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第50話『コスプレ』

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 それからも、優奈との初めてのカラオケの時間を楽しんでいく。互いに好きな曲を歌ったり、デュエット曲を一緒に歌ったりして。
 優奈はアニソンからアイドル、バンド、流行りの曲など、好きな曲や俺の知っている曲をジャンル問わず歌う。どの曲もとても上手くて。何よりも楽しそうなので凄く聞き入る。
 俺も優奈の知っている曲中心にいっぱい歌う。その際、優奈は楽しそうに手拍子をして、たまに口ずさんでくれて。だから、とても気持ち良く歌えた。
 一人で歌うのもいいけど、優奈と一緒にデュエット曲を歌うのも楽しくて。たまに、優奈が上手く音程を変えて、二人でハモることもあって。一緒に歌って、優奈の歌の上手さを改めて実感した。

「あぁ、歌うの楽しいですね!」
「楽しいな!」

 部屋の中にある時計を見ると……今は午後4時近くか。優奈と一緒に歌うのが楽しいから、もうこんな時間になっていたのか。

「もう4時近くなんですね。あっという間ですね」
「ああ。カラオケに来てからもう2時間近く経ったんだ」
「楽しいと時間が経つのが早いですね」
「そうだな」

 フリータイムだから、ここにはあと2時間ほど滞在できる。ただ、その時間もあっという間に過ぎていきそうだ。優奈の歌はとてもいいし、俺も優奈が好きそうでまだ歌っていない曲がいっぱいあるから。

「あの、和真君」
「うん?」
「一緒にコスプレしませんか?」
「コスプレ?」

 予想外の言葉が優奈の口から出たので、思わずオウム返しのような反応をしてしまう。

「はい。ここのカラオケ店では無料でコスプレ衣装を貸し出していまして。これまで何度か友達と一緒に来たときにコスプレしたことがあります。萌音ちゃんや千尋ちゃんもしました」
「そうだったのか」

 だから、俺とも一緒にコスプレしたいと思ったのか。
 あと、優奈はコスプレしたことがあるんだな。ちょっと意外だ。ただ、優奈は可愛くてスタイルがいいから、どんなコスプレ衣装も似合いそう。もしかしたら、そういった理由で井上さんや佐伯さんに勧められて、コスプレした可能性もありそうだ。

「……そういえば、今日は見ていないけど、このお店でコスプレした人を何回か見たことがあるな」
「そうですか。和真君はコスプレしたことはありますか?」
「一度もないな。これまで、男子だけとか男子が多い友達グループで来ていたからかな。コスプレの話題が出たことはあっても、実際にやることはなかったよ」
「そうでしたか。……コスプレするの結構楽しいですよ。気分転換にもなりますし。それに、和真君はかっこいいですから、色々な衣装が似合いそうです。和真君がコスプレした姿を見てみたいです」

 優奈は上目遣いで俺のことを見つめながらそうお願いしてくる。お願いする姿も可愛いな。
 コスプレか。今までやったことはないけど、優奈が楽しいと言っているし、見てみたいとも言ってくれている。一度やってみるのもいいだろう。それに、コスプレした姿を見られるのは、優奈とこのお店にいる一部の人だけだし。

「分かった。いいよ。やってみよう」
「ありがとうございますっ!」

 優奈はとても嬉しそうにお礼を言う。俺のコスプレした姿を見たい気持ちが強いと窺える。

「ただ、どんな衣装を貸し出しているんだろう?」
「確か、テーブルに置いてあるメニュー表に、貸し出し衣装一覧があったはずです」

 そう言い、優奈はテーブルに置かれているメニュー表を手に取る。
 あのメニュー表……フードメニューやドリンクメニューだけじゃなくて、コスプレ衣装についても記載されているのか。

「ありました」

 と、優奈は俺の前にメニュー表を見せてくれる。
 メニュー表には『コスプレ衣装を無料で貸し出しています!』と書かれており、男性向けと女性向けそれぞれの衣装名が箇条書きで列挙されている。

「男性向けは執事、警察官、医者、アニソン歌手、演歌歌手……色々なのがあるな」
「ええ。女性向けもメイド服、ナース服、チャイナ服、セーラー服、アイドル歌手、ゴスロリなど結構ありますね」
「ああ。男性向けよりも多いな」
「ですね。……せっかくですから、和真君の希望するコスプレ衣装を見せたいです。どれがいいですか?」
「そうだな……」

 女性向けのコスプレ衣装一覧を見る。
 メイド服、ナース服、チャイナ服、セーラー服、アイドル歌手、ゴスロリなどなど……色々な衣装があるな。それぞれをコスプレした優奈を想像してしまう。……どれも似合いそうだけど、一番見てみたいのは、

「メイド服かな」

 メイド服は可愛らしい雰囲気のものが多いし、優奈にとても似合いそうだから。
 優奈はニコッと笑って、

「メイド服ですか! 分かりました。前にもやったことがありますが、可愛くて気に入っています」

 と、快諾してくれた。メイド服を着たことがあるのか。スマホに写真がありそうだけど、実際に見るまでのお楽しみにしておこう。

「じゃあ、俺がコスプレする衣装は優奈が決めてくれるか?」
「分かりました。そうですね……」

 う~ん、と優奈は腕を組む。こうやって考えている姿も可愛らしい。あと、組んだ腕に胸が乗っているので、普段よりも大きい印象を抱かせる。

「……執事服がいいですね。一番似合いそうですし」
「執事服か。分かった。優奈はメイド服だから、それにも合いそうだな」
「そうですね!」

 ニコニコ顔で優奈はそう言った。
 衣装はフロントで貸し出してくれ、フロント近くの更衣室かお手洗いの個室で着替える決まりとのこと。
 荷物やグラスもあるので、一人ずつ着替えることに。まずは提案した私から、と優奈が先に着替えに行った。

「メイド服姿の優奈……楽しみだな」

 もうすぐ見られると思うとドキドキもしてくる。
 着替えもあるので、1曲くらいは歌う時間があるだろう。そう思って、優奈の前でも歌ったバンドの曲を歌う。大好きな曲なので何度歌っても楽しいし、気持ちいい。だけど、優奈がいたときほどではなかった。
 歌っていると優奈も入りづらいかもしれない。なので、1曲歌った後はスマホを弄りながら優奈のことを待った。

「ただいま、和真君。お待たせしました」

 優奈の声が聞こえたので、扉の方を向くと……扉の近くに紙の手提げを持ったメイド服姿の優奈が立っていた。黒を基調としたオーソドックスなデザイン。半袖でスカートの丈は膝くらいの短さ。頭にはフリル付きの白いカチューシャが付けられていて。

「メイド服姿……凄く可愛いよ。似合ってる」
「そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます、ご主人様」

 えへへっ、と優奈は嬉しそうに笑う。メイド服姿が可愛いことはもちろん、メイドさんらしくご主人様と言ってもらえたことにもドキッとする。

「優奈は普段から敬語で話すから自然な感じがするよ」
「ふふっ、そうですか。萌音ちゃんや千尋ちゃん達にも言われましたね」
「そっか」

 優奈のような雰囲気のメイドさん……実際にいそうな気がする。あと、優奈だったら、今すぐにでもメイドの仕事をちゃんとこなせそうだ。

「本当によく似合ってる。メイド服がいいって言って良かった」
「嬉しいお言葉です、ご主人様」
「じゃあ、俺も着替えに行くか」
「いってらっしゃい。衣装は紙の手提げに入れて渡されるので、制服はこれに入れれば大丈夫です」
「分かった。じゃあ、行ってくるよ」

 俺は203号室を出て、1階にあるフロントへ向かう。
 フロントに行き、受付にいる女性のスタッフさんに執事服のコスプレ衣装をレンタルしたいと伝える。その際、身長がいくつなのかと訊かれたので、180cmだと答えた。すると、スタッフさんはLLサイズの執事服が入った紙の手提げを渡してくれた。
 優奈の言ったように、受付の近くにコスプレ用の更衣室があると案内された。なので、そこで執事服に着替えることに。
 男性用の更衣室に入り、紙の手提げから執事服を取り出す。

「おおっ」

 漫画やアニメなどの執事キャラがよく着ている黒いスーツだ。後ろの裾が少し長めでかっこいい。白いワイシャツや灰色のベスト、黒いネクタイと執事のコスプレ衣装一式が揃っている。
 高校の制服を脱いで、俺は執事のコスプレ衣装を着ていく。

「……よし、着られた」

 LLなので、執事服のサイズはちょうどいい。キツくて着られないっていう状況にならなくて良かった。
 高校の制服とは違ってジャケットの後ろの裾が長いし、ベストの生地もジャケットやスラックスと同じ生地のもの。だから、執事にコスプレした感じがしてくる。
 俺は結構いいなって思うけど、優奈もこの執事服姿が似合っていると思ってくれたら嬉しいな。
 制服を紙の手提げに入れて、俺は更衣室を後にする。

「あの茶髪の男の子、かっこいい……」
「執事のコスプレしてるのかな? ここ、衣装レンタルしてるし……」

 といった女性達の会話が聞こえてきた。茶髪とか、執事のコスプレとか言っているから、きっと俺のことを話しているのだろう。
 周りを見てみると……女性中心にこちらに視線を向けている人は何人もいる。いいと思ってくれているのか笑顔な女性が多い。俺と目が合ったと思っているのか「きゃあっ!」と黄色い声を出す女性もいて。優奈と一緒にいて視線が集まることにも慣れてきたけど、今は執事のコスプレをしているからちょっと気恥ずかしい。
 もしかしたら、優奈もメイド服のコスプレをして部屋に戻ってくるとき、今のように視線を集めていたのかもしれない。優奈のメイド服姿は凄く似合っていたからな。
 2階に上がり、優奈のいる203号室の前まで戻る。
 優奈……この執事服姿を見てどう思うだろうか。そのことに緊張しつつ、部屋の扉を開けた。

「ただいま」
「おかえりなさい、和真君。……わぁっ!」

 優奈は可愛らしい声を漏らすと、ぱあっと明るい笑顔になる。ソファーから立ち上がって、俺の目の前までやってきた。

「執事服、とても素敵です! かっこいいです!」

 とても弾んだ声で、優奈は俺の執事服姿を称賛してくれた。そのことがとても嬉しくて。頬が緩んでいくのが分かった。
 せっかく執事にコスプレしたから、執事らしい口調でお礼の言葉を言おう。優奈もさっき、俺のことをご主人様って言ってくれたんだし。

「お褒めの言葉……とても嬉しいです。優奈お嬢様」

 優奈の目を見つめながら、俺はお礼を言った。
 執事らしく言ったからだろうか。優奈は「あうっ」と可愛らしい声を漏らすと、うっとりとした様子で俺のことを見つめてくる。

「執事さんっぽくお礼を言われてドキッとしちゃいました。良かったです」
「そう言ってくれて良かったよ」
「ふふっ。……和真君。執事服姿が素敵ですので、スマホで写真を撮ってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
「ありがとうございます!」
「俺もスマホで優奈のメイド服姿を撮らせてほしいな」
「いいですよ!」
「ありがとう」

 その後、俺達は自分のスマホでコスプレした姿をたくさん撮影する。また、優奈のスマホで自撮りのツーショット写真も。ツーショット写真など、いくつかの写真をLIMEで送り合った。
 俺が撮影したり、優奈に送ってもらったりした写真を見ると……優奈のメイド服姿が本当に似合っている。笑顔で写っていて可愛らしい。ピースサインしてくれたり、胸のところで両手でハートマークを作ったりしてくれる写真は特に可愛い。

「優奈、写真ありがとう」
「いえいえ。こちらこそありがとうございます!」

 優奈はニッコリとした笑顔でお礼を言ってくれた。写真の優奈も可愛いけど、実際に見る優奈が一番可愛いと思う。
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