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ハメられました詰みました

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* * *


伊豆へ行った二日間、類さんはなんだかとても紳士的だった。


でもそれは、非日常が生んだ気まぐれだったのだろう。翌日からは元通り。靴下は裏返しのまま洗濯機に入れるし、何度注意しても寝タバコをやめない。三日に一度の頻度でお風呂を覗こうとするので、脱衣所に鍵を取り付けた。なのに数日後にはピッキング技術を習得し、悪びれる様子もなく覗き行為を遂行するなど、ゲスなクズ人間に戻ってしまった。


ああ、でもひとつだけ変わったことがある。
彼が仕事で疲れ切っている日や、持病の片頭痛を発症した夜だけは、ベッドを共にするようになった。
というと誤解を生みそうだけど、別に男女のそれではない。彼の言う魔法の抱き枕になっているだけだ。


「七海ちゃん、今日キツイから、アレ……よろしく」


弱り切った顔で吐き出される言葉。
それを合図に私は心を凍らせ、抱き枕としての役目を全うする。


背後から縋るように抱きつつかれ、類さんの額がコツンと肩口に落ちてくるたびに、本当は泣きたくなる。
すっかり覚えてしまった彼の匂いや、柔らかな髪の感触。呼吸のリズムまでもいつしか馴染んでいき、それが怖かった。
常習性のある危険な麻薬だと分かっていて、どうしても抜け出せない。
次は拒否しよう、朝起きたらこれで終わりだと告げよう。


そう思いながら、ずるずると過ごし――半月が過ぎた。



そうして六月の最終日、事件は起こった。


試作を重ねた『クールンルン』は仕様が確定し、七月から量産に入ることになっている。合わせてプレスリリースも発信し、来週には、小規模な新作発表会も行なわれる予定だった。
ここ数日、リーダーの設楽さんを始め『クールンルン』開発チームの熱気は最高潮で、一日中、張りのある声が飛び交っていた。


けれど、その日の朝は違ったのだ。


「おはようございます!」


私が出勤すると、設楽さんと湯川さんが、寄り添うようにパソコンの画面に見入っていた。


「あ……谷川さん」


いつもなら『七海ん』と呼ぶ設楽さんの口からは、気まずそうに苗字が吐き出される。
どんなに「その呼び方はやめてくれ」といっても意に介さなかった筈なのに、いったいどうしたというのだろう。


「なにかあったんですか?」


言いながら歩み寄ると、設楽さんは戸惑ったように、視線を伏せる。
けれども隣で湯川さんが覚悟を決めたように顔を上げて、PCの画面を見るように促してきた。


ふたりのただ事ではない様子に悪い予感を覚えながら、モニターを覗きこむと、そこには、SNS交流掲示板『Rrimixtuta(リミッター)』のサイトが表示されている。


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