上 下
36 / 39

しおりを挟む
 穏やかに過ごしつつも、陛下との距離が近づいた冬。
 新年の祭事を迎えた。

 私は後宮から微かに聞こえる表宮の音を聞きつつ、静かに過ごしていた。
 くれぐれも外には出ないでくれと陛下に念を押されていたからだ。

 それでも私は見ることも出席することも叶わぬ身でありながら、祭事が気になって仕方がない。
 部屋付きの女官や侍女が離れたすきに私はこっそりと部屋を抜け出した。
 そんな私についてきたのは私専属の武官で女官な鈴香であった。

 「春麗様、お部屋から出ぬよう陛下に言われていたのでは?」

 一応諫めるように声をかけてくるが、鈴香は私が聞かないことをある程度分かっておりもうすでに諦めモードでついてきている。

 「なんとなく、行かなきゃいけない気がするのよ。だから鈴香、付き合ってちょうだい」

 私が微笑んで鈴香に言うと、彼女はあきらめのため息とともに苦笑を浮かべて返事をした。

 「我が主の仰せのままに」

 そうして私は鈴香を従えて、表宮が見える小高い丘に来た。
 私は去年もここに来ていたという。
 そのそばに陛下を暗殺しようという者が居て、放たれようとした矢の先に出て肩を射られてしまったという。
 肩に傷があるので説明されれば分かるものの、私にはその時の記憶はない。
 

 丘に登れば今年も雅な楽の音が響いてくるし、人々の声もする。

 私は宮の階を眺めた。
 そこは紫の紗に囲われた、陛下にのみ許されし場所。
 そこにいる陛下は一体どんな顔をしているのだろう。
 想像がつかない。
    私の前ではいつも優しかったり困ったりしつつも微笑んでいる姿ばかりだから。

 「皆、昨年もよく勤めてくれた。今年も皆の働きに期待している。今年は忙しくなるやもしれぬが、皆に良い報告ができるように私も努力しよう」

 そんな陛下の言葉に、皆が伏して聞いているのがなんとなく目に浮かぶ。

 陛下はいつでも頑張っておられる。私のところに来るのだって、いつも貴重な時間からなんとか捻出していることを知っている。
 この国のトップがそんなに暇じゃないのは後宮に住むようになってよく分かった。

 だって、あの人の目元から隈が消えることなんてないし、それでも私の前では穏やかに微笑む。
 そんな陛下の力になりたい。 私に出来ることは少ないけれど、あの人に少しでも……。


 そんな時、私のそばに控えていた鈴香がパッと動き出し私の足元に矢が突き刺さる。

 「春麗様、お早くこの場からお逃げください」

 その言葉に私は駆け出す。ここに留まっては鈴香の迷惑になるからだ。
 彼女の戦いの邪魔にならないように、私は矢を射た人物から距離を取る。

 帯剣を許されない後宮で、今日いまこの祭事の時のみ帯剣を許されていた鈴香。
 彼女の腰からすらりと鞘から抜かれた刀身が光る。

 そして、軽やかな身のこなしと鮮やかに舞うかのような動きで鈴香が敵を仕留めた。
 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生王子は、今日も婚約者が愛しい

珊瑚
恋愛
前世、ビジュアルに惹かれてプレイした乙女ゲームの世界に攻略対象として転生した事に気がついたステファン。 前世の推しで、今世の婚約者である悪役令嬢・オリヴィアを自分は絶対に幸せにすると誓った。 だが無常にも、ヒロインはステファン攻略ルートに入ってしまったようで……

王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?

通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。 王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。 周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。 ※以前他のサイトで掲載していた作品です

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

相手不在で進んでいく婚約解消物語

キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。 噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。 今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。 王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。 噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。   婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆ これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。 果たしてリリーは幸せになれるのか。 5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。 完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。 作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。 全て大らかな心で受け止めて下さい。 小説家になろうサンでも投稿します。 R15は念のため……。

へんてこな髪型のお嬢様は普通のお嬢様になります

にいるず
恋愛
何なのこのひらひらスーツ?これが入社式用ですって? 私上柳千代子は、こともあろうか入社式の朝、家の階段から落ちてしまいました。 目覚めると前世の記憶が。「そうだ私、ひひ爺に嫁ぐはずだったんだ」前世では、町工場を営んでいる大家族の長女。しかし不景気のあおりを受けて、会社は倒産寸前。 結婚前、独身最後の記念に食糧確保と久しぶりの休養を兼ねて、大好きな釣りへいってきます! けれどそこで足を滑らして死んでしまったのですね。 それでここはどこですか?もしかしなくてもここって家にあった少女漫画の世界じゃない! え~私って、大企業のお嬢様なの!やったぁ! 今世ではお金の苦労無しねって喜んでいたらまさかの悪役なの?!がっかり。しかも髪型は変だし、いいなずけさんにストーカーまがいのことまでしてたんですかそうですか。嫌われるわけですよね。 わかりました。こんなコスパの悪いへんてこな髪型は封印させていただきます。いいなずけさんも結構です。 私は私で生きていきます。なんせ前世と違い、お金持ちなんで笑。 ※本編完結済。○○視点が続きます。

婚約者が義妹を優先するので私も義兄を優先した結果

京佳
恋愛
私の婚約者は私よりも可愛い義妹を大事にする。いつも約束はドタキャンされパーティーのエスコートも義妹を優先する。私はブチ切れお前がその気ならコッチにも考えがある!と義兄にベッタリする事にした。「ずっとお前を愛してた!」義兄は大喜びして私を溺愛し始める。そして私は夜会で婚約者に婚約破棄を告げられたのだけど何故か彼の義妹が顔真っ赤にして怒り出す。 ちんちくりん婚約者&義妹。美形長身モデル体型の義兄。ざまぁ。溺愛ハピエン。ゆるゆる設定。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

処理中です...