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さて、そんな話の翌日。
私は菓子折りをもって、祖母が四年ほどお世話になったデイサービスに顔を出すことにした。
亡くなったことをお知らせしつつ、大変お世話になったのでお礼を言いたくて。
元気に歩けているうちは、このデイサービスに週三日通ていた。
ここはアットホームで和やかな雰囲気の、一般住宅を改装したデイサービス。
海沿いの小高い丘に建っているので、窓からの眺めが抜群に良い。
天気のいい日は、キラキラと太陽が反射して眩しいのよってよく話してくれた。

そんなデイサービスふくふくは、今日もいい天気の中、和やかな雰囲気で佇んでいた。

事務所にじかに顔を出すわけにもいかないので、まずは玄関先でインターホンを鳴らす。
すると、祖母がお世話になっていた介護士さんが気付いて玄関まで来てくれた。
時折、家まで祖母を送り迎えしてくれていた介護士さんだ。

「まぁ、佳菜恵ちゃん。久しぶりね! ハルエさんは、元気?」

そんな声掛けに、私は少し申し訳なく思いつつ話し出す。

「実は先日亡くなりまして。こちらにはお世話になりましたので、その報告に」

「まぁ、そうだったの。ハルエさんが。ちょっとまってね! 中野さん! ハルエさんのお孫さんが来てます」

事務室にそう声をかけてくれると、そこからは祖母を担当してくれていた、ケアマネージャーの中野さんが顔を出した。

うちの父や母より一世代年下の見た目の中野さんは私を見つけると、表情を柔らかくして迎えてくれた。

「やぁ、佳菜恵ちゃん。 ハルエさんは、残念だったね。こっちで少しお話していってよ」

そうして事務室に案内されると、椅子を薦められ、調理担当さんがお茶まで出してくれた。
お忙しいだろうに、気を遣っていただいてしまった。

「生前、こちらには大変お世話になり、ありがとうございました。こちら、少しですけど職員の皆さんで」

持ってきた菓子折りを差し出すと、中野さんが受け取ってくれる。

「そんなに気を遣わなくていいんだよ。こちらは、ありがたく頂戴します。ハルエさんが亡くなって、佳菜恵ちゃんはこれからどうするの?」

お菓子を渡しつつも聞かれたので、私は考えていることを話す。

「今更、また学生やるのもなと思って。就職先を探そうと思っています。ただ、高卒でその後三年も働いていない人を、雇ってくれるところを探すのは大変そうですけれど」

苦笑を浮かべつつも言えば、中野さんはキラキラとした表情を浮かべて、私にびっくりするような言葉を言った。

「えぇ、佳菜恵ちゃん! それなら、ぜひうちに就職したらいいじゃない! 佳菜恵ちゃんは介護の現場では即戦力だよ」

そう言うなり、中野さんは電話で内線なのかこちらの施設の代表さんに話し始めている。
行動が早い。
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