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穏やかに過ごしつつも、陛下との距離が近づいた冬。
新年の祭事を迎えた。
私は後宮から微かに聞こえる表宮の音を聞きつつ、静かに過ごしていた。
くれぐれも外には出ないでくれと陛下に念を押されていたからだ。
それでも私は見ることも出席することも叶わぬ身でありながら、祭事が気になって仕方がない。
部屋付きの女官や侍女が離れたすきに私はこっそりと部屋を抜け出した。
そんな私についてきたのは私専属の武官で女官な鈴香であった。
「春麗様、お部屋から出ぬよう陛下に言われていたのでは?」
一応諫めるように声をかけてくるが、鈴香は私が聞かないことをある程度分かっておりもうすでに諦めモードでついてきている。
「なんとなく、行かなきゃいけない気がするのよ。だから鈴香、付き合ってちょうだい」
私が微笑んで鈴香に言うと、彼女はあきらめのため息とともに苦笑を浮かべて返事をした。
「我が主の仰せのままに」
そうして私は鈴香を従えて、表宮が見える小高い丘に来た。
私は去年もここに来ていたという。
そのそばに陛下を暗殺しようという者が居て、放たれようとした矢の先に出て肩を射られてしまったという。
肩に傷があるので説明されれば分かるものの、私にはその時の記憶はない。
丘に登れば今年も雅な楽の音が響いてくるし、人々の声もする。
私は宮の階を眺めた。
そこは紫の紗に囲われた、陛下にのみ許されし場所。
そこにいる陛下は一体どんな顔をしているのだろう。
想像がつかない。
私の前ではいつも優しかったり困ったりしつつも微笑んでいる姿ばかりだから。
「皆、昨年もよく勤めてくれた。今年も皆の働きに期待している。今年は忙しくなるやもしれぬが、皆に良い報告ができるように私も努力しよう」
そんな陛下の言葉に、皆が伏して聞いているのがなんとなく目に浮かぶ。
陛下はいつでも頑張っておられる。私のところに来るのだって、いつも貴重な時間からなんとか捻出していることを知っている。
この国のトップがそんなに暇じゃないのは後宮に住むようになってよく分かった。
だって、あの人の目元から隈が消えることなんてないし、それでも私の前では穏やかに微笑む。
そんな陛下の力になりたい。 私に出来ることは少ないけれど、あの人に少しでも……。
そんな時、私のそばに控えていた鈴香がパッと動き出し私の足元に矢が突き刺さる。
「春麗様、お早くこの場からお逃げください」
その言葉に私は駆け出す。ここに留まっては鈴香の迷惑になるからだ。
彼女の戦いの邪魔にならないように、私は矢を射た人物から距離を取る。
帯剣を許されない後宮で、今日いまこの祭事の時のみ帯剣を許されていた鈴香。
彼女の腰からすらりと鞘から抜かれた刀身が光る。
そして、軽やかな身のこなしと鮮やかに舞うかのような動きで鈴香が敵を仕留めた。
新年の祭事を迎えた。
私は後宮から微かに聞こえる表宮の音を聞きつつ、静かに過ごしていた。
くれぐれも外には出ないでくれと陛下に念を押されていたからだ。
それでも私は見ることも出席することも叶わぬ身でありながら、祭事が気になって仕方がない。
部屋付きの女官や侍女が離れたすきに私はこっそりと部屋を抜け出した。
そんな私についてきたのは私専属の武官で女官な鈴香であった。
「春麗様、お部屋から出ぬよう陛下に言われていたのでは?」
一応諫めるように声をかけてくるが、鈴香は私が聞かないことをある程度分かっておりもうすでに諦めモードでついてきている。
「なんとなく、行かなきゃいけない気がするのよ。だから鈴香、付き合ってちょうだい」
私が微笑んで鈴香に言うと、彼女はあきらめのため息とともに苦笑を浮かべて返事をした。
「我が主の仰せのままに」
そうして私は鈴香を従えて、表宮が見える小高い丘に来た。
私は去年もここに来ていたという。
そのそばに陛下を暗殺しようという者が居て、放たれようとした矢の先に出て肩を射られてしまったという。
肩に傷があるので説明されれば分かるものの、私にはその時の記憶はない。
丘に登れば今年も雅な楽の音が響いてくるし、人々の声もする。
私は宮の階を眺めた。
そこは紫の紗に囲われた、陛下にのみ許されし場所。
そこにいる陛下は一体どんな顔をしているのだろう。
想像がつかない。
私の前ではいつも優しかったり困ったりしつつも微笑んでいる姿ばかりだから。
「皆、昨年もよく勤めてくれた。今年も皆の働きに期待している。今年は忙しくなるやもしれぬが、皆に良い報告ができるように私も努力しよう」
そんな陛下の言葉に、皆が伏して聞いているのがなんとなく目に浮かぶ。
陛下はいつでも頑張っておられる。私のところに来るのだって、いつも貴重な時間からなんとか捻出していることを知っている。
この国のトップがそんなに暇じゃないのは後宮に住むようになってよく分かった。
だって、あの人の目元から隈が消えることなんてないし、それでも私の前では穏やかに微笑む。
そんな陛下の力になりたい。 私に出来ることは少ないけれど、あの人に少しでも……。
そんな時、私のそばに控えていた鈴香がパッと動き出し私の足元に矢が突き刺さる。
「春麗様、お早くこの場からお逃げください」
その言葉に私は駆け出す。ここに留まっては鈴香の迷惑になるからだ。
彼女の戦いの邪魔にならないように、私は矢を射た人物から距離を取る。
帯剣を許されない後宮で、今日いまこの祭事の時のみ帯剣を許されていた鈴香。
彼女の腰からすらりと鞘から抜かれた刀身が光る。
そして、軽やかな身のこなしと鮮やかに舞うかのような動きで鈴香が敵を仕留めた。
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