62 / 66
瞳の記憶
しおりを挟む
8月6日明け方
ヒキガエル姿のあんご爺ちゃんを肩に乗せた猩々を真ん中に、みんなで手を繋ぎ円陣を組んだ。そして僕だけ右手を離して、あんご爺ちゃんの背に触れた状態になっている。
「大希、まだか?早うせい」
「うん」
ギリギリ起きている松姫ちゃんも祖父ちゃんと祖母ちゃんの間に収まって、天狗はお気に入りの父さんと僕を堂々と握れてニヤニヤしてる。
僕の手を、嬉しそうに親指の腹で撫でていてキモいけど、無言で俯いてる猩々のために今は我慢。
一同をぐるっと見渡して、ぶよっと柔らく湿ったあんご爺ちゃんの背中をポンと叩いた。
「爺ちゃん、準備できたよ」
「ならば、皆の者、目を閉じよ」
一同が目を閉じたと察した爺ちゃんはブルルンっと身震いした。
続けて、ぐぶうっと喉を膨らませ、ぶぅっと息を吐いた。それを何度か繰り返すうち、僕たちの立っている地面が大きくグラッと揺れたみたいな感覚がした。
「おぉ?なんだ、こりゃ」
まだ足の怪我が完治していない祖父ちゃんは、ちょっとよろめいた。
まだ揺れるかも?っと、衝撃に備えて足を踏ん張ろうとした瞬間、パッと瞼の裏に映像が見えた。
とてもクリアで、臨場感のあるビジョンだ。正面の風景は祖父ちゃん家の玄関内だけど、今とどこか違う。屋内を見ているこの視線も僕よりだいぶ高い。
「・・・これ、猩々の視界?」
そうだ、きっとこれは猩々の見ていた風景なんだ。彼の視線のアングル。それを全員で追体験しているんだ。
瞼の裏の猩々目線は玄関を上がり、閉められた客間の襖の前までやってきた。そこで、ふと何かが聞こえた。
「大希の泣き声・・・?」
天狗を挟んで並んでいる父さんが呟いた。
僕の声?
父さんの言葉に僕の当時を知る人たちから同意するリアクションが息遣いで伝わってきた。
なんかちょっと恥ずかしい。けど、気づかないふりして耳を澄ました。
ぎゃんぎゃんと火が付いたみたいに泣き騒ぐ赤ちゃんの声に紛れて、時折、甲高い男の子の声も聞こえてきた。
「これは雅志の声だな」
祖父ちゃんがそう言って「そうですね」と祖母ちゃんが答える。
「俺、覚えてねぇぞ?」
大天狗に妖怪を見るスキルと一緒に当時の記憶も封じられている叔父さんは、納得いかなそうな言い方をした。
猩々の手が襖を開けると、客間に敷かれた子供用布団の上に座り込み、泣き止まない乳児を抱いて半泣きになっている男の子がいた。
和室に入ってきた山の妖怪を見上げた彼は、救いの主が現れたみたいに強ばった表情が緩んだ。
猩々は、静かに彼らの側に座った。
まだ子供の叔父さんは、子守を頼まれたけど初めてでどうしたらいいか分からないと泣き出した。さらに赤ちゃんが起きてからずっと泣き続けている言うと、自分まで声を上げて泣き出した。
「まさし、なかないで」
頭を撫でる彼を見上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった子供の叔父さんは、赤ちゃんを落とさないようにゆっくり猩々の方へ差し出した。
「どうしたらいいの?助けて、猩々・・・」
ヒキガエル姿のあんご爺ちゃんを肩に乗せた猩々を真ん中に、みんなで手を繋ぎ円陣を組んだ。そして僕だけ右手を離して、あんご爺ちゃんの背に触れた状態になっている。
「大希、まだか?早うせい」
「うん」
ギリギリ起きている松姫ちゃんも祖父ちゃんと祖母ちゃんの間に収まって、天狗はお気に入りの父さんと僕を堂々と握れてニヤニヤしてる。
僕の手を、嬉しそうに親指の腹で撫でていてキモいけど、無言で俯いてる猩々のために今は我慢。
一同をぐるっと見渡して、ぶよっと柔らく湿ったあんご爺ちゃんの背中をポンと叩いた。
「爺ちゃん、準備できたよ」
「ならば、皆の者、目を閉じよ」
一同が目を閉じたと察した爺ちゃんはブルルンっと身震いした。
続けて、ぐぶうっと喉を膨らませ、ぶぅっと息を吐いた。それを何度か繰り返すうち、僕たちの立っている地面が大きくグラッと揺れたみたいな感覚がした。
「おぉ?なんだ、こりゃ」
まだ足の怪我が完治していない祖父ちゃんは、ちょっとよろめいた。
まだ揺れるかも?っと、衝撃に備えて足を踏ん張ろうとした瞬間、パッと瞼の裏に映像が見えた。
とてもクリアで、臨場感のあるビジョンだ。正面の風景は祖父ちゃん家の玄関内だけど、今とどこか違う。屋内を見ているこの視線も僕よりだいぶ高い。
「・・・これ、猩々の視界?」
そうだ、きっとこれは猩々の見ていた風景なんだ。彼の視線のアングル。それを全員で追体験しているんだ。
瞼の裏の猩々目線は玄関を上がり、閉められた客間の襖の前までやってきた。そこで、ふと何かが聞こえた。
「大希の泣き声・・・?」
天狗を挟んで並んでいる父さんが呟いた。
僕の声?
父さんの言葉に僕の当時を知る人たちから同意するリアクションが息遣いで伝わってきた。
なんかちょっと恥ずかしい。けど、気づかないふりして耳を澄ました。
ぎゃんぎゃんと火が付いたみたいに泣き騒ぐ赤ちゃんの声に紛れて、時折、甲高い男の子の声も聞こえてきた。
「これは雅志の声だな」
祖父ちゃんがそう言って「そうですね」と祖母ちゃんが答える。
「俺、覚えてねぇぞ?」
大天狗に妖怪を見るスキルと一緒に当時の記憶も封じられている叔父さんは、納得いかなそうな言い方をした。
猩々の手が襖を開けると、客間に敷かれた子供用布団の上に座り込み、泣き止まない乳児を抱いて半泣きになっている男の子がいた。
和室に入ってきた山の妖怪を見上げた彼は、救いの主が現れたみたいに強ばった表情が緩んだ。
猩々は、静かに彼らの側に座った。
まだ子供の叔父さんは、子守を頼まれたけど初めてでどうしたらいいか分からないと泣き出した。さらに赤ちゃんが起きてからずっと泣き続けている言うと、自分まで声を上げて泣き出した。
「まさし、なかないで」
頭を撫でる彼を見上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった子供の叔父さんは、赤ちゃんを落とさないようにゆっくり猩々の方へ差し出した。
「どうしたらいいの?助けて、猩々・・・」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる