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第58話『抱きしめてほしいです』
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井上さんが帰ってからは、優奈は自分の部屋でゆっくりしている。
俺はお弁当箱を洗ったり、浴室を掃除したりするなどの家事をしていく。ただ、その前に、いつもの5人のグループトークに、優奈の体調がある程度良くなったことと、井上さんにお見舞いに来てくれたことのお礼のメッセージを送った。井上さんには感謝の気持ちでいっぱいだし、西山と佐伯さんは優奈の体調を気にしていたから。
みんな、俺の送ったメッセージを見たんだな。家事をしている途中で、
『そうなんだ! 優奈の体調が良くなってきたみたいで良かったよ!』
『有栖川が快復に向かっているようで安心した』
『優奈の元気そうな顔を見られて良かったわ』
『みなさん。メッセージやお見舞い、ありがとうございました!』
と、俺以外の4人のメンバーから続々とメッセージが送られていた。みんなのメッセージを見て、心が温まった。
――ピンポーン。
午後6時15分頃。
夕食時に差し掛かってきたので、今日の夕ご飯は何にしようか考えていたとき、インターホンが鳴った。この鳴り方はエントランスにあるインターホンから呼び出されたときの音だ。誰だろう?
リビングにあるモニターに行き、応答ボタンを押す。すると、画面にはエントランスを背景に制服姿の佐伯さんが映し出された。
「おっ、佐伯さんか。こんばんは」
『こんばんは! 部活がさっき終わって。優奈に会いたくなってさ。優奈の体調がある程度良くなったってメッセージもあったから来ました!』
「そっか。ありがとう。扉を開けるから」
『うんっ! ありがとう!』
佐伯さんはニッコリと笑いながらお礼を言ってきた。佐伯さんの持ち前の明るい笑顔は画面越しで見ても俺の心を明るくさせてくれる。そう思いながら、エントランスの扉を開けるボタンを押した。
『開いた。じゃあ、また後で』
「ああ」
通話ボタンを切って、俺は優奈の部屋に向かう。
ノックをし、優奈から「どうぞ」と返事を受けて扉を開ける。優奈はスマホを弄っていた。
「優奈。佐伯さんが来るよ」
「そうですか!」
ぱあっ、と明るい笑顔になって、優奈は元気良く言う。親友の力は凄いな。
「エントランスからの呼び出し音が聞こえたので、誰なのか気になっていました。千尋ちゃんが来てくれたんですね」
「ああ。部活が終わって、優奈に会いたくなったんだってさ」
「そうですか。千尋ちゃんと会えるのが楽しみですっ」
弾んだ声で優奈はそう言う。ちょっとワクワクとした様子にもなっていて。優奈の回復具合からして、明日学校で会えると思う。ただ、今日会えることが嬉しいのだろう。
――ピンポーン。
おっ、インターホンが鳴った。この音はうちの玄関のところにあるインターホンを押したときの音だ。おそらく、佐伯さんが来たのだろう。
優奈の部屋にあるモニターの応答ボタンを押すと、今度はマンションの中を背景に制服姿の佐伯さんが画面に映る。
「おっ、うちの前まで来たね」
『うんっ!』
「今行くよ。……佐伯さんだ。玄関まで出迎えるか?」
「はいっ!」
優奈は元気良く返事をした。親友の佐伯さんが来てくれたから出迎えたいのだろう。
優奈に手を差し出し、優奈の手を取ってベッドから出した。
優奈と手を繋いだ状態で玄関まで向かい、玄関の扉を開ける。すると、そこにはスクールバッグとエナメルバッグを肩に掛けた佐伯さんが立っていた。
俺だけでなく、優奈も出迎えたからか、佐伯さんはニコッと白い歯を見せながら笑う。
「2人ともこんばんは!」
「こんばんは、佐伯さん」
「こんばんは、千尋ちゃん。来てくれてありがとうございます。会えて嬉しいです!」
「あたしも優奈に会えて嬉しいよ! 長瀬や萌音の言うように元気そうになってるね! 良かったよ!」
嬉しそうに言うと、佐伯さんはスクールバッグとエナメルバッグを床に置いて、優奈のことを抱きしめてきた。優奈に会えたことや元気そうなことがとても嬉しいのだろう。
また、抱きしめられたことが嬉しいのか、優奈は可愛い笑顔になって、両手を佐伯さんの背中へと回す。親友同士が抱きしめる光景……ほっこりとした気持ちになるな。
「優奈とってもあったかい……気持ちいい……」
「ふふっ、そうですか。平熱よりもまだちょっと高いですからね。千尋ちゃんも結構温かくて気持ちいいです」
「部活の後だからね。今まで、優奈の家は琴宿にあったから、部活の後にお見舞いに行くことは全然なかったけど……こうして部活帰りに会うのっていいもんだね。学校で優奈と会えなくて寂しかったから……」
今日の学校のことを思い出しているのか、静かな口調で話す佐伯さん。
「そうでしたか。メッセージをくれるのも十分に嬉しいですが、こうして実際に会えるととても嬉しいですね。ハグまでしてくれましたし。本当にありがとうございます」
優奈は佐伯さんの頭を優しそうな手つきで撫でている。そのことで、佐伯さんは柔らかな表情になり。お礼と言わんばかりに優奈の頭を撫でる。
「俺からもお礼を言わせてくれ。来てくれてありがとう。佐伯さんが来て、優奈がより元気になったように見えるから」
「いえいえ! あたしも元気になったよ。部活の疲れが吹き飛んだ」
「ふふっ、良かったです」
優奈と佐伯さんは至近距離で見つめ合って笑い合う。
午後6時を過ぎているのもあり、それから俺達と少し話して佐伯さんは帰宅した。ただ、会えたことがよほど嬉しかったのか、話している間は2人はずっと抱きしめ合っていた。
夜。
夕食を食べて、その後は優奈の部屋で、昨晩放送されたアニメの最新話や2人とも好きなアニメを観る。優奈はベッドで横になり、俺はクッションに座ってベッドを背もたれにした体勢で。
これまで、優奈と一緒にアニメを観るときは、リビングでソファーに座ることがほとんどだった。ただ、こうしてどっちかの部屋で観るのもいいな。
「ふああっ……」
アニメを3話ほど観終わった頃、優奈は大きめのあくびをした。俺の前であくびをしてしまったからか、優奈ははにかんだ表情に。可愛いな。
「眠くなってきました。夕食後にも風邪薬を飲んだからでしょうか」
「そうかもな。朝も薬飲んで、俺が学校に行くときにはぐっすり眠っていたもんな」
「ええ。……今は午後9時過ぎですか。いつもよりもだいぶ早いですが、今日はもう寝ようと思います。まだ治りきっていませんので」
「そうか、分かった。じゃあ、俺は自分の部屋に戻るよ。何かあったときはいつでも声を掛けてね」
そう言い、俺はクッションから立ち上がる。
ただ、その瞬間……右手を掴まれる感触が。予想もしなかったことなので、体がピクッと震えた。
右手を見ると、優奈に掴まれていることが分かった。優奈は頬を赤くしながら俺のことをチラチラと見ている。
「どうした? 優奈。それに、頬が赤いし……」
「……か、和真君にお願いがあって」
「うん。どんなことだ?」
俺にお願いしたいことがあるから、優奈は手を掴んだのか。
「……だ、抱きしめてほしいなって」
「抱きしめる?」
「は、はいっ。千尋ちゃんはもちろん、萌音ちゃんも……汗を拭いてもらった後に胸を堪能されたときに抱きしめられて。2人の温もりや抱きしめられる感覚が良くて。学校を休んで会えなかったので安心もできて。和真君は一緒に住んでいますが、一緒にいられる時間が少なかったですから。和真君とスキンシップがしたくて。それに、引っ越しの日にハプニングで和真君に抱きしめられましたが……い、いいなって思えましたから。抱きしめてほしいです」
頬の赤みを強くしながら、俺に抱きしめてほしい理由を話す優奈。
まさか、優奈に抱きしめてほしいとおねだりされるなんて。夫として、一人の人間としてとても嬉しく思う。
あと、手を掴んだときに頬が赤くなっていたり、俺をチラチラ見ていたりしていたのは俺に抱きしめてほしかったからだったんだな。だから、優奈がとても可愛く思えて。
「和真君……どうですか?」
「……もちろんいいよ。優奈に抱きしめてほしいっておねだりされて凄く嬉しい。今日は学校では優奈と一緒にいられなかったからな」
「あ、ありがとうございますっ!」
優奈は弾んだ声でお礼を言い、真っ赤になった顔に笑みを浮かべる。それがとても可愛くて、ドキッとする。
優奈はベッドから降りて、俺のすぐ目の前で向かい合うようにして立つ。
「じゃあ、優奈。抱きしめるよ」
「は、はいっ」
俺は優奈のことをそっと抱きしめる。
お互いに服を着ているけど、抱きしめた瞬間に優奈から強い温もりがはっきりと伝わってきて。暖房をかけているから部屋が暖かいけど、優奈の温もりがとても気持ちいい。優奈の体の柔らかさや甘い匂いも良くて。
「優奈。どうだ?」
問いかけると、優奈は俺を見上げて、
「凄くいいです。温かくて、いい匂いがして。和真君の体は私よりも大きいですから、和真君が包み込んでくれている感じがして。ドキドキしますけど、安心感があります。元気も出てきます。抱きしめてほしいってお願いしてみて良かったです」
柔らかい笑顔でそんな感想を言った。その笑顔と言葉に心を打たれ、ドキドキしてくる。
その直後、優奈が両手を背中に回したのか、背中からも温もりを感じられる。それもいいなって思う。
「そっか。俺も……優奈を抱きしめていいなって思うよ。今日は学校で優奈がいなくて寂しかったから、優奈を感じられて嬉しい。抱きしめてほしいってお願いしてくれてありがとう」
お礼も兼ねて、優奈の頭を優しく撫でる。
頭を撫でられるのが大好きな優奈は、笑顔を柔らかなものから嬉しそうなものに変えて。その変化も可愛くて。
あと、こうして抱きしめると、優奈の体が華奢であると改めて実感して。今日、優奈はこの体にある熱とかだるさなどの症状と闘っていたんだな。体調を崩したときはもちろん、普段からも優奈を守ったり、支えたりしていかないと。
それから少しの間、俺は優奈と抱きしめ合うのであった。
俺はお弁当箱を洗ったり、浴室を掃除したりするなどの家事をしていく。ただ、その前に、いつもの5人のグループトークに、優奈の体調がある程度良くなったことと、井上さんにお見舞いに来てくれたことのお礼のメッセージを送った。井上さんには感謝の気持ちでいっぱいだし、西山と佐伯さんは優奈の体調を気にしていたから。
みんな、俺の送ったメッセージを見たんだな。家事をしている途中で、
『そうなんだ! 優奈の体調が良くなってきたみたいで良かったよ!』
『有栖川が快復に向かっているようで安心した』
『優奈の元気そうな顔を見られて良かったわ』
『みなさん。メッセージやお見舞い、ありがとうございました!』
と、俺以外の4人のメンバーから続々とメッセージが送られていた。みんなのメッセージを見て、心が温まった。
――ピンポーン。
午後6時15分頃。
夕食時に差し掛かってきたので、今日の夕ご飯は何にしようか考えていたとき、インターホンが鳴った。この鳴り方はエントランスにあるインターホンから呼び出されたときの音だ。誰だろう?
リビングにあるモニターに行き、応答ボタンを押す。すると、画面にはエントランスを背景に制服姿の佐伯さんが映し出された。
「おっ、佐伯さんか。こんばんは」
『こんばんは! 部活がさっき終わって。優奈に会いたくなってさ。優奈の体調がある程度良くなったってメッセージもあったから来ました!』
「そっか。ありがとう。扉を開けるから」
『うんっ! ありがとう!』
佐伯さんはニッコリと笑いながらお礼を言ってきた。佐伯さんの持ち前の明るい笑顔は画面越しで見ても俺の心を明るくさせてくれる。そう思いながら、エントランスの扉を開けるボタンを押した。
『開いた。じゃあ、また後で』
「ああ」
通話ボタンを切って、俺は優奈の部屋に向かう。
ノックをし、優奈から「どうぞ」と返事を受けて扉を開ける。優奈はスマホを弄っていた。
「優奈。佐伯さんが来るよ」
「そうですか!」
ぱあっ、と明るい笑顔になって、優奈は元気良く言う。親友の力は凄いな。
「エントランスからの呼び出し音が聞こえたので、誰なのか気になっていました。千尋ちゃんが来てくれたんですね」
「ああ。部活が終わって、優奈に会いたくなったんだってさ」
「そうですか。千尋ちゃんと会えるのが楽しみですっ」
弾んだ声で優奈はそう言う。ちょっとワクワクとした様子にもなっていて。優奈の回復具合からして、明日学校で会えると思う。ただ、今日会えることが嬉しいのだろう。
――ピンポーン。
おっ、インターホンが鳴った。この音はうちの玄関のところにあるインターホンを押したときの音だ。おそらく、佐伯さんが来たのだろう。
優奈の部屋にあるモニターの応答ボタンを押すと、今度はマンションの中を背景に制服姿の佐伯さんが画面に映る。
「おっ、うちの前まで来たね」
『うんっ!』
「今行くよ。……佐伯さんだ。玄関まで出迎えるか?」
「はいっ!」
優奈は元気良く返事をした。親友の佐伯さんが来てくれたから出迎えたいのだろう。
優奈に手を差し出し、優奈の手を取ってベッドから出した。
優奈と手を繋いだ状態で玄関まで向かい、玄関の扉を開ける。すると、そこにはスクールバッグとエナメルバッグを肩に掛けた佐伯さんが立っていた。
俺だけでなく、優奈も出迎えたからか、佐伯さんはニコッと白い歯を見せながら笑う。
「2人ともこんばんは!」
「こんばんは、佐伯さん」
「こんばんは、千尋ちゃん。来てくれてありがとうございます。会えて嬉しいです!」
「あたしも優奈に会えて嬉しいよ! 長瀬や萌音の言うように元気そうになってるね! 良かったよ!」
嬉しそうに言うと、佐伯さんはスクールバッグとエナメルバッグを床に置いて、優奈のことを抱きしめてきた。優奈に会えたことや元気そうなことがとても嬉しいのだろう。
また、抱きしめられたことが嬉しいのか、優奈は可愛い笑顔になって、両手を佐伯さんの背中へと回す。親友同士が抱きしめる光景……ほっこりとした気持ちになるな。
「優奈とってもあったかい……気持ちいい……」
「ふふっ、そうですか。平熱よりもまだちょっと高いですからね。千尋ちゃんも結構温かくて気持ちいいです」
「部活の後だからね。今まで、優奈の家は琴宿にあったから、部活の後にお見舞いに行くことは全然なかったけど……こうして部活帰りに会うのっていいもんだね。学校で優奈と会えなくて寂しかったから……」
今日の学校のことを思い出しているのか、静かな口調で話す佐伯さん。
「そうでしたか。メッセージをくれるのも十分に嬉しいですが、こうして実際に会えるととても嬉しいですね。ハグまでしてくれましたし。本当にありがとうございます」
優奈は佐伯さんの頭を優しそうな手つきで撫でている。そのことで、佐伯さんは柔らかな表情になり。お礼と言わんばかりに優奈の頭を撫でる。
「俺からもお礼を言わせてくれ。来てくれてありがとう。佐伯さんが来て、優奈がより元気になったように見えるから」
「いえいえ! あたしも元気になったよ。部活の疲れが吹き飛んだ」
「ふふっ、良かったです」
優奈と佐伯さんは至近距離で見つめ合って笑い合う。
午後6時を過ぎているのもあり、それから俺達と少し話して佐伯さんは帰宅した。ただ、会えたことがよほど嬉しかったのか、話している間は2人はずっと抱きしめ合っていた。
夜。
夕食を食べて、その後は優奈の部屋で、昨晩放送されたアニメの最新話や2人とも好きなアニメを観る。優奈はベッドで横になり、俺はクッションに座ってベッドを背もたれにした体勢で。
これまで、優奈と一緒にアニメを観るときは、リビングでソファーに座ることがほとんどだった。ただ、こうしてどっちかの部屋で観るのもいいな。
「ふああっ……」
アニメを3話ほど観終わった頃、優奈は大きめのあくびをした。俺の前であくびをしてしまったからか、優奈ははにかんだ表情に。可愛いな。
「眠くなってきました。夕食後にも風邪薬を飲んだからでしょうか」
「そうかもな。朝も薬飲んで、俺が学校に行くときにはぐっすり眠っていたもんな」
「ええ。……今は午後9時過ぎですか。いつもよりもだいぶ早いですが、今日はもう寝ようと思います。まだ治りきっていませんので」
「そうか、分かった。じゃあ、俺は自分の部屋に戻るよ。何かあったときはいつでも声を掛けてね」
そう言い、俺はクッションから立ち上がる。
ただ、その瞬間……右手を掴まれる感触が。予想もしなかったことなので、体がピクッと震えた。
右手を見ると、優奈に掴まれていることが分かった。優奈は頬を赤くしながら俺のことをチラチラと見ている。
「どうした? 優奈。それに、頬が赤いし……」
「……か、和真君にお願いがあって」
「うん。どんなことだ?」
俺にお願いしたいことがあるから、優奈は手を掴んだのか。
「……だ、抱きしめてほしいなって」
「抱きしめる?」
「は、はいっ。千尋ちゃんはもちろん、萌音ちゃんも……汗を拭いてもらった後に胸を堪能されたときに抱きしめられて。2人の温もりや抱きしめられる感覚が良くて。学校を休んで会えなかったので安心もできて。和真君は一緒に住んでいますが、一緒にいられる時間が少なかったですから。和真君とスキンシップがしたくて。それに、引っ越しの日にハプニングで和真君に抱きしめられましたが……い、いいなって思えましたから。抱きしめてほしいです」
頬の赤みを強くしながら、俺に抱きしめてほしい理由を話す優奈。
まさか、優奈に抱きしめてほしいとおねだりされるなんて。夫として、一人の人間としてとても嬉しく思う。
あと、手を掴んだときに頬が赤くなっていたり、俺をチラチラ見ていたりしていたのは俺に抱きしめてほしかったからだったんだな。だから、優奈がとても可愛く思えて。
「和真君……どうですか?」
「……もちろんいいよ。優奈に抱きしめてほしいっておねだりされて凄く嬉しい。今日は学校では優奈と一緒にいられなかったからな」
「あ、ありがとうございますっ!」
優奈は弾んだ声でお礼を言い、真っ赤になった顔に笑みを浮かべる。それがとても可愛くて、ドキッとする。
優奈はベッドから降りて、俺のすぐ目の前で向かい合うようにして立つ。
「じゃあ、優奈。抱きしめるよ」
「は、はいっ」
俺は優奈のことをそっと抱きしめる。
お互いに服を着ているけど、抱きしめた瞬間に優奈から強い温もりがはっきりと伝わってきて。暖房をかけているから部屋が暖かいけど、優奈の温もりがとても気持ちいい。優奈の体の柔らかさや甘い匂いも良くて。
「優奈。どうだ?」
問いかけると、優奈は俺を見上げて、
「凄くいいです。温かくて、いい匂いがして。和真君の体は私よりも大きいですから、和真君が包み込んでくれている感じがして。ドキドキしますけど、安心感があります。元気も出てきます。抱きしめてほしいってお願いしてみて良かったです」
柔らかい笑顔でそんな感想を言った。その笑顔と言葉に心を打たれ、ドキドキしてくる。
その直後、優奈が両手を背中に回したのか、背中からも温もりを感じられる。それもいいなって思う。
「そっか。俺も……優奈を抱きしめていいなって思うよ。今日は学校で優奈がいなくて寂しかったから、優奈を感じられて嬉しい。抱きしめてほしいってお願いしてくれてありがとう」
お礼も兼ねて、優奈の頭を優しく撫でる。
頭を撫でられるのが大好きな優奈は、笑顔を柔らかなものから嬉しそうなものに変えて。その変化も可愛くて。
あと、こうして抱きしめると、優奈の体が華奢であると改めて実感して。今日、優奈はこの体にある熱とかだるさなどの症状と闘っていたんだな。体調を崩したときはもちろん、普段からも優奈を守ったり、支えたりしていかないと。
それから少しの間、俺は優奈と抱きしめ合うのであった。
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