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01.

06.うちにおいで

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事務所の更衣室に念のために
何着か服を置いていたのを持ってきて、
石橋くんの家に向かった。

とりあえず携帯の位置情報はオフにしたが、
何かにGPSをつけられているのか、
あの家と逆方向に動き出した瞬間から着信が始まる。
「出ないで」
手に持っている携帯を奪われ、
私のバッグの中に戻された。

本当は途轍もなく怖い。でもそんなことは言えない。
私の肩を抱き、自分の方にグッと引き寄せられる。
「大丈夫ですよ、緋莉さん」
身長の高い石橋くんにすっぽり包み込まれると、
本当に大丈夫かもしれないと安堵する。

「石橋くんごめんね…」
石橋くんの優しい匂いに、
背中をさすってくれる大きな手に、安心する。

最寄り駅に到着すると、私の手を引き、
電車を降りる。

「家すぐなんで、早く」

駅を出て5分も経たないくらいで
石橋くんの家に着いた。

エントランスのドアを開けかけたその時、


「あ、高瀬さんいたいた」

血の気が引いた。
石橋くんも、その声に反応して足を止める。
「あれ、後輩の。こんばんは」
明らかにつけてきたのに白々しく
私たちの目の前に顔を見せる。

「高瀬さんは、今日からここに住むことにしたの?」
目の奥が笑っていない笑顔を浮かべながら
私の顔を覗き込んでくる。

どうしてここにいるの。

「……檜垣さん
 緋莉さんに付き纏うの、もうやめてください」
「また来ます」
石橋くんの忠告を聞いているのか聞いていないのか、
食い気味に言うと笑顔のまま、檜垣さんは踵を返す。

肩に手を回され、エントランスに入る。
エレベーターで無言のまま5階まで上がって、
石橋くんの部屋に入った。


ドアを閉めた瞬間、
暗い玄関で抱き締められる。

「……びっくりしたね」
石橋くんが黙っているので、笑いながら声を発すると
どうしたものか、勝手に喉元が震える。
情けなくて、自分を落ち着かせるためにも
深く溜息をつく。

「緋莉さん……俺のことも怖いですか」
鼓動が速い。驚いただろう。彼が、
ここまでして来るとは思っていなかっただろうから。

「怖くないよ…」
シャツを掴んで擦り寄る。離れないでほしい、今は。
「……震えてる」
石橋くんの両腕にぎゅっと力が入る。
この腕は私を傷つけないと分かっている。

「俺は緋莉さんの嫌なことは絶対しません、
 だから信用して」
「うん、知ってるよ……」

そのまま私が抱き締め返したので、
電気もつけずに落ち着くまでそうしていた。
ここは安全だ。


これまでの日々を消し去りたい。

「私としてくれないかな…」
「えっ?」
酔いに任せた急な提案に動揺する。

「何を……」
「……わかるでしょ」
思い出したら泣きそうになる。

石橋くんのシャツのボタンを上から1つずつ外して、
「緋莉さん、自分が何言うてるか……」

上書きしたい。上書きして無かったことにしたい。
「…檜垣さんにされたこと、忘れたいから」

私は最早、石橋くんの善意を貪る魔物と化した。



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