上 下
71 / 82

【番外編】 情報収集源/憂太の彼氏力が高かった理由⑤

しおりを挟む
「あー満腹!」

腹も心もしっかり満たされ、会計をしてファミレスの外に出る。

4月といえども夜は肌寒く、アウターを持って来れば良かったと思った。

道路沿いにある桜は葉桜に変わっていて、時折降ってくる花びらが街灯の光を浴びてきらりと光っている。

ひらひらと舞っている桜を見て、きれいだなと感じているとあることを思い出した。

「あ!!俺が聞きたかったのは、憂太の彼氏力はどこで学んだのかってことだよ!あぶねー」

ファミレスでの良い雰囲気で忘れていた本題を思い出した。

「彼氏力?なにそれ、気になるの?」

「なるよ!そりゃ!なんでいつも俺をスマートにエスコートできてたんだよ」

隣を歩く憂太が首を傾げる。

「うーん、最近だったら姉ちゃんが持ってるBL本を読んでたかな」

「びーえるぼん?」

聞きなれない言葉が飛び出てきた。

「そ。BL、ボーイズラブ。知らない?」

「それは知ってる!けど、BLって……えっちな本じゃなかったっけ…?」

腕を組んで、憂太をじろりと見上げる。

これまで、存在は知っていたがBL本と呼ばれるものは手に取ったことがない。

ただ、本屋で目に入ったボーイズラブの漫画や小説は、かなり大人の雰囲気を感じ取らせる表紙で、ドキっとして目をそらしたことだけは覚えている。

「なに。ムッツリとか変態とか言おうとしてる?成人向けなのも多いけど、僕たち一応成人してるからね?」

「………なるほど…?」

普段のクールな憂太からは想像できない大人な単語が出てきて、脳内が混乱する。

「その顔、絶対わかってない顔でしょ。まあ、湊がそうなるのもわかるけどさ」

「そなの?」

「そう。だって、BLを読み始めたのも湊のこと好きになってからだし。男が男を好きになったら、どうするのが正解なんだろうって思ってさ」

憂太は葉桜を眺めて歩きながら、淡々と話を続けている。

「だから、BLからヒントを得ようかと、姉ちゃんにBL本を貸して欲しいって言ったんだよ。そしたらさ、どんな属性の子が良い?とか、カップリングがどうとか、受け攻めが…みたいな話をされてさ。最初は何かの呪文かと思って、フリーズした」

頭の中にフリーズしている憂太が浮かんで、わははと我慢できずに吹き出した。

テンションの低い憂太が右往左往している姿を想像すると可笑しくてたまらない。

「だから、湊みたいな子が彼女ポジションで出てくる感じのやつで、あんまりエロくないやつ読みたいって言ったら、結構貸してくれた」

「は!?なにそれ」

「湊が自分で彼女になるって言ってたから。男同士で彼女側になる人にはどう接するのが良いのかなって自分なりに考えて、本屋さんにも探しに行ってた」

「えぇ?本屋!?」

「うん、でもさ、なんかめっちゃ色んな女の人から見られたんだよね。なんでだろ」

「そ、そりゃ、見られるだろ…わからんけど…」

女性向けの、それも男同士の恋愛を描いた作品の棚に、180cmを超えた男前が立っていたら誰だって注目するだろう。

もう憂太は行動力が高いのか、天然なのか分からなくなってくる。

「で、BLは参考になった…?」

「色々勉強になることはあったよ。でも、途中からは単純におもしろい作品が多くて、読みたくて読んでた」

「なんだよそれ!」

漫才師のツッコミのように憂太の腕をバシッと叩いた。

「BLって結構奥深いんだよ。それにさ、色んな作品を読んでたら、男同士だからとか関係ないなって分かった。結局、人間同士だから少しずつ湊のことを知って、大切に関係を築いていこうって。それが、湊の言う彼氏力の高さに繋がっていたら光栄だなあ」

こっちを向いて柔らかく微笑んだ憂太の手が俺の頭に伸びてきた。

頭を撫でられるのかと思ったら、俺の頭に乗った桜の花びらをさりげなく取り、自分の手のひらにのせて、フゥーと吹いた。

憂太は無自覚だろうが、俺はこういう憂太のさりげない行動1つ1つにドキっとしてしまうのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖也と千尋の深い事情

フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。 取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

処理中です...