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本編-春休み編-
第5話『初めての夜』
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羽柴が帰ってから、再び2人で一緒に荷解き作業する。分担して作業し、たまに文香が的確に指示をしてくれたこともあって、夕方には一通り終わった。その頃に哲也おじさんと美紀さんがやってきて、文香の新しい部屋を見て満足そうにしていた。
夕ご飯は哲也おじさんと美紀さんが頼んでくれた出前寿司。手巻き寿司はたまに食べるけど、出前寿司は滅多にないので特別感がある。今日は文香が引っ越してきたこともあり、さらに特別な気がして。
全国にお店のあるチェーン店のお寿司だけど、どのネタも厚く、脂が乗っていてとても美味しい。
そういえば、小さい頃の文香はわさびがダメだったな。今はどうなのかと文香に訊いたら、多少は大丈夫になったらしい。
ただ、今日のお寿司はわさびが結構利いているからか、文香は大好きなマグロの赤身のお寿司を食べると涙を浮かべていた。それで警戒したのか、甘い玉子のお寿司や、元々わさびのない軍艦寿司中心に食べているのが可愛らしかった。
夕食を食べ終わってから小一時間ほど。
お風呂の準備ができたので、文香が一番風呂に入る。
実は夕食を食べ終わった後に入浴について話し合い、文香は最初か母さんの後に入浴することになったのだ。父さんと俺は女性2人が入った後に入浴することに。和奏姉さんが一人暮らしを始めてから、大抵は俺が最後に入っていたので、入浴に関しては今までと変わらない。
「風呂に入るまではのんびりするか……」
今日は文香の引っ越し作業を手伝って、ちょっと疲れているから。
ベッドにある読みかけのラノベを手に取り、ベッドの近くにあるクッションに腰を下ろしたときだった。
――プルルッ。
ローテーブルに置いてあるスマホが鳴る。夜だし、羽柴が何か変なメッセージを送ってきたか? そう思いながらスマホを確認すると、小泉さんからメッセージとスタンプが1つずつ送られてきていた。
『今日から文香と一緒に住み始めるそうだけど、決して文香の嫌がることや変なことはしないようにね!』
というメッセージと、『注意!』という文字付きの、真剣な表情の犬のイラストスタンプが送られてきていた。小泉さんは犬派なのかな。ちなみに、俺は猫派。文香も昔と変わっていなければ猫派だ。
おそらく、俺の家に引っ越したことを文香から聞いたのだろう。だから、親友として俺に忠告のメッセージを送ったのだと思う。小泉さんも、文香と俺が幼馴染なのは知っているけど、年頃の男女が一緒に住むからな。
『気を付けるよ。あと、小泉さんさえよければ、いつでも家に遊びに来ていいからな』
という返信を送った。
放課後や休日に活動することの多い女子テニス部に入部しているけど、小泉さんは1年生の間に何度も文香の家に遊びに行っている。俺とは連絡先を交換し、学校ではたまに話す仲とはいえ、男子の家に行くのはハードルが高いと思う。なので、今のような言葉を添えた。
俺がメッセージを送ると、すぐに『既読』マークが付き、
『ありがとう。春休み中も部活のある日は多いけど、休みの間に一度は家に行ってみたいな。あと、幼馴染なんだし、文香のことを頼むね』
そんな返信が届いた。
そういえば、小泉さんって俺の家に来たことは一度もないな。もしそうなったら、文香に連絡するだろうし、彼女が教えるだろう。俺に連絡が来たら、俺が教えればいいか。
「コーヒーでも作るか」
俺は部屋を出て、1階のキッチンへ向かう。
階段を降りて1階に辿り着いたときだった。
「~♪」
洗面所の前を通ろうとした瞬間、文香の楽しげな鼻歌が聞こえてきたのだ。定期的に水滴の落ちる音も聞こえるので、シャワーのお湯を浴びているのだろうか。それが気持ち良くて気分が良くなっているのかな。それに、文香は昔から風呂好き。あと、鼻歌で歌っている曲……どこかで聞いたことがあるな。
1階の洗面所は浴室に繋がっているので、脱衣所としても使う。なので、洗面所に入る引き戸には鍵がついている。今もちゃんと鍵がかかっている。
それにしても、扉を二つ挟んだ先に、文香が生まれたままの姿でシャワーを浴びていると思うと凄くドキドキしてくる。あれ、体が勝手に――。
――ドンッ!
「きゃっ! だ、誰ですか!」
洗面所の扉にぶつかった音が聞こえたのか、中から文香の声が。
「だ、大輝だ。驚かせてごめん。その……コーヒーを作りに降りてきたら、洗面所の扉にぶつかっちゃって」
「そ、そうだったの。……一瞬、私がお風呂に入っているから、中に入ろうとしていたのかと思ったけど、大輝はそんなことはしないよね」
「もちろんさ。……ただ、鼻歌とシャワーの音が聞こえたから、ドキドキしちゃったけど」
「あぁ……聞こえちゃったんだ。中学くらいから、たまにお風呂で鼻歌を歌うことがあって。特に低変人さんの曲とか。結構好きなの。今歌っていたのは『ヒロイン』って曲」
「そうなのか。どっかで聞いたことがある曲だと思ったら、低変人さんの曲だったのか。俺も勉強するときとか、ラノベを読むときとかに聴いてるよ」
「……私も同じ感じ」
低変人さんというのは、数年前からネット上で活動する音楽家だ。定期的に、インストゥルメンタルの曲をYuTubuやワクワク動画という動画サイトにアップしている。楽曲のジャンルは多彩であり、若い世代を中心に絶大な人気を誇るカリスマ的存在。海外からの人気も高い。新曲がアップされると、クラスで結構話題になる。
ただ、そんな低変人さんの年齢、性別、容姿などは一切明らかになっていない。一時期、うちの最寄り駅の四鷹駅も通る東京中央線沿いに、低変人さんが住んでいるという噂が流れたことがあるが。
ちなみに、『ヒロイン』という曲は、一昨年にアップされた曲で、ポップなメロディーが印象的だ。
俺達が中学1年生のときに、文香と低変人さんの曲が話題になったことがあったけど、当時はそこまでハマっている様子ではなかった。距離ができたこの3年の間に好きになっていったのだろう。
そういえば、和奏姉さんや羽柴も低変人さんの曲は好きだし、高校の友人には低変人さんの大ファンの奴がいたな。
「大輝。今も洗面所の前に立ってる?」
「ああ」
「……家の中にいれば、お風呂の音が聞こえちゃうのは仕方ないと思っているけど、立ち止まって聞かれるのはさすがに恥ずかしい」
「ご、ごめんな。コーヒーを作って自分の部屋に戻るから、文香はゆっくり入ってくれ。今日は引っ越し作業もあったし。それに、泊まりを含めて家にたくさん来たことがあっても、住むのは今日が初日だ。大好きなお風呂で、少しでも気持ちを休めて、疲れを取ってくれ」
「……うん。ありがとう」
文香の返事をちゃんと聞いて、俺は洗面所の前から離れた。
キッチンで作ったコーヒーを持って自分の部屋に戻り、俺は読みかけのラノベを読み始める。
そういえば、このラノベのタイトルも『幼馴染が絶対に勝つラブコメ』だな。文香っていう幼馴染の女の子がいるから、幼馴染が活躍する作品は魅力的に思えるのだ。本棚を見ると……確かに、羽柴の言う通り、幼馴染がメインに登場する作品が多い。これじゃ、羽柴も感付くわけだ。
「文香にも……気付かれているのかな」
午後、ここで休憩をしたとき、文香も本棚を見ていたから。彼女の部屋の本棚にもラブコメ系の漫画や小説が結構あったので、ラブコメ作品には詳しい可能性がある。
文香が家に引っ越してきたからか、読んでいるラノベに登場する幼馴染の女の子がとても魅力的に見えるのであった。
それから1時間以上経って、風呂が空いたと父さんが伝えてくれた。なので、俺も入浴することに。
浴室に入ると、父さんの入浴した後だからか、普段と同じく家族で愛用しているボディーソープの匂いが感じられる。
ただ、文香愛用なのか、シャンプーラックには初めて見るシャンプーのボトルが置いてある。タオル掛けには淡い桃色のボディータオルがかかっていて。文香がここで入浴したんだと実感し、かなりドキドキする。
髪と体を洗っている間も文香のことを意識してしまう。そのせいで、洗い終わったときには体がかなり熱く、心臓もバクバク。なので、湯船には30秒くらいしか浸からなかった。
浴室を出るとかなり涼しく感じる。今の季節が夏じゃなくて良かった。夏だったら、きっと熱中症で倒れていただろう。
寝間着に着替えて自分の部屋に戻ろうとする。2階に上がったとき、
――ドン! ドン!
という音が文香の部屋から何度も聞こえてくる。何があったんだ?
「文香、どうした? ドンドン音が聞こえるけど」
部屋の扉の前でそう問いかけて、扉をノックする。
すると、程なくして部屋の扉が開く。そこには桃色の寝間着姿の文香が。文香の顔はほんのりと赤くなっている。あと、文香が風呂に入ってからは少し時間が経っているけど、艶やかな髪からシャンプーの匂いがふんわりと香ってくる。
「ご、ごめんなさい。読んでいた漫画がとても面白くて。最近、面白い本や読んだり、動画を見たりすると、たまにベッドを叩くことがあるの」
「そうだったのか。それならいいけど」
凄く面白い漫画なんだろうな。階段からでも「ドンドン」と聞こえたし。
「きょ、今日からは隣の部屋に大輝がいるんだもんね。うるさくしないように気を付けないと」
「よほどうるさくなければ俺はかまわないよ。俺も気を付けないと。漫画を読んだり、アニメを観ていたりしているとき、面白いと大声で笑うときがあるから」
「昔からそうだったね。……じゃあ、早いけどおやすみ」
「ああ、おやすみ」
文香は微笑みながら部屋の扉を閉めた。
いつもよりも早いけど、明日は朝からバイトがあるから、今日はもう寝るか。
俺は2階の洗面所で歯を磨く。お風呂のことを話し合った際に、洗面所やお手洗いについても話した。2階の洗面所は文香と共用、お手洗いは女性専用にして、俺は1階を使うことになったのだ。
歯を磨き終わった俺は部屋に戻り、ベッドに直行。
いつもなら、お風呂に入った直後だとすぐに眠れるけど、隣の部屋に文香がいると思うとなかなか眠れない。低変人さんのゆったりとした曲を1時間ほど聴いて、ようやく眠れたのであった。
夕ご飯は哲也おじさんと美紀さんが頼んでくれた出前寿司。手巻き寿司はたまに食べるけど、出前寿司は滅多にないので特別感がある。今日は文香が引っ越してきたこともあり、さらに特別な気がして。
全国にお店のあるチェーン店のお寿司だけど、どのネタも厚く、脂が乗っていてとても美味しい。
そういえば、小さい頃の文香はわさびがダメだったな。今はどうなのかと文香に訊いたら、多少は大丈夫になったらしい。
ただ、今日のお寿司はわさびが結構利いているからか、文香は大好きなマグロの赤身のお寿司を食べると涙を浮かべていた。それで警戒したのか、甘い玉子のお寿司や、元々わさびのない軍艦寿司中心に食べているのが可愛らしかった。
夕食を食べ終わってから小一時間ほど。
お風呂の準備ができたので、文香が一番風呂に入る。
実は夕食を食べ終わった後に入浴について話し合い、文香は最初か母さんの後に入浴することになったのだ。父さんと俺は女性2人が入った後に入浴することに。和奏姉さんが一人暮らしを始めてから、大抵は俺が最後に入っていたので、入浴に関しては今までと変わらない。
「風呂に入るまではのんびりするか……」
今日は文香の引っ越し作業を手伝って、ちょっと疲れているから。
ベッドにある読みかけのラノベを手に取り、ベッドの近くにあるクッションに腰を下ろしたときだった。
――プルルッ。
ローテーブルに置いてあるスマホが鳴る。夜だし、羽柴が何か変なメッセージを送ってきたか? そう思いながらスマホを確認すると、小泉さんからメッセージとスタンプが1つずつ送られてきていた。
『今日から文香と一緒に住み始めるそうだけど、決して文香の嫌がることや変なことはしないようにね!』
というメッセージと、『注意!』という文字付きの、真剣な表情の犬のイラストスタンプが送られてきていた。小泉さんは犬派なのかな。ちなみに、俺は猫派。文香も昔と変わっていなければ猫派だ。
おそらく、俺の家に引っ越したことを文香から聞いたのだろう。だから、親友として俺に忠告のメッセージを送ったのだと思う。小泉さんも、文香と俺が幼馴染なのは知っているけど、年頃の男女が一緒に住むからな。
『気を付けるよ。あと、小泉さんさえよければ、いつでも家に遊びに来ていいからな』
という返信を送った。
放課後や休日に活動することの多い女子テニス部に入部しているけど、小泉さんは1年生の間に何度も文香の家に遊びに行っている。俺とは連絡先を交換し、学校ではたまに話す仲とはいえ、男子の家に行くのはハードルが高いと思う。なので、今のような言葉を添えた。
俺がメッセージを送ると、すぐに『既読』マークが付き、
『ありがとう。春休み中も部活のある日は多いけど、休みの間に一度は家に行ってみたいな。あと、幼馴染なんだし、文香のことを頼むね』
そんな返信が届いた。
そういえば、小泉さんって俺の家に来たことは一度もないな。もしそうなったら、文香に連絡するだろうし、彼女が教えるだろう。俺に連絡が来たら、俺が教えればいいか。
「コーヒーでも作るか」
俺は部屋を出て、1階のキッチンへ向かう。
階段を降りて1階に辿り着いたときだった。
「~♪」
洗面所の前を通ろうとした瞬間、文香の楽しげな鼻歌が聞こえてきたのだ。定期的に水滴の落ちる音も聞こえるので、シャワーのお湯を浴びているのだろうか。それが気持ち良くて気分が良くなっているのかな。それに、文香は昔から風呂好き。あと、鼻歌で歌っている曲……どこかで聞いたことがあるな。
1階の洗面所は浴室に繋がっているので、脱衣所としても使う。なので、洗面所に入る引き戸には鍵がついている。今もちゃんと鍵がかかっている。
それにしても、扉を二つ挟んだ先に、文香が生まれたままの姿でシャワーを浴びていると思うと凄くドキドキしてくる。あれ、体が勝手に――。
――ドンッ!
「きゃっ! だ、誰ですか!」
洗面所の扉にぶつかった音が聞こえたのか、中から文香の声が。
「だ、大輝だ。驚かせてごめん。その……コーヒーを作りに降りてきたら、洗面所の扉にぶつかっちゃって」
「そ、そうだったの。……一瞬、私がお風呂に入っているから、中に入ろうとしていたのかと思ったけど、大輝はそんなことはしないよね」
「もちろんさ。……ただ、鼻歌とシャワーの音が聞こえたから、ドキドキしちゃったけど」
「あぁ……聞こえちゃったんだ。中学くらいから、たまにお風呂で鼻歌を歌うことがあって。特に低変人さんの曲とか。結構好きなの。今歌っていたのは『ヒロイン』って曲」
「そうなのか。どっかで聞いたことがある曲だと思ったら、低変人さんの曲だったのか。俺も勉強するときとか、ラノベを読むときとかに聴いてるよ」
「……私も同じ感じ」
低変人さんというのは、数年前からネット上で活動する音楽家だ。定期的に、インストゥルメンタルの曲をYuTubuやワクワク動画という動画サイトにアップしている。楽曲のジャンルは多彩であり、若い世代を中心に絶大な人気を誇るカリスマ的存在。海外からの人気も高い。新曲がアップされると、クラスで結構話題になる。
ただ、そんな低変人さんの年齢、性別、容姿などは一切明らかになっていない。一時期、うちの最寄り駅の四鷹駅も通る東京中央線沿いに、低変人さんが住んでいるという噂が流れたことがあるが。
ちなみに、『ヒロイン』という曲は、一昨年にアップされた曲で、ポップなメロディーが印象的だ。
俺達が中学1年生のときに、文香と低変人さんの曲が話題になったことがあったけど、当時はそこまでハマっている様子ではなかった。距離ができたこの3年の間に好きになっていったのだろう。
そういえば、和奏姉さんや羽柴も低変人さんの曲は好きだし、高校の友人には低変人さんの大ファンの奴がいたな。
「大輝。今も洗面所の前に立ってる?」
「ああ」
「……家の中にいれば、お風呂の音が聞こえちゃうのは仕方ないと思っているけど、立ち止まって聞かれるのはさすがに恥ずかしい」
「ご、ごめんな。コーヒーを作って自分の部屋に戻るから、文香はゆっくり入ってくれ。今日は引っ越し作業もあったし。それに、泊まりを含めて家にたくさん来たことがあっても、住むのは今日が初日だ。大好きなお風呂で、少しでも気持ちを休めて、疲れを取ってくれ」
「……うん。ありがとう」
文香の返事をちゃんと聞いて、俺は洗面所の前から離れた。
キッチンで作ったコーヒーを持って自分の部屋に戻り、俺は読みかけのラノベを読み始める。
そういえば、このラノベのタイトルも『幼馴染が絶対に勝つラブコメ』だな。文香っていう幼馴染の女の子がいるから、幼馴染が活躍する作品は魅力的に思えるのだ。本棚を見ると……確かに、羽柴の言う通り、幼馴染がメインに登場する作品が多い。これじゃ、羽柴も感付くわけだ。
「文香にも……気付かれているのかな」
午後、ここで休憩をしたとき、文香も本棚を見ていたから。彼女の部屋の本棚にもラブコメ系の漫画や小説が結構あったので、ラブコメ作品には詳しい可能性がある。
文香が家に引っ越してきたからか、読んでいるラノベに登場する幼馴染の女の子がとても魅力的に見えるのであった。
それから1時間以上経って、風呂が空いたと父さんが伝えてくれた。なので、俺も入浴することに。
浴室に入ると、父さんの入浴した後だからか、普段と同じく家族で愛用しているボディーソープの匂いが感じられる。
ただ、文香愛用なのか、シャンプーラックには初めて見るシャンプーのボトルが置いてある。タオル掛けには淡い桃色のボディータオルがかかっていて。文香がここで入浴したんだと実感し、かなりドキドキする。
髪と体を洗っている間も文香のことを意識してしまう。そのせいで、洗い終わったときには体がかなり熱く、心臓もバクバク。なので、湯船には30秒くらいしか浸からなかった。
浴室を出るとかなり涼しく感じる。今の季節が夏じゃなくて良かった。夏だったら、きっと熱中症で倒れていただろう。
寝間着に着替えて自分の部屋に戻ろうとする。2階に上がったとき、
――ドン! ドン!
という音が文香の部屋から何度も聞こえてくる。何があったんだ?
「文香、どうした? ドンドン音が聞こえるけど」
部屋の扉の前でそう問いかけて、扉をノックする。
すると、程なくして部屋の扉が開く。そこには桃色の寝間着姿の文香が。文香の顔はほんのりと赤くなっている。あと、文香が風呂に入ってからは少し時間が経っているけど、艶やかな髪からシャンプーの匂いがふんわりと香ってくる。
「ご、ごめんなさい。読んでいた漫画がとても面白くて。最近、面白い本や読んだり、動画を見たりすると、たまにベッドを叩くことがあるの」
「そうだったのか。それならいいけど」
凄く面白い漫画なんだろうな。階段からでも「ドンドン」と聞こえたし。
「きょ、今日からは隣の部屋に大輝がいるんだもんね。うるさくしないように気を付けないと」
「よほどうるさくなければ俺はかまわないよ。俺も気を付けないと。漫画を読んだり、アニメを観ていたりしているとき、面白いと大声で笑うときがあるから」
「昔からそうだったね。……じゃあ、早いけどおやすみ」
「ああ、おやすみ」
文香は微笑みながら部屋の扉を閉めた。
いつもよりも早いけど、明日は朝からバイトがあるから、今日はもう寝るか。
俺は2階の洗面所で歯を磨く。お風呂のことを話し合った際に、洗面所やお手洗いについても話した。2階の洗面所は文香と共用、お手洗いは女性専用にして、俺は1階を使うことになったのだ。
歯を磨き終わった俺は部屋に戻り、ベッドに直行。
いつもなら、お風呂に入った直後だとすぐに眠れるけど、隣の部屋に文香がいると思うとなかなか眠れない。低変人さんのゆったりとした曲を1時間ほど聴いて、ようやく眠れたのであった。
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