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第2部・社会人編
試練・2
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「けどさあ、あの神谷さんが花ちゃんと……ねえ」
何か含みのある言い方だ。
雛子ちゃんは、私が悠と付き合っていたというのがどうしても信じられないらしい。
実はオリエンテーションがあった日、彼女に悠との関係を問い詰められ、しぶしぶ白状したのだ。
雛子ちゃんは「そうなんだあ」と、納得した風を装ってはいたが、その眼差しは疑惑に満ちていた。
まあ、無理もない。
雛子ちゃんほど可愛い子が、四年もアプローチし続けたのに見向きもされなかったのだ。
おまけに悠は、神谷建設の御曹司。
普通を絵にかいたような私と彼が特別な関係だったなんて、信じろというほうが難しい。
「……そう思っていたのは私だけかも知れないけど」
ふと口をついて出た私の言葉に、雛子ちゃんが身を乗り出した。
「え、やっぱりそうなの!?」
あからさまに嬉しそうな顔。
「……まあ、ね」
実際に悠と私の間に『付き合う』という言葉はなかった。
ただ、彼とはいつも一緒だったし、沢山のキスもした。
記念日にはプレゼントを交換して、そう――クリスマスに彼がくれたスワロフスキーのピアス。
高校を卒業して以来、この青いピアスを耳に通さなかった日はない。
そっと耳たぶに触れると、いつも通りに私にとっての〝あかし〟はそこに存在しているけど。
「分るわあ、神谷さんって基本的に優しいから、勘違いしちゃうよね」
雛子ちゃんの言葉は、私の曖昧な過去から光を奪う。
「そもそも、女子高生って思い込みが激しい生き物だし、花ちゃんって、ちょっとだけ天然なところ、あるもんね」
どうしても、私と悠の関係を認めたくないらしい。
かなり強引な理屈だとは思う。
ただ、だからといって私が意地をはる理由もない。
「そうだね、そうかもしれない」
「なんだあ、心配して損しちゃった!」
「……心配?」
「うん、もしかして神谷さんが花ちゃんを避けるのって、まだ昔の恋愛を引き摺ってるのかと思ったけど――」
そこでいちど言葉を切った雛子ちゃんは、ふっと私から目を反らして、艶やかに微笑んだ。
「よかった、本気で嫌がってたんだね」
何か含みのある言い方だ。
雛子ちゃんは、私が悠と付き合っていたというのがどうしても信じられないらしい。
実はオリエンテーションがあった日、彼女に悠との関係を問い詰められ、しぶしぶ白状したのだ。
雛子ちゃんは「そうなんだあ」と、納得した風を装ってはいたが、その眼差しは疑惑に満ちていた。
まあ、無理もない。
雛子ちゃんほど可愛い子が、四年もアプローチし続けたのに見向きもされなかったのだ。
おまけに悠は、神谷建設の御曹司。
普通を絵にかいたような私と彼が特別な関係だったなんて、信じろというほうが難しい。
「……そう思っていたのは私だけかも知れないけど」
ふと口をついて出た私の言葉に、雛子ちゃんが身を乗り出した。
「え、やっぱりそうなの!?」
あからさまに嬉しそうな顔。
「……まあ、ね」
実際に悠と私の間に『付き合う』という言葉はなかった。
ただ、彼とはいつも一緒だったし、沢山のキスもした。
記念日にはプレゼントを交換して、そう――クリスマスに彼がくれたスワロフスキーのピアス。
高校を卒業して以来、この青いピアスを耳に通さなかった日はない。
そっと耳たぶに触れると、いつも通りに私にとっての〝あかし〟はそこに存在しているけど。
「分るわあ、神谷さんって基本的に優しいから、勘違いしちゃうよね」
雛子ちゃんの言葉は、私の曖昧な過去から光を奪う。
「そもそも、女子高生って思い込みが激しい生き物だし、花ちゃんって、ちょっとだけ天然なところ、あるもんね」
どうしても、私と悠の関係を認めたくないらしい。
かなり強引な理屈だとは思う。
ただ、だからといって私が意地をはる理由もない。
「そうだね、そうかもしれない」
「なんだあ、心配して損しちゃった!」
「……心配?」
「うん、もしかして神谷さんが花ちゃんを避けるのって、まだ昔の恋愛を引き摺ってるのかと思ったけど――」
そこでいちど言葉を切った雛子ちゃんは、ふっと私から目を反らして、艶やかに微笑んだ。
「よかった、本気で嫌がってたんだね」
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