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した? してない?

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* * *


とても幸せな気分だった。


まず最初に聞こえたのは、規則正しい雨音。
真新しい畳の香りに交じって、わずかに煙草の匂いがした。


温かい……ふかふかのお布団のせいだけではくて、大きくて優しいものに背中から包まれている。
例えるなら、カンガルーのポケットに入って、うたた寝しているみたいな。


あれ、私……今、どこに居るんだろう。自分のベッドではなさそうだし。


心地良さに後ろ髪をひかれながらも、重苦しい瞼を持ち上げる。少しずつ鮮明になっていく思考と一緒に、視界もクリアになって。


「……へ、どうして」


乾いた声が漏れた。


早朝の薄明りの下、目に飛び込んで来たのは紺色の袴と矢絣柄の着物。すぐ隣には榛色の軍服が脱ぎ捨てられている。
大正ロマンの残骸は、脳にかかった霞を一瞬で吹き飛ばし、昨夜の記憶を呼び起こした。


沢山飲んだことは覚えている。嫌がる二階堂部長に、コスプレ衣装を次々と着させたことも、なんとなく。でも……それから、どうしたんだっけ。


さらに記憶を深堀りしようとして、違和感を覚えた。


直接、素肌に纏わりつくシーツの感触。つまり私は、全裸で布団の中にいるってこと。


過去にも、酔っ払って裸で寝てしまったことがある。締めつけが嫌いな私は、帰宅したらすぐに靴下は脱ぐし、ワンピース型のルームウエアーに着替える。特に梅雨時期や夏場は、それさえも鬱陶しい。


外は雨、うん……きっと湿度が高くて不快だったんだろう。
問題は、さっきから私を包んでいる温もりだ。それから腰のあたりに巻き付いている腕と、微かな息づかい。


まさか私、抱きしめられている?
ゆっくりと顔だけで振り返り。


「ひっ、いやああああ!!」


絶叫した。
目前の体を突き飛ばし、更なる非常事態を悟る。


布団から落ち「うう」と呻きながら起き上がった彼、二階堂部長も全裸だったのだ。正確には、かろうじてトランクスは履いているので、半裸なのだけど。


「痛ってえなあ……なんだよ」


鳩尾みぞおちを押さえながら、私を睨む二階堂部長。


「ど、どうして裸……なんですか」
「おまえも裸じゃねえか」
「ぎゃっ!」


慌てて布団を引き寄せ、胸を隠す。


「見ました?」
「なにを」
「私の……裸」
「そりゃ見るだろ、全裸で寝てりゃあ」


ワシャワシャと頭をかきながら欠伸をする彼。その至って冷静な様子に、微かな希望が生まれた。


「一緒に寝た……だけ?」


もしかしたら、服を着るのが嫌いな裸族仲間なのかもしれない。
祈るように見つめると、彼はゆっくり瞬きをして、含みのある笑みを浮かべた。



「ああ、確かに〝寝た〟……なあ」


嘘、そっちの意味?
いや、酔っていたとはいえ、こんなゲス男に身を任せるなんてありえない。


「質問を変えます、一緒に眠っただけですよね」


今にも倒れそうなのを我慢して、毅然と問いかける。
すると彼はクスリと笑って、ボサボサの髪をかき上げた。途端に、寝起き独特の匂うような色気が立ち昇る。


「どうだろうなあ、覚えてないなら、試してみるか?」


言いながら、じりじりと近づいてくる。


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