サクラブストーリー

桜庭かなめ

文字の大きさ
上 下
177 / 194
特別編6-星空に願う夏の夜編-

第6話『七夕祭り-後編-』

しおりを挟む
 輪投げの屋台を後にして、俺達は再び会場の中を廻り始める。また、サクラは自分の巾着袋があるので、黒猫のぬいぐるみが入った紙の手提げは俺が持っている。
 俺が輪投げでぬいぐるみをゲットしたからか、サクラはお祭りデートを始めた直後よりも上機嫌になっている。小さい頃から、サクラはこの七夕祭りに来ると機嫌がいいことが多いけど、ここまで上機嫌なのは初めてだ。可愛いなぁ。

「ねえ、ダイちゃん。ぬいぐるみを取ってくれたお礼に何か奢るよ」
「いいのか? サクラのお金でやった輪投げだけど」
「もちろんだよ。私がやったら、かなりのお金を注ぎ込まないとゲットできなかったと思うし。100円でゲットできたのは紛れもなくダイちゃんのおかげだよ。それに、ダイちゃんのかっこいい姿も見られたし。だから、お礼がしたいの」

 サクラは俺を見つめながら、可愛い笑顔でそう言ってくれる。どうやら、俺にお礼をしたい気持ちは強いようだ。その思いを無碍にしたくない。

「分かった。じゃあ、食べ物か飲み物の屋台で何か一つ奢ってくれ」
「うんっ!」

 サクラはニコッと笑って頷いた。
 さてと、サクラに何を奢ってもらおうかな。そう思うと、食べ物や飲み物系の屋台がより魅力的に見えてくる。屋台の人がお客さんに商品を渡す場面を見ると、それが美味しそうに見えて。さっき輪投げをしたから、お腹がちょっと減ってきた。

「ここがいいっていう屋台があったら言ってね」
「分かった」

 俺がそう言うと、サクラは柔らかい笑顔を向けてくれる。その笑顔が屋台や提灯の灯りに照らされていたり、普段と違う服装や髪型をしていたりするから、今のサクラがとても大人っぽくて。艶っぽさも感じられてドキッとする。体が熱くなってきたな。

「……何か飲み物がいいな。食事やスイーツ系の屋台には行ったけど、飲み物系の屋台はまだ行っていないから」
「そうだね。じゃあ……ラムネなんてどうかな? 昔、お祭りに来るとよく飲んでいたし」
「ラムネいいな。お祭りらしいし」

 喉が渇くと、ラムネを飲んだり、かき氷を食べたりしたっけ。
 ラムネを売っている屋台を探しながら会場の中を歩いていると、1、2分ほどでソフトドリンクやビールを売っている屋台を見つけた。メニューが書かれた紙が貼られており、その中に『ラムネ』と書かれていた。なので、その屋台に行くことに。
 屋台には氷水が張ってある特大のプラスチックの桶があり、その中には様々な種類のドリンクの缶やボトルが浸かっている。大きな氷も浮かんでいるし、どのドリンクもキンキンに冷えていそうだ。

「じゃあ、ラムネを買うね」
「ああ」
「すみません、ラムネを2本ください」
「あいよー。400円ねー」

 屋台のおばさんがそう言ってくる。2本で400円ってことは1本200円か。
 サクラが400円ちょうどを渡すと、屋台のおばさんは桶に手を突っ込んでラムネのボトルを2本取り出す。ボトルの形からして、ビー玉を押して栓を開けるタイプかな。
 屋台のおばさんはタオルでボトルについた水を拭いて、サクラに渡した。

「はい、ダイちゃん」
「ありがとう」

 サクラからラムネのボトルを受け取る。ついさっきまで氷水に浸かっていたから、ボトルはかなり冷えているな。
 飲み物の屋台の近くにちょっとした休憩スペースがあるので、俺達はそこに行ってラムネを飲むことに。
 飲み口部分の包装を外して、玉押しのリングを外す。
 玉押しをボトルの栓となっている青いビー玉にセットし、右手の親指でグッと力を入れる。
 ――プシュッ!
 という炭酸の放たれる音が聞こえ、青いビー玉がボトルのくぼみとなっているところまで落ちるのが確認できた。それを見て、サクラは「おおっ」と声を漏らす。

「ダイちゃん、ラムネを開けるの上手だね! すぐに開けられるし、全然吹きこぼれないし」
「ありがとう。小さい頃はビー玉を押すのに苦労したな」
「固いし、力を入れないといけないもんね。小さい頃だから力がなかなかないし。全身を使って開けようとするから、結果的にボトルを何度も振っちゃって、開けられてもラムネが吹きこぼれちゃったな。手が汚れたり、浴衣が濡れちゃったりしたこともあったよね」
「あったあった」

 そのことに、サクラが泣きそうになったこともあったな。それを言ったらサクラが不機嫌になってしまうかもしれないので、心に留めておこう。

「昔よりは開けられるようになったんだけど、ちょっと吹きこぼれちゃうことがたまにあるんだよね。どうすれば、ダイちゃんみたいにこぼれずに済むの?」
「ビー玉が落ちても、玉押しをずっと押し続けるんだ。飲み口を塞ぐんだよ。そうすれば、吹きこぼれなくなるから」
「なるほどね! ……確かに、今まではビー玉を落とせたら、玉押しから指を離しちゃっていたな。そのアドバイス通りにやってみる」
「ああ、頑張れ」

 俺に巾着袋を渡して、サクラはラムネを開栓することに。
 飲み口の包装を外し、プラスチックの玉押しの輪を外す。サクラは栓となっている青いビー玉に玉押しをセットし、右手の親指で、

「えいっ!」
 ――プシュッ!

 女の子だけど、高校2年生になっただけあって、サクラはすぐにビー玉を落とすことができた。

「そのまま、玉押しを押し続けて」
「うんっ」

 サクラは右手の親指で玉押しをグッと押さえる。
 サクラの持つボトルの中はシュワシュワと泡立っている。ただ、サクラが押さえているおかげで吹きこぼれることはない。そのままこぼれることなく、泡立ちも収まっていった。

「もう大丈夫だと思う」
「うんっ。……吹きこぼれないね。こんなにスムーズで平和に開けられたのは初めてかも! ありがとう、ダイちゃん!」
「いえいえ。平和に開けられて良かったよ」

 それに、サクラがとても嬉しそうな笑顔を見せてくれるし。ちょっとしたことだけど、アドバイスした甲斐があるってもんだ。これからは毎年、ラムネを買ったら今みたいな笑顔を見られるだろう。

「じゃあ、飲むか」
「うんっ! ただ、その前に……ひさしぶりにこのお祭りに一緒に来て、初めてお祭りデートをしていることに乾杯しない?」
「おっ、いいな。さっきはひさしぶりの輪投げでぬいぐるみを取れたし、今はサクラが初めてスムーズにラムネを開けられたしな」
「ふふっ、そうだね。じゃあ、いただきます。乾杯!」
「乾杯!」

 サクラが持っているラムネのボトルに軽く当てて、俺はラムネを一口飲む。
 さっきまで氷水に入っていたから、ラムネはキンキンに冷えていて。その冷たさとともに爽やかな甘味と強めの炭酸が口の中に広がっていく。

「あぁ、美味いな!」
「甘くて美味しいね! 甘さと炭酸のシュワシュワがたまらないよ!」
「そうだな」

 そう言って、俺はラムネをもう一口飲む。ラムネの冷たさが全身へと心地良く広がっていって。
 サクラもラムネをもう一口飲む。美味しそうに飲んでいるからとても可愛くて。浴衣姿だから懐かしさも感じて。絵になる光景でもあるから、この姿を見たらラムネを飲みたくなる人が多くなりそうだ。

「どうしたの、ダイちゃん。私のことをじっと見て」
「ラムネを飲むサクラがとても可愛くてさ。浴衣姿だから懐かしくも感じて。また見られて嬉しいんだ」
「ふふっ、そっか。ダイちゃんと一緒にラムネを飲めて幸せだよ。一緒に来ない年もラムネを飲むことはあったけど、ダイちゃんと一緒に飲むラムネが一番美味しいって思えるよ」
「そう言ってくれて嬉しいな」

 サクラの言葉のおかげで、口の中にあるラムネの甘味が濃くなった気がするよ。
 サクラは熱い視線で俺を見つめると、ゆっくりと顔を近づけ……キスしてくる。サクラの唇からはラムネの爽やかな甘味を感じる。また、ラムネを飲んで冷やされていた体が、再び熱に包まれる感覚に。
 サクラから唇を離すと、サクラは俺を見つめながらニッコリと笑う。

「ひさしぶりに一緒にラムネを飲めたことが嬉しいから。あと、さっき、輪投げでぬいぐるみを取ってくれたお礼の第2弾です」
「……そうか」
「……お互いにラムネを飲んでいるからかな。爽やかで甘いキスだったよ。あと、ダイちゃんの唇からラムネの甘味を感じたから、今までで一番美味しいラムネでした」

 屋台や提灯の灯りしかない中でも分かるくらいに顔を真っ赤にしながら、サクラは俺にそう言ってきた。そんな真っ赤な顔に持ち前の可愛らしい笑みが浮かんで。本当に……サクラは可愛すぎる彼女だよ。サクラとこういう時間を過ごせて幸せだ。

「俺も……サクラの口から味わったラムネ、凄く美味しかった」

 そう言って、俺はサクラの頭を優しく撫でる。すると、サクラの笑顔が柔らかいものになって。その笑顔もまた可愛らしい。
 その後もサクラと一緒にラムネを飲んでいく。
 ラムネは甘く、まだまだ冷たくて美味しい。だけど、サクラとキスしたときに味わったラムネが一番美味しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アリア

桜庭かなめ
恋愛
 10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。  それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。  様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。  ※完結しました!(2020.9.24)

処理中です...