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特別編
第7話『いつもより近くで』
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今日も学校生活を送っていく。
中間試験でいい順位だったのもあり、昨日以上に授業に取り組もうと思える。といっても、黒板や担当する教師を見るとき、自然と隣の席に座っている優奈が視界に入り、優奈の方に視線を向けてしまうこともあるけど。
今日もいつも通りに授業を受けて、あっという間に放課後になっていくのだろう。
そう思っていた。
「すみません、和真君。次の古典の授業では教科書を見せてもらえませんか? 忘れてしまいまして……」
優奈からそう言われたのは3時間目の授業が終わった直後だった。教科書を忘れてしまったからか、優奈は苦笑い。
優奈が忘れ物をするなんて。珍しいな。
優奈は普段から予習を欠かさずにやっているし、昨日の夜も課題をやった後に今日の授業の予習していた。だから、スクールバッグに教科書を入れるのを忘れちゃったのかな。
「いいぞ。じゃあ、席をくっつけて一緒に教科書を見よう」
「ありがとうございますっ」
ほっと胸を撫で下ろすと、優奈はニコッと笑って、いつもより大きな声でお礼を言った。どうやら、俺と席をくっつけることが嬉しいようだ。
優奈と俺は互いに机を動かしてくっつける。その状態で椅子に座ると、優奈がかなり近くにいるように思える。いつもよりも、優奈の甘い匂いも濃く感じられるし。
「あら、2人で机をくっつけて。優奈のお礼の声も聞こえたけど、どうかしたの?」
優奈の近くの席に座る井上さんが、こちらを向いてそう問いかける。
また、机を動かす音が聞こえたのか、半数以上のクラスメイトがこちらに視線を向けている。クラスメイトから視線が集まるのは結婚直後のとき以来だから、ちょっと懐かしい感覚だ。
「私が古典の教科書を忘れてしまいまして。和真君が隣の席なので、こうして席をくっつけて見せてもらうことにしたんです」
「なるほどね。そういうこと」
井上さんは納得した様子でそう言った。
「長瀬と有栖川、席をくっつけてどうした?」
「何かあったの?」
西山と佐伯さんは不思議そうな様子で俺達のところにやってくる。昼休み以外で俺達が席をくっつけたことはないからな。
「優奈が教科書を忘れちゃったんだって」
「そうなんだ。長瀬に見せてもらうために机をくっつけているんだね。しっかりしている優奈が忘れるなんて珍しいね」
「私もそれは思った」
「しっかり者の有栖川がうっかり忘れるのも可愛いと思うぜ」
「確かに可愛いな」
可愛いと言われたからか、優奈は頬をほんのりと赤くし「えへへっ」と照れくさそうに笑う。その姿もまた可愛い。
俺達の会話が聞こえて事情を把握したのか、クラスメイト達に視線を向けられることはなくなった。
「今の優奈と長瀬を見ていると、小学校の頃を思い出すな。小学校では机をくっつけていたし」
「千尋の言うこと分かるわ。私達が卒業した中学では、お昼や班行動のとき以外は机をくっつけなかったもんね。ちょっと懐かしい気分になる」
「2人の卒業した中学は一人一人だったのか。俺は中学まで隣の席の生徒とくっつけてたぜ」
井上さんと佐伯さん、西山は机の並べ方の話題で盛り上がっている。
「俺も……小学校のときは今みたいに隣の席の児童と机をくっつけた並べ方だったけど、中学校からは一人一人だったな」
「私も小学校では机をくっつけて、中学校からは一人一人でしたね」
「マジか。じゃあ、俺の母校の中学が珍しいのかもな」
西山は爽やかな笑顔でそう言った。
俺達5人の中では西山の卒業した中学だけが違う結果に。ただ、一般的にも小学校では机をくっつけて、中学以降は一人一人で独立する並べ方が多いのだろうか。
「それにしても、長瀬が隣で良かったねぇ、優奈。教科書を忘れても、机をくっつけて見せてもらえるんだし。それに、大好きな旦那さんといつもより近くで授業を受けられるし」
佐伯さんはニヤリとした笑顔で言った。それに対して、優奈は、
「はいっ」
と、嬉しそうに返事をしていて。それがとても可愛くて、嬉しかった。
――キーンコーンカーンコーン。
4時間目の授業開始を知らせるチャイムが鳴った。なので、席に座っていた井上さんは黒板の方に向き、西山と佐伯さんは自分の席に戻った。
俺はスクールバッグから古典の教科書とノートを取り出し、机に置く。教科書については優奈と俺の机をくっつけた部分の上に置く。
チャイムは鳴ったけど、古典の担当であり、うちのクラスの担任でもある渡辺夏実先生はまだ来ていない。準備ができていないのかな。
「それにしても、優奈と席をくっつけて授業を受けるときが来るなんてな。席替えをして隣同士の席になったけど、全然想像しなかったよ」
「私もです……って、教科書を忘れた私が言う資格があるのか分かりませんが」
「ははっ。……小学生の6年間で、優奈はたくさんの人と隣同士の席になったんだよな。その人達が羨ましいよ。特に男子は。結婚した直後のお家デートでアルバムを見たけど、小学校時代の優奈も可愛かったし」
「ふふっ。隣に座るのは男子のときも女子のときもありましたね。……あと、今の和真君の言葉は私にも言えることです。小学生のときに和真君と隣同士になったことのある人達が羨ましいです。特に女子は」
「ははっ、そっか。俺も隣の席が男子のときもあれば、女子のときもあったな」
「そうでしたか」
「……まあ、せっかくこうしてくっつけているんだ。古典の授業を楽しもう」
「はいっ」
優奈はニコッと笑いながら返事をしてくれる。
渡辺先生がまだ来ていないからか、優奈は体を俺の方にゆっくりと傾けて、そっと寄り掛かってくる。まるで、家でアニメを観ているときのようだ。学校でもこの体勢になれて幸せだ。制服越しに優奈の温もりを感じられて、甘い匂いがさらに濃く香ってくるし。このままで古典の授業を受けたいほどだ。
それから程なくして、渡辺先生がやってきた。
「遅れてごめんね。質問しに来た子に教えていたら、時間が経っちゃった」
渡辺先生は苦笑いをしながら、遅れた理由を説明した。質問に対応していたら遅れたのか。これまで質問に答えている先生の姿は何度も見たことがあるから、それにも納得かな。
渡辺先生が来たからか、優奈は俺に寄り掛かるのを止めた。
「あれ? 優奈ちゃんと長瀬君……机をくっつけているけどどうしたの?」
渡辺先生は首を傾げながらこちらを見ている。机をくっつけているのは俺達だけだし、すぐに気付いたか。まあ、理由を訊くのは当然だよな。
「私が古典の教科書を忘れてしまって。それで、隣の席の和真君に見せてもらうことになったんです」
「そうなんだ。優奈ちゃんが忘れ物なんて珍しいね。じゃあ、旦那さんの長瀬君に教科書を見せてもらいながら授業を受けてね」
いつもの明るい笑顔で渡辺先生はそう言う。先生にも珍しいと言われるほどに、優奈はしっかりしているんだな。だからこそ、先生は怒ることなく笑顔のままなのだろう。
「はいっ」
優奈はニッコリとした笑顔で返事した。
4時間目の古典の授業が始まる。
優奈が見やすいように机がくっついているところで教科書を開き、ノートに板書を取りながら授業を受けていく。
ただ、いつもよりも近くに優奈がいて、そのことで甘い匂いが濃く感じられて。だから、いつも以上に優奈の方に視線を向けてしまって。俺と机をくっつけているからか、優奈はいつもよりも上機嫌に見える。
また、優奈と視線が合うことも多くて。視線が合うと優奈はニコッと笑いかけてくれる。そのことに幸せを感じる。
あと、教科書のページをめくるときなど、手や腕が優奈に触れてしまうことも何度かあって。
「ごめん。また当たっちゃって」
「いえいえ、気にしないでください。むしろ、授業中に和真君と触れられるのが嬉しいです」
と、優奈は微笑みながら許してくれた。そのことにキュンとなって。
優奈と机をくっつけて授業を受けるのは初めてだから新鮮で。ただ、こうした形で授業を受けるのは小学生以来だから懐かしさも感じて。不思議な感覚の中で、古典の授業を受けていく。それは俺にとって楽しい時間になった。
ちなみに、5時間目以降は優奈も俺も教科書を忘れずに持ってきていた。なので、いつも通りの席の場所で授業を受ける。
いつもの場所でも、優奈はすぐ側にいる。それでも、4時間目のことを思い出すと、ほんの少し寂しく感じた。
中間試験でいい順位だったのもあり、昨日以上に授業に取り組もうと思える。といっても、黒板や担当する教師を見るとき、自然と隣の席に座っている優奈が視界に入り、優奈の方に視線を向けてしまうこともあるけど。
今日もいつも通りに授業を受けて、あっという間に放課後になっていくのだろう。
そう思っていた。
「すみません、和真君。次の古典の授業では教科書を見せてもらえませんか? 忘れてしまいまして……」
優奈からそう言われたのは3時間目の授業が終わった直後だった。教科書を忘れてしまったからか、優奈は苦笑い。
優奈が忘れ物をするなんて。珍しいな。
優奈は普段から予習を欠かさずにやっているし、昨日の夜も課題をやった後に今日の授業の予習していた。だから、スクールバッグに教科書を入れるのを忘れちゃったのかな。
「いいぞ。じゃあ、席をくっつけて一緒に教科書を見よう」
「ありがとうございますっ」
ほっと胸を撫で下ろすと、優奈はニコッと笑って、いつもより大きな声でお礼を言った。どうやら、俺と席をくっつけることが嬉しいようだ。
優奈と俺は互いに机を動かしてくっつける。その状態で椅子に座ると、優奈がかなり近くにいるように思える。いつもよりも、優奈の甘い匂いも濃く感じられるし。
「あら、2人で机をくっつけて。優奈のお礼の声も聞こえたけど、どうかしたの?」
優奈の近くの席に座る井上さんが、こちらを向いてそう問いかける。
また、机を動かす音が聞こえたのか、半数以上のクラスメイトがこちらに視線を向けている。クラスメイトから視線が集まるのは結婚直後のとき以来だから、ちょっと懐かしい感覚だ。
「私が古典の教科書を忘れてしまいまして。和真君が隣の席なので、こうして席をくっつけて見せてもらうことにしたんです」
「なるほどね。そういうこと」
井上さんは納得した様子でそう言った。
「長瀬と有栖川、席をくっつけてどうした?」
「何かあったの?」
西山と佐伯さんは不思議そうな様子で俺達のところにやってくる。昼休み以外で俺達が席をくっつけたことはないからな。
「優奈が教科書を忘れちゃったんだって」
「そうなんだ。長瀬に見せてもらうために机をくっつけているんだね。しっかりしている優奈が忘れるなんて珍しいね」
「私もそれは思った」
「しっかり者の有栖川がうっかり忘れるのも可愛いと思うぜ」
「確かに可愛いな」
可愛いと言われたからか、優奈は頬をほんのりと赤くし「えへへっ」と照れくさそうに笑う。その姿もまた可愛い。
俺達の会話が聞こえて事情を把握したのか、クラスメイト達に視線を向けられることはなくなった。
「今の優奈と長瀬を見ていると、小学校の頃を思い出すな。小学校では机をくっつけていたし」
「千尋の言うこと分かるわ。私達が卒業した中学では、お昼や班行動のとき以外は机をくっつけなかったもんね。ちょっと懐かしい気分になる」
「2人の卒業した中学は一人一人だったのか。俺は中学まで隣の席の生徒とくっつけてたぜ」
井上さんと佐伯さん、西山は机の並べ方の話題で盛り上がっている。
「俺も……小学校のときは今みたいに隣の席の児童と机をくっつけた並べ方だったけど、中学校からは一人一人だったな」
「私も小学校では机をくっつけて、中学校からは一人一人でしたね」
「マジか。じゃあ、俺の母校の中学が珍しいのかもな」
西山は爽やかな笑顔でそう言った。
俺達5人の中では西山の卒業した中学だけが違う結果に。ただ、一般的にも小学校では机をくっつけて、中学以降は一人一人で独立する並べ方が多いのだろうか。
「それにしても、長瀬が隣で良かったねぇ、優奈。教科書を忘れても、机をくっつけて見せてもらえるんだし。それに、大好きな旦那さんといつもより近くで授業を受けられるし」
佐伯さんはニヤリとした笑顔で言った。それに対して、優奈は、
「はいっ」
と、嬉しそうに返事をしていて。それがとても可愛くて、嬉しかった。
――キーンコーンカーンコーン。
4時間目の授業開始を知らせるチャイムが鳴った。なので、席に座っていた井上さんは黒板の方に向き、西山と佐伯さんは自分の席に戻った。
俺はスクールバッグから古典の教科書とノートを取り出し、机に置く。教科書については優奈と俺の机をくっつけた部分の上に置く。
チャイムは鳴ったけど、古典の担当であり、うちのクラスの担任でもある渡辺夏実先生はまだ来ていない。準備ができていないのかな。
「それにしても、優奈と席をくっつけて授業を受けるときが来るなんてな。席替えをして隣同士の席になったけど、全然想像しなかったよ」
「私もです……って、教科書を忘れた私が言う資格があるのか分かりませんが」
「ははっ。……小学生の6年間で、優奈はたくさんの人と隣同士の席になったんだよな。その人達が羨ましいよ。特に男子は。結婚した直後のお家デートでアルバムを見たけど、小学校時代の優奈も可愛かったし」
「ふふっ。隣に座るのは男子のときも女子のときもありましたね。……あと、今の和真君の言葉は私にも言えることです。小学生のときに和真君と隣同士になったことのある人達が羨ましいです。特に女子は」
「ははっ、そっか。俺も隣の席が男子のときもあれば、女子のときもあったな」
「そうでしたか」
「……まあ、せっかくこうしてくっつけているんだ。古典の授業を楽しもう」
「はいっ」
優奈はニコッと笑いながら返事をしてくれる。
渡辺先生がまだ来ていないからか、優奈は体を俺の方にゆっくりと傾けて、そっと寄り掛かってくる。まるで、家でアニメを観ているときのようだ。学校でもこの体勢になれて幸せだ。制服越しに優奈の温もりを感じられて、甘い匂いがさらに濃く香ってくるし。このままで古典の授業を受けたいほどだ。
それから程なくして、渡辺先生がやってきた。
「遅れてごめんね。質問しに来た子に教えていたら、時間が経っちゃった」
渡辺先生は苦笑いをしながら、遅れた理由を説明した。質問に対応していたら遅れたのか。これまで質問に答えている先生の姿は何度も見たことがあるから、それにも納得かな。
渡辺先生が来たからか、優奈は俺に寄り掛かるのを止めた。
「あれ? 優奈ちゃんと長瀬君……机をくっつけているけどどうしたの?」
渡辺先生は首を傾げながらこちらを見ている。机をくっつけているのは俺達だけだし、すぐに気付いたか。まあ、理由を訊くのは当然だよな。
「私が古典の教科書を忘れてしまって。それで、隣の席の和真君に見せてもらうことになったんです」
「そうなんだ。優奈ちゃんが忘れ物なんて珍しいね。じゃあ、旦那さんの長瀬君に教科書を見せてもらいながら授業を受けてね」
いつもの明るい笑顔で渡辺先生はそう言う。先生にも珍しいと言われるほどに、優奈はしっかりしているんだな。だからこそ、先生は怒ることなく笑顔のままなのだろう。
「はいっ」
優奈はニッコリとした笑顔で返事した。
4時間目の古典の授業が始まる。
優奈が見やすいように机がくっついているところで教科書を開き、ノートに板書を取りながら授業を受けていく。
ただ、いつもよりも近くに優奈がいて、そのことで甘い匂いが濃く感じられて。だから、いつも以上に優奈の方に視線を向けてしまって。俺と机をくっつけているからか、優奈はいつもよりも上機嫌に見える。
また、優奈と視線が合うことも多くて。視線が合うと優奈はニコッと笑いかけてくれる。そのことに幸せを感じる。
あと、教科書のページをめくるときなど、手や腕が優奈に触れてしまうことも何度かあって。
「ごめん。また当たっちゃって」
「いえいえ、気にしないでください。むしろ、授業中に和真君と触れられるのが嬉しいです」
と、優奈は微笑みながら許してくれた。そのことにキュンとなって。
優奈と机をくっつけて授業を受けるのは初めてだから新鮮で。ただ、こうした形で授業を受けるのは小学生以来だから懐かしさも感じて。不思議な感覚の中で、古典の授業を受けていく。それは俺にとって楽しい時間になった。
ちなみに、5時間目以降は優奈も俺も教科書を忘れずに持ってきていた。なので、いつも通りの席の場所で授業を受ける。
いつもの場所でも、優奈はすぐ側にいる。それでも、4時間目のことを思い出すと、ほんの少し寂しく感じた。
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