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第59話『日常に戻った。』

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 5月30日、火曜日。
 今日も午前6時過ぎといつもの平日よりも早く目が覚めた。ただ、今日も朝食とお弁当作りの当番だから、このまま起きよう。
 ベッドから降りると、昨日のような肌寒さは感じない。窓から外を見ると青空が広がっているし、今日は暖かくなりそうだ。
 洗顔と歯磨きをして、スラックスに長袖のVネックシャツを着てリビングに向かう。
 リビングに行き、冷蔵庫の中を見ながら、朝食とお弁当のメニューを考える。ちなみに、朝食は和風にすることに決めており、朝食の分とお弁当の分の白飯を炊飯器で炊いている。

「……よし、決めた」

 朝食はベーコンエッグ、常備野菜であるほうれん草のおひたし、白菜とわかめの味噌汁。お弁当のおかずは甘めの玉子焼き、ウィンナー、ブロッコリー、ミニトマト、冷凍食品で鶏つくねときんぴらごぼうにしよう。
 あと、優奈にお粥は……作らなくても大丈夫そうかな。昨日もお腹の調子は悪くなかったし、夕ご飯に作った温かいうどんを完食していたから。
 朝食とお弁当を作っていく。今日はどちらも優奈と一緒に食べられたらいいなぁと思いながら。

「よし。これで大丈夫だな」

 特に問題なく、朝食とお弁当を作り終えることができた。美味しそうにできた気がする。優奈に美味しいと思ってもらえたら嬉しい。

「おはようございます、和真君」

 優奈の声が聞こえたので、扉の方を向くと……寝間着姿の優奈が扉の近くに立っていた。俺と目が合うと優奈は持ち前の柔らかな笑顔を向けてくれて。昨日の朝はリビングに来なかったし、こうしてリビングで優奈を見られることが嬉しい。顔色も普段と同じくらいに良くなっているし。

「優奈、おはよう。優奈は当番じゃないし、もう少しゆっくり寝ていると思ったよ」
「昨日は寝るのが早かったですからね。これでも、いつもよりたくさん寝ました」
「そっか。いっぱい眠れたなら良かったよ。顔色も普段と変わりない感じになっているけど、体調の方はどうだ?」
「元気になりました! 起きてすぐに体温を測りましたが、36度2分と平熱まで下がっていました」

 優奈はニッコリと笑いながらそう言ってくれる。その笑顔は普段から見ている笑顔だ。
 俺は優奈のすぐ目の前まで行き、額に右手をそっと当てる。

「……うん。昨日より熱が下がっているな。優奈が元気になって良かった」
「和真君が看病してくれたおかげです。ありがとうございます」
「いえいえ」

 そう言い、俺は額に当てた右手を頭上まで移動させ、優奈の頭を優しく撫でる。
 撫でられるのが気持ちいいのか、優奈の笑顔は嬉しそうなものになって。そんな優奈を見ていると俺も嬉しくなって。優奈が元気になって良かったと安心する。

「あと、萌音ちゃんや千尋ちゃんがお見舞いに来てくれたり、西山君達がメッセージを送ってくれたりしたおかげでもありますね。学校に行ったらお礼を言わないと」
「そうだな」

 お礼を言うのはもちろんだけど、学校で元気な姿を見せるだけでも西山達は喜ぶんじゃないだろうか。
 ――ぐうっ。
 うん? 誰かのお腹の虫が鳴ったな。俺のお腹は鳴っていないから、残るは優奈しかいない。俺の推理が合っていたようで、優奈はほんのりと頬を赤くしてはにかんだ。

「お腹……鳴っちゃいました。美味しそうな匂いがしますし、お腹空いちゃいました」
「そっか。早めだけど、朝ご飯を食べるか」
「はいっ! 制服に着替えてきます。あと、今日は一日晴れる予報ですから、洗濯機も回しましょうかね」
「分かった。じゃあ、俺はその間に配膳をやっておくよ」
「お願いします」

 優奈はリビングを後にする。
 優奈が戻ってくるまでの間に、俺は朝食の配膳をしていく。昨日は朝食を1人で食べたので、こうして2人分の配膳をすると嬉しい気持ちになる。
 10分ほどして、制服姿になって優奈が戻ってきた。優奈の制服姿を見るのは先週金曜日以来だから、随分と久しぶりに感じた。
 俺が優奈と自分のご飯と味噌汁をよそい、食卓の椅子に優奈と向かい合う形で座る。

「美味しそうです」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
「いただきますっ」

 優奈と一緒に朝食を食べ始める。
 優奈と住み始めて1ヶ月近くが経ち、こうして優奈と食事をするのが日常になってきていた。ただ、昨日は優奈が風邪を引いて、朝食を俺1人で食べたから、優奈と一緒に食べることや、

「美味しいですっ、和真君」

 目の前で優奈が笑顔でいたり、俺と話してくれたりすることがとても幸せなことなのだと実感する。
 朝食を食べ終わった後は、俺は朝食の後片付け、優奈はベランダで洗濯物を干す。ただ、今日は洗濯物の量が多いので、俺は後片付けが終わった後、残っている自分の衣類を干した。
 朝の家事が終わり、俺は高校の制服に着替える。
 忘れ物もないと確認し、キッチンで弁当と水筒をスクールバッグに入れて、優奈と一緒に学校へ出発する。

『いってきます』

 と、声を揃えて。
 マンションを出て、高校に向かって歩き始める。
 今日はよく晴れているし、優奈と手を繋いで一緒に歩いているからだろうか。見慣れた景色がとても輝いて見える。空気も爽やかでいいな。

「和真君……何だか、とてもいい笑顔をしていますね」
「そうか? もしそうなら……それは優奈のおかげだな。昨日は俺一人で登校したから、優奈と一緒に登校できるのが嬉しいんだ」
「そ、そうですかっ。和真君にそう言ってもらえて私も嬉しいですっ」

 その言葉は本心だと示すように、優奈は嬉しそうな笑顔を見せてくる。それと同時に、俺の手を握る力が強くなった。頬を中心に赤くなっており、繋いでいる手から伝わる熱も強くなったけど……この様子なら大丈夫そうかな。
 昨日の学校のことや、昨日の夜に一緒に観たアニメのことを中心に話しながら、優奈と一緒に学校に向かって歩いていく。これも一緒に住み始めてからの日常で。ただ、これが楽しくて、気付けば学校の正門を通っていた。
 昨日は俺一人で登校したからだろうか。今日は最近の中では一番、周りの生徒に観られている感じがした。
 昇降口で上履きに履き替えて、6階にある3年2組の教室に向かう。ただ、優奈は病み上がりなので、今日は階段ではなくエレベーターで向かった。
 優奈と一緒に、後方の扉から教室に入る。

「おっ! 長瀬と有栖川、おはよう! 有栖川は元気になったんだな」

 教室に入るとすぐに、いつものように西山が元気良く挨拶してくれた。ただ、優奈が風邪を治し、先週の金曜日以来に登校してきたからか、いつも以上に元気がいい。

「優奈、長瀬、おはよう!」
「2人ともおはよう!」

 西山の声に気付いたのか、佐伯さんと井上さんは俺達に向かって大きな声で挨拶して、こちらに向かってくる。優奈が学校に来たからか、2人とも嬉しそうだ。
 優奈が学校に来たのもあり、教室にいる生徒の大半がこちらを見ていて。優奈の友人を中心に嬉しそうにしている生徒がいっぱいいて。優奈の人気の高さを改めて実感する。

「昨日の夕方に行ったときも元気そうだったけど、学校に来られるくらいに元気になれたんだね!」
「一日で治って安心したわ。今日は優奈が見える中で授業を受けられて嬉しいわ」
「おかげさまで治りました。千尋ちゃん、萌音ちゃん、昨日はお見舞いに来てくれてありがとうございました。西山君やみんなもお大事にとメッセージをくださってありがとうございました」

 優奈は持ち前の柔らかい笑顔でお礼を言い、西山達に向かって頭を下げた。そんな優奈にみんなは優しい笑顔を向けていて。

「俺からもお礼を言わせてくれ。みんなありがとう」
「いえいえ。有栖川が元気になって良かったぜ」
「西山の言う通りだね。優奈が元気になって何よりだよ」
「そうね。親友が元気になって嬉しいわ」

 西山、佐伯さん、井上さんは優奈に向けて温かい言葉を掛ける。そのことで優奈の笑顔は柔らかいものから嬉しそうなものに変わった。優奈の笑顔を見ていると、俺も嬉しい気持ちになるよ。
 その後、優奈は自分の席に荷物を置いて、朝礼が始まるまで、俺と西山の席の周りで5人で談笑する。最近はこうして朝の時間を過ごすことが多くなってきた。今日はいつも通りの学校生活が送れそうだ。それがたまらなく嬉しい。
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