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01.

06.一日目

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「上がって~」

ひんやりとした石壁の玄関から、
既にモデルルームの
ルームディフューザーの香りがする。

さすが著名な建築士、
都心のマンションの最上階に、明らかに
設計変更とオプション盛り沢山の
自宅構えるなんて。

「月村さんって……おいくつなんですか」
「んー?28ーなんで?」

私の肩に手をおいて靴を脱ぎながら言う。

「いや、普通に気になって…」
28でこんな家一人で住んでる人知らないよ私。

「シャワーこっちな、先ええよ」
タオルと適当に引っ張り出したTシャツを渡されて
リビングの方に戻っていく。

久しぶりに、男の人の家だ。
男の人の家というか、もはやモデルルームだけど。
あ、シャンプー一緒だ。


レインシャワーが、体についた煙を流していく。
今日のことも全部水に流れればいいのに。
むしろ、最初からなかったことになればいいのに。

大事な20代の数年を無駄にしたという絶望が
押し寄せてくる。

それでそのまま月村先生の家に泊めてもらうって
いくら酔ってるからとはいえ、何してんだろ……



月村さんのTシャツを着て、髪をタオルで拭きながら
しまわれていると思われるドライヤーを
出していいものかと思い、バスルームを出ると

「わあっ!!!!」
唐突に月村さんの
鍛えられた上半身が目に飛び込んでくる。

「もう一個パウダールームあるから
 そっちで髪乾かして」

眠たそうに目をこすりながら、
バスルームの外を指差す。
「えっ、あはい」

急にあんな格好で現れられたら心臓に悪い。


ところで、月村さんの家は
案内してもらわないと迷子になるくらい部屋がある。
LDKは廊下を挟んでバスルームの逆側。
ここは…パントリー、こっちはトイレか。

「寝室…」
ガラス張りの大きなウォークインが半分見えて、
逆側にはクイーンサイズのベッドが
綺麗にベッドメイクされてる。

「ここか…」
ウォークインと壁を挟んで隣にやっと見つけた。

モデルルームなんて普通は落ち着かないが、
彼の家は整然としていながらも落ち着く感じがする。
髪を乾かしながらも、その空間に対する
こだわりが垣間見えて感心してしまう。



髪を乾かしてリビングで携帯をいじっていると
月村さんが戻ってきた。

「眠い、寝るで」

「おやすみなさい」

スウェットの月村さんも悪くない。

「ほら、おいで」
私の左手を軽く引く。

「一緒?寝るんですか??」
「このソファいくらするか知ってんの?
 ここは寝るとこちゃいます」

よく見たら
うちの会社の応接室に使ってるのにつくりが似てる。
同じブランドだとしたら…。




「おやすみ~」
一緒のベッドに入ると、
月村さんは私に背中を向けて寝始める。

何もしないんだ。

月村さんのこと警戒しすぎてた。
つい最近知り合った私をほいほい家に上げるくせに
案外まともな人だったんだ。


久しぶりの他人の家。
やっぱり落ち着かなくて眠れない。
ベッドもホテルみたいな肌触りだし。
明日も仕事なのにな…

「りょかちゃん、寝た?」
しばらくすると小声で話しかけてくる。

「んー……」
「わっ…」
甘えたい気分になって、
寝たふりをしてぎゅっと抱きつくと

「もう勘弁してくれよ~……」
私の後ろ髪を撫でる。





朝目が覚めると背中にがっつり手を回されていて、
月村さんの寝息がかかる。

イケメンの破壊力、朝から刺激が強い。

「んー……おはよう」
腕にぎゅっと力がかかって、おでこにキス。

寝ぼけてる。

「……ごめん間違えたわ
 ごめん、ほんまちゃうねん……」

「いや別に…私はいいですよ」

誰かと間違えたのかな。


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