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第62話『告白』

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 今夜、優奈に好きだと告白しよう。
 そう決めたけど……優奈が部活から帰ってきて、一緒に夕ご飯を食べたり、リビングで一緒にアニメを観たりするときも、緊張してしまってなかなか優奈に告白することができない。
 ただ、明日からより楽しい高校生活を送るためにも、今夜告白したい。
 なので、自分の部屋で勉強したり、お風呂に入ったりするなど、一人の時間を過ごす中で気持ちを落ち着かせていく。風呂に入るのは好きだから、普段よりも長めに湯船に浸かってリラックスした。
 お風呂を出て自分の部屋に戻り、ドライヤーで髪を乾かす。ドライヤーから出る温風が気持ちいいのもあり、髪を乾かし終わった頃には気持ちもだいぶ落ち着いた。

「……よし。行くか」

 優奈の部屋に行って、優奈に告白しよう。
 自分の部屋を出て、優奈の部屋の前まで行く。
 ノックをしようと右手を伸ばしたとき……右手が少し震える。今から告白しようと思うと、再び緊張してくる。でも、勇気を出さないと。
 ――コンコン。
 優奈の部屋の扉をノックする。
 はーい、と部屋の中から優奈の声が聞こえてきた。そのことにドキッとして、体が熱くなる。少しでも気持ちを落ち着かせるために、扉が開く前に長めの呼吸をした。
 それからすぐに部屋の扉が開く。中から桃色の寝間着姿の優奈が出てくる。優奈は優しい笑みを浮かべていて。可愛いな。

「和真君、どうしました?」
「……優奈に話したいことがあってさ。今、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとう。……失礼します」
「ふふっ、かしこまっちゃって。どうぞ」

 俺は優奈の部屋にお邪魔する。
 話したいことがあると言ったからだろうか。優奈の指示で、ローテーブルを挟んで優奈と向かい合う形でクッションに座る。

「和真君。私に話したいことって何ですか?」

 優奈は俺のことを見つめながらそう問いかけてきた。いよいよそのときがやってきたな。
 優奈に好きだって告白しよう。

「えっと……」

 いざ、好きだって言おうとすると……より緊張して、息が詰まる。かなりドキドキして、急激に体が熱くなってくる。
 告白するのってとても緊張して、凄く勇気がいることなんだな。今まで俺に告白してくれた人や、優奈に告白した人達、推しとしてだけど優奈を好きだと表明している西山のことを尊敬するよ。

「和真君」
「うん?」
「私にどんなことを話したいのかは分かりませんが……ゆっくりでいいですからね。私はここで和真君の言葉を待っていますから」

 優奈は優しい笑顔になり、優しい声色でそう言ってくれる。優奈は本当に……俺のことを考えてくれる優しい人だな。そういうところも好きだ。
 依然としてドキドキしている。でも、優奈の今の言葉や優しい笑顔もあり、息苦しさなどは体から抜けていって。

「ありがとう、優奈」

 一度、長めの呼吸をし、

「優奈のことが好きだよ。それが優奈に話したいことなんだ」

 優奈のことをしっかりと見て、優奈に告白した。
 好きだと言葉にしたからだろうか。優奈は「和真君……」と俺の名前を呟くと、見る見るうちに顔が赤くなっていく。その様子が可愛くて、愛おしい。

「優奈と結婚して。一緒の学校生活を過ごして。ゴールデンウィークから一緒に住み始めて。それがとても楽しくて。優奈と一緒にいる時間を重ねていく中で、優奈の存在が俺の中で大きくなっていって」

 結婚してからの優奈と一緒にいる日々を思い出すと、胸がとても温かくなる。優奈の笑顔を思い浮かべると、特に。

「だから、一昨日……優奈が風邪を引いて、一人で学校に行って、優奈のいない学校生活を送ったのが凄く寂しかったんだ。も、もちろん、優奈が風邪を引いたのを責めているわけじゃないぞ」
「分かっていますよ」

 優奈は真っ赤な顔で微笑みながらそう言う。その反応にほっとする。

「優奈がすぐに元気になって、昨日は優奈と一緒にいつもの時間を送れることがとても嬉しくて。昨日の夜、優奈は俺と一緒に寝たいって言ってくれたよな。一緒にいたいとも言ってくれた。それがとても嬉しくて。そのときに俺は優奈のことが好きなんだって自覚したんだ」
「そうでしたか。じゃあ、今朝、起こしたときに顔が赤かったり、席替えで私の隣の席を引き当ててとても嬉しそうだったりしたのも……」
「ああ。優奈のことが好きだからだよ」
「そうでしたか……」
「優奈と隣同士の席になって。これまでよりも楽しそうな高校生活を送れそうだと思った。ただ、告白して、優奈と好き合う夫婦になれたら、優奈も俺ももっと楽しい高校生活になるんじゃないかって思って。それで、こうして……優奈に告白しました。優しいところ。笑顔が可愛いところ。食事やスイーツを美味しそうに食べるところ。スイーツとかアニメとか漫画とか好きなことを楽しそうに話すところ……優奈の好きなところはいっぱいあるよ。俺は優奈のことが好きです。優奈と結婚して、一緒にいられて幸せに思っているよ」

 俺は優奈に向けて、自分の想いを言葉にすることができた。
 告白したから、体が物凄く熱くて。俺からの告白を受け、優奈がどんな反応をするのか緊張して。でも、想いを言えたことでスッキリとした気持ちもあって。これまで、誰かに好きだと告白した人はこういう感覚になったのだろうか。
 優奈のことを見ると……顔の赤みがさらに濃くなっている。ここまで顔を赤くしている優奈は見たことがない。そんな真っ赤な顔に優奈は……嬉しそうな笑みを浮かべた。

「……嬉しいです。和真君が私を好きになったと言ってくれて。私も……和真君のことが好きですから」

 優奈は俺の目を見つめながらそう言ってくれる。そのことに嬉しい気持ちがどんどん膨らんでいって。頬が緩んでいって。きっと、俺も今の優奈のように、真っ赤な顔に笑みが浮かんでいるのだろう。

「そうか。優奈も俺のことが……好きなんだな」
「はい。私も結婚してからの日々の中で、和真君の存在が大きくなりました。和真君の姿を見て、笑顔を見るといいなって思えて。私の料理を美味しく食べてもらえたり、一緒にアニメなどを楽しんだりするのが嬉しくて。私の嫌いなゴキブリを退治したり、雷の日は一緒に寝てくれたり、カラオケでナンパから助けてくれたりしたときはキュンとなって」

 それらのことを優奈は楽しげに話す。
 優奈が話してくれたことを思い出すと……優奈と結婚してから色々なことがあったんだって実感する。

「私も一昨日、風邪を引いて家に一人でいるとき……寂しくて、和真君のことばかり考えていました。ベッドに入っているときも、和真君の作ってくれたお粥やお弁当を食べたときも。風邪薬を飲んでいなかったら眠れなかったかもしれません」
「そうだったのか」
「……ただ、和真君が萌音ちゃんと一緒に帰ってきて、和真君の姿を見たときにほっとして。優しい笑顔を見たときにキュンとなって、心がとても温かくなって。その瞬間に和真君のことが好きなんだって自覚しました」
「そうだったんだな」

 優奈も風邪を引いて学校を休んだことがきっかけで、俺への好意を自覚したのか。一緒に住み始めてから、優奈の部活や俺のバイト以外ではほとんど一緒にいたからな。一緒にいることが日常になってきたからこそ、離れたことでお互いに相手へどんな想いを抱いているのかを自覚することができたのだろう。

「じゃあ、一昨日の夜、優奈が寝る前に抱きしめてほしいと言ったのは……」
「はい。和真君のことが好きになったので、和真君を感じたくて。ただ、本心を伝える勇気がなかったので、千尋ちゃんや萌音ちゃんを理由に出しましたが。昨日、一緒に寝たいと思ったのも、和真君が好きで、より長く一緒にいたいと思ったからです」

 一昨日抱きしめ合ったときのことや、昨日一緒に寝たときのことを思い出しているのか、優奈は「えへへっ」とはにかんでいる。そんな姿もとても可愛い。

「和真君を好きだと自覚したので、告白しようとも考えていたのですが……なかなか勇気が出なくて。告白はたくさんされていますが、一度もしたことがなかったので。今まで告白してきた人達は、とても凄いと思いました」
「俺も優奈に告白する直前に同じようなことを思ったよ」
「そうでしたか。……和真君が好きだと告白してくれて凄く嬉しいです。私も和真君のことが好きです。優しいところ。料理やスイーツを美味しく食べてくれるところ。笑顔が素敵なところ。一緒にいると楽しいところ。私が困っているときは和真君なりに助けてくれるところ。授業中やバイト中などに見せる大人っぽい姿など、好きなところはいっぱいあります」

 優奈は彼女らしい柔らかな笑顔で言ってくれる。
 俺の好きなところを言ってくれるのは嬉しい。だけど、ちょっと照れくさいな。さっき、俺が好きなところを言ったとき、優奈もこういう気持ちだったのかな。

「和真君。これからは好き合う夫婦として私と一緒に過ごしてくれますか? 側にいてくれますか?」
「もちろんさ」

 それ以外の返事はない。

「これからは優奈を好きな旦那さんとしてよろしくお願いします」
「はいっ。こちらこそ、和真君を好きなお嫁さんとしてお願いします!」
「ああ」

 これで優奈と俺は好き合う夫婦になることができたんだな。凄く嬉しい。優奈の可愛い笑顔を見ると、嬉しい気持ちが膨らんでいく。
 和真君、と俺の名前を言うと、優奈はクッションから立ち上がる。俺のすぐ側までやってきて俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。

「和真君、大好きです!」

 とびきりの可愛い笑顔で優奈はそう言ってくれる。

「俺も優奈のことが大好きだよ。優奈と結婚できて良かった」
「私もです!」

 弾んだ声でそう言い、優奈はニコッと笑いかけた。本当に可愛くて、大好きで、愛おしいお嫁さんだよ。そう思いながら、両手を優奈の背中の方へ回す。
 抱きしめ合っているから、優奈から優しい温もりと甘い匂い、寝間着越しに優奈の体の柔らかさが感じられて。だからドキドキしてくる。優奈も同じ気持ちなのか、優奈はうっとりとした表情で俺を見つめている。体からは心臓の鼓動がはっきりと伝わってきて。

「あ、あの……和真君」
「うん?」
「……す、好き合う夫婦になれましたし、その……キ、キスがしたいです」
「……ああ。いいよ」 

 優奈からキスしたいって言われて、かなりドキッとする。

「ありがとうございます。ただ、私からだと緊張していつになるか分からないです。キスしたことないですし。ですから、和真君からしてくれると嬉しいです」
「分かったよ、優奈。俺もキスは初めてだけど、俺からするよ」
「……はい」

 優奈はゆっくりと目を閉じて、唇を少しすぼめる。
 優奈のキス顔……凄く可愛いな。キスをするのは初めてで緊張するけど、優奈に吸い込まれるようにして、優奈と唇を重ねた。
 優奈の唇はとても柔らかい。手を繋いだり、抱きしめ合ったりして優奈の温もりはたくさん感じてきたけど、触れた唇から伝わる温もりは特別な感じがして。優奈の甘い匂いが濃く感じられて凄く心地がいい。これがキスなんだ。
 初めて味わう感覚に、体の熱は一気に上昇する。キスしているし、抱きしめ合ってもいるから、この温もりは優奈に伝わっているのだろう。
 どのくらいしたのか分からないけど、やがて、俺の方から唇を離した。
 すると、目の前には恍惚とした優奈の笑顔があって。俺と目が合うと、優奈はニコッと笑いかけてきて。

「キスってこういう感じなんですね。とてもいいです」
「俺も凄くいい感覚だった」
「良かったです。ファーストキスが和真君で、和真君にあげられて嬉しいです」
「俺もだよ。俺達は夫婦だし、今後もキスは優奈以外にはしないけど」
「嬉しいです。私もですよ」

 優奈はいつもの優しい笑顔でそう言ってくれる。そのことがとても嬉しい。優奈とキスしたらどんな感じなのか知っているのは俺だけでいいんだ。そして、俺とのキスを知っているのも優奈だけで。

「……あの、和真君。今度は私からキスしてみたいです」
「ああ。いいよ」
「ありがとうございます」

 優奈は嬉しそうにお礼を言う。一度キスをしたから、自分からキスする勇気が出たのかもしれない。
 俺はゆっくりと目を瞑る。こうしていると、いつキスされるんだろうってドキドキしてくるな。優奈もさっきはこういう感じだったのだろうか。
 数秒ほどして、俺の唇に温かくて柔らかいものが触れてくる。ついさっきキスしたから、触れたのが優奈の唇だと分かって。

「んっ……」

 と、優奈は甘い声を漏らすと、優奈は俺の口の中に舌を入れてきた。まさか、舌を入れてくるとは思わなかったので、思わず体が震える。
 優奈はゆっくりと優しい動きで舌を絡ませてくる。気持ちいい。優奈の舌の柔らかい感触や生温かさもあって興奮してきて。なので、こちらからも舌を動かす。そのことでより気持ち良くなった気がする。
 一緒にアニメを観たときにコーヒーを飲んだからだろうか。優奈の口からコーヒーの味や匂いがほのかに感じられた。
 さっきの俺からのキスよりもだいぶ長い時間キスして、優奈から唇を離した。舌を絡ませるほどのキスをしたから、優奈の唇は唾液で湿っていて。その姿がとても艶っぽい。俺と目が合うと、優奈は不適な笑みを見せ、

「キスしたら段々と興奮してきて。舌を絡ませちゃいました」

 と、甘い声で言った。どうやら、優奈は一度スイッチが入ると積極的になるようだ。優奈の新たな一面を知れた気がする。

「口の中に舌が入ってきたときはビックリしたよ」
「体がピクッと震えていましたもんね。可愛かったです」
「ただ、舌を絡ませるキスって気持ちいいんだな。もちろん、相手が優奈だからだろうけど」
「私も気持ち良かったです。あと、キスはレモンの味と聞きますが、私達の場合はコーヒー味ですね」
「アニメを観たときにアイスコーヒーを飲んだからなぁ。普段からコーヒーを飲むことは多いし、俺達らしくていいんじゃないか」
「そうですねっ」

 優奈はニッコリと笑いながらそう言った。
 これからしばらくの間、コーヒーを飲んだら今日のキスや告白したことを思い出しそうだ。これからは夏になってアイスコーヒーばかり飲むようになるだろうけど、コーヒーを飲んでも体は冷やされずに熱くなりそうだ。

「和真君。もっとキスしたいです。いいですか?」
「もちろんさ。俺も優奈ともっとキスしたいって思っていたから」
「ありがとうございますっ」

 それからしばらくの間、俺達はキスし合って、たまに好きだと言葉にし合って、甘い時間を過ごしていった。
 好きだと告白するときはとても緊張した。
 ただ、優奈に好きだと伝えられて。優奈も俺が好きだと言ってくれて。好き合う夫婦になれて本当に良かった。とても幸せだ。
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