9 / 35
あるカタストロフィ 〜ニゲル・後編〜
しおりを挟む
俺達は阿鼻叫喚のギルドをそっと出て大通りを歩く。
「…リウィア嬢。」
「何かしら。」
「…もし、時を戻せる魔法があったら。君はどうする?」
そう尋ねると、彼女は立ち止まってじっと俺を見つめた。目元は真っ赤で、一応腫れを治す薬をポケットから取り出す。
「…もし、そんな魔法があるとしたら。…例えどんなに代償が大きかったとしても、わたくしは時を戻しますわ。そして今度は、エミリアと殿下の婚約を…、いえ、そもそも勇者パーティーに入る所から邪魔しますわ。」
「…うん、そうだよね。」
俺は少し笑って頷いた。
「俺もそう思うよ。」
リウィア嬢に薬を渡して広場まで送り、迎えの馬車に乗る所まで見届けて俺は帰路についた。
──ゲームには、時を戻す激レアアイテムが存在した。それはとあるダンジョンの隠し部屋にあり、しかも大量のお金を…、つまりこの現実では大きな対価を払う事になる。正直俺1人で払いきれるのかも分からないし、成功するかも分からないけど…。このまま何もしないよりはずっと良い。
そして月日は流れ、リアちゃんの葬儀を終えてから3か月が経った。あの事件は国内外で大々的に報道され、貴族への批判が物凄く高まった。陛下は今回リアちゃんの罪をでっち上げた者達や彼女を消す事に加担した者たちを爵位剥奪や処刑、代替わりさせて僻地に飛ばすなどそれぞれ処罰していった。ルボル侯爵令嬢も例の薬を飲ませると正気に戻ったようで、あまりのショックに倒れてしまったようだ。ルボル侯爵は娘思いの方で令嬢と騎士との関係も認めていたからあの一件に関わっていればすぐにおかしいと気付くはずだったが、あの時王太子殿下に同行しており家にいなかったそうだ。きっとあいつらがルボル侯爵も邪魔だからと飛ばしたのだろう。…それから、ヌーブラエ卿達に呪術をかけた犯人も捕まった。呪術を使うと死刑になるので犯人も例に漏れず処刑された。
そして俺達は、心にポッカリと穴が空いたような喪失感を感じながらもなんとか生きている。リアちゃんのご両親や姉弟たち、それから兄さんの悲しみようは俺達とはきっと比べ物にもならないだろう。しかし彼らはギルドマスターのその一族、いつまでも呆然としているわけにはいかない。なんとか明るく振る舞って、生きようとしているのがヒシヒシと伝わってきた。兄さんは元々無愛想だが、最近はほとんど笑わなくなってしまった。ずっと昔に兄さんがプレゼントしてからリアちゃんが大事にしていた犬のぬいぐるみを形見としてもらい、兄さんは毎晩飲みながらこっそり話しかけているのを知っている。
「…あった。」
そして俺は今、例のアイテムを入手するため国の南の方にあるダンジョンに1人で来ていた。抜け道やら小道具を使ってなるべく戦闘を避けて進んで行き、隠し部屋をやっと見つけアイテムを手にする。
「…リアちゃん、どうか俺に力を貸して。失敗するわけにはいかないんだ…。」
ギュッとアイテムを握りしめそう祈ると、ぼうっと俺の周囲に光が微かに浮かび上がった。…もしかして、これがリアちゃんからの加護…なのかな。なんだか彼女が応援してくれているような気がした。
「…うん、ありがとう、リアちゃん。俺も頑張るよ。」
俺はアイテムに魔力を込めて魔法陣を展開させた。
「頼む、時を戻せるならやり直させてくれ。リアちゃんを死なせたくなんかなかったし、俺達もこんな思いはしたくなかった。リアちゃんが兄さんと笑って過ごせる未来を、叶えさせてくれ…!」
そう言うとアイテムはどんどん魔力を吸ってくる。まだまだリソースが足りない。さっきの微かな光もアイテムに吸収されていく。
「代償に俺の、この1周目の記憶を捧げる!」
そう告げるがどうやらまだ足りないらしい。…なら、それなら…。
「ゲームの…。この世界に関する知識も捧げる!それでどうだ!」
そう告げると、魔法陣は展開速度を上げ一気に完成した。どうやら受け入れてもらえたらしい。
『回帰地点を指定してください。』
頭の中にそんな声が響いてくる。
「…じゃあ、クララ姉さんが冒険者になった日で。」
『承知しました。では、時を戻します。』
そう聞こえた次の瞬間、世界がぐるりと回り意識が遠のいていった。
──俺はきっと、時が戻っても何も覚えてないだろうけど。兄さんやリアちゃんはきっと魂に刻まれた記憶が深すぎるだろうから思い出してくれるだろう。
…だから、どうか。
次こそは、幸せに───。
「…リウィア嬢。」
「何かしら。」
「…もし、時を戻せる魔法があったら。君はどうする?」
そう尋ねると、彼女は立ち止まってじっと俺を見つめた。目元は真っ赤で、一応腫れを治す薬をポケットから取り出す。
「…もし、そんな魔法があるとしたら。…例えどんなに代償が大きかったとしても、わたくしは時を戻しますわ。そして今度は、エミリアと殿下の婚約を…、いえ、そもそも勇者パーティーに入る所から邪魔しますわ。」
「…うん、そうだよね。」
俺は少し笑って頷いた。
「俺もそう思うよ。」
リウィア嬢に薬を渡して広場まで送り、迎えの馬車に乗る所まで見届けて俺は帰路についた。
──ゲームには、時を戻す激レアアイテムが存在した。それはとあるダンジョンの隠し部屋にあり、しかも大量のお金を…、つまりこの現実では大きな対価を払う事になる。正直俺1人で払いきれるのかも分からないし、成功するかも分からないけど…。このまま何もしないよりはずっと良い。
そして月日は流れ、リアちゃんの葬儀を終えてから3か月が経った。あの事件は国内外で大々的に報道され、貴族への批判が物凄く高まった。陛下は今回リアちゃんの罪をでっち上げた者達や彼女を消す事に加担した者たちを爵位剥奪や処刑、代替わりさせて僻地に飛ばすなどそれぞれ処罰していった。ルボル侯爵令嬢も例の薬を飲ませると正気に戻ったようで、あまりのショックに倒れてしまったようだ。ルボル侯爵は娘思いの方で令嬢と騎士との関係も認めていたからあの一件に関わっていればすぐにおかしいと気付くはずだったが、あの時王太子殿下に同行しており家にいなかったそうだ。きっとあいつらがルボル侯爵も邪魔だからと飛ばしたのだろう。…それから、ヌーブラエ卿達に呪術をかけた犯人も捕まった。呪術を使うと死刑になるので犯人も例に漏れず処刑された。
そして俺達は、心にポッカリと穴が空いたような喪失感を感じながらもなんとか生きている。リアちゃんのご両親や姉弟たち、それから兄さんの悲しみようは俺達とはきっと比べ物にもならないだろう。しかし彼らはギルドマスターのその一族、いつまでも呆然としているわけにはいかない。なんとか明るく振る舞って、生きようとしているのがヒシヒシと伝わってきた。兄さんは元々無愛想だが、最近はほとんど笑わなくなってしまった。ずっと昔に兄さんがプレゼントしてからリアちゃんが大事にしていた犬のぬいぐるみを形見としてもらい、兄さんは毎晩飲みながらこっそり話しかけているのを知っている。
「…あった。」
そして俺は今、例のアイテムを入手するため国の南の方にあるダンジョンに1人で来ていた。抜け道やら小道具を使ってなるべく戦闘を避けて進んで行き、隠し部屋をやっと見つけアイテムを手にする。
「…リアちゃん、どうか俺に力を貸して。失敗するわけにはいかないんだ…。」
ギュッとアイテムを握りしめそう祈ると、ぼうっと俺の周囲に光が微かに浮かび上がった。…もしかして、これがリアちゃんからの加護…なのかな。なんだか彼女が応援してくれているような気がした。
「…うん、ありがとう、リアちゃん。俺も頑張るよ。」
俺はアイテムに魔力を込めて魔法陣を展開させた。
「頼む、時を戻せるならやり直させてくれ。リアちゃんを死なせたくなんかなかったし、俺達もこんな思いはしたくなかった。リアちゃんが兄さんと笑って過ごせる未来を、叶えさせてくれ…!」
そう言うとアイテムはどんどん魔力を吸ってくる。まだまだリソースが足りない。さっきの微かな光もアイテムに吸収されていく。
「代償に俺の、この1周目の記憶を捧げる!」
そう告げるがどうやらまだ足りないらしい。…なら、それなら…。
「ゲームの…。この世界に関する知識も捧げる!それでどうだ!」
そう告げると、魔法陣は展開速度を上げ一気に完成した。どうやら受け入れてもらえたらしい。
『回帰地点を指定してください。』
頭の中にそんな声が響いてくる。
「…じゃあ、クララ姉さんが冒険者になった日で。」
『承知しました。では、時を戻します。』
そう聞こえた次の瞬間、世界がぐるりと回り意識が遠のいていった。
──俺はきっと、時が戻っても何も覚えてないだろうけど。兄さんやリアちゃんはきっと魂に刻まれた記憶が深すぎるだろうから思い出してくれるだろう。
…だから、どうか。
次こそは、幸せに───。
1
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
辺境伯令嬢バルバラ・ザクセットは、第一王子セインの誕生パーティの場で婚約破棄を言い渡された。
だがその途端周囲がざわめき、空気が変わる。
父王も王妃も絶望にへたりこみ、セインの母第三側妃は彼の頬を打ち叱責した後、毒をもって自害する。
そしてバルバラは皇帝の代理人として、パーティ自体をチェイルト王家自体に対する裁判の場に変えるのだった。
番外編1……裁判となった事件の裏側を、その首謀者三人のうちの一人カイシャル・セルーメ視点であちこち移動しながら30年くらいのスパンで描いています。シリアス。
番外編2……マリウラ視点のその後。もう絶対に関わりにならないと思っていたはずの人々が何故か自分のところに相談しにやってくるという。お気楽話。
番外編3……辺境伯令嬢バルバラの動きを、彼女の本当の婚約者で護衛騎士のシェイデンの視点から見た話。番外1の少し後の部分も入ってます。
*カテゴリが恋愛にしてありますが本編においては恋愛要素は薄いです。
*むしろ恋愛は番外編の方に集中しました。
3/31
番外の番外「円盤太陽杯優勝者の供述」短期連載です。
恋愛大賞にひっかからなかったこともあり、カテゴリを変更しました。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる
黒木 鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。
【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。
仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。
実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。
たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。
そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。
そんなお話。
フィクションです。
名前、団体、関係ありません。
設定はゆるいと思われます。
ハッピーなエンドに向かっております。
12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。
登場人物
アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳
キース=エネロワ;公爵…二十四歳
マリア=エネロワ;キースの娘…五歳
オリビエ=フュルスト;アメリアの実父
ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳
エリザベス;アメリアの継母
ステルベン=ギネリン;王国の王
悪役令嬢のわたしが婚約破棄されるのはしかたないことだと思うので、べつに復讐したりしませんが、どうも向こうがかってに破滅してしまったようです。
草部昴流
ファンタジー
公爵令嬢モニカは、たくさんの人々が集まった広間で、婚約者である王子から婚約破棄を宣言された。王子はその場で次々と捏造された彼女の「罪状」を読み上げていく。どうやら、その背後には異世界からやって来た少女の策謀があるらしい。モニカはここで彼らに復讐してやることもできたのだが――あえてそうはしなかった。なぜなら、彼女は誇り高い悪役令嬢なのだから。しかし、王子たちは自分たちでかってに破滅していったようで? 悪役令嬢の美しいあり方を問い直す、ざまぁネタの新境地!!!
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~
こもろう
ファンタジー
ストルト王国が国内に発生する瘴気を浄化させるために異世界から聖女を召喚した。
召喚されたのは二人の少女。一人は朗らかな美少女。もう一人は陰気な不細工少女。
美少女にのみ浄化の力があったため、不細工な方の少女は王宮から追い出してしまう。
そして美少女を懐柔しようとするが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる