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秋 初めてのデート

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 文化祭も終わり、だんだんと季節も移ろい寒くなってきた今日この頃。
 周りは一気に受験モード。
 受験でなくても就職組も就職活動が活発な時期になってきた。
 そんな中、文化祭からお付き合いを始めた私と要くんはお互いの時間を融通して少しずつ関係が深くなってきていた。
 要くんは理系の大学の推薦入試のため現在結果待ち。
 ひと段落しており、今度の週末初めてふたりでデートすることになった。
 学校でも毎日会っているし、帰りも一緒。
 付き合ってからは毎日がドキドキして新鮮で、でもそんな時間が幸せだと思う。
「今回は二人で出かけるし、また少しずつ遠出もいいかと思うんだ。どう?」
 その要くんの問いに、私もうなずく。
「うん、いいと思う! 楽しみ」
 自然と笑顔で返事をする私に要くんも微笑んでくれる。
 そんな私達を日菜子や蒼くんが羨ましげに見ている。
 日菜子と蒼くんは受験勉強をしている。
 日菜子は模試の結果から、親に説得されて文系大学に進路変更、蒼くんはJリーグの入団テストはやはり厳しかったらしく、体育の先生目指して現在は体育大学に進路を希望しているのだとか。
 ふたりは今まで以上に勉強漬けなのである。
「出かけた先でお土産買ってくるから、ふたりとも頑張って!」
 私の励ましにふたりは笑顔で言った。
「とりあえず学業お守りとかが切実かな。神頼みも大事だよね!」
 日菜子は既にそこなの? と思いつつも私は返事をした。
「行った先にいい神社があったら、お参りしてお守り買ってくるね!」
 私と要くんで話し合った結果、近場だからこそあまり行かなかったよねという話になり電車で一本。
 県庁所在地にして観光地を今回は選んだ。
 絶景スポットあり、グルメ、ショッピングスポットあり、更には遊園地まである都会だ。
 お昼前には現地に行き、そこの中華街でお昼を食べてブラブラ散歩して、その後ショッピングモールからの遊園地で観覧車というコースを組んだ。
 初めてのデートに楽しみな気持ちが大きく、私は週末まで終始浮ついていたと思う。
 だから、ゆっくりとだが確実に進んでいる症状にはまだ気づけていなかった。
 週末、デートの約束をした土曜日。
 朝からクローゼットと鏡の前でアレでもないコレでもないと着ていく服を選んでいると、ドアがノックされて声が掛かる。
「有紗! 入るよ」
 声を掛けてきたのはお姉ちゃんで、その手にはメイクボックスとコテが握られている。
「初めてのデートでしょ? 綺麗にしてあげるわ! あ、服はこれとコレで合わせて私の低めのブーツ履いて行きなさい。歩きやすいから貸してあげる!」
 お姉ちゃんが選んでくれたのはキャメルのニットと焦げ茶のフロントボタンにチェック柄のロングフレアスカートだった。
 今年らしく少し落ち着いた大人っぽいコーディネート。
「うん、コレにする!」
 そうして慌てて着替えると、私を椅子に座らせて髪をいじり始める。
 お姉ちゃんがいじり始めた髪はあっという間にゆるふわカール。
 それを更にゆるく右側にまとめて流し、そこを可愛らしいパールとリボンのバレッタで留める。
 髪型が決まると、次にすぐさまメイクボックス開けてメイクを始める。
 下地とフェイスパウダーを叩かれたあとに、アイシャドウとチーク、唇にはグロスを乗せられる。
 ブラウンに差し色はオレンジの秋らしいナチュラルメイクが施され、服装と合わせて少し大人になった感じだ。
「やっぱり、お姉ちゃんはすごい!」
 鏡で仕上がりを見て、思わず声をあげればお姉ちゃんは胸を大きく張ってドヤ顔を決める。
「お姉ちゃん、それなりに腕のいい美容部員だし! 彼氏は美容師だもの」
 昔から器用で、色んなことを上手く出来るお姉ちゃんは私の憧れ。
 今もってそう、だからギューって抱きついてお礼を言う。
「お姉ちゃん、朝の忙しい時間にありがとう! コレで少しは自信を持って出かけられそう」
 私の言葉に目を丸くしたあと、お姉ちゃんは言った。
「元々の有紗が可愛いからメイクも服装も映えるのよ! 自信持ちなさい! 有紗は私の妹なんだから」
 ウィンクひとつを投げて、お姉ちゃんは道具を片して部屋を出ていった。
 改めて鏡を見る。
 そこには少し大人びた私が映る。
「首元が少し寂しい?」
 そう思った私は、日菜子や蒼くんたちと出かける時にお姉ちゃんから貰ったネックレスをつけた。
 今日もお守りがわりだ。
準備が済んで、このコーデにGジャンを合わせ、鞄を持ち玄関でお姉ちゃんのブーツを履く。
「それじゃあ、行ってきます」
「気をつけてね! あんまり遅くならないように」
 お母さんからの言葉にしっかりうなずいて、家を出てバスに乗り駅へと向かう。
 スマホでメッセージアプリを開き要くんに送る。
【今バスに乗ったよ!】
【了解!電車に乗ったらまた教えて?】
【わかった】
 そんなやり取りをしているうちにバスは駅に着く。
 ICカードを取り出してかざす。
 そのままカードを持って駅の改札を通り抜けた。
 今日の天気は清々しいほどの空気の澄んだ秋晴れ。
 楽しい一日になりそうで、空を見上げて自然と笑顔になった。
 駅で待つこと5分。
 電車が来て乗り込むと、要くんへメッセージを送る。
【今、電車に乗ったよ!四両目の三個目のドアの側に立っているよ】
 すると、直ぐに既読がついて返信が来る。
【了解、そこに乗るから待っていて】
 それに了解と可愛らしいスタンプを送って、私は車窓から外を眺める。
 まだいつもの見なれた街並み。
 もうすぐ、いつも降りる駅から乗ってくる要くんと出かける。
 ドキドキとワクワクとした、気持ちでいつになく私は浮き足立つ自分の気持ちに素直に従うことにした。
 あっという間にいつも降りる学校の最寄り駅に着き、要くんが乗ってきた。
 要くんは黒のデニムにインナーがチェックのシャツでその上にベージュのセーターを着ている。
靴はハイカットのスニーカー。
 背の高さもあってモデルさんのようにカッコイイ。
 お姉ちゃんにヘアメイクしてもらっていて良かったと、要くんの姿を見てホッと一息ついた。
「おはよう。有紗、今日すごく大人っぽい。キレイでちょっとドキドキする」
 照れくさそうに、私を見て言う要くんに私もキュンときてしまう。
「要くんも、カッコイイよ」
 ちらっと見上げつつ言うと、照れくさそうに笑いながら手を繋いでくれる。
「ありがとう。あっち空いているから座ろうか?」
「うん」
 少し移動してふたり分の空きをみつけて座る。
 そして、要くんのスマホでこれから行く先の中華街で口コミの良さそうなお店を探してみたり、ショッピングモールでなにを見ようか話したりしているうちにあっという間に乗り換えの駅。
 ここから歩いてもいいけれど少し距離があるので今回は主要駅から乗り換えだ。
 市営地下鉄に乗り換えると、数駅で目的地の最寄り駅へとたどり着く。
 地下鉄はさすがに観光地に向かう電車のため混んでいて、ドア付近にふたりで立っていた。
 駅に着くとまた手を繋いで歩き出す。
 今日は前に出かけた時とは違い、初めて繋ぐ恋人繋ぎ。
 手の繋ぎ方ひとつでこんなにもドキドキするなんて、初めての恋に私はなんとかついていく感じだ。
 地上に出れば、そこは異国の雰囲気の色が溢れた空間に美味しそうな匂いが漂っている。
 露店には中華まんやゴマ団子に甘栗などの食べ物が並び、お土産屋さんもちらほら見かける。
 ふたりで人混みの中をあちこち見ながら歩く。
 繋いだ手はしっかりそのままに、そして調べてクチコミの良かった中華食べ放題のお店にたどり着いた。
 お昼少し前のお店は少し人が並んでいるので、私達もその列に並ぶ。
「すごく美味しそうな匂いがするね」
「そうだな、クチコミ見てきて正解だな」
 待つ間は次にどこに行こうかこの辺りを調べているうちに順番になり、お店に入る。
 食べ放題でリーズナブルな価格だけれど、味は本格的で美味しいというネットのクチコミ通り。
 エビチリも麻婆豆腐も油淋鶏も美味しいし、揚げパンも、ゴマ団子も杏仁豆腐も美味しい。
 デザートも食事も美味しくて、色んなものを少しずつたくさん食べた。
 要くんが取ってきてくれたのから少しずつ貰って食べて、要くんはそれを全部食べていく。
 男の子の食事量ってやっぱりすごくて、要くんは結構な量をとても美味しそうに食べていた。
 私もゴマ団子はおかわりしてしまった。
 ゴマの風味と餡子が絶妙で気に入ってしまったのだ。
 お昼を満足いくまで食べたあとは、中華街をブラブラと歩きお店を見てみたりしながら元町の方へと足を向ける。
 元町へと来ると雰囲気は変わり、大人っぽい落ち着いてオシャレな雰囲気が強い。
 そこらを歩き回るうちに、私達は神社を見つけた。
「あ、神社だ」
「日菜子と蒼に頼まれていたな。寄ってみようか?」
「うん!」
 脇道から見えた赤の鳥居を目指し、ふたりで歩いていくと神社があった。
 街中にあるのに一本細道を入っただけで、少し空気が違う感じだ。
「やっぱり神社って雰囲気があるね」
「そうだな」
 そうして、お参りの仕方に習いしっかりとお参りを済ませると社務所によって学業のお守りを買った。
 日菜子と蒼くんへのお土産だ。
 その後は、この辺りで大きいショッピングモールを目指しそこでウィンドウショッピング。
 靴を見たり、服を見たり。
 アクセサリーやカバンを見たりして楽しむ。
 そんな中で、お財布や革小物なども扱うアクセサリーショップをふたりで見ていた時に要くんがあるものをひとつ手にしていたので気になって見ると、それはシンプルなシルバーのリング。
「気になるの?」
 あまりにも手にして眺めているので聞いてみたら、要くんは私を見てこう言った。
「これ、お揃いで買うとか言ったら気が早いと思う?」
 要くんは私に聞きながら少し表情が固い。
 緊張しているのだろう事がうかがえる。
「お揃いで持つの?」
「うん、そんなに高くないけれど。有紗とお揃いのものが欲しいなって思って……」
 要くんは、私の返事を待っている。
「私も、お揃いの物欲しい」
 私の返事にホッとした顔をする要くんに、繋いでいた手をキュッと握るとリングの並ぶスペースを一緒に見る。
 ふたりでアレでもない、これでもないなんて見ているとお店のお姉さんが声を掛けてくれた。
「可愛らしいカップルさんだね! 少し幅がある物選んでくれれば今日は混んでないからすぐ刻印してあげるよ。うちで買ってくれたものなら刻印無料だから、どう?」
 そのお姉さんの提案に私と要くんは顔を合わせて微笑むと、お姉さんに返事をした。
「それ、お願いしたいです!」
「OK!じゃあ選んでね」
 そうして、あれこれ悩んでいた中から幅が広めのシンプルなシルバーのリングを選ぶ。
 レジに持っていくと、お姉さんが対応してくれて彫る文字をどうするかと聞かれた。
 すると、要くんは決めていたのかすんなりと答えた。
「大きい方にはA to Kそれと今日の日付を、小さい方にはK to Aと今日の日付でお願いできますか?」
 それにお姉さんは素敵な笑顔で答えてくれた。
「かしこまりました。十分ほどで仕上がりますので店内でお待ち下さい」
 そうして待つこと十分。
 お姉さんから声がかかり品物を受け取ってお店をあとにした。
 私もお金を出そうとしたけれど、要くんに止められた。
「今回は付き合った初めてのデートの記念も込めて俺が有紗にプレゼントしたいんだ。だから、ここは俺に出させて」
 その言葉が嬉しくて、今回は買ってもらうことにした。
 初めてのデートで初めてのプレゼント。
 一緒に選んだお揃いのリング。
 嬉しくて、自然と口元がゆるんでしまう。
 それは要くんも同じみたいで、ふたりしてなんだかおかしくなってきて笑ってしまった。
 ショッピングモールを出ると今日の最後の目的地。
 遊園地へと向かう。
 ふたりでデートコースをあれこれ悩んだ時に、ふたりしてデートの王道って観覧車?となったのでここに決めた。
 遊園地に着くとお互い入園料を払い、観覧車の料金を払って乗る。
 楽しい時間を過ごして、辺りは夕日が眩しい時間になっている。
 これに乗り終わったら今日は帰る予定だ。
 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「有紗、これ着けていい?」
 要くんが手にしているのは、さっき選んで買ってきたリング。
「うん」
 私が答えると、要くんは右手の薬指に嵌めてくれた。
「私も要くんに着けていい?」
「いいよ」
 ニッコリ笑ってくれた要くんに、私も要くんの右手の薬指にリングを嵌めた。
「有紗、今はお互い右手に着けたけど、いつかちゃんと大人になった時これよりしっかりしたのを左手に贈りたいと 思っている。それくらい本気で好きだから、それを忘れないで」
 その真剣な顔と言葉に私は胸がいっぱいで、苦しいくらいに嬉しくて、なんとか口を開いて返事を返す。
「ありがとう。私も要くんが大好きだよ」
 私の答えに微笑むと、要くんの顔が近づいてきた。
 観覧車が天辺に来る頃、私達は初めてのキスをした。
 温かくて、甘くて胸がいっぱいでとても幸せだと感じた。
「なんか、照れるな……」
「うん……。でも嬉しいよ」
 私が素直に返事をすると、少し困った顔になった要くんは私の頬を撫でて手を当てると言った。
「有紗、可愛すぎだろ! 本当にまいる……、好きすぎて」
 そんな言葉を口にして、もう一度キスをすると自然に微笑みあって二度三度とキスを続け、地上に近くなり降りる頃には自然と手を繋ぎふたりで帰り道を歩き出した。
 ふたりの右手薬指にそれぞれ真新しい、輝くリングをつけて。
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