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第2部・社会人編
再会・1
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* * *
四年後――。
「悠、待ってなさいよ」
小さく呟き、顔を上げた。
視線の先には大手ゼネコン『神谷建設』の本社ビル。
今日から私は、晴れて悠の同僚となる。
我ながら不純な動機で内定を勝ち取ったものだと思う。
でも仕方がなかったのだ。
卒業式で別れて以来、私は悠にシャットアウトされ続けたのだから。
悠は卒業と同時にスマホの番号を変えてしまった。
もちろん、そのくらいでめげる私ではない。
彼の大学に押しかけて、待ち伏せをしたこともある。
けれど彼を送り迎えしている運転手に見つかって、通報すると脅された。
さすがの私もストーカーのレッテルを貼られるのは、ノーサンキュー。
ということで作戦を変更した。
悠の会社で働くという壮大な目標を立てたのだ。
内定倍率300を誇る、天下の神谷建設。
私の通う、中の下ランクの大学から入れるような会社ではない。
だからバイト以外の時間、とにかく勉強した。
役に立ちそうな資格も、片っ端から取得した。
それこそもう、脳みそが溶けるんじゃないかというくらい。
努力して、努力して、そうしてやっとたどり着いたのだ。
動機がどうあれ、自分を褒めてやりたい。
にしても……やはり御曹司さまは、特別待遇らしい。
先だって行われた内定式、そして入社式にさえ悠は現れなかった。
それがかえって噂に勢いをつけた。
『ねえ、私たちの同期に、社長の一人息子が居るらしいよ』
『なんでも超絶イケメンで、インターン時代から仕事も完璧らしい』
『玉の輿ねらっちゃう?』
『ばーか、あんたじゃ無理だってば』
『彼は何処の部署に配属されるんだろう』
『インターン時代は営業企画部だったらしいけど』
『噂じゃ、数年ずつ主要部署を渡り歩いてから、副社長に就任らしいよ』
『ってことは、いつか同じ部署になれるってこと!?』
彼は時の人だった。
新卒の中でも花形、本社採用の社員、総勢58名が悠の動向に注目していた。
いかにも家柄と出来の良さそうな同期たちに紛れると、私などゴミ屑のような存在だ。
そのゴミ屑が悠に近づいたら、果たして周りはどんな反応をするのだろう。
それこそ女子社員全てを敵に回すかもしれない。
でも引くわけにはいかない。
決意新たに戦場に足を踏み入れる。
戦闘服は真新しいスーツ。
『多くは持たなくていい、そのかわりに質のよいものを身につけなさい。そうすれば必ず運が開けるから』
そう教えてくれたのは、おばあちゃん。
ただでさえ、勝算の薄い戦いに挑むため、バイト代のほとんどを注ぎ込み、オーダーメイドで作ったスーツだ。
生地の良さはもちろん、きっちりと体にあったサイズ感は、確かに心を強くしてくれるような気がした。
だから私は、絶対に負けない。必ず、悠を取り戻すんだ。
心に決めて、強く一歩を踏み出した。
四年後――。
「悠、待ってなさいよ」
小さく呟き、顔を上げた。
視線の先には大手ゼネコン『神谷建設』の本社ビル。
今日から私は、晴れて悠の同僚となる。
我ながら不純な動機で内定を勝ち取ったものだと思う。
でも仕方がなかったのだ。
卒業式で別れて以来、私は悠にシャットアウトされ続けたのだから。
悠は卒業と同時にスマホの番号を変えてしまった。
もちろん、そのくらいでめげる私ではない。
彼の大学に押しかけて、待ち伏せをしたこともある。
けれど彼を送り迎えしている運転手に見つかって、通報すると脅された。
さすがの私もストーカーのレッテルを貼られるのは、ノーサンキュー。
ということで作戦を変更した。
悠の会社で働くという壮大な目標を立てたのだ。
内定倍率300を誇る、天下の神谷建設。
私の通う、中の下ランクの大学から入れるような会社ではない。
だからバイト以外の時間、とにかく勉強した。
役に立ちそうな資格も、片っ端から取得した。
それこそもう、脳みそが溶けるんじゃないかというくらい。
努力して、努力して、そうしてやっとたどり着いたのだ。
動機がどうあれ、自分を褒めてやりたい。
にしても……やはり御曹司さまは、特別待遇らしい。
先だって行われた内定式、そして入社式にさえ悠は現れなかった。
それがかえって噂に勢いをつけた。
『ねえ、私たちの同期に、社長の一人息子が居るらしいよ』
『なんでも超絶イケメンで、インターン時代から仕事も完璧らしい』
『玉の輿ねらっちゃう?』
『ばーか、あんたじゃ無理だってば』
『彼は何処の部署に配属されるんだろう』
『インターン時代は営業企画部だったらしいけど』
『噂じゃ、数年ずつ主要部署を渡り歩いてから、副社長に就任らしいよ』
『ってことは、いつか同じ部署になれるってこと!?』
彼は時の人だった。
新卒の中でも花形、本社採用の社員、総勢58名が悠の動向に注目していた。
いかにも家柄と出来の良さそうな同期たちに紛れると、私などゴミ屑のような存在だ。
そのゴミ屑が悠に近づいたら、果たして周りはどんな反応をするのだろう。
それこそ女子社員全てを敵に回すかもしれない。
でも引くわけにはいかない。
決意新たに戦場に足を踏み入れる。
戦闘服は真新しいスーツ。
『多くは持たなくていい、そのかわりに質のよいものを身につけなさい。そうすれば必ず運が開けるから』
そう教えてくれたのは、おばあちゃん。
ただでさえ、勝算の薄い戦いに挑むため、バイト代のほとんどを注ぎ込み、オーダーメイドで作ったスーツだ。
生地の良さはもちろん、きっちりと体にあったサイズ感は、確かに心を強くしてくれるような気がした。
だから私は、絶対に負けない。必ず、悠を取り戻すんだ。
心に決めて、強く一歩を踏み出した。
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