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本編-春休み編-
第19話『雪玉ストレート』
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文香と雪に関する思い出話に花を咲かせたから、あっという間に門の近くまで雪かきが進んだ。雪かきで体を動かしているので、暖かさを感じられるように。
門まで到着したので、開けるのに支障が無いかどうかチェックする。
「よし、ちゃんと開けられるな」
「お疲れ様、大輝」
近くで文香の声が聞こえたので振り返ると、目の前に文香が立っていた。手を後ろに組み、微笑んでいる姿が可愛らしい。
「ありがとう。文香の方はどうだ?」
「物干し場の雪かきが終わったよ。だから、大輝にチェックしてほしくて」
「分かった」
玄関の近くに雪かきスコップを置き、俺は文香の担当した物干し場へと向かう。
さっきまではあった物干し場の雪が綺麗になくなっていた。その雪はフェンスの側に積まれている。これなら大丈夫だ。
「どう?」
「……うん、これでOKだ。ありがとう、文香」
お礼を言い、文香のいる玄関の方に振り返った瞬間、白い物体が物凄い勢いでこちらに迫ってくるのが見えた。
「おっと!」
間一髪のタイミングで避けて、顔面への直撃は免れられた。しかし、髪の毛をかすめていった。物体の白さからして、俺に迫ってきたものは雪玉に間違いないだろう。もちろん、それを投げたのは、
「……文香」
文香の名前を口にして、文香のことを見る。目が合うと、文香は「ふっ」と微笑む。
「雪玉ストレート外れちゃった。物干し場を確認した後だったら、大輝も油断して当たると思ったんだけど。あれを避けるなんてさすがだね」
「危うく当たるところだったよ。まったく。さっき、後ろに手を組んでいたのは、事前に作った雪玉を隠すためだったのか」
「そう。こんなにたくさん雪が積もっているし、思い出を話したら昔の血が騒いでね。雪玉をこっそり作って、あのときは後ろに隠し持っていたの。でも、あそこで投げれば良かったのかも」
「さっきくらいの至近距離だったら当たっていたかもな」
「なるほどね」
「……雪かきも終わったし、そっちの庭で軽く雪遊びしようぜ」
「いいね」
雪遊びをすることが決まったので、庭の方に向かって歩き始める。
しかし、文香に手が届きそうなところまで近づいたとき、
「えいっ」
と、文香の可愛らしい声が聞こえ、文香の右手から俺に向かって雪玉が放たれた。
至近距離だったため避けるどころか、体が全く動かず、文香の放った雪玉が顔面にクリーンヒットしてしまった。
「冷たっ!」
「2発目の雪玉ストレートは見事に決まったね」
文香は「ふふっ」と上品に笑っている。悔しさもあるけど、笑顔の文香を可愛いと思う気持ちが余裕で勝つので、怒る気にはならなかった。
「いつの間に2つ目の雪玉を作ったんだ?」
「物干し場の確認をお願いしに行ったときには、もう2つ作ってたよ」
「じゃあ、後ろに組んでいた手には2つの雪玉があったってことか」
「そういうこと。大輝は昔から避けるのが上手だから、1発目は外すかもしれないと思ってね。ただ、ひさしぶりだし、1発避けたら油断するんじゃないかと思って」
「完全に油断していたよ。さっきも、雪玉を『1つ』隠し持っていたとは言っていなかったから、嘘もついていないのか」
「そうだよ」
文香の笑顔がニッコリとしたものに変わる。自分の思惑通りになり、俺が油断したと言ったから嬉しいのだろう。
今の文香の雪玉ストレートで、俺も昔の血が騒いできたぞ。
「童心に帰って、文香に雪玉ストレートを味わわせてやるよ」
「当てられる? 大輝って投げる方はあまり得意じゃなかったし、ブランクもあるだろうから」
「もうすぐで高校2年生なんだ。バイトもしているから、昔に比べれば体力はある。だから、いい雪玉ストレートを投げられる自信がある」
「……なるほど。受けて立つ」
勇ましさも感じられる文香の姿は、昔の文香と重なる。昔の血が騒いだと言うだけあるな。
その後、文香と俺は庭に行き、軽く雪合戦をする。
「これが命名者の雪玉ストレートだ!」
文香に向かって雪玉ストレートを投げると、見事に文香の顔にヒットした。
「きゃっ! 冷たいっ! 確かに、昔よりもスピードが上がってるね」
「そうだろう?」
まあ、これでさっきのお返しはできたかな。顔に当てられてしまったこともあってか、雪玉ストレートが文香の顔に当たるととても気持ちいい。
それから、何度も文香に向かって雪玉ストレートを投げ、半分以上は彼女に当たった。中には、彼女の雪玉ストレートを避けた直後に投げたものが当たるなんてことも。
「ひさしぶりだけど、高校生だからかすぐに上手になるね、大輝」
「小さい頃に文香と和奏姉さんにたくさん投げてきたからな。その頃の勘が戻ってきたんだよ」
あの頃は外れることが多かったけど、今は速度が早くなったからか、雪玉ストレートの命中率が格段に上がった。
「ただ、昔の勘を取り戻してきたのは大輝だけじゃない。私も大輝に雪玉ストレートをたくさん当てていくよ」
「果たしてそうなるかな? 俺は小さい頃からよける技術はあるんだ。……和奏姉さんの雪玉ストレートは当たることが多かったし、さっきの文香の策略にはまっちまったけど」
「玄関の前では、2つ目の雪玉作戦が見事に成功して気持ち良かったわ」
「くそっ……」
悔しがる俺を前にして、文香は「ふふっ」と上品に笑う。その声色や目つきから、嘲笑のようにも感じられる。なので、更に悔しさが増してくる。
「お、俺はこの調子で文香に雪玉ストレートを当て続けるぞ!」
「そうはさせない。形勢逆転していくよ」
さっき以上に勇ましい様子を見せる文香。雪の力って凄いなと思う。そんなことを考えながら、雪合戦を再開する。
「えいっ!」
「うわっ、冷てえ!」
「やった!」
文香もコツを掴んだのか。それとも昔の感覚を取り戻したのか。投げるに連れて俺に当たる確率が上がっていく。
「宣言通り、雪玉ストレートを当たるようになってきたでしょう?」
「そうだな。凄いよ、文香は」
「ふふっ」
ドヤ顔になる文香。可愛いな。
文香は投げるだけじゃなくて、避ける技術も向上している。気付けば、文香よりも雪玉ストレートを当てられなくなってきた。そのことに悔しさもあるけど、文香が楽しそうだからいいかな。
軽く雪遊びをしようと言っていたけど、気付けば、ガッツリと雪遊びをしていたのであった。
昼過ぎに雪が止んでから、再び文香と2人で雪かきをした。
午前中とは別の雪遊びをしようということになり、雪かきが終わった後は、庭で俺は雪だるまを、文香は隣で猫の雪像を作っていく。
「よし、こんな感じでいいかな」
「さすがは大輝。今も上手に雪だるまを作るね。猫の雪像できたよ」
「……おっ、可愛いな」
文香の部屋にある三毛猫のぬいぐるみをモチーフにしているのか、寝そべった猫の雪像となっている。全体に丸いフォルムなのでとても可愛らしい。
「ありがとう。マンションのベランダだとこんなに大きなものは作れないから、結構楽しかった」
「確かに、文香の家のベランダだとこのサイズは無理だよな」
「うん。たまにベランダに雪が溜まったときに、小さな雪だるまを作るくらいだった。だから、お庭でたくさんの雪を使って遊べる大輝や和奏ちゃんが羨ましいって思うことが何度もあった」
「そうだったのか。まあ、これからは雪が降れば、家の敷地内にある雪を好きに使っていいぞ。今回みたいに、雪かきを手伝ってもらうこともあるけど」
「ええ」
ニッコリと笑ってそう言う文香。
自分の作った猫の雪像と俺の作った雪だるま結構気に入ったようで、文香はスマホで撮っていた。
最初こそ、この時期に雪が降るのは、季節外れだからかなり寒く感じていい印象はなかった。けれど、文香と楽しい時間を過ごせたから結果的には季節外れでも、雪が降るのはいいなって思えるようになった。小さい頃のように雪を好きになれそうだ。
門まで到着したので、開けるのに支障が無いかどうかチェックする。
「よし、ちゃんと開けられるな」
「お疲れ様、大輝」
近くで文香の声が聞こえたので振り返ると、目の前に文香が立っていた。手を後ろに組み、微笑んでいる姿が可愛らしい。
「ありがとう。文香の方はどうだ?」
「物干し場の雪かきが終わったよ。だから、大輝にチェックしてほしくて」
「分かった」
玄関の近くに雪かきスコップを置き、俺は文香の担当した物干し場へと向かう。
さっきまではあった物干し場の雪が綺麗になくなっていた。その雪はフェンスの側に積まれている。これなら大丈夫だ。
「どう?」
「……うん、これでOKだ。ありがとう、文香」
お礼を言い、文香のいる玄関の方に振り返った瞬間、白い物体が物凄い勢いでこちらに迫ってくるのが見えた。
「おっと!」
間一髪のタイミングで避けて、顔面への直撃は免れられた。しかし、髪の毛をかすめていった。物体の白さからして、俺に迫ってきたものは雪玉に間違いないだろう。もちろん、それを投げたのは、
「……文香」
文香の名前を口にして、文香のことを見る。目が合うと、文香は「ふっ」と微笑む。
「雪玉ストレート外れちゃった。物干し場を確認した後だったら、大輝も油断して当たると思ったんだけど。あれを避けるなんてさすがだね」
「危うく当たるところだったよ。まったく。さっき、後ろに手を組んでいたのは、事前に作った雪玉を隠すためだったのか」
「そう。こんなにたくさん雪が積もっているし、思い出を話したら昔の血が騒いでね。雪玉をこっそり作って、あのときは後ろに隠し持っていたの。でも、あそこで投げれば良かったのかも」
「さっきくらいの至近距離だったら当たっていたかもな」
「なるほどね」
「……雪かきも終わったし、そっちの庭で軽く雪遊びしようぜ」
「いいね」
雪遊びをすることが決まったので、庭の方に向かって歩き始める。
しかし、文香に手が届きそうなところまで近づいたとき、
「えいっ」
と、文香の可愛らしい声が聞こえ、文香の右手から俺に向かって雪玉が放たれた。
至近距離だったため避けるどころか、体が全く動かず、文香の放った雪玉が顔面にクリーンヒットしてしまった。
「冷たっ!」
「2発目の雪玉ストレートは見事に決まったね」
文香は「ふふっ」と上品に笑っている。悔しさもあるけど、笑顔の文香を可愛いと思う気持ちが余裕で勝つので、怒る気にはならなかった。
「いつの間に2つ目の雪玉を作ったんだ?」
「物干し場の確認をお願いしに行ったときには、もう2つ作ってたよ」
「じゃあ、後ろに組んでいた手には2つの雪玉があったってことか」
「そういうこと。大輝は昔から避けるのが上手だから、1発目は外すかもしれないと思ってね。ただ、ひさしぶりだし、1発避けたら油断するんじゃないかと思って」
「完全に油断していたよ。さっきも、雪玉を『1つ』隠し持っていたとは言っていなかったから、嘘もついていないのか」
「そうだよ」
文香の笑顔がニッコリとしたものに変わる。自分の思惑通りになり、俺が油断したと言ったから嬉しいのだろう。
今の文香の雪玉ストレートで、俺も昔の血が騒いできたぞ。
「童心に帰って、文香に雪玉ストレートを味わわせてやるよ」
「当てられる? 大輝って投げる方はあまり得意じゃなかったし、ブランクもあるだろうから」
「もうすぐで高校2年生なんだ。バイトもしているから、昔に比べれば体力はある。だから、いい雪玉ストレートを投げられる自信がある」
「……なるほど。受けて立つ」
勇ましさも感じられる文香の姿は、昔の文香と重なる。昔の血が騒いだと言うだけあるな。
その後、文香と俺は庭に行き、軽く雪合戦をする。
「これが命名者の雪玉ストレートだ!」
文香に向かって雪玉ストレートを投げると、見事に文香の顔にヒットした。
「きゃっ! 冷たいっ! 確かに、昔よりもスピードが上がってるね」
「そうだろう?」
まあ、これでさっきのお返しはできたかな。顔に当てられてしまったこともあってか、雪玉ストレートが文香の顔に当たるととても気持ちいい。
それから、何度も文香に向かって雪玉ストレートを投げ、半分以上は彼女に当たった。中には、彼女の雪玉ストレートを避けた直後に投げたものが当たるなんてことも。
「ひさしぶりだけど、高校生だからかすぐに上手になるね、大輝」
「小さい頃に文香と和奏姉さんにたくさん投げてきたからな。その頃の勘が戻ってきたんだよ」
あの頃は外れることが多かったけど、今は速度が早くなったからか、雪玉ストレートの命中率が格段に上がった。
「ただ、昔の勘を取り戻してきたのは大輝だけじゃない。私も大輝に雪玉ストレートをたくさん当てていくよ」
「果たしてそうなるかな? 俺は小さい頃からよける技術はあるんだ。……和奏姉さんの雪玉ストレートは当たることが多かったし、さっきの文香の策略にはまっちまったけど」
「玄関の前では、2つ目の雪玉作戦が見事に成功して気持ち良かったわ」
「くそっ……」
悔しがる俺を前にして、文香は「ふふっ」と上品に笑う。その声色や目つきから、嘲笑のようにも感じられる。なので、更に悔しさが増してくる。
「お、俺はこの調子で文香に雪玉ストレートを当て続けるぞ!」
「そうはさせない。形勢逆転していくよ」
さっき以上に勇ましい様子を見せる文香。雪の力って凄いなと思う。そんなことを考えながら、雪合戦を再開する。
「えいっ!」
「うわっ、冷てえ!」
「やった!」
文香もコツを掴んだのか。それとも昔の感覚を取り戻したのか。投げるに連れて俺に当たる確率が上がっていく。
「宣言通り、雪玉ストレートを当たるようになってきたでしょう?」
「そうだな。凄いよ、文香は」
「ふふっ」
ドヤ顔になる文香。可愛いな。
文香は投げるだけじゃなくて、避ける技術も向上している。気付けば、文香よりも雪玉ストレートを当てられなくなってきた。そのことに悔しさもあるけど、文香が楽しそうだからいいかな。
軽く雪遊びをしようと言っていたけど、気付けば、ガッツリと雪遊びをしていたのであった。
昼過ぎに雪が止んでから、再び文香と2人で雪かきをした。
午前中とは別の雪遊びをしようということになり、雪かきが終わった後は、庭で俺は雪だるまを、文香は隣で猫の雪像を作っていく。
「よし、こんな感じでいいかな」
「さすがは大輝。今も上手に雪だるまを作るね。猫の雪像できたよ」
「……おっ、可愛いな」
文香の部屋にある三毛猫のぬいぐるみをモチーフにしているのか、寝そべった猫の雪像となっている。全体に丸いフォルムなのでとても可愛らしい。
「ありがとう。マンションのベランダだとこんなに大きなものは作れないから、結構楽しかった」
「確かに、文香の家のベランダだとこのサイズは無理だよな」
「うん。たまにベランダに雪が溜まったときに、小さな雪だるまを作るくらいだった。だから、お庭でたくさんの雪を使って遊べる大輝や和奏ちゃんが羨ましいって思うことが何度もあった」
「そうだったのか。まあ、これからは雪が降れば、家の敷地内にある雪を好きに使っていいぞ。今回みたいに、雪かきを手伝ってもらうこともあるけど」
「ええ」
ニッコリと笑ってそう言う文香。
自分の作った猫の雪像と俺の作った雪だるま結構気に入ったようで、文香はスマホで撮っていた。
最初こそ、この時期に雪が降るのは、季節外れだからかなり寒く感じていい印象はなかった。けれど、文香と楽しい時間を過ごせたから結果的には季節外れでも、雪が降るのはいいなって思えるようになった。小さい頃のように雪を好きになれそうだ。
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