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01. 鬼上司と秘密の関係
01.鬼上司と接待会食
しおりを挟む「梨沙、なんだこの資料」
「あっ、はい」
部長の高濱さんの不機嫌そうな声に
身が強張る。
「こんなんでいいと思ってんのか
ふざけやがって、やり直せ」
私の手元にバサッと資料を投げつけて戻っていく。
「すみません…」
他の案件が忙しくて、全然手が回らなかったし
ここのところ社内もプライベートも夜の予定が多くて
手抜きの状態の資料を見られてしまった。
怒られても仕方ない……
私は鈴木梨沙、28歳。
プロパーでこの会社に入って、
最近花形の法人営業部に転属してきた。
チームは事務の加藤さんを除いて男性しかいない。
古い会社なので、事業部長の指名で初めて
私が女性営業として配属となった。
法人営業部は40歳以下の若くて動ける
ハイスペが集められている。
部長の高濱暁人は35歳。3年前に幹部候補として
中途でこのチームに入ってきた。
馬鹿みたいに身体が大きくて、顔も怖い、仕事の鬼。
付き合いのために飲む、吸う、打つ、買う。
女性にも容赦ない、独身。
『取引先の人といるときはいい人そうなのにね~』
『仕事できてカッコいいけど私は無理』
『高濱さんの元奥さんよく結婚しようと思ったよね』
『梨沙さんよく頑張ってるよほんと』
事務の人たちと高濱さんの話になると、
大体こういう話になる。
年が近い事務の加藤さんには優しいのに
私には超厳しい、営業だから仕方ないけど……
「優しくしてくれる加藤さんがいないと
私生きていけないです~~」
「なんか今日も怒られてたね、チョコあげる」
「にゃ~~~加藤さん~~」
加藤さんはいつも冷静で処理能力が高くて、
気が利いて、優しくて美人でカッコいい。
完璧すぎて憧れ、眩しい。
「梨沙さん、高濱さん呼んでる」
後ろからチーフに声を掛けられる。
「あっっ…すみません行きます…」
「頑張れ~」
「明日の会食、同行してくれ」
これまでそう言った申し出は
下っ端の私にはなかったので驚く。
「えっ私ですか」
「お前もそろそろ真面目に
一人前目指してくれないか?ほんとに」
「あ、はい、よろしくお願いします…」
「絶対ラウンジですよ~~~!!!!最悪!!!!」
トイレで一息つこうと思ったら、
偶然加藤さんに会ったのでまた泣きつく。
「ああ、あそこの会社女の子の店好きだもんね」
「ダルすぎダルすぎダルすぎ」
キャバとかラウンジとか、学生時代お小遣い稼ぎで
体験入店くらいしか経験がないし、
どう立ち回ればいいのか一切わからない。
「下座に座って普通にお客さんとして
いればいいんじゃない、わかんないけど」
「加藤さんがわからないこと
私がわかるわけないんですよ~」
もう今から憂鬱で仕方ない。
明日は綺麗なジャケット着てこよう…
高濱さんと2人で取引先と会食なんて、
本当全く気乗りしない。
「相良くんも明日一緒に行かない?」
仕事終わりに暇だったので、
同じチームの相良くんと飲みに来てる。
「いや俺に女の子の店は
まだ早いって言われてるんで」
「やっぱラウンジ回か~~だよな~~」
相良くんは同じチームで唯一の年下、25歳。
自分にとって一番年が近い私を
よく飲みに誘ってくれるので、割とカジュアルに
仲良くやってる。
「飲み過ぎだけは注意してくださいね」
「ほんとそれ」
よく飲み過ぎて、相良くんには迷惑をかけているので
明日は本当に気をつけないといけないと
今から緊張してる。
「今日は奢りますから
ボスの機嫌とってきてくださいね」
「ひえープレッシャー」
相良くんとは大体同じタイミングで
このチームに配属になったので、同じことで
躓いたり悩んだりするので、2人で飲みに行くのは
結構いい気分転換になる。
「じゃあまた明日~」
「おやすみなさい」
乗り換え駅で相良くんと別れて帰路に着いた。
今日は早めに寝て明日に備えよう……
─────
今日の会食は一度名刺交換して
顔を合わせたことのある相手だ。
まあ普通の人たちと言ったところだ。
嫌なところもなく、特に心配はしていないが
立ち回りだけが気になる。
「気合い入ってるな」
全身新品の服を着てきた私を見て
昼休みを挟んだ外回りから戻ってきた高濱さんが
エレベーターで声を掛けてくる。
「綺麗なお店に行くのに、
いつもの服は着ていけないので…」
「何だそれ、いつもの服で別に問題ないだろ」
高濱さんはいつも綺麗なスーツを着てきてるから
それは問題ないけどみんながそうではないのだが。
『いつも身嗜みには気を遣え、
気を遣えない奴は仕事もできない』
『人は見た目が9割』
それが法人営業部の鉄の掟だ。
「そんなに緊張しなくていい、
何かあれば俺がフォローするから」
「?は、はあ……はい」
あれ、高濱さんって
こういうこと言ってくれる人だっけ。
「17時半には出るから早めに仕事終わらせらろよ、
あと絶対飲み過ぎるなよ」
「わかりました」
事務所のフロアに到着すると
先にスタスタと行ってしまった。
そんなに飲み過ぎかなあ。
・
・
・
帰りたい。
めちゃくちゃ帰りたい。
一軒目は割烹料理屋さんで美味しいお酒とお食事を
いただいて、いい感じだった。
この業界の営業は女性が極端に少ないので
取引先も私に興味津々で話題が尽きることはなく、
楽しい時間を過ごせたはずだった。
「藤堂さん久しぶり~!
来てくれなくて寂しかったんだけど!」
「高濱さん私が休みの日しか来てくれないよね~」
わらわらと美女が席についてきて、
先方の若手社員と私はキャストと名刺交換をして
席に座る。
これ私帰った方が良くないか……?
でもここで連れてきても意味ない奴と思われたら
今後会食チャンスがなくなりそうなので、
私は女の子たちを楽しませようと頑張る。
「鈴木さんあんなハイスペと働けるなんて
最高じゃない??」
「羨ましい~~」
「いやいや、ほんとありえんくらい鬼上司ですよ
騙されちゃだめです」
うち持ちで入れたシャンパンを飲んで
高濱さんの鋭い視線を横目に感じながら
ひたすらフリーの女の子たちとトークで
その場をやり過ごす。
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