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第45話『一緒に試験勉強をしましょう』

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 週が明けて、優奈と俺は結婚指輪を付けて学校に通うように。
 シンプルなデザインの結婚指輪だけど、今まで付けていないものを付けているので、周りの生徒達や先生達にすぐに指輪について気付かれる。

「おぉ、これが結婚指輪か。いいじゃないか」
「素敵な結婚指輪ね」
「いい指輪だね! 優奈と長瀬が結婚したんだってより実感するよ! 2人とも結婚指輪を褒められて嬉しそうだし、とてもいい夫婦って感じだよ!」
「そうね、千尋。好き合う夫婦に近づいている感じもするわ」
「佐伯と井上の言う通りだな」

「とてもいい指輪だね。あと、結婚指輪をした生徒を学校で見る日が来るなんて」
「世の中、想像もしないことが起こるね、夏実ちゃん。それにしても、とても素敵な結婚指輪だわ」

 などと、西山や井上さんや佐伯さんといった友人や、渡辺先生や百瀬先生といった俺達に関わりの深い先生中心に結婚指輪を褒めてもらえて。中には、俺達がより夫婦らしくなったと言ってくれる人もいて。それがとても嬉しかった。井上さんから「好き合う夫婦に近づいている感じもする」と言われたことはちょっと照れくさかったけど、嬉しかった。





 5月17日、水曜日。
 5月も後半に突入し、晴れていると日中を中心に暑く感じる日が多くなってきた。
 今日も朝からよく晴れている。そのため、俺も優奈もブレザーのジャケットは着用せず、ワイシャツやブラウスの上に学校指定のベストを着て過ごしている。
 クラスメイトの3分の2ほどの生徒がジャケットを着ずに学校生活を送っている。井上さんはカーディガン姿だ。中には、西山や佐伯さんのようにシャツやブラウスの袖を捲っている生徒も。季節は着々と夏に近づいているのだと実感する。



「……長瀬。3年生になっても、一緒に試験対策の勉強をしないか?」

 放課後。
 終礼が終わってすぐに西山から声を掛けられる。その直後に右肩に何かが触れる感触が。
 ゆっくりと振り返ると、西山はとてもいい笑顔で俺のことを見つめており、俺の右肩に手を乗せていた。
 来週の水曜日から金曜日まで、1学期の中間試験が行なわれる。
 うちの高校では校則により、定期試験1日目の1週間前から試験終了まで、部活動が原則禁止となる。つまり、今日から禁止となるのだ。このことで、学校は自然と定期試験ムードになっていく。優奈と井上さんが所属し、毎週水曜日に活動するスイーツ研究部もこの校則の影響で、今週の活動は火曜日である昨日実施された。
 1年の頃から、試験前の期間になると、西山など友達と一緒に試験勉強をするのが恒例だ。西山は理系中心に苦手科目がいくつもあるからな。ただ、俺が教えながら、試験前に勉強を頑張るのもあって、西山はこれまで一度も赤点を取ったことはない。

「今年は数学演習と世界史演習がヤバくてさ。あと、古典もちょっと不安だ」
「そうか。今日から試験前の期間になるのは知っていたし、西山に一緒に勉強しようって言われると思っていたよ。俺で良ければ分からないところを教えるよ」
「おぉ、助かるぜ……! ありがとう! 神様仏様長瀬様! そして有栖川の旦那様!」

 西山は両手を合わせ、感激した様子でそう言ってくる。これまでたくさん分からないところを教えたからなのか、神様とか仏様扱いされてしまった。優奈の旦那様はただの事実だけど……西山は2年以上優奈のファンだから、神様や仏様と同列なのかもしれない。

「これまで、歩いて帰れる俺の実家で試験勉強することが多かったから、今回も俺の家で勉強するか? 今は優奈の家でもあるけど」

 そう言うのは、俺がゴールデンウィーク明けに「西山もうちに遊びに来ていいんだぞ」と誘ったら、西山は「聖域だから、今は行く勇気が出ない」と言ったからだ。
 優奈の家でもあると言ったからか、西山は頬をほんのりと赤くする。

「そ、それがいいな。駅前だから、長瀬の実家よりも近くなっているし」
「そうか。それに、西山は電車通学だから、俺の実家からよりも帰りやすくなるな。ただ……うちで大丈夫か?」
「……ああ。連休明けに比べれば行く勇気が出てきてる。それに、試験勉強っていう名目があるから、2人の新居に行っても大丈夫だって思えるし」

 そんな名目がなくても、西山ならうちに来ても全然OKなんだけどな。

「あと、2人の家がどんな雰囲気なのか知りたい気持ちもある」
「そっか。じゃあ、うちで試験勉強するか」
「おう」

 西山は爽やかな笑顔でそう返事した。この様子なら、うちで試験勉強をちゃんとできそうな気がする。

「ありがとう、優奈! 今年もよろしく頼みます……!」

 という佐伯さんの声が聞こえた。なので、声がした方に向くと……優奈の席で佐伯さんがとても嬉しそうにしていた。佐伯さんの近くには井上さんもいる。

「あの様子からして、向こうは3人で試験対策の勉強をするみたいだな」
「だろうな」
「……3人も誘ってみるか? 多い方が勉強が捗るかもしれないし。それに、優奈は勉強教えるのが凄く上手なんだ」

 これまでに何度か、課題で分からないところを優奈に教えてもらったことがある。優奈の教え方が分かりやすいので、分からない部分がすぐに解決し、教えてもらった内容がスッと頭に入るのだ。

「そ、そうなのか。一緒に勉強するのは緊張するかもしれないけど、学年一番の成績の有栖川もいるのはより心強いな」
「そうだな。じゃあ、3人のところに行って、誘ってみるか」
「おう」

 西山と俺は席を立ち上がって、優奈達のところに向かう。
 佐伯さんが俺達に気付いたのだろうか。優奈と井上さんに何やら話すと、3人でこちらの方を向いてきた。

「和真君。それに西山君」
「俺達、これからうちで試験対策の勉強会をすることになったんだ。だから、優奈達も一緒にどうかなって誘いに来たんだ。佐伯さんがよろしくって言っていたから、3人も試験勉強するのかなと思ってさ」
「でっかい声で言ったもんね。長瀬の言う通り、あたし達もこの後一緒に勉強会することになったんだ」
「1年の頃から恒例になっているの」
「ただ、今は和真君と結婚していますし、和真君と西山君はとても仲がいいですから、2人を勉強会に誘おうかって話になっていたんです」
「そうだったんだ」
「嬉しいぜ……!」

 自分も勉強会に誘おうとしてくれていたからか、西山は感激した様子。心なしか、さっき俺が一緒に勉強しようかと言ったときよりも感激しているような。

「優奈達も誘おうとしてくれていたんだな。ありがとう。じゃあ、今日の放課後はこの5人で一緒にうちで勉強するか」
「はい! 一緒に試験勉強をしましょう」
「長瀬も結構頭がいいらしいし、心強いよ!」
「長瀬君、西山君、よろしく」
「みんなよろしくな!」

 優奈達はみんな笑顔でそう言った。
 今日は5人で試験対策の勉強か。優奈と井上さん、佐伯さんとは初めてだから楽しみだな。
 今週は優奈と井上さんのいる班が掃除当番だ。なので、俺は西山と佐伯さんと一緒に廊下で待つことに。これから試験対策の勉強会をするので、話題は得意科目や不得意科目など勉強関連だ。
 西山と佐伯さん、結構楽しく喋っているな。特に佐伯さんは楽しそう。2人とも気さくな性格だし、西山もファンである優奈を除けば女子とも普通に話せるからな。2人とも運動系部活に入っているのもありそう。美男美女なのも相まって、凄くいい光景を間近で見ている感じがする。

「みなさん、お待たせしました。掃除終わりました」
「お待たせー」

 3人で話していたから、気付けば、スクールバッグを持った優奈と井上さんが俺達のことにやってきていた。

「2人とも掃除お疲れ様。じゃあ、さっそく行こうか」

 俺達は学校を後にして、優奈と俺の新居に向かって歩き始める。
 こうしてこの5人で歩くのは初めてなので、いつも歩いている道を歩いていても結構新鮮に感じる。
 高野駅が見えた頃、井上さんと佐伯さんが「勉強には糖分が必要だからお菓子を買おう」と提案してきた。なので、優奈と俺が住んでいるマンションのすぐ近くにあるドラッグストアに行き、マシュマロやベビーカステラなどのお菓子を購入した。
 お菓子を買った後、俺達はマンションに入り、優奈と俺の住まいである1001号室へと向かう。

「いよいよ、長瀬と有栖川の住まいに行くのか。緊張してきたな……」

 10階に上がるエレベーターの中で、西山はそう言った。言葉通りの緊張しい様子になっていて。高校入学の頃からの付き合いだけど、西山がこうなるのはあまり見たことがない。相当緊張しているのだと窺える。教室では「行く勇気が出た」と言っていたけど、実際にすぐ近くまで来ると緊張してしまうか。

「初めて行く場所でもあるもんな。だから、西山の気持ちが分かるよ」
「……そうか」

 西山は小さな声でそう言うと、表情が少し柔らかくなる。まあ、この様子なら大丈夫そうか。どうしても緊張してしまうなら、俺の部屋で勉強会をしよう。
 10階に到着し、俺達の住まいの1001号室の前まで向かう。
 優奈が家の鍵を開けて、玄関をゆっくりと開けた。

「さあ、どうぞ」
「みんな入って」
『お邪魔します』

 西山、井上さん、佐伯さんは声を揃えてそう言い、うちの中に入る。西山は初めて来るからか、うちに入った直後に「おおっ」と声を漏らしていた。
 西山、井上さん、佐伯さんにスリッパを用意し、3人はそれを履いてうちに足を踏み入れた。

「正面の扉の向こうがリビング。向かって左側2つに扉があるけど、優奈と俺、それぞれの部屋だ。ちなみに、手前が俺で、奥が優奈だ」

 西山が初めて来訪したので、俺が簡単に家の中を説明する。その意図が伝わったのか、西山は「へえ」と呟く。

「優奈。どこで勉強しようか。西山のことを考えたら、リビングか俺の部屋がいいと思うんだけど」
「すまないな。有栖川の部屋を見たり、入ったりしたらどうなるか分からないからな」
「リビングか和真君の部屋なら……リビングがいいんじゃないでしょうか。リビングの方が広くて、ゆったりできそうですから」
「そうだな。じゃあ、リビングにするか」
「ええ。……ただ、片付けたいものがあるので、ちょっと待っていてください」
「俺も一緒にやるか?」
「い、いえ。一人で大丈夫です」

 優奈は頬をほんのりと赤くすると、一人でリビングの方へ向かっていった。あの様子からして……下着かもしれないな。今日は一日よく晴れるからと、優奈は朝に洗濯物を干していたから。男子が俺だけならともかく、西山もいるから。

「なあ、長瀬。今の長瀬の部屋がどんな感じか見てみたいぜ。2年まで、長瀬の部屋で遊んだり、勉強したりしたからさ」
「いいぞ」

 ちょうどいい。優奈の片付けが終わるまで、西山に俺の部屋を紹介しよう。
 俺は自分の部屋の前まで行き、ゆっくりと扉を開ける。

「ここが俺の部屋だ」
「おお……」

 西山は俺の部屋に入り、見渡している。この部屋を見てどう思うだろうな。また、井上さんと佐伯さんも俺の部屋に入ってきていた。

「いい部屋じゃないか。あと、引っ越したけど、部屋の雰囲気は実家の方とあまり変わらないんだな」

 そう言う西山は、エレベーターの中で見せていた緊張しい様子が解けているように見える。俺の部屋だからかな。あと、西山にいい部屋だと言ってもらえて嬉しいな。

「そうだな。家具の配置とかは勉強机以外はほとんど実家の部屋と変わらないし。勉強机と本棚、タンスは実家の部屋から持ってきているから」
「確かに本棚とか見覚えあるぜ。変わらず、漫画やラノベとかがいっぱいあるなぁ。見ていいか?」
「あたしも見てみたい」
「私も」
「いいぞ」

 俺が許可すると、西山達3人は本棚を見ている。
 あと、さっき西山に言われて思ったけど、もしかしたらこの家での生活に慣れるのが早かった理由の一つは、自分の部屋の雰囲気が実家の部屋とあまり変わらなかったからかもしれない。

「お待たせしました。みなさん、和真君の部屋にいたんですね」

 気付けば、優奈が部屋にやってきていた。

「西山が俺の部屋を見てみたいって言ってさ。部屋を紹介していたんだ」
「そうでしたか。片付けが終わりましたので、リビングに行きましょうか」
「そうしよう」

 俺の部屋を出て、俺達はリビングへ行く。西山はここでも「おぉ」と声を漏らした。

「リビング結構広いな。あと、10階だから窓からの景色も広いし」
「リビングも景色もいいよな。実家は2階建てだから、ここからの景色を初めて見たときは凄くいいなって思ったよ」
「そう思うのも納得だぜ」
「和真君。5人で勉強するので、ローテーブルとクッションを持ってきましょうか」
「そうだな。ローテーブルは俺の部屋から持ってくるよ」
「分かりました」

 その後、みんなで俺の部屋と優奈の部屋からローテーブルとクッションを持ってきて、勉強会の会場の準備をする。リビングのローテーブルと俺の部屋のローテーブルをくっつけ、その周りにクッションを置いていく。
 準備が終わって、俺達はクッションに座る。
 ちなみに、俺は優奈の左側で、隣同士に座っている。俺の左斜め前に西山が座る。俺と向かい合う形で佐伯さんが座り、佐伯さんの隣には井上さんが座っている。

「では、勉強会を始めましょう。これまで、和真君と西山君はどういった形で勉強会を進めていましたか?」
「今日みたいに、平日の放課後にやるときは、まずその日に出された課題をやるよ」
「分からないところを訊けるしな」
「そうですか。私達のやり方と一緒ですね」
「そうだね! 西山の言葉に凄く納得したもん。あたしも分からないところを優奈と萌音によく訊くから……」
「今日の授業で出された課題も中間試験の範囲だから、課題も終わらせられて試験勉強にもなるから一石二鳥だものね」
「ですね、萌音ちゃん。では、まずは今日の授業で出た課題からやっていきましょう」
「おー!」

 佐伯さんが元気のいい声を上げた。なので、リビングの雰囲気が明るくなる。これまでの勉強会でも、佐伯さんがこうして場を盛り上げていたのかな。
 優奈と結婚したし、優奈に見合ういい点数を取りたい。これまでは学年上位一割に入るかどうかだったので、少なくともそのあたりの順位をキープしたい。
 それぞれのスクールバッグから、今日の授業の課題やノートなどを取り出し、3年生になってから初めての定期試験対策の勉強会を始めるのであった。
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