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ハルナに新たな能力が!?

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 視察も終われば、保育園には日常が戻ってきている。
 季節はそろそろ真夏を迎えるが、ここアルアローザは日本の夏に比べて過ごしやすい。
 カラッと晴れるし、暑くてしんどいと思う頃には夕立で気温が下がって過ごしやすくなるのだ。
 この頃になると、羊族の子ども達は親に一斉に毛刈りされてすっかりスリムボディになっている。
 もふもふ可愛いけど、夏は暑いもんね、見るからに……。

 そんなスリムボディを手に入れた子ども達は、毛刈りで涼しくなってからすっかりいつにもまして元気に動き回っている。
 大人のほうが人型になれても暑さには弱いかもしれないなと思ったものである。

 そんな短くなった子たちの毛でも、私は相変わらずもふもふなでなでしまくっていたところ、最近どうもうちの園の子たちの毛艶が良くなっている気がした。
 気のせいかなと思っていたところ、子ども達の刈った毛を洗って紡いで糸にしたらしいライラさんから聞かれたのだ。

 「ねぇ、ハルナ。あなた、もしかしてなにかスキル持っているんじゃないかしら?」

 そう言われて、私ははて? と首を傾げてしまう。
 スキルになんてとんと思い当たる節がないからだ。

 「なんでそう思ったんですか?」

 私がそう聞くと、ライラさんは教えてくれた。

 「今年刈った子ども達の毛で糸を紡いだら今までと違って、艶良し、光沢あり、肌触り良しの高級毛糸が完成したのよ」

 なんと今年のウールの出来はとっても良かったらしい。
 私がしてたのは撫でて、ブラッシングくらいなのだが。
 遊んできた子が毛につけてた枝や葉っぱは丁寧に取り除き、これまた丁寧にブラッシングして撫でたのだ。
 それくらいしかしていないので、毛糸が変化した原因が私っていうのもどうなんだろうと思っていたら、ライラさんに言われた。

 「ステータスオープンって言ってごらんなさい。自分のステータスが確認できるから」

 ちょっとあきれ顔で言われつつ、私はライラさんに言われたとおりに復唱した。

 「ステータスオープン」

 ブォンという音とともに私の眼前にはゲームに出てくるような、自分の体力や魔力や使える魔法やらいろんな情報が一覧になって目視できるように出てきた。

 するとそこにはスキルの一覧もあってそこには見慣れない言葉が書かれていた。

 「ライラさん、スキル超グルーミングって何?」

 私の言葉に、ぴくッと反応したライラさんはすっごくいい笑顔で言った。

 「それはね、ハルナが撫でた獣人はみんな毛が艶々のサラサラになるってことよ!」

 力いっぱい放たれた言葉に、私は唸りつつとにかく私が撫でると毛艶が良くなると理解した。

 「ハルナ、試しに私の髪撫でてみて」

 そう言われてライラさんの髪の毛を撫でると、あらまぁ不思議。
 確かに見るからにサラサラの艶々になったではないか……。

 「こうなってくると、ハルナの手は子どもにも大人にも神の手だわぁ」

 にこやかに艶々になった髪にご機嫌なライラさんは私にニッコリ笑って言った。

 「ハルナ、たぶん無意識でこのスキルを獲得したのね。獣人に好かれやすいのに、ますます人気になるわよ」

 なんて言われたが、まさかこんなことになるとは……。

 スキル、超グルーミング。その価値観が私には分かっていなかったと自覚したのは、その日ローライド家へと帰宅するために歩いていた村の中でだった。

 「ハルナちゃん! 私の髪も触っておくれ」

 まずそう声をかけてきたのは村で雑貨屋を営むヘレンさん。

 「何でです?」

 そう聞き返すと、ヘレンさんはあっさり教えてくれた。

 「ライラが保育園の帰りにうちの店に寄ったんだよ。すっごい艶やかな髪になったから聞いたら、これはハルナの力よっていうからさ」

 にこやかに放たれた一言に驚きを隠せない。
 ママさんたちの物事の伝達能力の高さがうかがえるってものだ。

 こうしてこの日を境に私は村で度々女性陣の髪を梳かして撫でる日々が始まるのだった。

 超グルーミングの効果は女性を喜ばせ虜にするらしい……。
 実に恐ろしい能力に目覚めたものである。
 ちなみにスキルにはもう一つあって、それはトレーナー能力と書かれていた。
 これは自分の指示が相手に伝わり実行しやすくするスキルらしい。
 保育という完全にままならない子ども達と向きあうには最適なスキルだと感じた。
 このスキルのおかげでだいぶ助けられてる気がする。なにも無かったら初対面の大人にあっさり従うことはなかっただろうからね。
 私がここで生きてくためには必要なスキルと言えよう。
 ありがとう、おっちょこちょいの女神様。

 そうして熱い真夏は、ゆっくりのんびりと過ぎていく……。

 黒い足音は徐々に近づくようにして、私の背後に立った。
 そう、ここでもこの時期は台風が来るのだということを、うっかり忘れてしまったのだった。
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