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第26話『2人で18歳の誕生日を祝おう』

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「真央姉さん。バイト頑張って」
「頑張ってください、真央さん」
「2人ともありがとう。ご来店ありがとうございました! 生活用品で買いたいものがあったらまた来てね。できれば私がシフトに入っているときに!」

 弟夫婦に接客できたのが嬉しかったのか、真央姉さんはとても楽しそうな笑顔でそう言う。できれば自分がバイトしているときに来てほしいと言うのが姉さんらしい。
 俺達はLaftを後にする。

「いいカレンダーと時計を買えましたね」
「そうだな。買えて良かった。さすがはLaftだ」
「ですね。品揃えもいいですし、今後、生活用品や雑貨を買うときはまずはLaftですね」
「そうだな。真央姉さんも来てくれって言っていたし」
「ふふっ。あと、バイトをしている真央さんの姿を見られて良かったです」

 そのときのことを思い出しているのか、優奈は楽しそうな笑顔になっている。優奈にとって、あのクールで落ち着いた雰囲気は新たな一面に見えたのだろう。

「せっかくカクイに来たし、どこか他のお店に行ってみるか?」
「いいんですか? ただ、和真君……カレンダーと時計を持っていますが大丈夫ですか?」
「そんなに重くないから大丈夫だよ」
「分かりました。ただ、重かったらいつでも言ってくださいね。私、持ちますから」
「ああ。ありがとう」

 それから、俺も優奈もよく行く本屋や音楽ショップに足を運んだ。
 どちらのお店でも、特に何も買わなかった。だけど、お互いの好きな作品やアーティストなどの話で盛り上がった。特にこれまで全然話すことがなかった音楽関係の話題は。とても楽しかった。
 ちなみに、カレンダーと時計は特に重くなく、ずっと持っていても全然負担にならない。なので、優奈に持ってほしいと頼むことはなかった。

「何も買いませんでしたけど、本屋も音楽ショップも楽しかったです」
「ああ。音楽の方も、優奈と好きなジャンルやアーティストが重なっているのが分かって嬉しいよ」
「ですね。これからも休日や放課後に一緒に行きましょう」
「そうだな」

 優奈との定番の過ごし方の一つになりそうだ。

「帰ったら、このカレンダーと時計を取り付けないとな」
「そうですね。今の会話をしていると、和真君と一緒に住んでいるんだなって実感します」
「そうだな。優奈と新婚生活を送っているんだって実感するよ」

 買ったのがカレンダーと時計っていう生活用品なのも、一緒に住んでいると実感させてくれる。
 2人とも4月中に18歳の誕生日を迎えたから、結婚して今は新婚生活を過ごしている。まあ、誕生日を迎えていなくても、婚約者として同棲生活はどうかとおじいさんに提案されて、一緒に過ごしていたかもしれない。
 それにしても……誕生日か。今度迎える誕生日は2人とも来年の4月なのか。そこまで優奈の誕生日を祝えないのはちょっと寂しい思いがある。だから、

「あのさ、優奈」
「何でしょう?」
「カクイの1階にケーキ屋さんがあるんだ。優奈は知っているか?」
「はい、知っていますよ。何度も食べたことがあります」
「そうか。そこでケーキを買わないか? 少し過ぎたけど、俺達が18歳になったのを2人で祝いたくてさ。ケーキを食べるっていうささやかな形だけど。次の誕生日を待つと来年の4月になっちゃうし。……どうかな?」

 優奈の目を見つめながら、俺は問いかける。ケーキを食べて、過ぎた18歳の誕生日を祝いたいと知って、優奈はどう思うだろう。ちょっと緊張する。
 優奈は見る見るうちに目が輝き、

「とても素敵です! いいですね!」

 今まででの中でも指折りの可愛い笑顔でそう言った。そのことに、とても嬉しい気持ちになる。

「是非、一緒にケーキを食べましょう! ケーキ大好きですし!」
「優奈がそう言ってくれて良かった。じゃあ、さっそくケーキ屋さんに行こうか」
「はいっ!」

 優奈は元気良く返事する。その姿は妹の陽葵ちゃんにそっくりだ。また、返事をした直後に、俺の左手を握る力が強くなった。
 俺達はエスカレーターで1階に行き、ケーキ屋さんへ向かう。
 午後のおやつ時なのもあって、ケーキ屋さんの前には何人もの人が並んでいる。俺達はその最後尾に並ぶ。最後尾からでも、ショーケースの中にあるケーキが見える。

「ここのケーキ屋さん、美味しいケーキがいっぱいありますよね」
「そうだな。うちでは誕生日ケーキは毎回ここで買ってるよ」
「そうなんですね」
「誕生日ケーキだしホールにするか? それとも、一人分のケーキを買うか?」
「……ホールがいいですね。せっかくの誕生日ケーキですから。それに、ここのケーキ屋さんのホールケーキはまだ食べたことがなくて」
「そっか。じゃあ、ホールケーキを買おうか」
「はいっ。苺のホールケーキがいいです」
「分かった。苺のホールケーキは美味しいぞ」
「楽しみですっ」

 それから数分ほどで俺達の順番になった。
 苺のホールケーキは数種類の大きさがある。その中でも一番小さい直径10センチくらいのケーキを購入した。誕生日ケーキなので『おたんじょうびおめでとう』と書かれたチョコレートプレートを2つ付けてもらい、ケーキに挿すローソクも買う。また、2人の誕生日を祝うからと、半分ずつお金を出し合った。
 ホールケーキが入っている箱は優奈が持ち、俺達は帰宅した。
 今の時刻は午後4時近くとおやつにもいい時間なので、さっそく食卓でホールケーキを食べることにする。
 ホールケーキに長いローソクを1本、短いローソクを8本挿す。ケーキ屋さんで2人とも18歳になったことを伝えると、店員の女性がこの組み合わせでローソクを渡してくれたのだ。長いローソクが10歳、短いローソクが1歳を示しているのかな。あと、小さいケーキだから、ローソクを9本挿すと結構挿した感じがする。
 俺が着火ライターで全てのローソクに火を点ける。
 全て点けた後、優奈はスマホでケーキ、俺とケーキの写真を撮ってくれる。また、優奈からスマホを借りて優奈とケーキの写真を撮った。また、

「このケーキは私達2人の誕生日ケーキなので、2人の写真を撮りませんか?」
「おっ、それはいいな。撮るか」

 優奈の提案でケーキと俺達2人が写った写真も撮った。その際は写りやすくするために、優奈と寄り添って。ケーキからも甘い匂いがするけど、優奈から香ってくる甘い匂いの方がとても魅力的で。ちょっとドキッとした。

「写真はこのくらいでいいですね」
「そうだな。うちでは、小さい頃から火を消す前に『ハッピーバースデートゥーユー』を歌うんだけど、どうかな?」

 もちろん、先月18歳になったときにも歌った。そのとき、真央姉さんが物凄く張り切って大きな声で歌っていた。

「うちでも歌います。誕生日パーティーらしくていいですね」
「そうだな。じゃあ、名前の部分は優奈、俺の順番で相手の名前を言おうか」
「分かりました! では、歌いましょう! せーの!」

 優奈と俺は手拍子をしながら、『ハッピーバースデートゥーユー』を歌う。
 優奈の歌声は初めて聞いたけど、伸びやかで綺麗な歌声だ。いつまでも聴いていたいと思わせるほどに上手くて。優奈は楽しそうに歌うので、歌う姿をいつまでも見ていたいとも思わせてくれる。
 事前に打ち合わせしていたのもあり、名前の部分になると、スムーズに優奈、俺の順番で相手の名前を言うことができた。
 最後まで歌い終わると、俺達は互いに相手に向かって拍手を送る。

「和真君、18歳のお誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう! 優奈も18歳のお誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます!」

 祝福の言葉を贈り合うと、拍手の音も自然と大きくなった。拍手する優奈はとても嬉しそうで。そんな優奈を見ていると、嬉しい気持ちがどんどん膨らんでいく。

「じゃあ、半分ずつローソクの火を消していくか」
「そうですね。長いローソクは先に生まれた和真君が消してくれますか?」
「分かった」

 俺、優奈の順番でローソクを半分ずつ吹き消した。口をすぼませてローソクを吹き消す優奈はとても可愛くて。
 その後、優奈が包丁を使ってケーキを半分ずつに切り分けた。その間に俺が優奈と自分の分のアイスコーヒーを作った。
 アイスコーヒーの入ったマグカップを食卓に運び、優奈と向かい合う形で椅子に座る。

「じゃあ、ケーキを食べようか」
「そうですね。いただきます!」
「いただきます」

 フォークでケーキを一口分切り分けて食べる。
 口の中に入れた瞬間、ふわふわのスポンジやクリームの優しい甘味が感じられて。咀嚼していくと、その甘味が口の中いっぱいに広がって。苺の酸味がいいアクセントになっていいな。小さい頃からこの美味しさは変わらない。

「美味しい」
「とても美味しいですね! スポンジとホイップクリームが甘くて。苺が甘酸っぱいので、ちょうどいい甘さになってて。和真君の言う通り、本当に美味しいです!」

 とても幸せそうな様子で感想を言うと、優奈はケーキをもう一口食べる。そんな優奈を見ていると、口の中に残っている甘味が強くなった気がした。

「優奈に美味しいって言ってもらえて嬉しいよ。小さい頃から食べてるケーキだから」
「こんなに美味しいケーキを昔から食べている和真君が羨ましいです」

 ニコッと笑いながら優奈はそう言ってくれる。嬉しい言葉を次々と言ってくれるな。だから、気付けば頬が緩んでいて。
 今の言葉をうちの家族が聞いたら喜ぶだろうな。今でも毎年、俺の誕生日と真央姉さんの誕生日にはホールケーキを食べるから。母さんや父さんの誕生日に食べる年もあるし。

「旦那さんになった和真君と一緒に18歳の誕生日を祝えて。美味しいケーキを食べられて。素敵な誕生日プレゼントをいただきました。ありがとうございます、和真君」
「いえいえ。俺も優奈と一緒に誕生日を祝えて、ケーキを食べられて、優奈が美味しいって言ってくれて。素敵な誕生日プレゼントを優奈からいっぱいもらったよ。ありがとう、優奈」
「いえいえ」

 と、優奈は嬉しそうに言う。
 ふと思いついたことだったけど、優奈に「ケーキを食べて18歳の誕生日を祝わないか」と言ってみて良かったよ。こうして一緒にケーキを食べて、とても温かい気持ちになれている。そう思いながらケーキをもう一口食べると……とても甘くて美味しい。

「和真君。せめてものお礼に、ケーキを一口食べさせたいのですが。いいですか?」
「おっ、いいな。じゃあ、お願いするよ」
「はいっ」

 優奈はフォークでケーキを一口分切り分けて、俺の口元まで運んでくる。そうしている優奈はとても楽しそうで。

「はい、和真君。あ~ん」
「あーん」

 優奈にケーキを食べさせてもらう。
 食べさせてもらった瞬間、物凄い甘味が口の中に広がっていく。このケーキ、こんなに甘かったかと思うくらいに。優奈が口をつけたフォークを使って優奈に食べさせてもらったからだろうか。

「とても甘くて美味しいです」
「良かったですっ」

 俺の目を見つめながら、優奈は柔らかい笑顔でそう言う。そのことにキュンとなり、心だけでなく体も温まっていくのが分かった。

「じゃあ、お礼のお礼に、今度は俺が優奈にケーキを一口食べさせてあげるよ」
「ありがとうございますっ!」

 優奈、とても嬉しそうだ。もしかしたら、優奈は俺も食べさせもらう展開に期待していたのかもしれない。そうだとしたら凄く可愛いな。
 俺はフォークで自分のケーキを一口分切り分けて、優奈の口元までもっていく。

「はい、優奈。あーん」
「あ~ん」

 大きく口を開けた優奈にケーキを食べさせる。
 優奈は笑顔でモグモグとケーキを食べる。自分が食べさせたのもあって、これまで以上に可愛くて。

「とても美味しいです。和真君に食べさせてもらったので……本当に」
「良かったよ」
「ありがとうございます、和真君」
「いえいえ。こちらこそ」

 優奈がより喜んでくれたから。
 それからも、これまでの誕生日のことやケーキのことを話しながら、優奈と一緒にケーキを食べていく。その中で優奈はたくさん笑顔を見せてくれて。優奈の笑顔や楽しいこの時間も優奈からの誕生日プレゼントだと思えるのであった。
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