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第39話『とても甘いホットケーキ』

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 渡辺先生と話してから数分ほどで、優奈と井上さんがいるテーブルはホットケーキを焼き終わった。

「和真君。ホットケーキが焼けました。こちらに来てください」
「ああ」

 俺はこれまで座っていた椅子を持って、優奈の隣に移動した。
 目の前にはふんわりとしていて、焼き色が綺麗なプレーンのホットケーキが皿に乗っている。ケーキの上にはパターが乗っており、ちょっと溶けている。凄く美味しそうだ。
 また、普段からそうなのか。それとも、今日は俺が見学しに来ているからなのか。アイスコーヒーも用意されていた。コーヒー好きなので嬉しい。

「とても美味しそうなホットケーキだ」
「ありがとうございます。仕上げに、はちみつをかけますね」
「おっ、いいな。お願いします」
「はいっ」

 ホットケーキにはちみつは王道だよな。
 優奈はホットケーキにはちみつをかけていく。……いや、これは描いていると言った方がいいかもしれない。優奈はホットケーキにハートマークを描いたからだ。

「これで完成です」

 優奈はいつもの優しい笑顔でそう言ってくれた。頬をほんのりと赤くして、ちょっと照れくさそうにしているところが可愛らしい。
 まさか、はちみつでハートマークを描くとは思わなかった。優奈の愛情が伝わってくるなぁ。ドキッとする。

「ありがとう。ハートマークが可愛いな」
「良かったですっ。ハートマークは萌音ちゃんのアイデアで。夫の和真君に作ったホットケーキなので描きました」
「そうだったのか」
「長瀬君に喜んでもらえて良かったよ」
「いい雰囲気じゃないですか、優奈先輩っ」
「ケーキよりもお二人の方がホットですよっ」

 井上さんはニヤニヤしながら、同じテーブルの下級生の女子部員2人は興奮しながら俺達にそんなことを言ってくる。それもあって、段々と体が熱くなってきた。

「……つ、作ってくれたから、写真を撮るよ」
「は、はいっ」

 制服のスラックスからスマホを取り出し、優奈の作ってくれたホットケーキの写真を撮る。写真でも、ケーキが本当に美味しそうだし、はちみつでハートマークを描いたから愛情が伝わってくるよ。
 また、優奈と井上さんも自分のホットケーキを写真で撮っている。ちなみに、優奈は抹茶で、井上さんはココアだ。それらにもはちみつがかかっていたり、バターが乗ったりしている。

「うん、撮れた」
「そうですか。……では、いただきましょう。いただきますっ」
『いただきまーす』

 俺達のいるテーブルはホットケーキを食べ始めることに。
 ナイフとフォークを使って、ホットケーキを一口サイズに切り分ける。溶け始めているバターを少し付けて口に運んだ。

「……うん」

 口の中に入った瞬間、ホットケーキとはちみつの甘い匂いが感じられて。噛んでいくとその甘味が、バターの塩味とコクと共に優しく広がっていく。優奈が愛情を込めて作ったからか、とても甘くて優しい味わいだ。あと、ふんわりとした食感やほんの少し感じる香ばしさもたまらない。

「甘くてとても美味しいよ、優奈」
「良かったですっ」

 優奈はとても嬉しそうな笑顔でそう言ってくれる。すぐ近くでその笑顔を見たから、口の中に残っている甘味が強くなった気がした。

「抹茶のホットケーキも美味しくできていますね」
「ココア味のホットケーキも美味しいよ」
「2人とも良かったな」

 俺がそう言うと、優奈も井上さんも笑顔で「うんっ」と頷き、それぞれのホットケーキをもう一口食べる。美味しいのか幸せそうに食べていて。本当に可愛いな。

「抹茶のホットケーキ美味しいです、美咲さん!」
「良かった。普通のホットケーキも美味しそうにできてる」

 渡辺先生と百瀬先生も幸せそうにホットケーキを食べている。特に渡辺先生は。渡辺先生、良かったですね。
 調理室を見渡すと、多くの部員がホットケーキを食べている。美味しくできたのか笑みを浮かべている生徒が多い。

「あ、あのっ。和真君。もしよければ、抹茶味のホットケーキを一口食べてみますか?」
「いいのか?」
「ええ。食べさせてあげます」
「じゃあ……お願いしようかな」

 抹茶味のホットケーキがどんな感じなのか気になるし。それに、周りに生徒がいる中で優奈に食べさせてもらうことにも慣れてきたからな。

「分かりました!」

 優奈は楽しげな様子で、抹茶のホットケーキをナイフで一口分切り分ける。
 また、今の俺達の会話を聞いていたのか、向かい側の椅子に座っている女子部員2人は目を輝かせてこちらを見ている。そして、女子中心に何人もの生徒が俺達の周りに集まっていて。近くからこんなに見られるのは初めてなので、ちょっと緊張する。

「はい、和真君。あ~ん」
「あーん」

 優奈に抹茶のホットケーキを食べさせてもらう。その瞬間、女子生徒達から「きゃあっ」という黄色い声が上がった。
 プレーンと同様に甘くて、バターのコクを感じるけど、抹茶の苦味や香りを感じられるのでさっぱりとした印象だ。こちらの方が好きな人もいそうだ。あと、俺のホットケーキのようにふんわりとした食感がいい。

「美味しい。甘いけど、抹茶の苦味がある分さっぱりもしているな」
「そう言ってもらえて嬉しいです!」

 優奈はニッコリとした笑顔でそう言った。食べさせてくれたのもあって凄く可愛いな。俺と同じように思う人は何人もいるようで、「可愛い」と声を漏らしていた。

「良かったね、優奈」
「はいっ」
「お礼に俺のホットケーキを一口食べさせてあげるよ」
「ありがとうございますっ」

 俺はナイフとフォークで、自分のホットケーキを一口サイズにカットする。そのケーキを優奈の口元まで運ぶ。

「はい、優奈。あーん」
「あ~ん」

 優奈にホットケーキを食べさせる。先ほどと同様に、食べさせた瞬間に何人かの女子部員から「きゃあっ」と黄色い声が。
 ホットケーキが美味しいのか、優奈は幸せそうな笑顔でモグモグと食べている。自分で食べさせたのもあり、本当に可愛い。いつまでも見ていられる。

「とても甘くて美味しいです。このホットケーキを和真君に作ることができて良かったです」
「本当に美味しいホットケーキだよな。作ってくれてありがとう」

 お礼を言って、優奈の頭をポンポンと軽く叩く。そのことで、シャンプーの甘い香りがほのかに香った。
 優奈はとても柔らかな笑顔になり、「いえいえ」と言った。

「結婚しただけあって、一口食べさせ合った!」
「キュンとしたよね!」

「こんなに幸せそうな優奈部長は初めて見たよ! これが旦那さんの力……!」
「私も長瀬先輩みたいな旦那さんがほしい!」

「甘い。ホットケーキよりも断然に甘いぜ」
「甘くて尊い光景を間近で見たな、俺ら」

 などといったコメントをスイーツ研のみなさんからされる。これまでのような感じで一口ずつ食べさせ合ったけど、肯定的なコメントがほとんどで良かった。

「はい、長瀬君。さっきエプロン姿を可愛いって言ってくれたお礼。それにココアもどんな感じか気になるでしょう?」

 と言い、井上さんは一口サイズに切り分けたココアホットケーキを俺の皿に乗せてくる。井上さんの方を見ると、井上さんと目が合う。その瞬間、井上さんはニコッと笑った。

「ありがとう。ココアも気になってた。じゃあ、俺のホットケーキを一口」

 ホットケーキを一口サイズに切って、井上さんのお皿に乗せた。

「ありがとう」

 井上さんは嬉しそうにお礼を言ってきた。エプロンのお礼もあるだろうけど、優奈の作ったプレーンのホットケーキを食べたかったのもありそう。
 俺は井上さんがくれたココア味のホットケーキを食べる。

「美味しい」

 結構甘くて美味しい。ココアの香りと、抹茶とはまた違った苦味があってさっぱりと食べられる。井上さんも上手で、優奈の作ったプレーンや抹茶のホットケーキと同じくらいにふんわりとしていた。

「ココアもプレーンよりさっぱりしていて美味しいよ。ふんわりとしているし。井上さんも上手なんだな。一口くれてありがとう」
「いえいえ。ただ、優奈ほどじゃないよ」

 と言いながらも、井上さんは結構嬉しそうで。その笑顔はとても可愛くて。

「優奈の作ったプレーンケーキも美味しいよ。さすが」
「萌音ちゃんにも美味しく食べてもらえて嬉しいです」

 そう言って、優奈は井上さんと笑い合う。きっと、これまでも部活で作ったスイーツを食べるときには、こうして楽しそうにしていたのだろう。
 それからも、優奈や井上さん達とスイーツ研で作ったスイーツのことや、俺がマスタードーナッツでバイトしているのもありドーナッツのことを話しながら、優奈が作ってくれたホットケーキを食べていった。もちろん完食。ごちそうさまでした。
 ホットケーキを食べ終わった後はみんなで後片付けをし、次回の活動で作るスイーツを決めて、今日のスイーツ研究部の活動は終了した。
 俺は優奈と井上さんと一緒に下校する。

「和真君。スイーツ研究部の活動を見学してみてどうでしたか?」
「とても楽しかったよ。優奈が井上さん達と一緒に楽しくスイーツ作りをしていたし。部長らしく部活を進行したり、部員にアドバイスしたり、質問に答えたりしていて。部活での優奈の姿を見られて良かったよ。ホットケーキも美味しかったし。今日はありがとう」
「そう言ってもらえて良かったです。今日は和真君もいましたから、いつも以上に楽しかったです。ありがとうございました」
「私も楽しかったよ。ありがとね、長瀬君」
「いえいえ」

 俺がいることで、優奈と井上さんに楽しい時間をもたらせたようで嬉しい。他の部員のみなさんも2人と同じだったら嬉しいな。
 部長として部活に励んだり、井上さん達と楽しそうにホットケーキを食べたりする優奈の姿を見て、優奈のことがより魅力的な女性に思えるのであった。
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