103 / 124
事実は小説よりも
6
しおりを挟む
「僕に色目を使ってきたくせに、寂しいからって、手近な男で欲求を満たそうとするなんて、淫乱にも程がある、ハッキリ言って気持ち悪いんだよ、君みたいな女は」
ヒートアップしていく坂本につられ、心拍数が上がってくるけど、懸命にこらえた。
――いいですか、坂本がどんなに感情的になっても、同調してはいけません。あくまで冷静に、淡々と事実だけを伝えてください。
銀田一さんに言われた言葉を、頭の中で繰り返す。
「坂本さん、色目というのは私があなたの白衣に、興味を示したことを仰っているのですか」
出来るだけ色の無い声で質問すると、坂本の勢いが削がれた。
その瞬間を突破口として、早口で続ける。
「でしたらそれは勘違いです。私はコスプレを趣味としているので、本物の白衣の質感を確かめたかっただけです。坂本さんには興味がありませんし、今日お会いするまで、お顔や声も忘れていました」
「な、七海さん……どうしたのさ、だってあんなに素敵な笑顔を僕に向けてくれたじゃないか」
「ウチの商品を使って下さるお客様ですから、多少の愛想は振り撒きます」
「そんな……そうか、誰かに脅されて、僕を遠ざけようとしているんだな」
ひとりごとのように呟く坂本の言葉は無視し、ダメ押しとばかりに重ねる。
「つまりあれは、利害関係により生じた笑顔、それ以上でもそれ以下でもありません」
私の言葉を聞き終わる前に、坂本が両手で力いっぱいテーブルを叩きながら立ち上がった。
「ふざけるなっ、この売春婦が!」
同時に、背後に控えていたボディーガードが、坂本を羽交い絞めにした。
「っ、なにす――離せっ、なんだよ!」
駆け寄ってきた銀田一さんが、冷たい目をして言い放つ。
「坂本さん、そこまでです」
「僕に触るな、離せったら!」
「恐怖を与えるような発言は控えるよう、申し上げたはずですが……謁見は終了です、今後、彼女および彼女に関わる全ての人間への干渉を禁じます。なにかあれば即刻、ストーカー規制法違反で逮捕となりますのでご留意ください」
銀田一さんに促されて立ち上がった私の足は、酷く震えていた。
それを悟られないよう、銀田一さんがさりげなく、背中に手をあてエスコートしてくれる。
坂本はまだ何か言っていたけど、もうその言葉が私の耳に入ることはなかった。
ああ、やっと終わった。
ファミレスから出た瞬間、全身の力が抜けてカクンと膝から崩れ落ちる――と。
「危っ……ね」
地面に膝をつく寸でのところで、体を支えられた。
「あ、ありがと……えっ」
お礼を言おうと顔を上げると、目に飛び込んできたのは銀田一さんではなく。
「類さ……ん?」
疑問形なのは、その顔だ。
服装こそ、普通のワイシャツにパンツだけど、鼻から下を白いマスクで隠し、目元は工藤さん愛用の丸いサングラス、銀田一さんのチューリップハットを目深にかぶっている。
「なにしてるんですか?」
自宅軟禁中の彼が、なぜここに?
「なにって、迎えに来たに決まってるだろう」
サングラスを外した類さんは私を見て、ニッとその目を細めた。
ヒートアップしていく坂本につられ、心拍数が上がってくるけど、懸命にこらえた。
――いいですか、坂本がどんなに感情的になっても、同調してはいけません。あくまで冷静に、淡々と事実だけを伝えてください。
銀田一さんに言われた言葉を、頭の中で繰り返す。
「坂本さん、色目というのは私があなたの白衣に、興味を示したことを仰っているのですか」
出来るだけ色の無い声で質問すると、坂本の勢いが削がれた。
その瞬間を突破口として、早口で続ける。
「でしたらそれは勘違いです。私はコスプレを趣味としているので、本物の白衣の質感を確かめたかっただけです。坂本さんには興味がありませんし、今日お会いするまで、お顔や声も忘れていました」
「な、七海さん……どうしたのさ、だってあんなに素敵な笑顔を僕に向けてくれたじゃないか」
「ウチの商品を使って下さるお客様ですから、多少の愛想は振り撒きます」
「そんな……そうか、誰かに脅されて、僕を遠ざけようとしているんだな」
ひとりごとのように呟く坂本の言葉は無視し、ダメ押しとばかりに重ねる。
「つまりあれは、利害関係により生じた笑顔、それ以上でもそれ以下でもありません」
私の言葉を聞き終わる前に、坂本が両手で力いっぱいテーブルを叩きながら立ち上がった。
「ふざけるなっ、この売春婦が!」
同時に、背後に控えていたボディーガードが、坂本を羽交い絞めにした。
「っ、なにす――離せっ、なんだよ!」
駆け寄ってきた銀田一さんが、冷たい目をして言い放つ。
「坂本さん、そこまでです」
「僕に触るな、離せったら!」
「恐怖を与えるような発言は控えるよう、申し上げたはずですが……謁見は終了です、今後、彼女および彼女に関わる全ての人間への干渉を禁じます。なにかあれば即刻、ストーカー規制法違反で逮捕となりますのでご留意ください」
銀田一さんに促されて立ち上がった私の足は、酷く震えていた。
それを悟られないよう、銀田一さんがさりげなく、背中に手をあてエスコートしてくれる。
坂本はまだ何か言っていたけど、もうその言葉が私の耳に入ることはなかった。
ああ、やっと終わった。
ファミレスから出た瞬間、全身の力が抜けてカクンと膝から崩れ落ちる――と。
「危っ……ね」
地面に膝をつく寸でのところで、体を支えられた。
「あ、ありがと……えっ」
お礼を言おうと顔を上げると、目に飛び込んできたのは銀田一さんではなく。
「類さ……ん?」
疑問形なのは、その顔だ。
服装こそ、普通のワイシャツにパンツだけど、鼻から下を白いマスクで隠し、目元は工藤さん愛用の丸いサングラス、銀田一さんのチューリップハットを目深にかぶっている。
「なにしてるんですか?」
自宅軟禁中の彼が、なぜここに?
「なにって、迎えに来たに決まってるだろう」
サングラスを外した類さんは私を見て、ニッとその目を細めた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
上司と部下の溺愛事情。
桐嶋いろは
恋愛
ただなんとなく付き合っていた彼氏とのセックスは苦痛の時間だった。
そんな彼氏の浮気を目の前で目撃した主人公の琴音。
おまけに「マグロ」というレッテルも貼られてしまいやけ酒をした夜に目覚めたのはラブホテル。
隣に眠っているのは・・・・
生まれて初めての溺愛に心がとろける物語。
2019・10月一部ストーリーを編集しています。
変態御曹司の秘密の実験
綾月百花
恋愛
10社落ちてやっと入社できた会社で配属された部署は、大人の玩具を開発する研究所の社長専属秘書だった。社長専属秘書の仕事は、人体実験!処女なのにあれこれ実験されて、仕事を辞めたいけど、自宅は火事になり、住む場所もなくなり、家族親類のいない亜梨子は、変態社長と同居?同棲?することになった。好きだとか愛してるとか囁いてくる社長に、心は傾けど意地悪な実験で処女なのに快感に翻弄されて。ああ、もう辞めたい!やっと抱いてくれると思ったら、お尻に入れられて欲しい場所にくれない。ALICEプロジェクトという実験は一体なんでしょう?エッチで悶々しちゃう亜梨子のシンデレラストーリーです。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~
中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。
翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。
けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。
「久我組の若頭だ」
一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。
※R18
※性的描写ありますのでご注意ください
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
交際0日。湖月夫婦の恋愛模様
なかむ楽
恋愛
「いらっしゃいませ」
「結婚してください」
「はい。いいですよ。……ん?」
<パンののぞえ>のレジに立つ元看板娘・藍(30)の前にやって来たのは、噂では売れない画家で常連客の舜太郎(36)だった。
気前よく電撃結婚をした藍を新居で待っていたのは、スランプ中の日本画家・舜日(本名・湖月舜太郎)との新婚生活だった。
超がつく豪邸で穏やかで癒される新婚生活を送るうちに、藍は舜太郎に惹かれていく。夜の相性も抜群だった。
ある日藍は、ひとりで舜太郎の仕事場に行くと、未発表の美しい女性ただ一人を描き続けた絵を見つけてしまった。絵に嫉妬する。そして自分の気持ちに気がついた藍は……。(✦1章 湖月夫婦の恋愛模様✦
2章 湖月夫婦の問題解決
✦07✦深い傷を癒して。愛しい人。
身も心も両思いになった藍は、元カレと偶然再会(ストーキング)し「やり直さないか」と言われるが──
藍は舜太郎に元カレとのトラブルで会社を退職した過去を話す。嫉妬する舜太郎と忘れさせてほしい藍の夜は
✦08✦嵐:愛情表現が斜め上では?
突如やって来た舜太郎の祖母・花蓮から「子を作るまで嫁じゃない!」と言われてしまい?
花蓮に振り回される藍と、藍不足の舜太郎。声を殺して……?
✦09✦恋人以上、夫婦以上です。
藍は花蓮の紹介で、舜太郎が筆を折りかけた原因を作った師匠に会いに行き、その真実を知る。
そして、迎えた個展では藍が取った行動で、夫婦の絆がより深くなり……<一部完結>
✦直感で結婚した相性抜群らぶらぶ夫婦✦
2023年第16回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました!応援ありがとうございました!
⚠えっちが書きたくて(動機)書いたのでえっちしかしてません
⚠あらすじやタグで自衛してください
→番外編③に剃毛ぷれいがありますので苦手な方は回れ右でお願いします
誤字報告ありがとうございます!大変助かります汗
誤字修正などは適宜対応
一旦完結後は各エピソード追加します。完結まで毎日22時に2話ずつ予約投稿します
予告なしでRシーンあります
よろしくお願いします(一旦完結48話
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる