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第33話『一緒のベッドで迎える朝』

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 5月7日、日曜日。
 気持ちのいい中で目を覚ますと、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。どうやら、朝になっているようだ。
 昨日の夜は、雷を怖がる優奈が一緒に寝てもいいかと俺の部屋にやってきて、初めて一緒に寝たんだよな。そのおかげで、気持ち良く起きられたのかもしれない。そう思った直後、昨日の夜にも感じた優奈の温もりと柔らかさ、甘い匂いが感じられるように。優奈の可愛い寝息が聞こえてくる。
 視線を少し下げると、優奈の寝顔が見える。

「優奈の寝顔、凄く可愛いな」

 寝ていても優奈はとても可愛い。起こしてしまわないように注意しながら、優奈の頭をポンポンと軽く叩くと優奈の口角が上がる。可愛さが増したな。
 引っ越してから初めて迎えた朝、優奈に俺の寝顔を見られたときに、優奈の寝顔を見るのはいつになるだろうって思った。まさか、こんなに早く見られるとは思わなかったな。
 そういえば、明るくなっているけど、今は何時だろう?
 体を少し動かして、時計のある方に視線を向けると……針は午前7時半頃を指していた。今日はバイトがあるけど、午前10時からのシフトなのでまだまだゆっくりできるな。

「和真君……」

 優奈は俺の名前を口にする。
 一瞬、俺が頭を軽く叩いたせいで起きてしまったのかと思ったけど、依然として可愛い寝息を立て続けている。寝言か。
 どうやら、優奈の夢に俺が登場しているようだ。優奈はどんな夢を見ているんだろう? 笑顔になっているし、楽しい夢である可能性が高そうだ。

「和真君……可愛いです……」

 うふふっ……と、優奈は楽しそうに笑っている。楽しい夢なんだろうけど、優奈がどんな夢を見ているのか凄く気になってきたぞ。

「耳としっぽの触り心地がとてもいいですよ、和真君。よしよし……」

 夢の中の俺……耳としっぽが生えているのかよ。
 どうしてそんなことに……と思ったけど、昨日のデートで猫カフェに行ったとき、優奈と一緒に猫耳カチューシャを付けた。その姿を優奈が似合っていると絶賛してくれたから、夢では耳としっぽが生えた俺が登場したのだろう。それで、耳としっぽを生えた俺を見て優奈は可愛いと思ったと。

「昨日の優奈、可愛かったな……」

 猫耳カチューシャを付けた優奈はよく似合っていて、いつも以上に可愛くて。しっぽも付けたらどんな感じになるのか興味がある。きっと、より可愛くなるのだろう。
 その後も優奈は「和真君」とか「もふもふ」といった寝言を口にする。それが可愛いから、見ていて全然飽きない。

「んっ……」

 可愛い声を漏らすと、優奈は体を少し動かす。その際に寝間着に隙間ができて、そこから胸の谷間がチラリと見えてしまう。そのことで可愛らしさに艶っぽさが加わって。優奈の寝姿にドキッとして、体が熱くなっていく。
 胸を見ていたらドキドキしっぱなしになりそうなので、優奈の可愛い寝顔を見て気持ちを落ち着かせることに。

「……本当に可愛いな」

 この寝顔を間近で見られるのは夫である俺の特権だな。
 女性なら、お泊まりとか旅行で優奈の寝顔を見ることはあると思う。それはいい。ただ、男性は……家族や親戚じゃない限りはこの可愛い寝顔を誰にも見せたくないと思った。

「うんっ……」

 優奈はゆっくりと目を覚ました。視線が彷徨っているけど、俺と目が合うとニッコリとした笑顔になって、

「おはようございます、和真君」

 と、朝の挨拶をしてくれた。それがとても可愛くて、再びドキッとする。俺のお嫁さんは目を覚ました瞬間から可愛いな。

「おはよう、優奈。たまに独り言を言っていたんだけど、起こしちゃったかな」
「いいえ、そんなことありませんよ。とても気持ち良く起きられましたから」
「それなら良かった」
「ここ最近では一番良かったです。和真君のベッドで一緒に寝たからでしょうかね」

 優奈は俺の目を見つめながらそう言ってくれる。その直後に頬がほんのりと赤くなって。そんな優奈の言動に、俺の頬が熱くなっていくのが分かった。きっと、優奈のように頬が赤くなっているんだろうな。

「夫として嬉しい言葉だよ。それに、昨日の夜は雷雨だったけど、優奈がぐっすりと眠れたようで良かった」
「それも和真君のおかげだと思います。雷が何度も鳴ったので、眠りにつくまで30分くらいかかってしまいましたが。それでも眠れたのは、和真君が側にいて、温もりや匂いなどを感じられたからだと思います。一緒に寝てくれてありがとうございました」
「いえいえ。優奈のためになれて良かったよ。優奈と一緒に寝るのは初めてだからドキドキしたけど、ぐっすり眠れたし、気持ち良く起きられたよ。優奈の寝顔を見られたしな。こちらこそありがとう」
「いえいえ。あと、私の寝顔を見ていたんですね。……ど、どうでしたか? 変ではありませんでしたか?」

 そう問いかけると、優奈の頬の赤みが強くなっていく。俺にどう思われているのか不安なのか、緊張しい様子も見られて。

「とても可愛い寝顔だったよ。10分くらい前に起きたけど、ほとんどは優奈の寝顔を見てた」

 優奈の目を見つめながらそう言って、右手で優奈の頭を優しく撫でる。顔が赤くなっているだけあって、髪越しに伝わってくる熱は結構強い。
 頭を撫で続けていると、優奈の表情が段々と柔らかくなっていき、再び笑顔を見せてくれるように。

「そ、そうですか。可愛かったですか。そう言ってもらえて嬉しいです」

 えへへっ、と優奈は声に出して笑った。ただ、笑っている優奈の顔の赤みは引くどころか、さらに強くなっているように見えた。

「これからも、雷が鳴ったりして一人で寝るのが怖い日には一緒に寝てもいいですか? もしかしたら、それ以外の日にも、寝てもいいかと言うことがあるかもしれませんが……」

 優奈はほんのりと頬を赤くして、俺をチラチラと見ながらそう言ってくる。

「ああ、いいぞ」
「ありがとうございますっ」

 優奈は赤い顔に嬉しそうな笑みを浮かべながらお礼を言った。
 これからも一緒に寝てもいいかと優奈に言ってもらえるなんて。凄く嬉しいな。結婚した当初と比べて、優奈との心の距離が縮まってきているのだと実感した。



 午前9時半過ぎ。
 一緒に作った朝食を食べ、リビングで食後のコーヒーを飲みながら、昨晩放送されたアニメを優奈と見ていたら、あっという間にこの時間になった。今日のバイトは午前10時からなので、そろそろ行かないと。

「じゃあ、優奈。バイトに行ってくるよ」
「いってらっしゃい。今日もバイト、頑張ってくださいね」
「ありがとう」

 優奈が笑顔で「頑張って」と言ってくれるだけで、今日のバイトを乗り越えられそうだ。それに、優奈と一緒に朝食を食べて、アニメを観て元気が付いたし。
 その後、優奈はバイトに行く俺を玄関まで見送ってくれた。俺が「いってきます」と言うと、優奈は「いってらっしゃい」と笑顔で小さく手を振ってくれて。そのことに幸せを抱きながら、俺は家を出発した。
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