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特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-
第8話『現実になって嬉しいです』
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7月22日、水曜日。
今日も朝から晴天であり、最高気温も33度予報と夏本番の天候だ。週間予報では、この先一週間も関東地方は晴天が続くとのこと。梅雨明け十日とはよく言ったものだ。今のところ、海水浴に行く日曜日も晴れ予報だから、この予報が当たってほしい。
今日は午前10時から午後4時までマスバーガーでバイトだ。
また、今日は杏奈が同じ時間でシフトに入っている。なので、夏休みになってからは杏奈と初めて一緒にバイトをする。俺と杏奈は隣同士のカウンターで接客業務に勤しむ。
今日は平日だけど、夏休みシーズンになったのもあり、シフトに入った直後からそれなりの数のお客様に接客している。学生と思われる若い年代のお客様が結構多い。
「ご来店ありがとうございます! 店内でのご利用でしょうか?」
あまり休みなく接客業務をしているけど、杏奈は学校やプライベートで見せるような可愛い笑顔で元気良く接客ができている。最近はミスもかなり減ったし。これもバイトを始めて3ヶ月半ほどが経ち、業務に慣れてきたからだろう。頼もしい存在になってきた。
俺もバイトを始めたのは高1の春だった。去年の夏休みは、俺の指導係の百花さんは今の俺のように思ってくれていたのだろうか。そんなことを考えながら、杏奈の隣で接客業務を続けた。
「大輝君。杏奈君。正午からシフトに入る子も来たし、2人は昼休憩に入りなさい」
正午を過ぎた頃、萩原店長がそう言ってくれた。
俺達は「はい」と返事をし、正午からシフトに入った方達と交代する形でカウンターから離れた。
スタッフの休憩室に入ると、テーブルの上にはまかないのハンバーガーやチーズバーガー、ポテトなどが乗ったお皿が置かれている。お昼なのでお腹が空いているけど、いい匂いがしてくるのでよりお腹が空いてくる。
「大輝先輩。飲み物は何がいいですか?」
「アイスコーヒーをお願いできるかな。シロップとミルクはなしで」
「分かりました!」
杏奈は笑顔で元気良く返事をして、俺の分のアイスコーヒ―と自分の分のアイスティーを淹れる。
チーズバーガーが大好物だから、今日もチーズバーガーにするか。そう決めて、お皿からチーズバーガーとMサイズのポテトを1つずつ取り、椅子に座った。
「はい、先輩。アイスコーヒーです」
「ありがとう」
杏奈からアイスコーヒーの入ったカップを受け取る。
杏奈はお皿からベーコンレタスバーガ―とポテトのMサイズを1つずつ取り、俺の向かい合う形で椅子に座った。
「大輝先輩はチーズバーガーですか。先輩、チーズバーガ―率高いですね」
「大好物だからな。チーズバーガーか、チーズを使っているバーガーに手が伸びるんだよな」
「ふふっ、そうですか」
「ああ。……ここまでお疲れ様。シフトに入ってからあまり休憩をしなかったから、まかないを食べながら長めに休もう」
「はいっ。いただきまーす」
「いただきます」
包みを開けて、俺はチーズバーガーを食べる。ほんと、このチーズバーガーは昔から変わらず美味しい。午前中のバイトの疲れが取れていく。
「ベーコンレタスバーガー美味しいですっ!」
「ベーコンレタスも美味いよな。チーズバーガーも美味いな」
「ふふっ」
声に出して笑うと、杏奈はベーコンレタスバーガーをもう一口。笑顔でモグモグと食べるのもあってとても可愛い。そんな杏奈を見ていると癒やされる。そのことでバイトの疲れがより取れていく。
「杏奈。今日の接客も凄く良かったぞ」
「ありがとうございますっ。大輝先輩や百花先輩達が分かりやすく教えてくれたおかげです。それに、大輝先輩が隣のカウンターにいると安心できますし」
「そうか。そう言ってくれて嬉しいよ」
「ええ。あと、大輝先輩と一緒にバイトをするのは楽しいですし、嬉しい気持ちもあります。好きな人と一緒にいられるんですから。それに、去年の夏休みにマスバーガーで大輝先輩に接客してもらったとき、『来年は先輩の高校の後輩になって、夏休みには先輩と一緒にバイトしたい』って思っていましたから。それが現実になって嬉しいんです」
その言葉が心からのものであると示すかのように、杏奈は可愛い笑顔を向けてくれる。だから、胸がとても温かくなっていく。
去年の夏休み……杏奈は友達と一緒に何回かマスバーガーに来ていたな。楽しく喋っていることもあれば、勉強していたこともあったか。その時期の杏奈は、高校の後輩になって、夏休みには俺と一緒にバイトをしたいと考えていたのか。以前、杏奈に告白されたとき、中学生の頃から俺のことが好きだと言っていたし、それを目標にするのは自然なことか。目標を達成できた杏奈は凄いと思う。
今年の夏休みは、俺やサクラだけでなく、杏奈にとっても「こうなったらいいな」って思っていたことが実現できている夏休みになっているんだな。
「大輝先輩と一緒のシフトの日もありますから、今年の夏休みはとても楽しくなりそうです。次の日曜日にはみんなで海水浴に行きますし」
「そうか。俺も杏奈と一緒にシフトの日はバイトが楽しいし、今度、みんなで行く海水浴が楽しみだ」
「そうですかっ。あと、成績で赤点科目がなかったので安心しました。クラスメイトの中には赤点になって、夏休み中に何日か補習に出なければいけない子もいますし。もし補習があったら、シフトの変更をしたり、友達と遊びに行けなくなったりますから」
「特別課題ならまだしも、学校に行って補習を受けるのはキツそうだよな。杏奈が勉強の方も大丈夫そうで良かった。まあ、バイトでも勉強でも不安に思ったり、分からないことがあったりしたら遠慮なく俺に相談していいからな」
「はいっ。ありがとうございます」
杏奈は持ち前の明るい笑顔でお礼を言った。
これまで、杏奈はバイトはもちろん、学校の勉強についても分からないところを質問して、理解するように努めてきた。だから、杏奈ならきっと大丈夫だろう。ただ、杏奈が安心して生活できるように、高校とバイトの先輩として接していこう。
夏休みのことや、最近観たアニメなどの話をしながら、杏奈と一緒にまかないを食べていった。
「さてと、そろそろカウンターに戻るか」
昼休憩を長めに取った後、杏奈にそう言う。
「そうですね! 午後も頑張りましょう! それに、午後は文香先輩と一紗先輩も来ますし」
杏奈はやる気に満ちた様子でそう言った。
そう。午後にはサクラと一紗が来店してくれることになっている。一緒に夏休みの課題をするためだ。2人が来るのを楽しみに、杏奈と一緒に午後のバイトを頑張るか。
杏奈と一緒にカウンターに戻り、午前中と同じく杏奈と隣同士にカウンターに立って接客業務をしていく。
午後になっても来店するお客様の数は結構多い。お昼過ぎの時間に差し掛かってきたけど、昼食目的や涼むために来店されるのだろう。
時々、接客の合間に杏奈の様子を見ているけど……まかないを食べたのもあってか元気いっぱいだ。そんな杏奈を見ていると元気をもらえる。
そして、午後2時過ぎ。
「来たわ! 大輝君! 杏奈さん!」
「ダイちゃん、杏奈ちゃん、お疲れ様」
「2人ともお疲れ様!」
ロングスカートに半袖のブラウス姿のサクラと、半袖の襟付きのワンピース姿の一紗が来店してくれた。サクラは優しい笑顔で俺達に手を振り、一紗は興奮気味な笑顔で俺達のことを見ている。
今は少し来店してくるお客様の数が落ち着いてきたから、少しは話しても大丈夫かな。
「2人ともありがとう。いらっしゃいませ」
「ありがとうございます。いらっしゃいませ。夏休みの課題を一緒にすると大輝先輩から聞きました」
「ええ。私から誘ったのがきっかけで。苦手な数学Bの課題をやっているのだけれど、分からない問題があって。だから、数Bの成績が良かった大輝君や、平均よりも良かった文香さんに訊きたくて。応用問題中心にいくつも分からないところあるから、メッセージや通話じゃなくて直接教えてもらいたいと思ったの」
「ダイちゃんはバイトがあるけど、数Bの課題は終わっているし、分からないところはダイちゃんに訊いたから私でも教えられるかなって。それを伝えたら、一紗ちゃんが『大輝君がバイトしているならマスバーガーでやりたい!』って言って。それで、ここで課題をしようってことになったんだ」
「なるほどです。一紗先輩らしいですね」
朗らかに笑いながらそう言う杏奈。杏奈の今の言葉に俺は頷いた。
「だって、大輝君に会いたいんだもの! もしかしたら、杏奈さんとも会えるかもしれないし。杏奈さんとも会えて幸せだし、やる気が出てくるわ!」
一紗は言葉通りのやる気に満ちた表情になっている。
サクラの言う通り、サクラの分からない問題については俺が解説して答えを教えた。そのときはサクラも理解している様子だったし、きっと、一紗の分からない問題について教えることができるだろう。
「一紗先輩の言うこと分かります。あたしも去年、受験生のときに友達と一緒に課題や受験勉強のためにマスバーガーに来たことがありましたから。バイトしている大輝先輩に会えるかもしれないと思って。先輩に会えて、接客されるとやる気になりましたね」
杏奈はニコッと笑いながらそう言った。俺絡みのことを話したからか、杏奈の頬はほんのりと赤らんでいて。そんな杏奈が可愛く思える。
「ふふっ、そうなのね。大輝君に会えるとやる気になるわよね」
「ええ」
「ふふっ。2人とも可愛いね。私も課題を進めようと思って古典の課題を持ってきたの」
「そうか。2人とも課題頑張れよ」
「頑張ってくださいね!」
「ありがとう、頑張るわ! 2人はバイトを頑張って」
「ありがとう。バイト頑張ってね、ダイちゃん、杏奈ちゃん」
「ありがとうございますっ」
「ありがとう」
恋人や友達から頑張れって言ってもらえるのは嬉しいな。
その後、サクラはアイスコーヒー、一紗はアイスミルクティーを購入して、カウンターから見える2人用のテーブル席へ向かった。
サクラと一紗は向かい合って席に座ると、さっそく課題を始める。一紗が数学Bの課題で分からないところがあるのがきっかけなので、さっそく一紗がサクラに質問しているようだ。去年の夏休みではサクラがマスバーガーで友達と一緒に課題をする姿を全然見なかったので、こういった光景を見られるのが嬉しい。
もしかしたら、今年の夏休みは、バイト中にサクラが一紗などと一緒に課題をする姿を何度か見るかもしれないな。俺だけがシフトに入っている日は、杏奈が友達と一緒に課題をする光景も。
時々、サクラと一紗の様子を見る。目が合って、2人が手を振ってくれることも。そういったことに癒やされながら、俺は杏奈と一緒にバイトをしていくのであった。
今日も朝から晴天であり、最高気温も33度予報と夏本番の天候だ。週間予報では、この先一週間も関東地方は晴天が続くとのこと。梅雨明け十日とはよく言ったものだ。今のところ、海水浴に行く日曜日も晴れ予報だから、この予報が当たってほしい。
今日は午前10時から午後4時までマスバーガーでバイトだ。
また、今日は杏奈が同じ時間でシフトに入っている。なので、夏休みになってからは杏奈と初めて一緒にバイトをする。俺と杏奈は隣同士のカウンターで接客業務に勤しむ。
今日は平日だけど、夏休みシーズンになったのもあり、シフトに入った直後からそれなりの数のお客様に接客している。学生と思われる若い年代のお客様が結構多い。
「ご来店ありがとうございます! 店内でのご利用でしょうか?」
あまり休みなく接客業務をしているけど、杏奈は学校やプライベートで見せるような可愛い笑顔で元気良く接客ができている。最近はミスもかなり減ったし。これもバイトを始めて3ヶ月半ほどが経ち、業務に慣れてきたからだろう。頼もしい存在になってきた。
俺もバイトを始めたのは高1の春だった。去年の夏休みは、俺の指導係の百花さんは今の俺のように思ってくれていたのだろうか。そんなことを考えながら、杏奈の隣で接客業務を続けた。
「大輝君。杏奈君。正午からシフトに入る子も来たし、2人は昼休憩に入りなさい」
正午を過ぎた頃、萩原店長がそう言ってくれた。
俺達は「はい」と返事をし、正午からシフトに入った方達と交代する形でカウンターから離れた。
スタッフの休憩室に入ると、テーブルの上にはまかないのハンバーガーやチーズバーガー、ポテトなどが乗ったお皿が置かれている。お昼なのでお腹が空いているけど、いい匂いがしてくるのでよりお腹が空いてくる。
「大輝先輩。飲み物は何がいいですか?」
「アイスコーヒーをお願いできるかな。シロップとミルクはなしで」
「分かりました!」
杏奈は笑顔で元気良く返事をして、俺の分のアイスコーヒ―と自分の分のアイスティーを淹れる。
チーズバーガーが大好物だから、今日もチーズバーガーにするか。そう決めて、お皿からチーズバーガーとMサイズのポテトを1つずつ取り、椅子に座った。
「はい、先輩。アイスコーヒーです」
「ありがとう」
杏奈からアイスコーヒーの入ったカップを受け取る。
杏奈はお皿からベーコンレタスバーガ―とポテトのMサイズを1つずつ取り、俺の向かい合う形で椅子に座った。
「大輝先輩はチーズバーガーですか。先輩、チーズバーガ―率高いですね」
「大好物だからな。チーズバーガーか、チーズを使っているバーガーに手が伸びるんだよな」
「ふふっ、そうですか」
「ああ。……ここまでお疲れ様。シフトに入ってからあまり休憩をしなかったから、まかないを食べながら長めに休もう」
「はいっ。いただきまーす」
「いただきます」
包みを開けて、俺はチーズバーガーを食べる。ほんと、このチーズバーガーは昔から変わらず美味しい。午前中のバイトの疲れが取れていく。
「ベーコンレタスバーガー美味しいですっ!」
「ベーコンレタスも美味いよな。チーズバーガーも美味いな」
「ふふっ」
声に出して笑うと、杏奈はベーコンレタスバーガーをもう一口。笑顔でモグモグと食べるのもあってとても可愛い。そんな杏奈を見ていると癒やされる。そのことでバイトの疲れがより取れていく。
「杏奈。今日の接客も凄く良かったぞ」
「ありがとうございますっ。大輝先輩や百花先輩達が分かりやすく教えてくれたおかげです。それに、大輝先輩が隣のカウンターにいると安心できますし」
「そうか。そう言ってくれて嬉しいよ」
「ええ。あと、大輝先輩と一緒にバイトをするのは楽しいですし、嬉しい気持ちもあります。好きな人と一緒にいられるんですから。それに、去年の夏休みにマスバーガーで大輝先輩に接客してもらったとき、『来年は先輩の高校の後輩になって、夏休みには先輩と一緒にバイトしたい』って思っていましたから。それが現実になって嬉しいんです」
その言葉が心からのものであると示すかのように、杏奈は可愛い笑顔を向けてくれる。だから、胸がとても温かくなっていく。
去年の夏休み……杏奈は友達と一緒に何回かマスバーガーに来ていたな。楽しく喋っていることもあれば、勉強していたこともあったか。その時期の杏奈は、高校の後輩になって、夏休みには俺と一緒にバイトをしたいと考えていたのか。以前、杏奈に告白されたとき、中学生の頃から俺のことが好きだと言っていたし、それを目標にするのは自然なことか。目標を達成できた杏奈は凄いと思う。
今年の夏休みは、俺やサクラだけでなく、杏奈にとっても「こうなったらいいな」って思っていたことが実現できている夏休みになっているんだな。
「大輝先輩と一緒のシフトの日もありますから、今年の夏休みはとても楽しくなりそうです。次の日曜日にはみんなで海水浴に行きますし」
「そうか。俺も杏奈と一緒にシフトの日はバイトが楽しいし、今度、みんなで行く海水浴が楽しみだ」
「そうですかっ。あと、成績で赤点科目がなかったので安心しました。クラスメイトの中には赤点になって、夏休み中に何日か補習に出なければいけない子もいますし。もし補習があったら、シフトの変更をしたり、友達と遊びに行けなくなったりますから」
「特別課題ならまだしも、学校に行って補習を受けるのはキツそうだよな。杏奈が勉強の方も大丈夫そうで良かった。まあ、バイトでも勉強でも不安に思ったり、分からないことがあったりしたら遠慮なく俺に相談していいからな」
「はいっ。ありがとうございます」
杏奈は持ち前の明るい笑顔でお礼を言った。
これまで、杏奈はバイトはもちろん、学校の勉強についても分からないところを質問して、理解するように努めてきた。だから、杏奈ならきっと大丈夫だろう。ただ、杏奈が安心して生活できるように、高校とバイトの先輩として接していこう。
夏休みのことや、最近観たアニメなどの話をしながら、杏奈と一緒にまかないを食べていった。
「さてと、そろそろカウンターに戻るか」
昼休憩を長めに取った後、杏奈にそう言う。
「そうですね! 午後も頑張りましょう! それに、午後は文香先輩と一紗先輩も来ますし」
杏奈はやる気に満ちた様子でそう言った。
そう。午後にはサクラと一紗が来店してくれることになっている。一緒に夏休みの課題をするためだ。2人が来るのを楽しみに、杏奈と一緒に午後のバイトを頑張るか。
杏奈と一緒にカウンターに戻り、午前中と同じく杏奈と隣同士にカウンターに立って接客業務をしていく。
午後になっても来店するお客様の数は結構多い。お昼過ぎの時間に差し掛かってきたけど、昼食目的や涼むために来店されるのだろう。
時々、接客の合間に杏奈の様子を見ているけど……まかないを食べたのもあってか元気いっぱいだ。そんな杏奈を見ていると元気をもらえる。
そして、午後2時過ぎ。
「来たわ! 大輝君! 杏奈さん!」
「ダイちゃん、杏奈ちゃん、お疲れ様」
「2人ともお疲れ様!」
ロングスカートに半袖のブラウス姿のサクラと、半袖の襟付きのワンピース姿の一紗が来店してくれた。サクラは優しい笑顔で俺達に手を振り、一紗は興奮気味な笑顔で俺達のことを見ている。
今は少し来店してくるお客様の数が落ち着いてきたから、少しは話しても大丈夫かな。
「2人ともありがとう。いらっしゃいませ」
「ありがとうございます。いらっしゃいませ。夏休みの課題を一緒にすると大輝先輩から聞きました」
「ええ。私から誘ったのがきっかけで。苦手な数学Bの課題をやっているのだけれど、分からない問題があって。だから、数Bの成績が良かった大輝君や、平均よりも良かった文香さんに訊きたくて。応用問題中心にいくつも分からないところあるから、メッセージや通話じゃなくて直接教えてもらいたいと思ったの」
「ダイちゃんはバイトがあるけど、数Bの課題は終わっているし、分からないところはダイちゃんに訊いたから私でも教えられるかなって。それを伝えたら、一紗ちゃんが『大輝君がバイトしているならマスバーガーでやりたい!』って言って。それで、ここで課題をしようってことになったんだ」
「なるほどです。一紗先輩らしいですね」
朗らかに笑いながらそう言う杏奈。杏奈の今の言葉に俺は頷いた。
「だって、大輝君に会いたいんだもの! もしかしたら、杏奈さんとも会えるかもしれないし。杏奈さんとも会えて幸せだし、やる気が出てくるわ!」
一紗は言葉通りのやる気に満ちた表情になっている。
サクラの言う通り、サクラの分からない問題については俺が解説して答えを教えた。そのときはサクラも理解している様子だったし、きっと、一紗の分からない問題について教えることができるだろう。
「一紗先輩の言うこと分かります。あたしも去年、受験生のときに友達と一緒に課題や受験勉強のためにマスバーガーに来たことがありましたから。バイトしている大輝先輩に会えるかもしれないと思って。先輩に会えて、接客されるとやる気になりましたね」
杏奈はニコッと笑いながらそう言った。俺絡みのことを話したからか、杏奈の頬はほんのりと赤らんでいて。そんな杏奈が可愛く思える。
「ふふっ、そうなのね。大輝君に会えるとやる気になるわよね」
「ええ」
「ふふっ。2人とも可愛いね。私も課題を進めようと思って古典の課題を持ってきたの」
「そうか。2人とも課題頑張れよ」
「頑張ってくださいね!」
「ありがとう、頑張るわ! 2人はバイトを頑張って」
「ありがとう。バイト頑張ってね、ダイちゃん、杏奈ちゃん」
「ありがとうございますっ」
「ありがとう」
恋人や友達から頑張れって言ってもらえるのは嬉しいな。
その後、サクラはアイスコーヒー、一紗はアイスミルクティーを購入して、カウンターから見える2人用のテーブル席へ向かった。
サクラと一紗は向かい合って席に座ると、さっそく課題を始める。一紗が数学Bの課題で分からないところがあるのがきっかけなので、さっそく一紗がサクラに質問しているようだ。去年の夏休みではサクラがマスバーガーで友達と一緒に課題をする姿を全然見なかったので、こういった光景を見られるのが嬉しい。
もしかしたら、今年の夏休みは、バイト中にサクラが一紗などと一緒に課題をする姿を何度か見るかもしれないな。俺だけがシフトに入っている日は、杏奈が友達と一緒に課題をする光景も。
時々、サクラと一紗の様子を見る。目が合って、2人が手を振ってくれることも。そういったことに癒やされながら、俺は杏奈と一緒にバイトをしていくのであった。
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