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01.

02.正体

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また憂鬱な月曜日。
仕事人間───の真逆を行く私は、
毎日をただやり過ごしていた。

派遣元に決められた職場、
何となくこなしていたら、
いつの間にか社員として引き抜かれていた。

世の中イージーモード。
頑張らなければ。



営業資料作成中に、3コール目の受付電話。
事務の人がいないといつもこれだ。

作業の手を止めて電話に出る。

「いらっしゃいませ、
 アーバンディベロップメントでございます」
「月村と申します、お世話になっております
 平野さんとお約束で」

受話器から聞こえてくる、低めの落ち着いた声。

「かしこまりました、
 おかけになってお待ちください」

設計部長の平野さんはいつも打ち合わせで忙しい。
お約束の方がお見えになったと
チャットだけ打って、案内のために受付に向かう。


月村龍之介つきむらりゅうのすけ
その名前が書かれた分厚いデザインカタログを横目に
席を立つ。

月村さんは確か高額物件の室内デザインを
担当してくれているデザイナーさんだ。

私と同年代だけど、すごく有名な建築家らしい。
お父様も著名な建築家で、
大規模なランドマークタワーを
いくつも手がけている。

私はマーケティング担当なので物を作る側のことは
正直よく分からないし、あまり興味もない。


「月村様ー……」
「あ」
受付には1人。

土曜現場にいたあの人が、
綺麗なジャケットスタイルで座っており
こちらに気付く。

「えっ」
まさか、彼が月村先生だとは思いもしなかった。
「先日はどうも」

さっと名刺を差し出してくるので
反射的に慌てて自分も名刺を差し出す。

私の名刺を見て、一瞬私の顔を見やると、
すぐまた笑顔に戻る。

「へえ、マーケティング担当なんや、
 ほな関わりないわな」
「あっ、お名前はもちろん……
 お顔を知らなかったものですみません……」

私が頭を下げると、またこの前みたいに口角を上げて
鼻で軽く笑う。

「もっと有名になれるよう頑張りますわ」

ああ、本当にかっこいいな、この人。

建築家として名を馳せて、物腰柔らかく、
端正という言葉が似合う。
きっと信じられないくらいモテるんだろうな……


「ああっ月村さんすみませんお待たせしました!」

50過ぎの平野さんがペコペコしながら
会議室に案内する。

「ああどうも、ほなまた」

"私とは住む世界が違う"
そんな感想が正しいシチュエーションだ。


「涼香さんすみません!対応してもらっちゃって!」

ぼーっとしていると、
席を外していた事務の村田さんが受付に出てくる。

「全然、いいのいいの」
「月村さんほんとかっこいいですよね~
 センスも良くて私うちの物件に入るって聞いて
 もうびっくりしちゃいましたよ」

月村さんと平野さんの背中を見送りながら
うっとりとした顔で言う。


本当は私もああいう風になりたかった。
後世に名を残すような、何かを成し遂げたかった。

OLなんて、つまらない。







「彼女は、ずっとこちらで?」

平野さんに後ろから尋ねる。

「?ああ澤田ですか、派遣で入って
 上に気に入られたので今は営業部で
 社員として働いてますよ、
 何やってるのかは僕にはわからないですけどね」

俺の手元の名刺に目をやって、笑う。

「名刺交換なんてしていただく必要ありませんのに」

そう言われて、俺は彼女の名刺をぎゅっと握って
ポケットに突っ込んだ。


「澤田をご存知で?」

「…いえ」




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