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特別編5-再会と出会いと三者面談編-
第4話『速水家に集う』
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サクラと美紀さんが学校に向けて出発し、俺はリビングで母さんと一緒にアイスコーヒーを飲みながらゆっくりしている。母さんと2人きりでこういう時間を過ごすのはいつ以来だろうか。
「文香ちゃんの三者面談。無事に終わるといいわね」
「そうだな。でも、サクラなら大丈夫じゃないか。中間試験はまずまずの結果だったし、手芸部も楽しんでいるみたいだから」
「そうね。文香ちゃん、しっかりしているもんね」
納得した様子で言うと、母さんは自分のマグカップに入っているアイスコーヒーを一口飲んだ。
俺が見ている限りでは、サクラの学校での生活態度もいい。担任も去年に続いて流川先生だから、きっと平和な三者面談になるだろう。
――プルルッ。
ローテーブルに置いてある俺のスマホが鳴っている。さっそく確認すると、LIMEで一紗から新着メッセージが届いたと通知が。通知をタップすると、
『杏奈さんと香苗さんと4人で伺うわ。今は駅にいるから、あと10分くらいで着くと思う』
一紗とのトーク画面にそんなメッセージが表示された。この文面からして、麻生親子と小鳥遊親子は四鷹駅で待ち合わせする約束になっていたのかな。俺は一紗に了解の旨のメッセージを送った。
「一紗からメッセージがあった。駅にいて、これから杏奈と香苗さんの4人で家に来るってさ」
「分かったわ。一紗ちゃんと杏奈ちゃんのそれぞれのお母様と会うのが楽しみだわ。まだ会ったことないし」
「そっか。小泉さんのお母さん……仁実さんも来るけど、母さんは会ったことある?」
「あるよ。去年同じクラスだったから、保護者会のときとかに。美紀ちゃん繋がりでね」
「なるほど」
サクラと小泉さんは去年も出席番号が連続していた。それもあって、入学した日に仲良くなったのを覚えている。娘きっかけで、美紀さんと仁実さんも仲良くなったのだろう。それで、保護者会のときに、美紀さんを介して母さんと仁実さんが面識を持ったと。
ちなみに、俺は去年の体育祭に仁実さんと初対面を果たしている。小泉さんの母親だけあって快活な方だったな。
壁に掛かっている時計を見ると、今は午後2時25分か。一つ前の小泉さんの三者面談が早く終わっていたら、もうサクラの番になっているかもしれない。サクラだけでなく、小泉さんの面談も無事に終わるといいな。
――ピンポーン。
おっ、インターホンが鳴った。一紗のメッセージが来てから10分くらい経っているし、一紗達かもしれない。
「俺が出るよ」
扉の近くにあるモニターのスイッチを押すと、画面の大半に一紗の笑顔が映る。ちなみに、一紗が家に来たときは、大抵は今のように映るのだ。
「はい」
『大輝君! 4人で来たわよ!』
「待ってました。すぐに行くよ」
『ええ!』
「……一紗達だ。母さんも出迎える?」
「ええ。行きましょう」
俺は母さんと一緒にリビングを出て、玄関へ向かう。
玄関に行き、俺は扉を開ける。そこにはフレンチスリーブのワンピース姿の一紗と純子さん、キュロットスカートに肩開きのTシャツ姿の杏奈、スラックスにノースリーブの縦ニット姿の香苗さんの姿が。みんなよく似合っているな。
「みなさん、こんにちは。中へどうぞ」
一紗達4人を家の中に招き入れる。
4人は家の中に入ると、玄関に立っている母さんに「こんにちは」と挨拶する。そのことに母さんはにこやかな笑みを浮かべる。
「みなさんこんにちは。一紗ちゃんと杏奈ちゃんのそれぞれのお母様とは初めましてですね。速水大輝の母の優子と申します」
「初めまして。一紗の母の純子といいます。息子さんには娘がいつもお世話になっております」
「杏奈の母の香苗です、初めまして。大輝君には学校だけではなく、バイトでもお世話になっております」
「いえいえ。こちらこそ、息子が一紗ちゃんと杏奈ちゃんにお世話になっています」
母さんと純子さん、香苗さんがそう挨拶をすると軽く頭を下げる。
一紗や杏奈もいるからだろうか。よくある内容の挨拶だけど、何かちょっと照れくささを感じる。
「純子さんも香苗さんも素敵な方ですね。さすがは一紗ちゃんと杏奈ちゃんそれぞれのお母さんです」
「ふふっ、ありがとうございます。自然にそんなことを言えるのは、大輝君のお母さんって感じがしますね」
「私も同じことを思いました。それに、一紗の大好きな速水君のお母様ですし、優子さんにちょっとときめいてしまっています……」
頬のほんのり赤くし、恍惚とした表情で母さんを見つめる純子さん。一紗の母親らしいな。容姿の雰囲気も似ているし、一紗は純子さんから受け継いだ要素がかなり多そう。現に一紗も「素敵な大人の女性よね」と納得しているし。
一紗と純子さんのことを杏奈と香苗さんは「ふふっ」と明るく笑っている。その可愛らしい笑顔はそっくりだ。
「2人ともよろしくお願いしますね。雨が降っていますが、蒸し暑かったでしょう。冷たいものでも飲みながらゆっくりお喋りしましょう。文香ちゃん達は2時半からの三者面談が終わり次第帰ってきますので。大輝、手伝ってくれる?」
「ああ、分かった」
一紗達をリビングに通す。
母さんの指示で、俺は冷たい麦茶を用意して、一紗達の前に麦茶の入った冷茶グラスを置いた。その間に母さんがお茶請けとして、一口サイズの抹茶カステラを出していた。
「……あっ、そうだ」
一紗達が来たことをサクラにメッセージで送っておくか。時間的にまだ面談中かもしれないが。キッチンへ行き、LIMEのサクラとの個別トークに、
『一紗達4人が家に来たよ』
とメッセージを送っておいた。これで大丈夫だろう。
リビングに戻り、俺は一人用のソファーに腰を下ろす。俺から向かって左側のソファーに一紗と杏奈、母さんが座り、右側のソファーに純子さんと香苗さんが座っている。
今は6人だからリビングにあるソファーに全員座れているけど、サクラ達が帰ってきたらどうしようか。……まあ、3人だし、キッチンの食卓にある椅子を使えば何とかなるか。
冷たい飲み物や一口カステラを楽しみながら、6人で談笑していく。四鷹高校でのことやマスバーガーでのバイトでのこと。親たちの学生時代のことを中心に話が盛り上がる。そんな中、
『面談終わったよ。仁実さんも一緒に3人で帰るね』
と、サクラからメッセージが届いた。サクラと小泉さんの面談が終わったか。
『面談お疲れ様。みんなで待ってるよ』
と、サクラに返信。
サクラの面談が終わって帰ってくることを伝えると、一紗達はもうすぐ会えると嬉しそうにしていた。4人とも美紀さんと仁実さんとは初めて会うもんなぁ。香苗さんはサクラとも会うのが初めてだし。自然と話題はこれから来るサクラ達のことに。
「ただいま~」
サクラに返信してから10分ほど。玄関の開く音と共に、サクラのそんな声が聞こえてきた。インターホンの音が鳴らずにサクラの「ただいま」が聞けることで、サクラはここに住んでいるのだと実感する。
リビングにいる俺達は6人で声を合わせて「おかえり~」と言う。
「ただいま。面談終わりました」
「ただいま。みなさん初めまして~」
「お邪魔します~」
リビングにサクラと美紀さん、小泉さんの母親の仁実さんが入ってきた。その際「こんにちは」と頭を軽く下げる。蒸し暑い中帰ってきたからか、3人とも「涼しい~」と快適そうな表情を浮かべている。
「サクラ。面談お疲れ様」
「お疲れ様です、文香先輩!」
「お疲れ様、文香さん」
「ありがとう。学校生活や進路、ここでの生活のことを話したけど、平和な面談になったよ」
「それは良かった」
俺の予想通り、平和な三者面談になったか。一紗達が来る前に面談について話していたからか、母さんもほっとした様子になっていた。
「杏奈ちゃんのお母さんとは初めてですよね。桜井文香といいます。杏奈ちゃんから聞いていると思いますが、春休みからこの家に住んでいて、ダイちゃんとお付き合いしています」
「文香の母の美紀です、初めまして。娘がいつもお世話になっています。夫の転勤で春休みから名古屋に住んでいて、今日は娘の三者面談のために四鷹に来ました」
「初めまして、小泉仁実です。娘の青葉がお世話になっております」
今、帰ってきた3人がそう自己紹介をする。
「麻生一紗です、初めまして。大輝君と文香さん、青葉さんと友人でクラスメイトです。よろしくお願いします」
「初めまして、小鳥遊杏奈です。四鷹高校に通う1年で、大輝先輩がバイトの先輩でもあるので、その繋がりで文香先輩と青葉先輩とも仲良くなりました。よろしくお願いします」
「初めまして、一紗の母の純子と申します。娘がいつもお世話になっております」
「初めまして、杏奈の母の香苗です。娘がお世話になっています」
先ほど来た4人も自己紹介をすると、この場で自己紹介した7人全員が軽く頭を下げ合う。これで初対面の人がいる人の自己紹介は終わったのかな。自分絡みの自己紹介があまりなかったから、さっきとは違って気恥ずかしさのようなものは感じなかった。
「どちらも素敵な親子ですね、仁実さん」
「そうですね、美紀さん」
にこやかにそう話す美紀さんと仁実さん。その会話を聞いて、麻生親子も小鳥遊親子も嬉しそうだ。
美紀さんはにこやかな表情のまま一紗と杏奈のすぐ後ろまで向かう。一紗と杏奈は不思議そうな様子で、美紀さんの方に振り返る。
「前に文香から写真を送ってもらったけど、一紗ちゃんはとても綺麗で杏奈ちゃんは凄く可愛い女の子だね。それに、2人がとてもいい子だって聞いてる。あたしが名古屋に引っ越した後に、文香が2人のような子と出会って友達になれたのが嬉しいの。これからも文香と仲良くしてくれると嬉しいな」
とても優しい声色で一紗と杏奈にそう言う美紀さん。
「もちろんです! 文香さんも素敵な女の子です」
「優しくて頼れる可愛い先輩ですよね。文香先輩は女子の中では四鷹高校で一番好きな先輩ですっ!」
美紀さんの言葉に一紗と杏奈は満面の笑顔でそう答える。そのことに、美紀さんはもちろんのことサクラも嬉しそうだ。俺も嬉しい気持ちになるよ。
「ありがとう! 2人とも文香をよろしくね!」
美紀さんは一紗と杏奈の頭を優しく撫でる。その撫で方が気持ちいいのか、一紗と杏奈の笑顔がやんわりとしたものに変わって。青葉のこともよろしくね、と仁実さんも2人の頭を撫でる。微笑ましい光景だ。
一紗と杏奈だけでなく、小泉さんもサクラとの友人関係はずっと続いていくだろう。今までの彼女達を見てきてそう思える。
「あの。みなさんとここで会うことになっていましたので、名古屋でういろうと小倉トーストクッキーをたくさん買ってきたんです。それを食べながらお喋りしませんか?」
楽しげな様子でそう提案してくる美紀さん。もちろん、俺達はそれに賛成した。
ういろうと小倉トーストは愛知の有名な食べ物だ。小倉トーストがどのようにクッキーになっているのかは気になるけど、どっちも楽しみだ。
キッチンから食卓の椅子をいくつか持ってきて、9人でローテーブルを囲む。自分以外は全員女性なので何だか圧巻の光景である。俺の家のリビングなのに、あまりホームな感じがしない。
美紀さんからのお土産のういろうと小倉トーストクッキー、母さんが淹れてくれたアイスティーを楽しみながら、9人で談笑する。俺達の学校生活や、親達の青春時代の話、名古屋での生活などの話題で大いに盛り上がるのであった。
あと、ういろうはもちろんのこと、小倉トーストクッキーもあんこ味のチョコが甘くて美味しかったです。サクラに一口食べさせてもらったけど、そのときはもっと美味しかったです。
「文香ちゃんの三者面談。無事に終わるといいわね」
「そうだな。でも、サクラなら大丈夫じゃないか。中間試験はまずまずの結果だったし、手芸部も楽しんでいるみたいだから」
「そうね。文香ちゃん、しっかりしているもんね」
納得した様子で言うと、母さんは自分のマグカップに入っているアイスコーヒーを一口飲んだ。
俺が見ている限りでは、サクラの学校での生活態度もいい。担任も去年に続いて流川先生だから、きっと平和な三者面談になるだろう。
――プルルッ。
ローテーブルに置いてある俺のスマホが鳴っている。さっそく確認すると、LIMEで一紗から新着メッセージが届いたと通知が。通知をタップすると、
『杏奈さんと香苗さんと4人で伺うわ。今は駅にいるから、あと10分くらいで着くと思う』
一紗とのトーク画面にそんなメッセージが表示された。この文面からして、麻生親子と小鳥遊親子は四鷹駅で待ち合わせする約束になっていたのかな。俺は一紗に了解の旨のメッセージを送った。
「一紗からメッセージがあった。駅にいて、これから杏奈と香苗さんの4人で家に来るってさ」
「分かったわ。一紗ちゃんと杏奈ちゃんのそれぞれのお母様と会うのが楽しみだわ。まだ会ったことないし」
「そっか。小泉さんのお母さん……仁実さんも来るけど、母さんは会ったことある?」
「あるよ。去年同じクラスだったから、保護者会のときとかに。美紀ちゃん繋がりでね」
「なるほど」
サクラと小泉さんは去年も出席番号が連続していた。それもあって、入学した日に仲良くなったのを覚えている。娘きっかけで、美紀さんと仁実さんも仲良くなったのだろう。それで、保護者会のときに、美紀さんを介して母さんと仁実さんが面識を持ったと。
ちなみに、俺は去年の体育祭に仁実さんと初対面を果たしている。小泉さんの母親だけあって快活な方だったな。
壁に掛かっている時計を見ると、今は午後2時25分か。一つ前の小泉さんの三者面談が早く終わっていたら、もうサクラの番になっているかもしれない。サクラだけでなく、小泉さんの面談も無事に終わるといいな。
――ピンポーン。
おっ、インターホンが鳴った。一紗のメッセージが来てから10分くらい経っているし、一紗達かもしれない。
「俺が出るよ」
扉の近くにあるモニターのスイッチを押すと、画面の大半に一紗の笑顔が映る。ちなみに、一紗が家に来たときは、大抵は今のように映るのだ。
「はい」
『大輝君! 4人で来たわよ!』
「待ってました。すぐに行くよ」
『ええ!』
「……一紗達だ。母さんも出迎える?」
「ええ。行きましょう」
俺は母さんと一緒にリビングを出て、玄関へ向かう。
玄関に行き、俺は扉を開ける。そこにはフレンチスリーブのワンピース姿の一紗と純子さん、キュロットスカートに肩開きのTシャツ姿の杏奈、スラックスにノースリーブの縦ニット姿の香苗さんの姿が。みんなよく似合っているな。
「みなさん、こんにちは。中へどうぞ」
一紗達4人を家の中に招き入れる。
4人は家の中に入ると、玄関に立っている母さんに「こんにちは」と挨拶する。そのことに母さんはにこやかな笑みを浮かべる。
「みなさんこんにちは。一紗ちゃんと杏奈ちゃんのそれぞれのお母様とは初めましてですね。速水大輝の母の優子と申します」
「初めまして。一紗の母の純子といいます。息子さんには娘がいつもお世話になっております」
「杏奈の母の香苗です、初めまして。大輝君には学校だけではなく、バイトでもお世話になっております」
「いえいえ。こちらこそ、息子が一紗ちゃんと杏奈ちゃんにお世話になっています」
母さんと純子さん、香苗さんがそう挨拶をすると軽く頭を下げる。
一紗や杏奈もいるからだろうか。よくある内容の挨拶だけど、何かちょっと照れくささを感じる。
「純子さんも香苗さんも素敵な方ですね。さすがは一紗ちゃんと杏奈ちゃんそれぞれのお母さんです」
「ふふっ、ありがとうございます。自然にそんなことを言えるのは、大輝君のお母さんって感じがしますね」
「私も同じことを思いました。それに、一紗の大好きな速水君のお母様ですし、優子さんにちょっとときめいてしまっています……」
頬のほんのり赤くし、恍惚とした表情で母さんを見つめる純子さん。一紗の母親らしいな。容姿の雰囲気も似ているし、一紗は純子さんから受け継いだ要素がかなり多そう。現に一紗も「素敵な大人の女性よね」と納得しているし。
一紗と純子さんのことを杏奈と香苗さんは「ふふっ」と明るく笑っている。その可愛らしい笑顔はそっくりだ。
「2人ともよろしくお願いしますね。雨が降っていますが、蒸し暑かったでしょう。冷たいものでも飲みながらゆっくりお喋りしましょう。文香ちゃん達は2時半からの三者面談が終わり次第帰ってきますので。大輝、手伝ってくれる?」
「ああ、分かった」
一紗達をリビングに通す。
母さんの指示で、俺は冷たい麦茶を用意して、一紗達の前に麦茶の入った冷茶グラスを置いた。その間に母さんがお茶請けとして、一口サイズの抹茶カステラを出していた。
「……あっ、そうだ」
一紗達が来たことをサクラにメッセージで送っておくか。時間的にまだ面談中かもしれないが。キッチンへ行き、LIMEのサクラとの個別トークに、
『一紗達4人が家に来たよ』
とメッセージを送っておいた。これで大丈夫だろう。
リビングに戻り、俺は一人用のソファーに腰を下ろす。俺から向かって左側のソファーに一紗と杏奈、母さんが座り、右側のソファーに純子さんと香苗さんが座っている。
今は6人だからリビングにあるソファーに全員座れているけど、サクラ達が帰ってきたらどうしようか。……まあ、3人だし、キッチンの食卓にある椅子を使えば何とかなるか。
冷たい飲み物や一口カステラを楽しみながら、6人で談笑していく。四鷹高校でのことやマスバーガーでのバイトでのこと。親たちの学生時代のことを中心に話が盛り上がる。そんな中、
『面談終わったよ。仁実さんも一緒に3人で帰るね』
と、サクラからメッセージが届いた。サクラと小泉さんの面談が終わったか。
『面談お疲れ様。みんなで待ってるよ』
と、サクラに返信。
サクラの面談が終わって帰ってくることを伝えると、一紗達はもうすぐ会えると嬉しそうにしていた。4人とも美紀さんと仁実さんとは初めて会うもんなぁ。香苗さんはサクラとも会うのが初めてだし。自然と話題はこれから来るサクラ達のことに。
「ただいま~」
サクラに返信してから10分ほど。玄関の開く音と共に、サクラのそんな声が聞こえてきた。インターホンの音が鳴らずにサクラの「ただいま」が聞けることで、サクラはここに住んでいるのだと実感する。
リビングにいる俺達は6人で声を合わせて「おかえり~」と言う。
「ただいま。面談終わりました」
「ただいま。みなさん初めまして~」
「お邪魔します~」
リビングにサクラと美紀さん、小泉さんの母親の仁実さんが入ってきた。その際「こんにちは」と頭を軽く下げる。蒸し暑い中帰ってきたからか、3人とも「涼しい~」と快適そうな表情を浮かべている。
「サクラ。面談お疲れ様」
「お疲れ様です、文香先輩!」
「お疲れ様、文香さん」
「ありがとう。学校生活や進路、ここでの生活のことを話したけど、平和な面談になったよ」
「それは良かった」
俺の予想通り、平和な三者面談になったか。一紗達が来る前に面談について話していたからか、母さんもほっとした様子になっていた。
「杏奈ちゃんのお母さんとは初めてですよね。桜井文香といいます。杏奈ちゃんから聞いていると思いますが、春休みからこの家に住んでいて、ダイちゃんとお付き合いしています」
「文香の母の美紀です、初めまして。娘がいつもお世話になっています。夫の転勤で春休みから名古屋に住んでいて、今日は娘の三者面談のために四鷹に来ました」
「初めまして、小泉仁実です。娘の青葉がお世話になっております」
今、帰ってきた3人がそう自己紹介をする。
「麻生一紗です、初めまして。大輝君と文香さん、青葉さんと友人でクラスメイトです。よろしくお願いします」
「初めまして、小鳥遊杏奈です。四鷹高校に通う1年で、大輝先輩がバイトの先輩でもあるので、その繋がりで文香先輩と青葉先輩とも仲良くなりました。よろしくお願いします」
「初めまして、一紗の母の純子と申します。娘がいつもお世話になっております」
「初めまして、杏奈の母の香苗です。娘がお世話になっています」
先ほど来た4人も自己紹介をすると、この場で自己紹介した7人全員が軽く頭を下げ合う。これで初対面の人がいる人の自己紹介は終わったのかな。自分絡みの自己紹介があまりなかったから、さっきとは違って気恥ずかしさのようなものは感じなかった。
「どちらも素敵な親子ですね、仁実さん」
「そうですね、美紀さん」
にこやかにそう話す美紀さんと仁実さん。その会話を聞いて、麻生親子も小鳥遊親子も嬉しそうだ。
美紀さんはにこやかな表情のまま一紗と杏奈のすぐ後ろまで向かう。一紗と杏奈は不思議そうな様子で、美紀さんの方に振り返る。
「前に文香から写真を送ってもらったけど、一紗ちゃんはとても綺麗で杏奈ちゃんは凄く可愛い女の子だね。それに、2人がとてもいい子だって聞いてる。あたしが名古屋に引っ越した後に、文香が2人のような子と出会って友達になれたのが嬉しいの。これからも文香と仲良くしてくれると嬉しいな」
とても優しい声色で一紗と杏奈にそう言う美紀さん。
「もちろんです! 文香さんも素敵な女の子です」
「優しくて頼れる可愛い先輩ですよね。文香先輩は女子の中では四鷹高校で一番好きな先輩ですっ!」
美紀さんの言葉に一紗と杏奈は満面の笑顔でそう答える。そのことに、美紀さんはもちろんのことサクラも嬉しそうだ。俺も嬉しい気持ちになるよ。
「ありがとう! 2人とも文香をよろしくね!」
美紀さんは一紗と杏奈の頭を優しく撫でる。その撫で方が気持ちいいのか、一紗と杏奈の笑顔がやんわりとしたものに変わって。青葉のこともよろしくね、と仁実さんも2人の頭を撫でる。微笑ましい光景だ。
一紗と杏奈だけでなく、小泉さんもサクラとの友人関係はずっと続いていくだろう。今までの彼女達を見てきてそう思える。
「あの。みなさんとここで会うことになっていましたので、名古屋でういろうと小倉トーストクッキーをたくさん買ってきたんです。それを食べながらお喋りしませんか?」
楽しげな様子でそう提案してくる美紀さん。もちろん、俺達はそれに賛成した。
ういろうと小倉トーストは愛知の有名な食べ物だ。小倉トーストがどのようにクッキーになっているのかは気になるけど、どっちも楽しみだ。
キッチンから食卓の椅子をいくつか持ってきて、9人でローテーブルを囲む。自分以外は全員女性なので何だか圧巻の光景である。俺の家のリビングなのに、あまりホームな感じがしない。
美紀さんからのお土産のういろうと小倉トーストクッキー、母さんが淹れてくれたアイスティーを楽しみながら、9人で談笑する。俺達の学校生活や、親達の青春時代の話、名古屋での生活などの話題で大いに盛り上がるのであった。
あと、ういろうはもちろんのこと、小倉トーストクッキーもあんこ味のチョコが甘くて美味しかったです。サクラに一口食べさせてもらったけど、そのときはもっと美味しかったです。
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