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特別編2
第6話『女子高生達と人妻達』
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放課後。
お昼で学校が終わったので、昼食は食堂で優奈達4人と一緒に食べた。俺の注文した冷やし中華はもちろん、優奈に一口交換してもらったきつねうどんも美味しかったな。明日以降も、お昼は食堂や高野駅周辺のお店で食べる予定なので楽しみだ。
昼食を食べ終わった後は、優奈達と別れて一人で帰宅した。
この後、母さんが来るし、優奈が彩さん達と一緒に帰ってくる。なので、私服に着替えた後はリビングやキッチンを掃除した。
掃除を終えると、6人でくつろげるように、俺の部屋からローテーブルを、それぞれの部屋からクッションをリビングに運び、昨日、陽葵ちゃん達が遊びに来たときのような形でセッティングした。
――ピンポーン。
リビングの準備ができた直後、エントランスからの呼び出し音が鳴った。時刻からして母さんだろうか。
リビングの扉近くにあるモニターのスイッチを入れると、画面にはブラウス姿の母さんが映る。この画面越しで母さんを見るのは初めてだから新鮮だな。
「はい」
『お母さんだよ。来たよ』
「待っていたよ、母さん。今開ける」
『……あっ、開いた! じゃあ、また後でね』
「ああ」
モニターのスイッチを切った。
エントランスの扉を開けるボタンを押したとき、母さん……ちょっと興奮していたな。実家は一軒家なのもあってか、こういう扉が開くのってワクワクするよな。俺も実家に住んでいた頃、マンション住まいの友達の家に遊びに行ったときは興奮したし。
それからすぐに、玄関前のインターホンが鳴り、母さんを出迎えた。
「和真、来たよ」
「いらっしゃい、母さん」
「お邪魔します」
俺は母さんを招き入れる。
俺がマスタードーナッツでバイトしているときにも来店することはあるけど、こういう形で会うのは母の日以来か。だから、結構久しぶりに会った感じがする。優奈も学校で彩さんと再会して、同じような気持ちを抱いているのだろうか。
リビングに向かう前に、母さんは今の俺の部屋がどんな感じなのか見たいと言ってきた。なので、部屋を見せると、
「うん、綺麗にしているわね。よろしい。あと、引っ越してから1ヶ月以上経ったから、ここで優奈ちゃんと一緒に暮らしている感じが伝わってくるわ」
と、母さんから高評価をもらえた。それがとても嬉しい。
リビングに行き、母さんと自分の分のアイスコーヒーを淹れる。今はまだ母さんと2人きりなので、食卓でゆっくりすることに。
母さんは俺の淹れたアイスコーヒーを一口飲む。
「あぁ、美味しい。蒸し暑い中歩いてきたから、冷たいのがとてもいいなって思うわ」
「良かった。最近は蒸し暑いよなぁ。今日梅雨入りしたし」
「そうね。これからは冷たいのがいいなって思える季節ね」
「そうだな」
俺もアイスコーヒーを一口飲む。……うん、美味しい。
このコーヒーは実家にいた頃からよく飲んでいるインスタントコーヒーだ。母さんと飲んだことも何度だってある。ただ、この家で一緒に飲むのは初めてだから、新鮮な味わいに感じられる。
「優奈ちゃんとの結婚生活はどう? メッセージしたり、真央から聞いたりしているけど。和真の口から直接聞きたくて」
母さんは優しい笑顔で、俺の目を見つめながらそう問いかけてくる。
「優奈のおかげで毎日が楽しくて、幸せだよ。優奈には日々感謝だよ」
この家で優奈に一緒にいるときのことを、脳裏に次々と思い出す。優奈と一緒に過ごしているおかげで、毎日がとても楽しくて、幸せだ。結婚していなかったら、こんなにも素敵な日々を送ることはできなかっただろう。
「ふふっ、そっか。幸せに暮らせていて何よりだわ」
ニッコリと笑いながらそう言うと、母さんはアイスコーヒーをもう一口飲んだ。
「あと、優奈ちゃんに感謝の気持ちを持てるのはとてもいいことだし、大切だと思うわ。感謝の気持ちを忘れないようにね。それが夫婦関係が円満に続く秘訣の一つかな」
「そうか。分かった、覚えておくよ」
思い返せば、母さんも父さんも互いに「ありがとう」って言葉にすることが多かったな。もちろん、子供である真央姉さんと俺に対しても。
日々のことから、風邪を引いたいつもと違うときまで、優奈に感謝することはいっぱいある。「ありがとう」などと、できるだけ感謝を言葉にしていきたいな。
それからはお互いの近況について話しながら、優奈達が帰ってくるのを待つことに。
母さん曰く、俺がここに引っ越してから1ヶ月半ほど経つので、3人での生活にも慣れたらしい。真央姉さんも俺が引っ越した直後はかなり寂しそうにしていたけど、今は特にそういったこと様子を見せることもないとか。それを聞いて、安堵した気持ちとちょっと寂しい気持ちを抱いた。
午後2時15分頃に優奈からLIMEを通じて、
『三者面談、無事に終わりました。萌音ちゃんの面談が終わり次第、帰りますね』
というメッセージが届いた。優奈は中間試験が学年1位だったから、特に問題なく面談が終わったか。
『面談お疲れ様。母さんと一緒に待ってるよ』
と、優奈に返信を送った。
井上さんの面談は優奈の次だし、あと2、30分くらいでうちに帰ってくるだろう。
それからも、俺はアイスコーヒーを飲みながら母さんと雑談する。もうすぐ優奈達が帰ってくるからか、母さんは楽しげな様子で。
俺の予想通り、優奈のメッセージが送られてきてから30分近く経って、
「ただいま」
『お邪魔します』
優奈の声と、複数人の女性の重なった声が聞こえてきた。
母さんと一緒に「おかえり」と言い、玄関まで出迎える。玄関には制服姿の優奈と井上さん、ワンピース姿の彩さん、長めのスカートにブラウス姿の雛子さんがいた。
「優奈、おかえり。井上さん、彩さん、雛子さん、こんにちは」
「みなさん、こんにちは。あと、萌音ちゃんのお母様の雛子さんは初めましてですね。私、長瀬和真の母で、優奈ちゃんの義母の長瀬梨子と申します」
「初めまして。井上萌音の母の雛子です。息子さん夫婦には萌音がお世話になっていて。よろしくお願いします」
「こちらこそ、萌音ちゃんにはお世話になっています。ここへの引っ越しのお手伝いもしてくださいましたし。これからもよろしくお願いします」
初対面である母さんと雛子さんは笑顔で挨拶をして、軽く頭を下げた。この様子なら、母親同士で仲良くなれそうかな。あと、母さんが自己紹介したとき、「優奈ちゃんの義母」と言ったことで、優奈と俺は結婚しているのだと改めて実感する。
「玄関からも素敵な雰囲気だね」
「ありがとうございます」
「嬉しいです。リビングに行く前に私の部屋を見ますか? 私、バッグを置きますので」
「うん。見てみたいわ」
雛子さんはニコッとした笑顔でそう言った。笑顔を中心に井上さんと雰囲気が似た方だよなぁ。母親ではなくお姉さんと思えるくらいに若々しい。
井上さん達を家に上げて、みんなで優奈の部屋へと向かう。
部屋に入って、優奈が部屋の照明を点けると、初めて来た雛子さんは「わぁっ」と可愛らしい声を上げる。
「可愛らしくて素敵なお部屋だね! 広いし!」
「ありがとうございます」
「あのベッドで長瀬君と一緒に寝るの?」
「はい。このベッドも、和真君の部屋にあるベッドも祖父が買ってくれたダブルベッドで。毎日どちらかの部屋で一緒に寝ています」
「あらぁ、そうなの! いいわね~!」
うふふっ、と雛子さんは楽しそうに笑っている。母さんと彩さんも同じ気持ちのようで「そうですね~」と言っていて。優奈の部屋ではあるけど、一緒に過ごしたり、ベッドに寝たりするので、ちょっと照れくさい気持ちがある。
「引っ越したときよりもいい雰囲気の部屋になっているね、優奈」
「ありがとうございます、お母さん」
彩さんに褒められて、優奈はとても嬉しそうだ。可愛いな。
優奈と井上さんが学校の荷物を置いた後、俺達は井上さん達とリビングに通した。
「リビングもとても広くて素敵ね! 10階だから、ここから見える景色もいいね」
すごーい、と雛子さんはリビングの中を見渡している。雛子さんの反応を見ると、井上さんや佐伯さん、西山達が初めてこの家に来たときのことを思い出すよ。
「ありがとうございます。広いですからゆったりできますし、ここからの景色も気に入っています」
「俺もです」
こんなにも素敵な場所に住まわせてくれる優奈のおじいさんに感謝だ。
その後、優奈と俺は母さん達をローテーブルの方に案内した。
母さんがバームクーヘン、彩さんがマカロン、雛子さんがフィナンシェを持ってきてくれたのもあり、アイスコーヒーを淹れることに。
6人分のアイスコーヒーを淹れ、クッションに座っている母さん達の前にマグカップを置き、俺達はクッションに座った。
ちなみに、座っている場所は俺から時計回りに母さん、雛子さん、井上さん、彩さん、優奈だ。俺と優奈、井上さんと雛子さんがそれぞれ隣同士で座っている。
みんなでアイスコーヒーを飲んだり、母さん達が持ってきてくれたスイーツを食べたりするのを楽しむ。母さん達が持ってきてくれたスイーツはどれも美味しいな。コーヒーもスイーツに合うし、さっきよりも美味しく感じられる。
「どれも美味しいな」
「美味しいですよね、和真君」
「こんなにいくつもスイーツを食べられて幸せだわ」
「私もです」
スイーツが美味しいからか、優奈も井上さんも幸せそうに食べている。可愛いな。
「和真の言う通り、どれも美味しいですね」
「ええ。お二人が持ってきてくれたバームクーヘンとフィナンシェも美味しいです」
「良かったです。お母さんも幸せな気分だわ、萌音」
母さんも彩さんも雛子さんも幸せそうで。3人とも、中高生や大学生の子供がいるとは思えない可愛らしさだ。
「優奈、彩さん、井上さん、雛子さん。三者面談お疲れ様でした。面談はどのような感じでしたか? 自分は木曜日に受けますので気になって」
「事前に夏実先生が言っていた通り、勉強と進路、日常生活について話しました。私は和真君と結婚していますので、日常生活のことは結婚生活がメインでしたが」
「結婚生活について結構話したわよね」
「ええ」
「そうですか……」
優奈と俺の担任教師として、渡辺先生は俺達の結婚生活がどんな感じが気になるのだろう。好き合う夫婦になったことも伝えてあるし。きっと、俺の面談でも先生は優奈との結婚生活について訊いてくるだろう。
「勉強については中間試験の結果を踏まえて話して、進路については進路希望調査票を基に話したわ。この成績を維持すれば、希望している学部の内部進学は大丈夫だろうとか」
「そうだったね、萌音」
「長瀬君は学年上位だし、勉強と進路については大丈夫じゃない?」
「ああ。そうだといいな」
中間試験ではいくつかの教科で100点満点だったし、学年でも文系クラスで7位だった。希望する学部はまだ絞り込めていないけど、進路希望調査票に書いた学部学科の内部進学は現状では問題ないと思われる。
「みなさん、教えていただきありがとうございます。参考になります」
「和真なら大丈夫よ。勉強も頑張っているし、ここでの優奈ちゃんとの新婚生活も楽しんでいるんだから」
「そうですね、梨子さん」
優奈は優しい笑顔でそう言ってくれる。そのことが心強くて。この家で一ヶ月以上一緒に過ごしてきたし、課題をやるときを中心に一緒に勉強しているからこそ言ってくれたのだろう。
「ありがとう、母さん、優奈」
お礼を言って、俺は優奈の頭を優しく撫でる。
優奈は頭を撫でられるのが大好きなだけあって、撫でられた直後に「えへへっ」と笑いながら柔らかな笑顔を向けてくれる。そんな優奈を見ていると嬉しい気持ちになって、頬が緩んでいくのが分かる。
「優奈ちゃんと長瀬君……本当に好き合っているのが伝わってくるわぁ。きっと、ラブラブでイチャイチャとした結婚生活を送っているんでしょうねっ」
雛子さんは声を弾ませてそう言った。ラブラブでイチャイチャ……言うことが中学生の陽葵ちゃんと同じだ。ただ、雛子さんの雰囲気が若々しいのもあり、そういう風に言うのも可愛いなと思える。
友人の母親からでも、ラブラブとかイチャイチャって言われるとちょっと恥ずかしいな。俺と同じような気持ちなのか、優奈の笑顔がほんのり赤らんでいる。
「そうですね。和真君とは……ラブラブでイチャイチャしていると言われるような生活を送っていますね」
「そうだな、優奈。優奈と一緒に生活できて幸せです」
「そうなの。いいわね、新婚さんっ!」
雛子さんはさらに声を弾ませてそう言った。両家の親である母さんと彩さん、俺達の友人の井上さんも笑顔で頷いていた。
アイスコーヒーを一口飲む。熱くなっていた体が冷やされて心地いい。
「ところで、優奈、長瀬君。好き合う仲にもなったし……結婚式はしようって考えてる?」
彩さんは優しい笑顔で俺達のことを見ながらそう問いかけてくる。
「私も、親として2人の考えを聞いておきたいですね」
母さんは彩さんに同意し、俺達のことを見てくる。
「結婚式ですか。優奈に好き合う関係になった日に……いつかは結婚式を挙げたいねって話しをしました」
「そうですね。和真君はタキシード、私はウェディングドレスを着て。結婚式は家族や友達やお世話になった方達を招待して……っていうざっくりとした内容ですけど」
「ふふっ、そうなのね。可愛いわ。結婚式を挙げたい気持ちはあるのね」
「はい、お母さん」
「分かったわ。お父さんやおじいちゃん、陽葵にはそう伝えておくわ」
「うちの方も伝えておくね、和真」
「ああ、分かった」
結婚式の話を聞いたら、おじいさんや真央姉さん、陽葵ちゃんとかが特に楽しみにしそうだ。
「付属校に通っていて内部進学希望だから大学受験はないけど、勉強や高校生活もあるし、優奈と長瀬君のペースで考えていけばいいと思うわ」
「そうですね、彩さん。特に急いでやりたいってわけでもなさそうですし」
「まずは優奈と一緒に結婚式について調べて、いつ挙げたいかなどを考えていければと思います」
「そうですね、和真君」
「分かったわ。何かあったら遠慮なく相談してね」
「私にもね。20年以上前だけど、お父さんと結婚式を挙げたし」
「友達の私にも相談していいからね。ドレス姿の優奈やタキシード姿の長瀬君を見てみたいし」
「私にも相談していいからね。結婚式経験者だし」
「みなさん、ありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
母さんと彩さんだけでなく、井上さんと雛子さんも相談していいと言ってくれるなんて。俺達はいい人達に恵まれていると改めて思う。
彩さんの言うように、日々の生活を送る中で、俺達のペースで結婚式について考えていこう。
「優奈ちゃんと長瀬君を見ていたり、結婚式の話を聞いたりすると、主人と同棲していた頃や新婚時代を思い出します。私、主人と同棲したり、結婚したりした直後はマンション住まいでしたから」
「私も、結婚して、真央が産まれて、和真が産まれて、和真が赤ちゃんの頃まではそうでした」
「私も同じような感じです」
と、母親3人は語る。3人ともいい笑顔をしていて。同棲や新婚当時のことを思い出しているのかもしれない。
その後は母さん達の同棲時代や新婚時代の話で盛り上がる。
3人とも楽しそうに話すから、それぞれ夫のことが大好きなのが伝わってきて。優奈と俺も、何年経っても新婚時代である今のことを楽しく話せる関係でありたいな。
お昼で学校が終わったので、昼食は食堂で優奈達4人と一緒に食べた。俺の注文した冷やし中華はもちろん、優奈に一口交換してもらったきつねうどんも美味しかったな。明日以降も、お昼は食堂や高野駅周辺のお店で食べる予定なので楽しみだ。
昼食を食べ終わった後は、優奈達と別れて一人で帰宅した。
この後、母さんが来るし、優奈が彩さん達と一緒に帰ってくる。なので、私服に着替えた後はリビングやキッチンを掃除した。
掃除を終えると、6人でくつろげるように、俺の部屋からローテーブルを、それぞれの部屋からクッションをリビングに運び、昨日、陽葵ちゃん達が遊びに来たときのような形でセッティングした。
――ピンポーン。
リビングの準備ができた直後、エントランスからの呼び出し音が鳴った。時刻からして母さんだろうか。
リビングの扉近くにあるモニターのスイッチを入れると、画面にはブラウス姿の母さんが映る。この画面越しで母さんを見るのは初めてだから新鮮だな。
「はい」
『お母さんだよ。来たよ』
「待っていたよ、母さん。今開ける」
『……あっ、開いた! じゃあ、また後でね』
「ああ」
モニターのスイッチを切った。
エントランスの扉を開けるボタンを押したとき、母さん……ちょっと興奮していたな。実家は一軒家なのもあってか、こういう扉が開くのってワクワクするよな。俺も実家に住んでいた頃、マンション住まいの友達の家に遊びに行ったときは興奮したし。
それからすぐに、玄関前のインターホンが鳴り、母さんを出迎えた。
「和真、来たよ」
「いらっしゃい、母さん」
「お邪魔します」
俺は母さんを招き入れる。
俺がマスタードーナッツでバイトしているときにも来店することはあるけど、こういう形で会うのは母の日以来か。だから、結構久しぶりに会った感じがする。優奈も学校で彩さんと再会して、同じような気持ちを抱いているのだろうか。
リビングに向かう前に、母さんは今の俺の部屋がどんな感じなのか見たいと言ってきた。なので、部屋を見せると、
「うん、綺麗にしているわね。よろしい。あと、引っ越してから1ヶ月以上経ったから、ここで優奈ちゃんと一緒に暮らしている感じが伝わってくるわ」
と、母さんから高評価をもらえた。それがとても嬉しい。
リビングに行き、母さんと自分の分のアイスコーヒーを淹れる。今はまだ母さんと2人きりなので、食卓でゆっくりすることに。
母さんは俺の淹れたアイスコーヒーを一口飲む。
「あぁ、美味しい。蒸し暑い中歩いてきたから、冷たいのがとてもいいなって思うわ」
「良かった。最近は蒸し暑いよなぁ。今日梅雨入りしたし」
「そうね。これからは冷たいのがいいなって思える季節ね」
「そうだな」
俺もアイスコーヒーを一口飲む。……うん、美味しい。
このコーヒーは実家にいた頃からよく飲んでいるインスタントコーヒーだ。母さんと飲んだことも何度だってある。ただ、この家で一緒に飲むのは初めてだから、新鮮な味わいに感じられる。
「優奈ちゃんとの結婚生活はどう? メッセージしたり、真央から聞いたりしているけど。和真の口から直接聞きたくて」
母さんは優しい笑顔で、俺の目を見つめながらそう問いかけてくる。
「優奈のおかげで毎日が楽しくて、幸せだよ。優奈には日々感謝だよ」
この家で優奈に一緒にいるときのことを、脳裏に次々と思い出す。優奈と一緒に過ごしているおかげで、毎日がとても楽しくて、幸せだ。結婚していなかったら、こんなにも素敵な日々を送ることはできなかっただろう。
「ふふっ、そっか。幸せに暮らせていて何よりだわ」
ニッコリと笑いながらそう言うと、母さんはアイスコーヒーをもう一口飲んだ。
「あと、優奈ちゃんに感謝の気持ちを持てるのはとてもいいことだし、大切だと思うわ。感謝の気持ちを忘れないようにね。それが夫婦関係が円満に続く秘訣の一つかな」
「そうか。分かった、覚えておくよ」
思い返せば、母さんも父さんも互いに「ありがとう」って言葉にすることが多かったな。もちろん、子供である真央姉さんと俺に対しても。
日々のことから、風邪を引いたいつもと違うときまで、優奈に感謝することはいっぱいある。「ありがとう」などと、できるだけ感謝を言葉にしていきたいな。
それからはお互いの近況について話しながら、優奈達が帰ってくるのを待つことに。
母さん曰く、俺がここに引っ越してから1ヶ月半ほど経つので、3人での生活にも慣れたらしい。真央姉さんも俺が引っ越した直後はかなり寂しそうにしていたけど、今は特にそういったこと様子を見せることもないとか。それを聞いて、安堵した気持ちとちょっと寂しい気持ちを抱いた。
午後2時15分頃に優奈からLIMEを通じて、
『三者面談、無事に終わりました。萌音ちゃんの面談が終わり次第、帰りますね』
というメッセージが届いた。優奈は中間試験が学年1位だったから、特に問題なく面談が終わったか。
『面談お疲れ様。母さんと一緒に待ってるよ』
と、優奈に返信を送った。
井上さんの面談は優奈の次だし、あと2、30分くらいでうちに帰ってくるだろう。
それからも、俺はアイスコーヒーを飲みながら母さんと雑談する。もうすぐ優奈達が帰ってくるからか、母さんは楽しげな様子で。
俺の予想通り、優奈のメッセージが送られてきてから30分近く経って、
「ただいま」
『お邪魔します』
優奈の声と、複数人の女性の重なった声が聞こえてきた。
母さんと一緒に「おかえり」と言い、玄関まで出迎える。玄関には制服姿の優奈と井上さん、ワンピース姿の彩さん、長めのスカートにブラウス姿の雛子さんがいた。
「優奈、おかえり。井上さん、彩さん、雛子さん、こんにちは」
「みなさん、こんにちは。あと、萌音ちゃんのお母様の雛子さんは初めましてですね。私、長瀬和真の母で、優奈ちゃんの義母の長瀬梨子と申します」
「初めまして。井上萌音の母の雛子です。息子さん夫婦には萌音がお世話になっていて。よろしくお願いします」
「こちらこそ、萌音ちゃんにはお世話になっています。ここへの引っ越しのお手伝いもしてくださいましたし。これからもよろしくお願いします」
初対面である母さんと雛子さんは笑顔で挨拶をして、軽く頭を下げた。この様子なら、母親同士で仲良くなれそうかな。あと、母さんが自己紹介したとき、「優奈ちゃんの義母」と言ったことで、優奈と俺は結婚しているのだと改めて実感する。
「玄関からも素敵な雰囲気だね」
「ありがとうございます」
「嬉しいです。リビングに行く前に私の部屋を見ますか? 私、バッグを置きますので」
「うん。見てみたいわ」
雛子さんはニコッとした笑顔でそう言った。笑顔を中心に井上さんと雰囲気が似た方だよなぁ。母親ではなくお姉さんと思えるくらいに若々しい。
井上さん達を家に上げて、みんなで優奈の部屋へと向かう。
部屋に入って、優奈が部屋の照明を点けると、初めて来た雛子さんは「わぁっ」と可愛らしい声を上げる。
「可愛らしくて素敵なお部屋だね! 広いし!」
「ありがとうございます」
「あのベッドで長瀬君と一緒に寝るの?」
「はい。このベッドも、和真君の部屋にあるベッドも祖父が買ってくれたダブルベッドで。毎日どちらかの部屋で一緒に寝ています」
「あらぁ、そうなの! いいわね~!」
うふふっ、と雛子さんは楽しそうに笑っている。母さんと彩さんも同じ気持ちのようで「そうですね~」と言っていて。優奈の部屋ではあるけど、一緒に過ごしたり、ベッドに寝たりするので、ちょっと照れくさい気持ちがある。
「引っ越したときよりもいい雰囲気の部屋になっているね、優奈」
「ありがとうございます、お母さん」
彩さんに褒められて、優奈はとても嬉しそうだ。可愛いな。
優奈と井上さんが学校の荷物を置いた後、俺達は井上さん達とリビングに通した。
「リビングもとても広くて素敵ね! 10階だから、ここから見える景色もいいね」
すごーい、と雛子さんはリビングの中を見渡している。雛子さんの反応を見ると、井上さんや佐伯さん、西山達が初めてこの家に来たときのことを思い出すよ。
「ありがとうございます。広いですからゆったりできますし、ここからの景色も気に入っています」
「俺もです」
こんなにも素敵な場所に住まわせてくれる優奈のおじいさんに感謝だ。
その後、優奈と俺は母さん達をローテーブルの方に案内した。
母さんがバームクーヘン、彩さんがマカロン、雛子さんがフィナンシェを持ってきてくれたのもあり、アイスコーヒーを淹れることに。
6人分のアイスコーヒーを淹れ、クッションに座っている母さん達の前にマグカップを置き、俺達はクッションに座った。
ちなみに、座っている場所は俺から時計回りに母さん、雛子さん、井上さん、彩さん、優奈だ。俺と優奈、井上さんと雛子さんがそれぞれ隣同士で座っている。
みんなでアイスコーヒーを飲んだり、母さん達が持ってきてくれたスイーツを食べたりするのを楽しむ。母さん達が持ってきてくれたスイーツはどれも美味しいな。コーヒーもスイーツに合うし、さっきよりも美味しく感じられる。
「どれも美味しいな」
「美味しいですよね、和真君」
「こんなにいくつもスイーツを食べられて幸せだわ」
「私もです」
スイーツが美味しいからか、優奈も井上さんも幸せそうに食べている。可愛いな。
「和真の言う通り、どれも美味しいですね」
「ええ。お二人が持ってきてくれたバームクーヘンとフィナンシェも美味しいです」
「良かったです。お母さんも幸せな気分だわ、萌音」
母さんも彩さんも雛子さんも幸せそうで。3人とも、中高生や大学生の子供がいるとは思えない可愛らしさだ。
「優奈、彩さん、井上さん、雛子さん。三者面談お疲れ様でした。面談はどのような感じでしたか? 自分は木曜日に受けますので気になって」
「事前に夏実先生が言っていた通り、勉強と進路、日常生活について話しました。私は和真君と結婚していますので、日常生活のことは結婚生活がメインでしたが」
「結婚生活について結構話したわよね」
「ええ」
「そうですか……」
優奈と俺の担任教師として、渡辺先生は俺達の結婚生活がどんな感じが気になるのだろう。好き合う夫婦になったことも伝えてあるし。きっと、俺の面談でも先生は優奈との結婚生活について訊いてくるだろう。
「勉強については中間試験の結果を踏まえて話して、進路については進路希望調査票を基に話したわ。この成績を維持すれば、希望している学部の内部進学は大丈夫だろうとか」
「そうだったね、萌音」
「長瀬君は学年上位だし、勉強と進路については大丈夫じゃない?」
「ああ。そうだといいな」
中間試験ではいくつかの教科で100点満点だったし、学年でも文系クラスで7位だった。希望する学部はまだ絞り込めていないけど、進路希望調査票に書いた学部学科の内部進学は現状では問題ないと思われる。
「みなさん、教えていただきありがとうございます。参考になります」
「和真なら大丈夫よ。勉強も頑張っているし、ここでの優奈ちゃんとの新婚生活も楽しんでいるんだから」
「そうですね、梨子さん」
優奈は優しい笑顔でそう言ってくれる。そのことが心強くて。この家で一ヶ月以上一緒に過ごしてきたし、課題をやるときを中心に一緒に勉強しているからこそ言ってくれたのだろう。
「ありがとう、母さん、優奈」
お礼を言って、俺は優奈の頭を優しく撫でる。
優奈は頭を撫でられるのが大好きなだけあって、撫でられた直後に「えへへっ」と笑いながら柔らかな笑顔を向けてくれる。そんな優奈を見ていると嬉しい気持ちになって、頬が緩んでいくのが分かる。
「優奈ちゃんと長瀬君……本当に好き合っているのが伝わってくるわぁ。きっと、ラブラブでイチャイチャとした結婚生活を送っているんでしょうねっ」
雛子さんは声を弾ませてそう言った。ラブラブでイチャイチャ……言うことが中学生の陽葵ちゃんと同じだ。ただ、雛子さんの雰囲気が若々しいのもあり、そういう風に言うのも可愛いなと思える。
友人の母親からでも、ラブラブとかイチャイチャって言われるとちょっと恥ずかしいな。俺と同じような気持ちなのか、優奈の笑顔がほんのり赤らんでいる。
「そうですね。和真君とは……ラブラブでイチャイチャしていると言われるような生活を送っていますね」
「そうだな、優奈。優奈と一緒に生活できて幸せです」
「そうなの。いいわね、新婚さんっ!」
雛子さんはさらに声を弾ませてそう言った。両家の親である母さんと彩さん、俺達の友人の井上さんも笑顔で頷いていた。
アイスコーヒーを一口飲む。熱くなっていた体が冷やされて心地いい。
「ところで、優奈、長瀬君。好き合う仲にもなったし……結婚式はしようって考えてる?」
彩さんは優しい笑顔で俺達のことを見ながらそう問いかけてくる。
「私も、親として2人の考えを聞いておきたいですね」
母さんは彩さんに同意し、俺達のことを見てくる。
「結婚式ですか。優奈に好き合う関係になった日に……いつかは結婚式を挙げたいねって話しをしました」
「そうですね。和真君はタキシード、私はウェディングドレスを着て。結婚式は家族や友達やお世話になった方達を招待して……っていうざっくりとした内容ですけど」
「ふふっ、そうなのね。可愛いわ。結婚式を挙げたい気持ちはあるのね」
「はい、お母さん」
「分かったわ。お父さんやおじいちゃん、陽葵にはそう伝えておくわ」
「うちの方も伝えておくね、和真」
「ああ、分かった」
結婚式の話を聞いたら、おじいさんや真央姉さん、陽葵ちゃんとかが特に楽しみにしそうだ。
「付属校に通っていて内部進学希望だから大学受験はないけど、勉強や高校生活もあるし、優奈と長瀬君のペースで考えていけばいいと思うわ」
「そうですね、彩さん。特に急いでやりたいってわけでもなさそうですし」
「まずは優奈と一緒に結婚式について調べて、いつ挙げたいかなどを考えていければと思います」
「そうですね、和真君」
「分かったわ。何かあったら遠慮なく相談してね」
「私にもね。20年以上前だけど、お父さんと結婚式を挙げたし」
「友達の私にも相談していいからね。ドレス姿の優奈やタキシード姿の長瀬君を見てみたいし」
「私にも相談していいからね。結婚式経験者だし」
「みなさん、ありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
母さんと彩さんだけでなく、井上さんと雛子さんも相談していいと言ってくれるなんて。俺達はいい人達に恵まれていると改めて思う。
彩さんの言うように、日々の生活を送る中で、俺達のペースで結婚式について考えていこう。
「優奈ちゃんと長瀬君を見ていたり、結婚式の話を聞いたりすると、主人と同棲していた頃や新婚時代を思い出します。私、主人と同棲したり、結婚したりした直後はマンション住まいでしたから」
「私も、結婚して、真央が産まれて、和真が産まれて、和真が赤ちゃんの頃まではそうでした」
「私も同じような感じです」
と、母親3人は語る。3人ともいい笑顔をしていて。同棲や新婚当時のことを思い出しているのかもしれない。
その後は母さん達の同棲時代や新婚時代の話で盛り上がる。
3人とも楽しそうに話すから、それぞれ夫のことが大好きなのが伝わってきて。優奈と俺も、何年経っても新婚時代である今のことを楽しく話せる関係でありたいな。
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三矢さくら
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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