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第65話『お嫁さんとのお風呂-前編-』

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 6月2日、金曜日。
 優奈と席が隣同士なのもあり、今日の学校生活も楽しく過ごすことができた。だからなのか、これまでよりも放課後になるまでがあっという間に感じられた。
 放課後にはバイトがあったけど、家で大好きな優奈が待っていると思うと物凄く頑張れて。3時間のシフトだったけど、バイトも終わるまであっという間だった。
 家に帰ると、優奈は玄関まで出迎えてくれて、

「おかえりなさい、和真君。バイトお疲れ様でした!」

 優奈らしい優しい笑顔でそう労ってくれた。俺のことを抱きしめて、おかえりのキスをしてくれて。そのおかげで、今日の学校とバイトの疲れが吹き飛んだ。大好きなお嫁さんのパワーは凄いと思った。



 今日の学校とバイトが終わったので、いよいよ週末に突入だ。
 優奈と好き合う夫婦になってから初めて迎える週末でもある。これまで以上に、優奈と一緒に楽しい時間を過ごしていきたい。
 あと、好き合う夫婦になったし……優奈と一緒にお風呂に入ってみたい。今まで一度も一緒に入ったことがないし。優奈がタオルを巻いた姿や裸を見たらドキドキしたり、緊張したりするかもしれないけど。優奈と一緒にお風呂を楽しんでみたい。
 一緒にお風呂に入りたいことを考えていたらドキドキしてしまい、夕食後に優奈と一緒に観ているアニメの内容が頭にあまり入ってこなかった。

「今週のエピソードも面白かったですね!」
「そ、そうだな」

 アニメにはあまり集中できなかったけど、そう返事しておいた。
 昨日の深夜に録画したアニメはこれで観終わった。今は午後9時近いし、お風呂に誘うにはいいタイミングだろう。よし……言ってみるか。

「ゆ、優奈」
「はい。何でしょうか?」

 優奈はこちらに振り向いてくる。至近距離から見つめられているから緊張する。だけど、ちゃんと言わないとな。

「……あのさ。もしよければ、今日は……い、一緒にお風呂に入らないか? 優奈と好き合う夫婦になれたし。ゆ、優奈と一緒に入ってみたくて……」

 何度か言葉が詰まってしまったけど、何とか言うことができた。
 俺にお風呂に入りたいと言われたからだろうか。頬を中心に、優奈の顔が見る見るうちに赤くなっていく。その反応が可愛らしい。腕や脚が触れているので、優奈の体が熱くなっていくのが分かる。

「……いいですよ。和真君のことが好きになってから、私も一緒にお風呂に入ってみたいと思っていましたから」

 赤くなった顔に柔らかな笑みを浮かべながら、優奈はそう言ってくれた。
 俺の提案を受け入れてくれ、優奈も俺と一緒にお風呂に入りたい気持ちがあったのが分かって、とても嬉しい気持ちになる。

「ありがとう」
「いえいえ。では、さっそくお風呂に入りましょうか。お風呂の用意もできていますし」
「そうだな」
「あと……髪や背中を洗いっこしませんか? 陽葵や友達と一緒に入るときは、髪や背中を洗いっこすることが多くて。和真君ともしてみたいです」
「もちろんいいぞ」
「ありがとうございます!」

 優奈は嬉しそうにお礼を言う。優奈に髪と背中を洗ってもらえるなんて。とても楽しみだ。
 あと、誰かの髪や背中を洗ったのは小学生の頃が最後だ。久しぶりだけど、優奈が気持ちいいと思えるように頑張ろう。
 俺達はそれぞれ寝間着や下着、タオルなどを用意して洗面所へ向かう。
 玄関の鍵は閉めているし、家の中には俺達以外には誰もいない。それでも、2人とも洗面所に入った直後、俺は引き戸の鍵を施錠した。
 優奈の提案で、互いに背を向けた状態で衣服を脱ぐことに。
 背を向けているから、優奈の姿は見えない。ただ、背後から衣服が擦れる音や、たまに「んっ」とか優奈の可愛い声が聞こえてきて。優奈の甘い匂いが香ってきて。結構ドキドキする。それもあって、服を着ていたときよりも、服を全て脱いだ今の方が暑く感じられた。
 今は優奈がいるので、脱ぎ終わった後、タオルを腰に巻いた。普段はやらないので、旅行に来たような気分になる。

「優奈。脱ぎ終わったよ。優奈はどうだ?」
「私も脱ぎ終わりました。こちらを向いてもいいですよ」
「分かった」

 優奈の方に振り返る。
 すぐ目の前には、服を全て脱いで、少し大きめの白いタオルで胸元から膝のあたりまで隠している優奈がいた。見えたらまずそうな部分は隠れているけど、これはこれで結構艶やかな印象で。ヘアゴムを外して、髪型がいつものおさげからストレートヘアになっていて。そそられるな。
 優奈は顔をほんのりと赤くしながら、俺のことをじっと見ている。

「す、素敵ですっ。タオルを腰に巻いた姿も。綺麗な体をしていて」
「ありがとう。優奈も……綺麗だよ」
「ありがとうございますっ。では、入りましょうか」
「ああ」

 優奈と一緒に浴室に入る。
 ここに引っ越してから1ヶ月ほど経ち、この家の浴室にも慣れてきた。ただ、優奈と一緒に入るのは初めてだから新鮮に感じられた。

「優奈。どっちが先に、髪と背中を洗おうか?」
「まずは私が和真君の髪と背中を洗いたいですっ」

 優奈は意気揚々とした様子で俺にそう言ってくる。洗いっこを提案したのは優奈だし、髪と背中を洗いたい気持ちが強いのだろう。

「分かった。じゃあ、お願いするよ」
「お任せください!」

 優奈はニコッと笑いながらそう言ってくれる。陽葵ちゃんや友達と一緒に入るときは洗いっこしていることが多いそうだし、結構上手そうな気がする。
 期待しつつ、俺は鏡の前に置いてあるバスチェアに腰を下ろす。その際、腰に巻いていたタオルを取って台に置いた。
 鏡を見ると、俺の後ろに優奈の姿が見える。俺がバスチェアに座っているのもあり、見えているのはデコルテから上の部分だけ。これなら大丈夫そうだ。

「和真君。髪と背中、どちらから洗いましょうか」
「髪からお願いできるかな」
「分かりました。和真君の使っているリンスインシャンプーは、ラックに置いてある青いボトルですよね」
「そうだよ」
「了解です。では、シャワーで髪を濡らしていきますね。目を瞑ってください」
「はーい」

 俺は優奈の言う通りに目を瞑る。
 それからすぐに、頭に温かいお湯がかかる。自分で何もせずにお湯をかけてもらうのって気持ちいいな。今日は学校だけじゃなくてバイトもあったから、こうしていると段々と眠くなってくる。
 髪が濡らすのが終わり、優奈に髪を洗い始めてもらう。何年も使い続けているシャンプーだから、慣れ親しんだ匂いが香ってきて。
 それにしても、優奈の手つき……とても優しくて気持ちがいい。このまま目を瞑っていると眠ってしまいそうなので、ゆっくりと目を開ける。
 鏡を見ると、楽しそうに俺の髪を洗う優奈の姿が見えて。俺と目が合うと優奈はニコッと笑う。……幸せだ。

「和真君。髪の洗い方はどうですか? 痛かったりしますか?」
「凄く気持ちいいよ」
「良かったです。では、この洗い方で洗っていきますね」
「うん、お願いします」

 それまでと同じ強さで、優奈は俺の髪を洗っていく。
 優奈……本当に上手だな。とても気持ちいいから、一緒にお風呂に入っていることの緊張が和らいでいく。
 優奈も同じなのだろうか。鏡に写る優奈の笑顔はいつものような柔らかいものになっている。

「本当に上手だな。きっと、陽葵ちゃんや友達にたくさん髪を洗って、技術を身に付けたんだろうな」
「ありがとうございます。褒めてもらえて嬉しいです。陽葵とか千尋ちゃんとか、一緒にお風呂に入ると『洗って』って頼んでくる子もいますね」
「そうなんだ。こんなに気持ちいいんだから、それも納得だ。これから、俺も何度も頼むかもしれない」
「ふふっ。洗ってほしいときはいつでも言ってくださいね」
「ありがとう」

 甘えすぎない程度に、優奈に頼みたいなと思う。

「和真君ぐらいの髪の量だと洗いやすいですね」
「そっか。優奈の髪は長いもんな」

 毎日、あの長い髪を洗っていたら、俺の髪を洗うのは楽か。もしかしたら、自分の髪が長いことも、優奈が髪を洗うのが上手な理由な一つかもしれない。

「和真君。泡を落とすので、目を瞑ってくださいね」
「ああ」

 優奈の言う通りに目を瞑る。
 さっきと同じく、目を瞑ってからすぐに温かいお湯が頭にかかり始める。泡を落とすためか、優奈の手が頭に触れて。今の手つきも優しい。
 泡を落とし切った後、優奈はタオルで俺の頭を拭いてくれる。ここまでしてくれるとは思わなかった。至れり尽くせりだな。

「はい、これで終わりです」
「タオルで拭くところまでやってくれてありがとう」
「いえいえ。普段もそうですが、洗ってより髪が綺麗になりましたね。とても綺麗な茶髪だなって思います」
「ありがとう。これは母親譲りの茶髪でさ。気に入っているんだ。だから嬉しいよ」
「そうですか。……次は背中ですね」
「ああ。お願いするよ。タオル掛けに掛かっている水色のボディータオルを取ってくれるかな」
「はい」

 俺は優奈から自分のボディータオルを受け取る。
 ボディータオルを濡らし、自分が使っているシトラスの香りのボディーソープを出す。泡立てていくと、シトラスの爽やかな香りがしてくる。いつもなら脚から洗い始めるけど、今日は後ろにいる優奈にボディータオルを渡す。

「お願いします、優奈」
「はい。……シトラスの香り、爽やかでいいですよね。実家にいた頃、たまにシトラスの香りを使っていました」
「そうなんだ。俺の実家ではシトラスがメインでさ。ただ、優奈の使っているピーチの香りは甘くていいよな。うちもたまにピーチを使ってた」
「そうなんですね」

 こういう話をするのは、実は優奈と俺は同じボディーソープシリーズを使っているからだ。今は引っ越す前に用意したものをそれぞれ使っている。

「今は別々だけど、今使っているものがなくなったら、同じ香りのものを使うのもいいかもしれないな」
「それいいですね! ……では、背中を洗いますね」
「お願いします」

 俺は優奈に背中を洗ってもらい始める。
 髪を洗っているときと同様に、気持ちいいな。ただ、優奈の手つきが優しいからだろうか。ボディータオルは同じだけど、感触がいつもよりも結構柔らかく感じて。

「和真君。どうですか?」
「気持ちいいよ。ただ、もうちょっと強くても大丈夫だ」
「ちょっと強くですね。……こうですか?」
「おぉ、より気持ち良くなった」
「では、この強さで洗っていきますね」
「うん。お願いします」

 ちょっと強くしてもらったから、本当に気持ちがいい。
 背中を洗いやすくするためだろうか。ボディータオルだけじゃなくて、優奈の手も触れて。素肌だし、優奈の手が温かくて柔らかいのもあってドキッとした。

「男の子の背中ですから、とても広く感じますね」
「そっか。俺よりも広い女子はそうそういないよな」
「ですね。千尋ちゃんは女の子の中では背が高いですが、こんなに背中は広くありませんでした」
「そうなんだ」
「あと、小さい頃にお父さんやおじいちゃんの背中を洗ったことがあります。そのときはとても広く感じましたが、実際に広いのは和真君でしょうね」
「英樹さんもおじいさんも、俺より少し背が低くて細身な感じだもんな。じゃあ、俺が優奈の洗ったことのある一番広い背中になるのかな」
「そうですね。きっと、この先もずっと一番です」
「そっか。嬉しいな」

 こういうことでも、優奈の一番であることが嬉しい。この先もずっとって言ってもらえるのも。頬が緩んでいくのが分かる。鏡に映っている自分の顔を見ると、さっきまでよりも口角が上がっていた。そんな俺の顔を見ていたのだろうか。優奈は「ふふっ」と声に出して笑った。
 嬉しい気持ちになったから、これまで以上に背中を洗ってもらうのが気持ち良かった。

「和真君。背中を洗い終わりました」
「ありがとう。背中もさっきの髪も凄く気持ち良かった。今までしてもらった中で一番かも」
「そう言ってもらえて嬉しいです!」

 優奈は鏡越しで俺に向かってニッコリと笑いかけ、そう言ってくる。お風呂だから、今の優奈の声が響き渡って。ただ、その響きが心地良く、心が温まる。

「あとは自分でやるよ」
「分かりました」

 優奈からボディータオルを受け取り、背中以外の部分を洗い始める。優奈はまだ体を洗っていないので、俺の後ろにずっといる。
 さっきまで優奈が持っていたからか、普段よりもボディータオルの温もりが優しく感じられる。それもあって、いつもよりも気持ち良く洗えたのであった。
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