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特別編-入れ替わりの夏-
第19話『フルエル』
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直人先輩と遥香さんがホテルのことについて調べたことで分かったこと。隼人さんが真剣な表情をしているから、結構重要なことが判明したのかもしれない。
スマートフォンとタブレットを持っていた隼人さんは、ベッドの私達に一番近いところに腰を下ろした。
「藍沢さんはお化けが出る、という奈央の一言がずっと気になっていたそうだ。部屋に戻って、遥香と一緒にこのホテルの噂について調べたら、このホテルとその周辺では多くの心霊写真が撮影されていることが分かり、写真がネット上にアップされているんだ」
隼人さんはそう言うと、タブレットを操作してテーブルの上に置いた。
タブレットを見てみると、『アクアサンシャインリゾートホテル 噂』と画像検索された結果が表示されている。写真がたくさんあるけど、誰のものか分からない手、赤い光、ぼんやりと浮かんでいる女性の顔など、様々な心霊写真が。
「し、心霊写真だ……」
「怖いよ、隼人……」
絢さんと奈央さんは身を寄せ合いながら震えている。顔も青白くなっている。
私はこういうオカルト系が得意な方ではないけど、3人がすぐ側にいるおかげで怖さをあまり感じない。
「あっ、ここのホテルらしき建物も写っていますね」
「そうだ、彩花さん。このアクアサンシャインリゾートホテルは海やプールを堪能できるスポットとしても人気があるけど、一部マニアの間ではこういった心霊写真が撮影できるということで、心霊スポットとしても人気なんだ」
『えええっ!』
絢さんと奈央さん、本当に怖いんだなぁ。遥香さんの体の影響からか、怯えている絢さんの顔がとても可愛らしく思える。思わずキュンとしてしまった。
「……奈央と絢さんをさらに怖がらせることになるけど、お化けや幽霊は特に夏のこの時期に多く出るみたいなんだ」
『きゃああっ!』
奈央さんと絢さん、ついには涙を流しながら抱きしめ合っている。奈央さんはまだしも、絢さんも心霊系が苦手だとは思わなかった。
「……隼人さん。お化けや幽霊が出るということは、何か理由があったりするんですか? よくあるじゃないですか。昔、ここで起こった出来事への怨念とか……」
「いいところに気付くね、彩花さん。藍沢さんと遥香も同じことを思って更に調べたら、20年前の8月中旬、白海リゾートホテルという所で、当時16歳の女子高生が飛び降り自殺をしたんだ」
「そうなんですか……」
まさか、そんなことがあったなんて。16歳の女子高生ということは私や遥香さん、絢さんと同じなんだ。生きていれば36歳か。
「しかも、その白海リゾートホテルはこのホテルの昔の名前なんだよ」
「それじゃ、このホテルやその周辺でお化けや幽霊が出るわけですね」
「ああ。この地域で起こった事件について調べたんだけれど、人が亡くなった事件に限定すれば、最後の事件が例の少女が自殺した事件なんだよ」
「そうなんですか。事故でもなければ、他殺でもない。自殺なんですよね。その女の子に何があったのでしょうか」
「2学期になってから、自殺した女の子は学校でいじめられたことが分かったんだ」
「いじめ……」
20年前にもやっぱりいじめは存在していたんだ。そして、それを苦にして自ら命を絶ってしまう人も。
「ただ、それだけじゃない。自殺した女の子は友人の女の子の家族と一緒にこのホテルに旅行していたんだ。友人は自殺した女の子のクラスメイトだ」
「そうですか。つまり、自殺当日は自殺した女の子の家族と、友人の女の子の家族が来ていたということですか」
「そういうことだね。友人の女の子が、自殺直前に女の子のことを突き放してしまったらしいんだ。突き放したっていうのはおそらく、喧嘩をして……そのときに酷いことを言ってしまった、と考えているけど」
「友達の女の子は、自分がひどいことを言ってしまったせいで自殺をしてしまったと思ったのかもしれませんね。いじめがあったということは、自殺した女の子の心には既に何かしらの傷があったことも知っていたと思いますし」
「そうだろうね。自殺してしまった女の子にとって、友人の女の子は唯一の心の拠り所だったのかも。仲が良くなければ一緒に旅行はしないだろうから」
隼人さんの言うとおりだと思う。一緒に旅行に行くような女の子と喧嘩をしてしまったら、場合によって自殺に踏み切ってしまう……かな。学校ではいじめを受けていた。8月中旬ということは夏休みも後半。嫌な学校生活が迫っていると思ってしまうだろう。しかも、孤独になって2学期を迎える。
「……じゃあ、もしかして私と遥香さんの体を入れ替わってしまった原因は、20年前に自殺した女の子かもしれないと考えているんですか? 私や遥香さんに孤独や絶望を味わわせるために……」
「ああ。藍沢さんや遥香も、そして俺もそう考えている」
「じゃあ、そうなると……自殺した女の子はクラスメイトの女の子のことを友人としてだけではなく、1人の女の子として好きだったのかもしれません。遥香や彩花さんに同じ目に味わわせたい、ということは……」
絢さんはそう呟く。
確かに、遥香さんと絢さんのように女の子同士でも恋人として付き合っている人はいる。自殺した女の子は、友人の女の子に恋愛感情を抱いていた可能性はありそう。むしろ、そうだからこそ、友人の女の子から「突き放されたこと」にショックを受けてしまって自殺したのかもしれない。
その「突き放されたこと」が恋人として付き合えないということだったら。自殺した子はとても寂しく、悲しい想いをしたと想う。その気持ちを他の人にも分かって欲しいために、私と遥香さんの体を入れ替えたのかな。
もしかしたら、この20年間に私と遥香さんのような入れ替わりを経験した人達が他にもいるかもしれない。
「絢さんの言う通りかもしれないね。ただ、藍沢さんとさっき電話で話して、彩花さんと遥香が入れ替わったことには20年前の事件が関係していると考えている。2人は引き続き、20年前の事件について調べるそうだ」
「そうですか……」
自殺した事件を調べて直人先輩は精神的に大丈夫なのかな。2年ほど前に、先輩の幼馴染の女の子が崖から転落して亡くなってしまったから。
「とりあえず、俺は部屋でタブレットを使って20年前の事件について調べてみる。3人はゆっくりしていても構わないし、ちょっと早いけれどお昼を食べに行ってもいいし。特に彩花さんは入れ替わってあまり時間も経っていないからね。それに今朝、遥香は体の調子が悪かったからね」
「ありがとうございます。ただ、私も何かやりたいです」
隼人さんが気を遣っていただけることは有り難いけれど、私も力になりたい。それに、直人先輩や遥香さんが動いているのに、私がゆっくりしているだけなのは悔しいから。
「ネットで調べるのはお兄さんがやるとして、他にも調べる方法はあるんじゃないかな。20年前の事件だし。まずはそれを考えようか」
「絢ちゃんの言うとおりだね。でも、そろそろお腹も減ってきたから、調べる方法を考えたら4人でお昼ご飯を食べに行こうか」
「そう……しましょう」
20年前にこのホテルで起こった事件のことだ。調べる方法がネット以外にもあるはず。もちろん、ネットで情報を見つけることができればもっといい。
私達4人も20年前の事件について考え始めるのであった。
スマートフォンとタブレットを持っていた隼人さんは、ベッドの私達に一番近いところに腰を下ろした。
「藍沢さんはお化けが出る、という奈央の一言がずっと気になっていたそうだ。部屋に戻って、遥香と一緒にこのホテルの噂について調べたら、このホテルとその周辺では多くの心霊写真が撮影されていることが分かり、写真がネット上にアップされているんだ」
隼人さんはそう言うと、タブレットを操作してテーブルの上に置いた。
タブレットを見てみると、『アクアサンシャインリゾートホテル 噂』と画像検索された結果が表示されている。写真がたくさんあるけど、誰のものか分からない手、赤い光、ぼんやりと浮かんでいる女性の顔など、様々な心霊写真が。
「し、心霊写真だ……」
「怖いよ、隼人……」
絢さんと奈央さんは身を寄せ合いながら震えている。顔も青白くなっている。
私はこういうオカルト系が得意な方ではないけど、3人がすぐ側にいるおかげで怖さをあまり感じない。
「あっ、ここのホテルらしき建物も写っていますね」
「そうだ、彩花さん。このアクアサンシャインリゾートホテルは海やプールを堪能できるスポットとしても人気があるけど、一部マニアの間ではこういった心霊写真が撮影できるということで、心霊スポットとしても人気なんだ」
『えええっ!』
絢さんと奈央さん、本当に怖いんだなぁ。遥香さんの体の影響からか、怯えている絢さんの顔がとても可愛らしく思える。思わずキュンとしてしまった。
「……奈央と絢さんをさらに怖がらせることになるけど、お化けや幽霊は特に夏のこの時期に多く出るみたいなんだ」
『きゃああっ!』
奈央さんと絢さん、ついには涙を流しながら抱きしめ合っている。奈央さんはまだしも、絢さんも心霊系が苦手だとは思わなかった。
「……隼人さん。お化けや幽霊が出るということは、何か理由があったりするんですか? よくあるじゃないですか。昔、ここで起こった出来事への怨念とか……」
「いいところに気付くね、彩花さん。藍沢さんと遥香も同じことを思って更に調べたら、20年前の8月中旬、白海リゾートホテルという所で、当時16歳の女子高生が飛び降り自殺をしたんだ」
「そうなんですか……」
まさか、そんなことがあったなんて。16歳の女子高生ということは私や遥香さん、絢さんと同じなんだ。生きていれば36歳か。
「しかも、その白海リゾートホテルはこのホテルの昔の名前なんだよ」
「それじゃ、このホテルやその周辺でお化けや幽霊が出るわけですね」
「ああ。この地域で起こった事件について調べたんだけれど、人が亡くなった事件に限定すれば、最後の事件が例の少女が自殺した事件なんだよ」
「そうなんですか。事故でもなければ、他殺でもない。自殺なんですよね。その女の子に何があったのでしょうか」
「2学期になってから、自殺した女の子は学校でいじめられたことが分かったんだ」
「いじめ……」
20年前にもやっぱりいじめは存在していたんだ。そして、それを苦にして自ら命を絶ってしまう人も。
「ただ、それだけじゃない。自殺した女の子は友人の女の子の家族と一緒にこのホテルに旅行していたんだ。友人は自殺した女の子のクラスメイトだ」
「そうですか。つまり、自殺当日は自殺した女の子の家族と、友人の女の子の家族が来ていたということですか」
「そういうことだね。友人の女の子が、自殺直前に女の子のことを突き放してしまったらしいんだ。突き放したっていうのはおそらく、喧嘩をして……そのときに酷いことを言ってしまった、と考えているけど」
「友達の女の子は、自分がひどいことを言ってしまったせいで自殺をしてしまったと思ったのかもしれませんね。いじめがあったということは、自殺した女の子の心には既に何かしらの傷があったことも知っていたと思いますし」
「そうだろうね。自殺してしまった女の子にとって、友人の女の子は唯一の心の拠り所だったのかも。仲が良くなければ一緒に旅行はしないだろうから」
隼人さんの言うとおりだと思う。一緒に旅行に行くような女の子と喧嘩をしてしまったら、場合によって自殺に踏み切ってしまう……かな。学校ではいじめを受けていた。8月中旬ということは夏休みも後半。嫌な学校生活が迫っていると思ってしまうだろう。しかも、孤独になって2学期を迎える。
「……じゃあ、もしかして私と遥香さんの体を入れ替わってしまった原因は、20年前に自殺した女の子かもしれないと考えているんですか? 私や遥香さんに孤独や絶望を味わわせるために……」
「ああ。藍沢さんや遥香も、そして俺もそう考えている」
「じゃあ、そうなると……自殺した女の子はクラスメイトの女の子のことを友人としてだけではなく、1人の女の子として好きだったのかもしれません。遥香や彩花さんに同じ目に味わわせたい、ということは……」
絢さんはそう呟く。
確かに、遥香さんと絢さんのように女の子同士でも恋人として付き合っている人はいる。自殺した女の子は、友人の女の子に恋愛感情を抱いていた可能性はありそう。むしろ、そうだからこそ、友人の女の子から「突き放されたこと」にショックを受けてしまって自殺したのかもしれない。
その「突き放されたこと」が恋人として付き合えないということだったら。自殺した子はとても寂しく、悲しい想いをしたと想う。その気持ちを他の人にも分かって欲しいために、私と遥香さんの体を入れ替えたのかな。
もしかしたら、この20年間に私と遥香さんのような入れ替わりを経験した人達が他にもいるかもしれない。
「絢さんの言う通りかもしれないね。ただ、藍沢さんとさっき電話で話して、彩花さんと遥香が入れ替わったことには20年前の事件が関係していると考えている。2人は引き続き、20年前の事件について調べるそうだ」
「そうですか……」
自殺した事件を調べて直人先輩は精神的に大丈夫なのかな。2年ほど前に、先輩の幼馴染の女の子が崖から転落して亡くなってしまったから。
「とりあえず、俺は部屋でタブレットを使って20年前の事件について調べてみる。3人はゆっくりしていても構わないし、ちょっと早いけれどお昼を食べに行ってもいいし。特に彩花さんは入れ替わってあまり時間も経っていないからね。それに今朝、遥香は体の調子が悪かったからね」
「ありがとうございます。ただ、私も何かやりたいです」
隼人さんが気を遣っていただけることは有り難いけれど、私も力になりたい。それに、直人先輩や遥香さんが動いているのに、私がゆっくりしているだけなのは悔しいから。
「ネットで調べるのはお兄さんがやるとして、他にも調べる方法はあるんじゃないかな。20年前の事件だし。まずはそれを考えようか」
「絢ちゃんの言うとおりだね。でも、そろそろお腹も減ってきたから、調べる方法を考えたら4人でお昼ご飯を食べに行こうか」
「そう……しましょう」
20年前にこのホテルで起こった事件のことだ。調べる方法がネット以外にもあるはず。もちろん、ネットで情報を見つけることができればもっといい。
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