったときは声があまり低くなかったよね」
「ああ」
紗衣と最後に来たのは、俺が声変わりをする前だったか。そう考えると、随分と来ていなかったのだと実感する。あと、そのときのことを覚えていてくれるのは嬉しいな。
「颯人君って低めの声だし、曲によってはかなり味わい深く聞こえそう」
「それ分かる! 紗衣ちゃん、はやちゃんってお歌は上手なの?」
「当時は小学生でしたけど、結構上手だと思いましたね。今の声になってから颯人の歌声は全然聴いていないので楽しみです」
「私も今の話を聞いてより楽しみになったよ!」
「あたしも聞いてみたいな、颯人君の歌声」
咲夜と麗奈先輩は目を輝かせながら俺のことを見てくる。
そこまで期待されると緊張してしまうな。ただ、玄米法師さんなど歌ってみたい曲はたくさんあるので楽しんで歌うことにするか。
「分かりました。ただ、まずはドリンクを持ってきましょう」
俺達は部屋の近くにあるドリンクバーコーナーで、各々の好きな飲み物をグラスに注ぐ。咲夜の言う通り種類が豊富だな。俺はジンジャーエールにした。
そういえば、昔、小雪が俺にブレンドジュースだって言って、コーラとメロンソーダとオレンジジュースを混ぜたヤツを作ってくれたな。凄く甘かったのを覚えている。オレンジの酸味があったから飲みきることができたけど。
部屋に戻ると、俺はさっそく歌を歌い始める。紗衣から、自分も俺も好きな玄米法師さんの曲を歌ってほしいというリクエストがあったので、俺は『Melon』を歌うことに。
玄米法師さんの『Melon』という曲は、悲しげな雰囲気のバラード曲。ただ、去年発売されたときから現在までヒットし続けており、カラオケでもチャート1位を取り続けている人気曲。だからか、3人とも笑みを浮かべながら聴き入っていた。
「……ありがとう」
俺が歌い終わると、3人は拍手を送ってくれた。
ひさしぶりにカラオケに来たけれど、こうやってしっかり歌うと気持ちがいいな。
「颯人君、上手だね!」
「スマホで録音しておいて良かったよ!」
麗奈先輩、いつの間に録音していたんだか。上手だと言ってくれるのは嬉しいけれど、それが残るというのは恥ずかしいな。本人が幸せそうなので消せとは言わないが。
「昔より上手になってるね。声が低くなったからか、玄米法師さんの曲にピッタリだ」
「玄米さんも歌声が低いからな」
「あたしも玄米さんの曲で好きな曲が多いから、颯人君に色々と歌ってほしいかも」
「ふふっ、そうだね。私も玄米さんの曲は何曲か知ってるよ」
麗奈先輩も玄米法師さんの曲を知っているのか。嬉しいな。
俺はジンジャーエールを一口飲む。1曲歌ったからかとても美味しく感じるな。
「あの、颯人に麗奈会長」
紗衣は俺達と名前を呼ぶと、グラスに入ったレモンティーを一口飲み、真剣な様子で俺達のことを見てくる。
「何かな、紗衣ちゃん」
「……ここにいるのが私達だけなので訊きますけど、先週末に颯人が麗奈会長の家に遊びに行ったとき、何かありましたか? 喫茶店で一口交換しようっていう話になったときの2人の様子が気になって……」
「ええと……」
「そ、そうだね……」
麗奈先輩と目を合わせると、彼女は可愛らしくはにかむ。
思い返せば、一口交換するときの麗奈先輩の顔は赤かった。俺も顔が熱くなっていたし、普段とは違う様子だったのだろう。あと、先週末に麗奈先輩の家に遊びに行ったと話したから、そのときに何かあったんじゃないかと考えるのは当然か。
「紗衣ちゃん、そんなことを考えていたんだ。あたしはてっきり、颯人君と一口交換するのは初めてで恥ずかしいのかなって。あたしもタピオカドリンクを交換したときは……ちょっと待って」
咲夜はそう言うと、段々と赤くなっていき、俺と麗奈先輩のことを交互に見るようになる。タピオカドリンクを一口交換したときの咲夜と今日の麗奈先輩は同じような状況か。
「もしかして、会長さん……颯人君とキスしました?」
咲夜にそう言われると、全身に衝撃が走り、体がビクついてしまった。
「……そ、そうです。はやちゃんとキスしました」
麗奈先輩は頬を真っ赤にして、咲夜と紗衣のことを見ながらそう言った。
「はやちゃんのことが好きだって2人に伝えているけれど、キスのことを思い出すと凄くドキドキして。恥ずかしくなって、今まで言うことができなかったの。ごめんなさい」
「俺も同じような感じだ。恥ずかしくて言えなかった。自分一人だけじゃなくて、麗奈先輩とのことでもあるから、勝手に言うのも良くないと思ったのもある。今まで言わなくてすまなかった」
「い、いいんだよ! キスのことを思い出すとドキドキしちゃうっていう気持ち、あたし凄く分かるから……」
「咲夜は事情があったとはいえ、颯人とキスした経験があるもんね」
紗衣は優しげな笑みを浮かべながら、恥ずかしがる咲夜の頭を優しく撫でた。
「……それにしても、麗奈会長は颯人とキスしたんですね」
そっか……と紗衣は長く息を吐く。隣で悶える咲夜も影響してか、紗衣の笑みは落ち着いていている印象があるけれど、どこか寂しそうにも見えた。
「は、はやちゃんの口は柔らかくて、優しかったです!」
絶叫とも言えるような大きな声で麗奈先輩はそう言う。咲夜の恥ずかしさがうつったのか顔の赤みがさっきよりも強くなっている。
「わ、分かっちゃいます。だからこそより恥ずかしいです……」
「ご、ごめんね、咲夜ちゃん」
「私からも謝るよ。ごめんね。ただ、気になっていることが分かってスッキリしました。2人とも、教えてくれてありがとうございます」
確かに、気になったことが分かってスッキリしたようには見えるけれど、さっきの寂しげな笑みを見せられると本当にスッキリしているとは思えない。
「せっかくカラオケに来たんですから、たくさん歌いましょうよ」
「そ、そうだね! 咲夜ちゃん、一緒に何か歌わない?」
「……も、もうちょっと気持ちが落ち着いたら一緒に歌わせてください」
「分かったわ。じゃあ、紗衣ちゃん、一緒に歌おうか」
「いいですね。一緒に歌いましょう」
それから、俺達はフリータイムの時間制限である午後8時まで歌いまくった。1人ではもちろんのこと、3人とデュエットしたり、みんな知っている曲で点数勝負をして、負けたら罰ゲームでポテトの料金を払うことにしたり。
キスの話をした直後は、どこか微妙な空気だったけれど、歌っていくうちに楽しいものに変わっていって。そんな時間はあっという間に過ぎていき、フリータイムギリギリまで楽しんだのであった。
カラオケ屋さんに到着すると、今日で1学期が終わる高校が多いのか、フロントには夕立高校以外の制服を着た人が結構いる。
4人で初めて来たし、明日から夏休みなのでたっぷりと歌おうという咲夜の提案で、俺達はフリータイムドリンクバー付きのプランを選んだ。フロントに学生が結構いるので空室があるか不安だったけれど、カラオケの機種によっては今すぐに利用できる部屋があるので、俺達はそれを利用することにした。
また、フリータイムは午後8時までなので、さっそく母さんのスマホに8時過ぎになりそうだとメッセージを送っておいた。
ドリンクバー用のグラスを持って、俺達は今日利用する部屋へと向かう。
「あたし達が歌う部屋はここですね」
そう言って、咲夜はゆっくりと扉を開ける。
4人で利用するには十分すぎるほどの広さの部屋だな。正面にはモニターがあり、今は何も操作していないからか、女性アイドルグループの新曲のミュージックビデオが映されている。
マイクや曲入力用の機械の置いてあるテーブルを挟む形で、両側の壁に長めのソファーがある。とりあえずは喫茶店のときと同じように、咲夜と紗衣、麗奈先輩と俺で座ることにした。
「結構広い部屋だね、咲夜ちゃん」
「そうですね。小学校の高学年くらいから友達とカラオケに行くようになったんですけど、部屋が広くて、ドリンクの種類も多いので絶対にここに来ていました」
「そうなんだ」
「うちの地元の清田にもカラオケボックスはあるけれど、こんなに広い部屋に入ったことはないな。そういえば、颯人と一緒にカラオケに来るのってひさしぶりだよね」
「そうだな。中学以降は行ってないと思うから、少なくとも3年は経ってるな」
「そうだよね。ただ、最後に行ったときは声があまり低くなかったよね」
「ああ」
紗衣と最後に来たのは、俺が声変わりをする前だったか。そう考えると、随分と来ていなかったのだと実感する。あと、そのときのことを覚えていてくれるのは嬉しいな。
「颯人君って低めの声だし、曲によってはかなり味わい深く聞こえそう」
「それ分かる! 紗衣ちゃん、はやちゃんってお歌は上手なの?」
「当時は小学生でしたけど、結構上手だと思いましたね。今の声になってから颯人の歌声は全然聴いていないので楽しみです」
「私も今の話を聞いてより楽しみになったよ!」
「あたしも聞いてみたいな、颯人君の歌声」
咲夜と麗奈先輩は目を輝かせながら俺のことを見てくる。
そこまで期待されると緊張してしまうな。ただ、玄米法師さんなど歌ってみたい曲はたくさんあるので楽しんで歌うことにするか。
「分かりました。ただ、まずはドリンクを持ってきましょう」
俺達は部屋の近くにあるドリンクバーコーナーで、各々の好きな飲み物をグラスに注ぐ。咲夜の言う通り種類が豊富だな。俺はジンジャーエールにした。
そういえば、昔、小雪が俺にブレンドジュースだって言って、コーラとメロンソーダとオレンジジュースを混ぜたヤツを作ってくれたな。凄く甘かったのを覚えている。オレンジの酸味があったから飲みきることができたけど。
部屋に戻ると、俺はさっそく歌を歌い始める。紗衣から、自分も俺も好きな玄米法師さんの曲を歌ってほしいというリクエストがあったので、俺は『Melon』を歌うことに。
玄米法師さんの『Melon』という曲は、悲しげな雰囲気のバラード曲。ただ、去年発売されたときから現在までヒットし続けており、カラオケでもチャート1位を取り続けている人気曲。だからか、3人とも笑みを浮かべながら聴き入っていた。
「……ありがとう」
俺が歌い終わると、3人は拍手を送ってくれた。
ひさしぶりにカラオケに来たけれど、こうやってしっかり歌うと気持ちがいいな。
「颯人君、上手だね!」
「スマホで録音しておいて良かったよ!」
麗奈先輩、いつの間に録音していたんだか。上手だと言ってくれるのは嬉しいけれど、それが残るというのは恥ずかしいな。本人が幸せそうなので消せとは言わないが。
「昔より上手になってるね。声が低くなったからか、玄米法師さんの曲にピッタリだ」
「玄米さんも歌声が低いからな」
「あたしも玄米さんの曲で好きな曲が多いから、颯人君に色々と歌ってほしいかも」
「ふふっ、そうだね。私も玄米さんの曲は何曲か知ってるよ」
麗奈先輩も玄米法師さんの曲を知っているのか。嬉しいな。
俺はジンジャーエールを一口飲む。1曲歌ったからかとても美味しく感じるな。
「あの、颯人に麗奈会長」
紗衣は俺達と名前を呼ぶと、グラスに入ったレモンティーを一口飲み、真剣な様子で俺達のことを見てくる。
「何かな、紗衣ちゃん」
「……ここにいるのが私達だけなので訊きますけど、先週末に颯人が麗奈会長の家に遊びに行ったとき、何かありましたか? 喫茶店で一口交換しようっていう話になったときの2人の様子が気になって……」
「ええと……」
「そ、そうだね……」
麗奈先輩と目を合わせると、彼女は可愛らしくはにかむ。
思い返せば、一口交換するときの麗奈先輩の顔は赤かった。俺も顔が熱くなっていたし、普段とは違う様子だったのだろう。あと、先週末に麗奈先輩の家に遊びに行ったと話したから、そのときに何かあったんじゃないかと考えるのは当然か。
「紗衣ちゃん、そんなことを考えていたんだ。あたしはてっきり、颯人君と一口交換するのは初めてで恥ずかしいのかなって。あたしもタピオカドリンクを交換したときは……ちょっと待って」
咲夜はそう言うと、段々と赤くなっていき、俺と麗奈先輩のことを交互に見るようになる。タピオカドリンクを一口交換したときの咲夜と今日の麗奈先輩は同じような状況か。
「もしかして、会長さん……颯人君とキスしました?」
咲夜にそう言われると、全身に衝撃が走り、体がビクついてしまった。
「……そ、そうです。はやちゃんとキスしました」
麗奈先輩は頬を真っ赤にして、咲夜と紗衣のことを見ながらそう言った。
「はやちゃんのことが好きだって2人に伝えているけれど、キスのことを思い出すと凄くドキドキして。恥ずかしくなって、今まで言うことができなかったの。ごめんなさい」
「俺も同じような感じだ。恥ずかしくて言えなかった。自分一人だけじゃなくて、麗奈先輩とのことでもあるから、勝手に言うのも良くないと思ったのもある。今まで言わなくてすまなかった」
「い、いいんだよ! キスのことを思い出すとドキドキしちゃうっていう気持ち、あたし凄く分かるから……」
「咲夜は事情があったとはいえ、颯人とキスした経験があるもんね」
紗衣は優しげな笑みを浮かべながら、恥ずかしがる咲夜の頭を優しく撫でた。
「……それにしても、麗奈会長は颯人とキスしたんですね」
そっか……と紗衣は長く息を吐く。隣で悶える咲夜も影響してか、紗衣の笑みは落ち着いていている印象があるけれど、どこか寂しそうにも見えた。
「は、はやちゃんの口は柔らかくて、優しかったです!」
絶叫とも言えるような大きな声で麗奈先輩はそう言う。咲夜の恥ずかしさがうつったのか顔の赤みがさっきよりも強くなっている。
「わ、分かっちゃいます。だからこそより恥ずかしいです……」
「ご、ごめんね、咲夜ちゃん」
「私からも謝るよ。ごめんね。ただ、気になっていることが分かってスッキリしました。2人とも、教えてくれてありがとうございます」
確かに、気になったことが分かってスッキリしたようには見えるけれど、さっきの寂しげな笑みを見せられると本当にスッキリしているとは思えない。
「せっかくカラオケに来たんですから、たくさん歌いましょうよ」
「そ、そうだね! 咲夜ちゃん、一緒に何か歌わない?」
「……も、もうちょっと気持ちが落ち着いたら一緒に歌わせてください」
「分かったわ。じゃあ、紗衣ちゃん、一緒に歌おうか」
「いいですね。一緒に歌いましょう」
それから、俺達はフリータイムの時間制限である午後8時まで歌いまくった。1人ではもちろんのこと、3人とデュエットしたり、みんな知っている曲で点数勝負をして、負けたら罰ゲームでポテトの料金を払うことにしたり。
キスの話をした直後は、どこか微妙な空気だったけれど、歌っていくうちに楽しいものに変わっていって。そんな時間はあっという間に過ぎていき、フリータイムギリギリまで楽しんだのであった。
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