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 朋華さまが去って数日は少し落ち込んでもいた。
 それでも機織りをして気分を落ち着かせていた時、もう一人私を気にかけてくれる二番目の側妃さま流鶯さまからお誘いが来て、私は記憶をなくしてから数回目の訪問をした。


 「春麗様、ようこそお越しくださいました」

 「流鶯さま、お招きありがとうございます」

  挨拶を交わすと、早速互いに卓に着いてお茶とお菓子を楽しみつつ話をする。


 「後宮の東をいじっているのはご存じですか?」

 そんな質問が投げかけられて、私は答える。

 「えぇ、私の室から近い庭園ですので気づいています。なんの工事かまでは分かりかねていますが。陛下が終わるまでは危ないので近づかないようにと」

 そう応えると、流鶯さまはにこやかに微笑んで仰った。

 「そう、では完成までもう暫くお待ちになるといいわ。きっと素敵な仕上がりになるでしょうから」

 そういった後、流鶯さまが言った。


 「春麗様、私と一番目の側妃も実家がやっと陛下の皇妃になることを諦めました。よって近々私達も臣下に下賜されます」

  その言葉に強い衝撃を受ける。
  また、ここから人が減ってしまうのか。
  しかも私と仲良く優しくしてくださる方ばかりが、ここを去ってしまう。

 「春麗様、ここは近いうちにきっとあなた一人になっていまいます。陛下がお望みなのは春麗様だけですもの」

 その言葉には、私は何も返せない。
 いまだに信じ難いのだ……。
 こんな田舎娘を陛下がお望みなのが……。

 私の顔が曇ると、流鶯さまは苦笑しつつも聞いてきた。

 「春麗様は陛下がお嫌いですか?」

  その言葉には、首を横に振って否を示す。

  「いいえ、嫌いではありません。でも、恐れ多くて……。あのような天上人たる陛下に望まれるようななにかを私は持ち合わせておりませんから……」

  そう告げると、流鶯さまはふぅと嘆息して私に言った。


  「手先が器用で機織りに、染色に刺繍も出来る。なにより、場を読み行動力に長けた素晴らしい女性ですよ。あなたは陛下に必要な方です」

 その言葉は力強く私に向けられており、私は胸の内に入ってきたその言葉を噛み締めた。

  「私は自信はいまだにないですが、流鶯さまのお言葉は入ってきました。少しづつ陛下と近くなれるように、頑張ってみようかと思います」

 そんな私の初めての前向きな言葉に流鶯さまは、やっと安心した笑みを浮かべてくれた。


 こうして話した数週間後、流鶯さまと一番目の側妃さまがそれぞれ臣下に下賜されたのだった。

  いま、この後宮には私と四番目と五番目の側妃のみ。
 当初の半分になってしまった後宮はすっかり静かになった。
 残った側妃はみな趣味に勤しむタイプだったからだ。
 四番目の側妃の沙鳳は絵を描くのが趣味でほとんど自室の絵を書くスペースにこもっている。
 たまに天気のいい日に庭園の写生に出ることはあるが、ほぼ自室にこもっている。

 五番目の側妃伽羅は研究好きで、薬事に詳しく様々な調合を行っており、侍医と研究を重ねているのだとか。

 そんな彼女達と、染色と機織りを勤しんでいる私。
個々に忙しいのであまり交流はないが、各々好きなことをしているという点が共通点の私たちは週に一度庭園で茶会をするようになった。
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