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初めましてこんにちは、どん底三十路女です
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週明けに開発会議を控えたその日。
私は資料の最終チェックに没頭していた。
定時はとっくに過ぎている。資料は何十回も見直した。それでも不安が拭えなかったのだ。
開発会議の主役。私が発案した、夏用マフ『クールンルン』は、特製フィルムに包まれたアイスジェルが、首元だけでなく、背骨にダラリと伸びる仕組みになっている。
当初は背部が不安定で気になる、と不評で随分と苦労した。でも『クールンルン』の肝は、この部分だ。試作に試作を重ね、ようやく最終開発会議まで漕ぎ着けた。だから、絶対に失敗はしたくない。
そう思うと、時間はいくらあっても足りなかった。
午後8時。
ふいに背後から、缶コーヒーが差し出された。
「谷川さん、なにか手伝おうか?」
声の主は、我が企画部の部長、二階堂 類(にかいどう るい)。
彼はそのたぐいまれな美貌と才脳で、企画部の至宝と評されている。年齢は三十五歳。若干三十歳で最年少部長に昇格した、本物のエリートだ。
加えてその容姿も、文句のつけどころがない。
百八十センチ近い高身長。スーツは嫌味のないお洒落な着こなしで、長めの前髪を軽く後ろに流したヘアスタイルが抜群に似合う、さっぱりとした和風イケメン。
そしてバツのない独身とくれば、それはもう、社内にとどまらず、取引先の女子社員までもが、恋人の座を虎視眈々と狙っているらしい。
ところが当の本人は、そんな熱視線など、どこ吹く風。年齢性別問わず、平等な態度を一貫し、決して色恋沙汰を職場に持ち込もうとはしない、完璧な上司だ。
「それ、月曜の資料?」
「はい、お休みの前に目を通したくて」
「なにか気になるところでも?」
「そういう訳ではないのですが……なんだか不安で」
答えると、二階堂部長は白い歯を見せて笑った。
「谷川さんなら大丈夫、僕が保証する」
ああ、癒される。陽介がいなかったら、間違いなく恋に堕ちていただろう。
極上の笑顔を堪能しながら、私も笑みを返す。
「ありがとうございます、そうですね……そろそろ帰ります」
「うん、心配しなくていい。当日はなにがあってもフォーローするから、土日はしっかり休むんだよ」
頼もしい言葉にようやく安心し、パソコンの電源を落とそうとしたときだった。
週明けに開発会議を控えたその日。
私は資料の最終チェックに没頭していた。
定時はとっくに過ぎている。資料は何十回も見直した。それでも不安が拭えなかったのだ。
開発会議の主役。私が発案した、夏用マフ『クールンルン』は、特製フィルムに包まれたアイスジェルが、首元だけでなく、背骨にダラリと伸びる仕組みになっている。
当初は背部が不安定で気になる、と不評で随分と苦労した。でも『クールンルン』の肝は、この部分だ。試作に試作を重ね、ようやく最終開発会議まで漕ぎ着けた。だから、絶対に失敗はしたくない。
そう思うと、時間はいくらあっても足りなかった。
午後8時。
ふいに背後から、缶コーヒーが差し出された。
「谷川さん、なにか手伝おうか?」
声の主は、我が企画部の部長、二階堂 類(にかいどう るい)。
彼はそのたぐいまれな美貌と才脳で、企画部の至宝と評されている。年齢は三十五歳。若干三十歳で最年少部長に昇格した、本物のエリートだ。
加えてその容姿も、文句のつけどころがない。
百八十センチ近い高身長。スーツは嫌味のないお洒落な着こなしで、長めの前髪を軽く後ろに流したヘアスタイルが抜群に似合う、さっぱりとした和風イケメン。
そしてバツのない独身とくれば、それはもう、社内にとどまらず、取引先の女子社員までもが、恋人の座を虎視眈々と狙っているらしい。
ところが当の本人は、そんな熱視線など、どこ吹く風。年齢性別問わず、平等な態度を一貫し、決して色恋沙汰を職場に持ち込もうとはしない、完璧な上司だ。
「それ、月曜の資料?」
「はい、お休みの前に目を通したくて」
「なにか気になるところでも?」
「そういう訳ではないのですが……なんだか不安で」
答えると、二階堂部長は白い歯を見せて笑った。
「谷川さんなら大丈夫、僕が保証する」
ああ、癒される。陽介がいなかったら、間違いなく恋に堕ちていただろう。
極上の笑顔を堪能しながら、私も笑みを返す。
「ありがとうございます、そうですね……そろそろ帰ります」
「うん、心配しなくていい。当日はなにがあってもフォーローするから、土日はしっかり休むんだよ」
頼もしい言葉にようやく安心し、パソコンの電源を落とそうとしたときだった。
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